第八話 船の心
結局。。。。黄海海戦の話しは長く続いてしまって。。。
なかなかに心がしんどいです
そして花粉で死にます(爆)
「定遠はまだ沈みませぬか。。。」
不管旗を挙げ
よろよろと戦場海域を離脱し始めた松島の上甲板,彼の口を使って艦魂松島は聞いた
彼は。。。
腹部に爆風によって飛んだ破片を受け「切腹」した状態となり
自分の手であふれ出そうになっている臓物を抑えたまま死に行く時の中で
松島とシンクロするように青い空を探して虚ろに目を彷徨わせていた
松島は甲板の上
自分の顔にかかった,色を赤黒く変えた髪の間から
涙で目を滲ませたまま空を探していた
後続の艦艇からの艦砲の続く轟音の中。。。。燃えて爛れる自艦の破滅の音も最早耳には届かなくなっていた
音を必要としない空は高く青いのに
麻痺の空間を漂った意志が「彼」の口から。。。戦況の答えを求めた
火の粉と黒煙をあげ風通しを良くした船体
12インチアームストロング速射砲は右舷も左舷も会わせて使用が効くのは1門しか残っていなかった
大砲によってぶち破られた艦体は内部の階壁を何枚も内側に砕き
さらに追うような爆発によって外に向かって炎吐き出し,艦隊の内張である鉄骨を木の葉のように吹き上げた
同じように人もまた最初の着弾で潰され,すりこぎに引かれるように手足を部品としてばらし
吹き上がった爆破の風に散華していた
高熱の被弾現場を中心に
左舷前部の1番から6番までの砲塔には動かす兵員の姿はなく
肉の焼ける匂いが
青天の青空に漂う清々しい秋風に,反するように生々しく
傷つき横たわった水兵達の鼻腔に地獄の香りを垂れ流し続けていた
生きていた事は奇蹟であり
ところどころにやっと形のある人が転がっているという惨状
その中を,今置かれた松島の状況を正確に把握するために歩いていた副長に「彼」の声は届いた
臓物をまき散らさんばかりの姿
誰の目にも助かる事のない彼はあぐらをかき
蹲ったままの姿で,血の気の失せた顔を上げるともう一度確認した
「定遠ば。。。。まだ沈まんとか?」(まだ沈まぬや定遠は)
顔に被ったススと吐き出した血と嘔吐に汚れた首もと
目だけが鋭く戦い続けた結果を求めている
副長は破壊された右舷の向こう
煙の向こうを走る定遠を見つめると,声を大きくして答えた
「安心せえ,定遠は戦えなくなった」(戦い難くなし果てき)
そう言うと彼の肩に手を置いて,もう一方の手で爆炎燻るはるかな海を指差した
「定遠は。。。。もは戦えんなった!!ようしてくれた!!」
命の火を安らかに消さんがための最後の優しさ
副長もまたススにまみれた顔の中に涙を浮かべて彼を送る
「そうね。。。。。よか。。」
「そう。。。。」
甲板の真ん中に血だまりを作ったまま探していた空に
自艦に掛かった「不管旗」を見つめながら松島は目を閉じ
自分が勝てなかった事を知り閉じた目の中で涙を流し続けた
「姉さん!!!」
鎮遠は自分横を走っていた定遠の体を覆った火に姉を呼び続けた
小さな砲塔から発射し続けられた弾は少しずつ巨漢の身を蝕み外部器機と前鐘楼に掛かるマストへし折り火災を発生させていた
「負けぬ。。。。」
妹の声に膝をついしまっていた定遠は,それでも旗を降ろすことなく
「大丈夫よ。。。。」
炎の中に立ち上がった
皇帝拝領の黄色の着物は黒く焼けただれ
定遠も額を割り右目の奥までを血で染めた姿だった
それでも前へと拳を振り上げるが
「定遠機関熱上昇!!」
甲板上を轟音の炎にまみれた鉄の艦は内部の熱を逃がす事が出来なくなっていた
前部に取り付けられた排熱の煙突は同じく火災の真ん中にいて
艦体内部の熱は外からの熱に押され逃げ場を失っていた
「増速できません!!!」
溜まった熱を釜から逃がす事が出来なければ
炭をくべての増速は望めない「人」が作業が出来ないのだから
鎮遠の前立ち上がった定遠はまたも膝を着き,真っ赤にした顔のまま咳き込んだ
「こざかしい。。。。。。。。。」
帝国海軍が叩き続けた小型砲塔は北洋水師が艦砲し続けたものよりはるかに命中していた
今まで
100発近い散弾を浴び続けた定遠は力無い砲弾と高をくくっていたが,それが少しずつ自分の「中身」を蝕んでいた事に気がついた
少しずつ自分が壊されていた事に内燃機関の放熱を失った定遠は真っ赤に染まった顔のまま無言で戦域を離れる松島を睨んだ
大破炎上した松島をはじめ,数多の艦艇が傷つきながらも乱れる事なくこなし続けた単縦陣はやっと結果を現したのだ
集中的に受け続けた砲火は確実に相手の反撃を仕留めるための修練の成せる結果だった
