アベイル編
「あのっ、ユリエルさん。これボクが……その、ボクが焼いてみたんです。ど、どうでしょうか?」
そこは青空広がる丘の上。目の前にあるのは素敵なテーブルとそこに乗るのは色とりどりのカップケーキ。
一口サイズのそれは上にピンクや白のクリームがホイップされて、そのうえに更にチョコレートものっている。
「あらあら、なんて素敵に可愛らしいんですの!?バエーってやつですのね」
「栄え……ですか?」
「……ばえって何かしら?馬絵?……まぁいいわ。え!?これアベイルさんが作られたの!?」
「はいっ、基礎は先日……その、ヒナタさんにミラさんと一緒に習いまして……。ユリエルさんに食べて貰いたいなと」
眼鏡の隅から見える瞳は嬉しそうで……、しかしそのメンツで呼ばれなかったことに少しシュンとするものの、ヒナタに小麦粉かけられるイメージしかわかないので正解かもしれないと納得して手を合わせる。
「では遠慮なく頂きますわ。ふふふっ、可愛らしくてどれにしようか悩んじゃう」
「カルヴァルカから材料も取り寄せたりしたので……あの、お口に合いますか?」
はしたないとは思いつつ、その一口サイズに甘えて口に一気に放り込めば、甘く柔らかいスポンジとバタークリームのような口当たり。
「なんだか……ふふっ、子供の頃思い出しちゃう」
「ユリエルさんは食べられたことが?」
「ないと思うけど。美味しくて……不思議ね」
クスクスと笑っているとアベイルさんも笑ってくれる。
「ユリエルさん。見て下さい」
呼ばれてケーキから視線をあげると、アベイルさんはお湯の入った入れ物の蓋を開けて手をかざせば、中からお湯がシャボン玉のように浮き上がる。
「まぁ……なんて素敵」
「水だけならいいのですけど……お湯は火の力が入ってるから少し難しいんです」
そう言いながら華麗に空中を舞って、アベイルさんの手の中にある茶葉の入ったポットへと入っていく。
「お湯が少し冷めたほうが、美味しい紅茶が淹れられますので……」
「ふふふっ、アベイルさんは色んなことを勉強されてますのね」
「えっと、ユリエルさんやミラさん。それに……生徒会室でみんなと居られる空間を、少しでも幸せに過ごしたかったので……」
照れ臭そうに笑いながら、慣れた手付きで使うティーカップを用意しながら、テーブルを整えてくれることにわたしも笑みが溢れる。
「わたくしも、あの時間が大好きだったわ」
「……はい」
昼下がり、遠くから聞こえるのは懐かしい声。
「ユリエル、先に来てたのね」
「遅刻してすみませ〜〜ん!」
「まったく……ヒナタが途中で怪我のおばあさんを助けてるからよ」
「だって、怪我してたんですよぉ〜?」
「別に……悪いだなんて言ってないわよ。そんなのほおっておく方がユリエルが怒るわよ」
相変わらずの友の姿に、わたしは幸せで溢れる笑みも隠さずに、小さなケーキにまた一つ手を伸ばした。
『そんなわけであるようで無さそうなどうなのこうなの未来なの?編』始まりです!!
クリスマス期間で終わらないよ!!!ごめんなさい!!
先に詫びるスタイル……!!