レイ編
「不良品ですわ?!」
可愛い彼女が陶芸をしたいと山深い小屋へと行くのに付き合っていれば、3日目についに根を上げたらしい。
「ふふふっ、ユリエルくん。珍しく怒ってるのかい?」
「あらやだ、聞かれてしまいました?……一番簡単だと教わったこんなお皿ですらぐにゃぐにゃでうまく行きませんのよ。いいえ、悪いのはわたくしの腕だとわかってるんですけどね……」
吊り上がっていた目は情けなく下がり照れ臭そうに笑う、そんな彼女の背中へと回ると抱きしめるようにその粘土に当てたままの手に自分の手を重ねる。
「これは足で回すのかい?」
「そそそそうですわ。はしたないのでレイさんには出て頂いてましたのに……」
「手と足を別に回すのは大変だね……」
そう言って手を重ねたまま風魔法を出せば、ロクロというものがゆっくりと回り出す。
「ナルホド!これは便利ですわね!」
キラキラと目を輝かせて手を添えていても変わらずその手を粘土に当ててそれを作り上げていく。
「……で?なんですのこれ?」
「なんだろうねぇ?」
二人で添えた手で作っても、所詮素人だと不恰好に曲がるそれに2人で吹き出し、そのまま添えた手に指を組ませれば結んだ髪の隙間から見える耳が赤くなっていく。
「そっ、そうですわ!これ風の魔石をつけたら良さそうですわね!作ると高くなるのかしら……ロットさんに相談したら……それに、ほら、ロットさんなら器用だから……!?」
そこまで言われて思わず首筋にキスを落とせば少し丸まっていた背筋が勢いよく伸びる。
「レ……レイさん!?」
「こんなに私と密着してて、他の男の名前を出されると言うのはね……」
「いや、ほら、その?!えっと……」
重ねた手の粘土は崩れていくのに気も取られず、真っ赤な彼女は上目がちに視線をこちらへと向けてくる。
「あの、そういう意味ではなくて……、その……レイさんにプレゼントするなら……綺麗なものの方がって……」
揺れる視線と、その滲むような黒いその瞳にキスを落とせば「ピャッ」と可愛らしい声で鳴く。
「ヤキモチをやいたんだよ。私は君が好きだからね」
「えっ、あっ、はい……、その、えっと、わっわたくしも……」
答えより先に重ねた唇のせいで最後までは聞こえなかったけれど、その握られた手と否定されないその吐息の混じる赤い唇が全て答えてくれていた……ーーー。
某映画をオマージュしてることに気づいて貰えたなら幸いです。