定遠の機関熱上昇により巨漢の2隻は速度を落とした
これ以上艦隊がバラバラになってしまったら勝機は無くなってしまう
そうでなくてもこの時,北洋水師は艦隊群がバラバラの行動に走ってしまっていた
一部では斉遠の戦線離脱などがあり14隻を要した艦隊は大きく2つに別れ
内,3隻は既に沈没という状態になっていた
だが
それは帝国海軍とて同じだった
沈没艦こそ未だ出していないが
第一遊撃艦隊はスピード生かした攻撃を続ける事が続けれども
松島を旗艦とした本隊は,松島の大破から数分の内に厳島被弾,千代田被弾,扶桑被弾と続けざまの迎撃を受け艦隊戦など望めるものではなかった
「私達は。。。。負けたんだよ。。。」
厳島の甲板の上
宴の影で前の海戦の思いでした浪速はギヤマンのグラスを握ったまま涙を零していた
黄海海戦は負け戦だった
この日行われた戦いで帝国海軍の艦艇は奇跡的に1隻も沈まなかった
それだけが国民を喜ばせるネタとして使われた
松島の口伝と共に「彼」事「勇敢な水兵」と国民に戦意高揚曲のモデルとなった三浦虎次郎の事も
戦時高揚歌として使われ,真実が語られる事はなかった
全てが「負け戦」を隠すための軍当局が事実とは別の創作を入れた情報だった
現実は
必要とされていた制海権は半分も得る事ができず鴨緑江北岸に兵を集める清国軍に対する陸軍への物資の搬送は「今すぐは」困難という
海軍の惨めな負け戦だった
「松島はさ。。。ホントに立てなくなってさ」
静かに話しを聞く三笠の前
思い出は美しくなく辛い事の積み重ねだった事を浪速は語り続けた
夕暮れ時,夜の戦いは味方を撃つという危険が含まれる事もあり帝国海軍の面子は海域を離脱,威海衛に戻った
その時,艦魂達はお互いが生きている事をやっと確かめ合った
でもそれは自分たちの置かれた状況が「恐怖」の世界と背中合わせである事をより確信する結果となっていた
本隊松島に集まった艦魂達は。。。。言葉が無かった
誰もが固まって動けない微風の真ん中
死んだように薄く開いた目のまま固まった血の中に仰向けに倒れたままの松島は
「終わったの?」
小さな。。とても小さな波と機関音にかき消されてしまうような声で唇からそれだけを聞いた
誰も答えられなかった
北洋水師の大半を取り逃がしてしまった事など。。。これ程までに傷ついた松島にどうして言えるのか,すすり泣く艦魂達の涙が自分たちの戦いの目的が「半分」も達成できずに終わった事を如実に現していた
松島はその日のうちに呉に戻される事になった
全ての艦魂達が傷ついていた
どの姿にも血と包帯を見ることが出来た
一時的に休戦になった連合艦隊は大同江近くの岬に集結した
この時間を見て
自分の艦からみんなの元に飛べない艦魂の元に各々が仲間の様子を見るために飛んでいった
浪速は比叡の元に
比叡
体の部位各所を散弾によって失った彼女を西京丸の艦魂が包帯で巻き,頬にてを当てて泣いていた
意識は戻らず
戦いに乾いてしまった唇だけが包帯の下に見えた
「比叡。。。ごめんな」
浪速は比叡が定遠率いる北洋水師の左翼から集中砲火を受けた瞬間を見ていた
助けてと手を伸ばした彼女が首筋から高く血しぶきを上げて崩れ
それだけで終わらず,倒れた彼女に容赦のない艦砲と貫通弾を浴びせた時には。。。
浪速は目を背けた
倒れた彼女のいた場所に何度もの血が跳ね
体をくまなく刺し通されている事がわかった
最早「死」さえ覚悟したが。。。。死んだ方が楽だったのではと思うほどの怪我を晒したまま彼女は帰り
西京丸がそれの治療に当たっていた
「ごめん。。。。。ごめん。。。」
浪速は自分の頬を激しく殴りつけた
そうでなくても一カ所の被弾もなかった自分の前で,体の全てを失う痛みを味わった親友比叡を思えば悔やむに悔やまれない。。。
いつも明るくみんなのお迎えをしたり
冗談を言い合った友の無惨な姿にただ涙がこぼれた
見えていたのに助ける事も出来ない船の魂
「やめて」
浪速のどごにぶつけて良いかわからぬ苦しみの拳
自分を叩き続ける手を止めたのは西京丸だった
「貴女のせいじゃないから。。。だから」
彼女自身も体全体を怪我していた
彼女はこの海戦に従軍した報知艦,(戦場の様子を視察,観戦,報告書を纏めるための船)である付き従いはしたが,そもそも非戦闘の船でったのに関わらず樺山軍令部長の独断で海戦に参加
足は輸送艦だったという事もあり本隊にギリギリついて走っていたが,後ろで被弾した比叡の断末魔は耳にしっかり残っていた
本来ならば味わう事のない恐怖の中
