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04



 転移先は禁書庫のはずであったが、2人が顕現したのは禁書庫よりも少し手前の廊下だ。


「結界が生きてるわね」


 それはつまり、先ほどの爆発が結界に弾かれたことを意味する。少なくとも、アマデウスは爆発で死んでいないということだ。


「待って、今中に入れるようにす……」


 魔法を行使しようとした手を挙げて数秒停止したメリア。


「な、んでもないわ。ファイ、お願い」


「ああ」


 精霊の奇跡により、かつてメリアが筆頭となって張った結界はすんなりと2人を受け入れる。


「ねえ、思ったんだけど、私、邪魔よね? あなた1人できた方がぜったい()()と思うのだけど?」


「そんなことはない」


「コレのせいで気配なんてほとんど探れないし、ただの荷物と変わりないじゃない」


 彼女が体を動かすたびに、幾つもの宝飾が掠れてシャラリと音を立てる。


 思い出すのはメリアが本当に幼かった頃の記憶だ。彼女がこのくらいの歳の頃もこうして、否、今以上の宝飾をつけられてていた。あの頃と違うことは外に出ているか否かということくらいだろう。


 幼い頃から身に余る魔力を内包し、何度も自分の魔力に殺されかかった彼女は成長し魔力が安定するまでずっと実家に軟禁されていた。


 封魔の宝飾は付けることで魔力を抑え込み、害がない程度に外に出すというものだ。そのため、魔法士がコレをつければ魔法を使えないのはもちろん、魔力の感知もできなくなる。目で視るぶんには見えるがそれだけだ。


「私だけ戻してあなた1人で進んだほうがいいわ」


「……メリア」


「何よ」


 ファイの歩みは止まらず着々とアマデウスの気配に近づいている。


「今のお前を俺以外に任せるなど、心配でうっかり王を守りきれない可能性がある」


「それは……問題ね」


「ああ」


 至極真面目にそんなことを言われ流石に口を噤んだメリア。冗談もほどほどに、などと思う気持ちもなくはないがこの男はそういう冗談を言うことがほとんどないのだ。つまり、だいぶ本気で言われた。


 もはやどうにでもなれと歯痒い気持ちを押し殺して大人しくなったメリアにファイは抱きしめる力を少し強め加速する。


 そして、勢いよく禁書庫の扉を開けた。








「アマデウス!」


 大きく張った彼女の声に2つの視線がこちらを向いた。1人はアマデウス、そしてもう1人はーーーー。


「エブロ……」


「遅い!! お前に呪いをかけたのはこいつか!」


「ええ、って、ファイ!?」


 エブロの姿を捉えた瞬間、ファイはメリアに認識阻害をかけて一直線に駆けていった。

 入れ替わるようにアマデウスが彼女の側に寄り、ファイから距離を取る。


「お前()()()()に呪いをかけられたのか」


「あんなのって……そりゃ確かに私の落ち度は認めるけど、精霊魔法士よ? 私みたいな正当な魔法使いじゃ分が悪いでしょう」


「いや、そうじゃない」


「?」


 意味ありげに否定を述べるアマデウス。その視線に促されるように、ファイと剣を交えるエブロに目を向けたメリア。


 王の側近兼魔法士という立場も伊達ではないので魔力を封じても視界に入ればある程度その本質を見抜くことはできる。むしろ、彼女の目は常人のそれよりかなり優れたものだ。 しかし、


「どういうこと? アレは、何……?」


 その彼女でも認識はできたが理解はできなかった。それほどエブロは普通ではなかったし、彼女も視たことがない状態だった。


「中身が違いすぎる。 魔力の質も、属性、系統、本質まで塗り替えられている……? いや、すり替えられたような……。 それに身体強化してるにしてもおかしい、あのファイと対等に剣劇を交わしてるなんてエブロなら有り得ない」


「ふむ」


「どういうこと? 魂の置換なんて聞いたことないわよ。ああ! もう少し魔力が安定してればもっとちゃんと視えるのに! あとちょっと、掴めない感じがもどかしいわ! なんなの!? アマデウス、あの男と話した?」


