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独白
大好きで、たまらない人がいた。
穏やかで優しくて、陽だまりみたいな明るさを持った人だった。
悪戯好きなやんちゃ坊主だった兄にいつも振り回されていて、アイリスを泣かせた尻拭いをよく押しつけられていた。おろおろしながらあの手この手で慰めて、ようやく彼女が泣き止んだとき、ほっとしたように零れる笑みが、今も印象に残っている。
大好きで、たまらない人がいた。
同い年だったはずの兄とは全く違う、冷静で紳士的なふるまいをする人だった。
大人びた雰囲気の彼は子供の目から見ても非常に魅力的で、今思うと憧れのような幼いものだったけれど、恋心を抱くには十分だった。子守やメイドたちでさえ手が付けられない腕白小僧だった兄をたしなめるのはいつだって彼の役目で、いじめられたときにはいつも彼のもとに駆け込んでいたことを覚えている。
だから、見捨てることなんてできなかった。
―どれだけの苦痛を伴うものだったとしても、自分だけは二人の味方でありたい。
醜い打算も混じっていたけれど、あのとき、確かにそう願ったのだ。