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ワンツースリーの日



『1.2.3.1.2.3.1.2.3…右足ズレておりますわ〜』


「うぉっ…すまん!」



勢いよく起きて周りを見渡せば、もう朝焼けというよりも既に日が見えていた。


「おぉ…夢か…ぐっすりと寝てしまったのぉ…」


いつもならこんな夢に起こされる事なく日が登る前には自然と目が覚めて、もう鍛錬を始めてる時間。


なんとなくボリボリと頭を掻いて、そうだ闇の休日だと思い出し、この際寝直すかとも悩むが身体のリズムを整える為にはやはり起きようと決めて、足をベットから下ろすと謎の痛み。


「なんじゃぁ?」


ここ数年感じたことの無い、その懐かしいとすら思える痛みは筋肉痛。


「ワシもまだまだ鍛え足りんかったんじゃのぉ〜」


身体は常に意識して隙のないように鍛えていたつもりが、たった一日あんな可愛らしいユリエル嬢にダンスを教わっただけでこの有様だと、思わず笑いが込み上げる。


ならば折れそうな身体のあの子はどれだけの努力をしてあのテクニックを手に入れたのか。


時に厳しい事を言うがニコニコと可愛らしく笑うあの子の裏には数え切れないほどの努力があるのだろう。


それを短期間で教えようと言うのだから、それはあぁして詰め込むしかないのだ。

それは勝利を目指し、常に身体を鍛えていた自分にはわかるのだが…


「しっかし…可愛すぎるのが苦行じゃ…」


たった一回教わっただけなのに、笑顔で『あと100回』とか平気で言うわ、そうかと思えばタオルをかけて『お疲れ様でした』なんてわざわざ座っている自分に目線を合わせて飲み物までくれる。

なんなら今日のレッスンは終わりだと言われ座り込めば、大汗をかいた自分の頭を嫌がることもなく『よく頑張りましたね』なんて撫でられてしまった。



可愛いだけかと思ったら自分より背の高い男をいとも容易(たや)すく投げてみたり、へったくそな嘘をついてみたり…


「予想のつかない女子(おなご)じゃなぁ」


思い出すだけで顔が綻ぶ。



正直言えば卒業式のダンスなんて踊る気は更々無かった。


この体格で普通の女子が怖がっているのも知っているし、パーティへ出るにしたって誰と踊る気も無く、同じ卒業生の男とでも思い出話で終わらせるつもりだった。


でも…


「もし上手くなったら踊ってくれるかのぉ…?」


愚かな願いなのかもしれないが、万が一もしかしてなんて馬鹿な考えが頭を過ぎる。


「考えるのは終いじゃぁ!!ねちねちと悩むのはぁ(しょう)にぃ合わんわぁ!!」


とりあえず今朝から朝の鍛錬はダンスに変更だと、懐かしい痛みを感じながら足を動かす。


「あー…わんつーすりー…わんつーすりー…」


一晩寝ただけで、既に少し忘れてしまったコツを必死で思い出し足を動かす。


「わんつーすりー…わんつーすりー…上手くいかんのぉ〜…」



頭の中で可愛らしいあの声を思い出し、

「踏み込んどるとか…言っとったな。軽く…軽く…」



『はい、1.2.3.1.2.3〜』


鈴の鳴るようなあの声と共になら、この痛みもすぐに忘れてしまいそうだと、またあの笑い声が聞きたいと…そして叶うならば共に踊ってみたいと、そう願ってしまったならやるしか無い。


「わんつーすりーわんつーすりーっと、こんな感じじゃったかのぉ?」



次の予定はまだ未定だが、せめて彼女の誠意に応えたいと、一つ一つ丁寧に教えてくれた記憶を手繰り…


「頑張ってみるかのぉ〜」


部屋に差し込む朝日の暖かさに、なにかを重ね見て、緩む頬のまま足を動かすことにした。




1月23日は、そのまま「ワンツースリーの日」だそうです。


ワンツースリーといえば…、グラヴァルドのダンスレッスン中のお話でした。




そして本編のグラヴァルドがユリエルにダンスレッスンを頼んだのも偶然123話でした!


新しいことを始めるきっかけの日らしいです〜

グラヴァルドの様に苦手なものにチャレンジするのも良いかもですねぇ。



ちなみにグラヴァルドは寮生活。


二階以上だと下の階からうるさいとクレームが入るので、一階の角部屋をいいことに窓から出て鍛錬してたりするので、出入り口を使う様に寮長に怒られてたのも過去の話。今は暗黙の了解。(諦められたとも言う)

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