「いや、一言も。 いきなり現れたアレと少し遊んでいたらお前達がきたからな」


「遊んで……まぁいいわ。 今の私が言っても説得力ないし、それよりも本は? 呪いの本、見つけたんでしょうね?」


「ああ。 ここに……メリア!!」


「え……ッッな!!!」


 アマデウスの叫びと共に、メリアは彼の腕に抱き抱えられそのまま2人はゴロゴロと大理石の床を転がる。


 メリア達がいた場所には傷1つついていないものの爆音と共に凄まじい勢いで何かが突っ込んでいた。


「何が起きたの?」


「お前本当に魔法が使えないと役に立たないな」


「うっるさいわね! 知ってるわよ!」


 さらに言葉を続けようとしたメリアだが、その言葉は高笑いによって空気に溶けた。


 アマデウスが避けたことで2人には当たらなかったが、飛んできたソレは本棚に当たり、落ちた本がその上に積み重なっている。


 それを見て笑っているのは、


「うそ、ファイ!?」


 笑っているのはエブロ。 メリアは本の下に埋れているであろうファイに向けて声を放った。そして、その声によりエブロの関心はメリアの方へ移ることになる。


「む? そなた……」


 ツカツカとメリアの方へ寄ってくる彼に、メリアは小さいながらに胸を張り、淑女然として立ち上がり、対峙するように彼を見上げた。勿論、彼女を庇おうと前に出ようとしたアマデウスを制して。


「ふん、誰に許しを得て朕を見上げているのだ、 首を垂れて朕に平伏すのが礼儀というものであろう」


「なぜ私が。 私が仕える王は既にいるのだから、あなたに平伏す道理はない。 あなたこそ、王を前に平伏すべきでは?」


「生意気を言う。 そなたが臣下だと? 魔力もろくに操れん幼子に何ができるというのだ。 口ばかり回るだけで王とやらは守れまい」


「ハッ! 借り物の器で私の本質も見抜けないような者にこの私が負けるとでも? 誰か知らないけど、器の主人を返してさっさと消えなさい!」


「貴様……その無礼な口、叩けなくしてッッ!!」



 一閃。


 確実に脳天を狙いにいった剣はしかし狙った的に当たることなくエブロの直線上にいたメリアの頭上を通り抜け、奥の本棚に命中した。


「ほぅ、まだ動けるか」


「彼女には指一本触れさせない」


「彼女……? ああ、そうか、そういうことか! く、ははははははははは!! なるほど、これは愉快だ! そうか、この幼児が呪いの失敗作というわけか! ははは、気に入った。 よし、この器の元主人の望み、朕自ら叶えてやろうではないか! 光栄に思えよ不義の民共」


 エブロ(仮)の魔法を発動させる素振りに、メリアはファイを呼び寄せる。流れるような仕草でファイはメリアを抱き上げひとまずエブロから距離を取るが奴は口端を上げただけで追っては来ない。呪いの発動に位置は関係ないので、逃げても無駄だという意味を込めたのかもしれない。


「無事か」


「どうみても無事でしょう」


 多少服が汚れた程度で本気で心配してくる旦那に呆れながらも、目線はエブロに留めたまま離すことはない。


「メリア、どうするつもりだ」


 アマデウスも声の質を固くして不穏な魔法を構成するエブロを見据えている。


「どうもしないわよ。 呪いを避ける方法はないもの」


「受けるつもりか」


「まさか。 ねぇファイ? エブロの従えている精霊の属性、視える?」


「ああ。 闇だろう。 他にも何匹かいるが、それが一番大きい」


「やっぱり。 それじゃあどう考えても無理なはずよ。 わかるでしょう? アマデウス」


「ふむ。 お前の言おうとしていることは理解できるが、奴がそこまで間抜けをするか?」


「まああそこまで自信過剰に構成を組まれると警戒はしたけど、奴はおそらく受肉したばかりよ。 つまり、まだ身体の勝手がわかっていない。 中身が誰だか知らないけれど、構成を視る限り本来のエブロより数段優秀な魔法士だもの。 くじ運が悪かったのでしょう」


「ふっ。 なるほどな」


「どういうことだ?」


 2人のかいつまんだやりとりに首を傾げるファイ。


「呪いにはかからない。 奴は構成を組みきれないってことよ」


 そうメリアが告げたと同時に、エブロの組み上げた禍々しい構成は四散し奴は目を充血させ膝を折った。



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