水雷艦の攻撃に晒されるという事態までをかいくぐった彼女だったが終始立っている事はできなかった
途中,舵が聞かなくなり味方の艦艇にぶつかりそうになるなど,おおよそ使命から逸脱した日常に気を失ったままココに戻った
「貴女が悪いわけじゃないの。。。」
軍属ではない西京丸は日本郵船の制服のアチコチに傷を作ったまま,軍属である浪速の前で泣いていた
小さな肩を揺らして比叡の助けを呼ぶ最後の声を聞いてしまった事に震えていた
2人はお互いを前に泣いた
抱きしめることも肩を寄せ合う事も出来ずに
吉野はただ蹲って泣いていた
第一遊撃艦隊の先頭を走った吉野は一カ所しか被弾はしなかった事で体を痛めている箇所は浪速に次いでなかった
だが
心は誰よりも傷ついていた
寒波の隅っこに体を小さく丸めた吉野に高千穂が肩を寄せた
「頑張ったんだから。。。。。。。。。」
自艦甲板の上,昼の曇った日差しの下で吉野は真っ赤に腫らした顔を上げて
「あんな事を。。。」
同じアームストロング社,ニューカッスルの海に産まれた2人
金髪のよく似た容姿をしていたが
吉野は妹の中でもかなり若い。。。まだ子供であった事を気にかけていた
「吉野。。。もう忘れよう」
涙で顔の全てを濡らした妹に言えることなど多くなかったが
妹は言いたい事がいっぱいにあった
「忘れられないよ。。。。私,あの子が死ぬのを見た」
あの子
吉野達は北洋水師旗艦定遠の炎上により逃走を始めた艦隊を追っていた
離れて行く景色の向こう松島が炎上したまま海を滑って行くのを見ながら逃げる艦艇を追うという仕事,それだけでも後ろ髪の引かれる作戦に走っていた
「松島さんの分まで頑張ります!!頑張ります!!」
斉遠の後を追って逃走を続けた経遠は最初の接触の時に
知勇達を守って被弾していたため速度が上がらなかった
「振り切れない!!」
足の遅い経遠の2000メートルの左舷後方に吉野は着けていた
凪いで柔らかだった海の上を蛇行する事も出来ず逃げる炎上中の経遠は,まだ子供の姿をした吉野を睨むと怒鳴った
「かかってこい!!!」
声は勇ましかったが
姿は既に火傷と怪我で知と爛れた肌を現したままの瀕死の身
自分より少しだけ年上の経遠は白銀の髪まで焦げた匂いをただよわせた
同じ異国の人
同じ青い目
吉野は目のあった相手に
何故戦わなくてならないのかがわからなくなった
「降参して。。。。」
経遠が白旗を揚げてくれれば撃つことなどない
「負けてよ!!!」
「だまれぇぇ!!!」
それは「人」が決める事
1500メートルを切った射程,吉野の艦砲は一斉に開始された
最早打ち返す弾をほとんど持たない経遠は雨のごとく降る火の矢の下に苦しみの声を挙げた
手を挙げ身を焦がし
着実に当たって行く弾
被弾の炎の中,肌を焼き裂かれ血を吹き上げる経遠
口から煙りを挙げるように倒れる姿に吉野は艦砲の停止を願った
あまりに近すぎる「死」を見る位置で
相手の彼女は呪いの声を挙げる
爛れた指に爪はなく
目玉を失った顔は真っ黒に焼けていた
先ほどまであった女の姿など微塵もなくなってしまった最後を
「ゆるさん。。。。ゆ。。る」
舵が定まらなくなった経遠は急速に艦を斜めにしはじめ
最早,海の上に浮き続ける事は不可能な状態
急激に傾斜を崩し既にスクリューが見える状態になっていた
「止めて。。。止めて」
吉野は耳を塞ぎ目を閉じて早くこの時間が終わってしまう事を願った
通り過ぎる自分の後ろ轟音を挙げて沈む経遠の断末魔
「ゆるさぁ」
言葉を自分の意志で引きちぎるような絶句の後
「助けて」
目を開けた
傾いた甲板の上
焼けた指が最後の時に縋るように掴まっているのが見えた
「許して。。。。。。。。。」
炎とともに経遠は沈んだ
「あの子を殺した。。。」
目の前で体を焼き目を失い。。。最後の小さな一言「助けて」に吉野の心は打ち砕かれてしまった
高千穂の肩に抱きついた
「助けてって言ったんだよ」
その声はおそらく吉野にしか聞こえなかったもので。。。高千穂は自分に縋って震える妹を抱きしめた
「体暖めて。。。」
殺して終う事
相手を討ち滅ぼす事がこの「戦船」に産まれた自分達の使命。。。
間違っていない
でも
あまりに辛すぎる使命を否定したいという気持ちを口に出すことも出来ない
高千穂は吉野を抱きしめ彼女の髪を撫でながら
声を挙げてなく妹とは対照的に声を挙げず静かに泣き
曇った空の下に悲しみの雨を降らせ続けた
橋立は震える足取りで厳島の元に向かっていた
姉である厳島の声は海戦中ずっと聞こえていた
耳を痛めるほどの嵐の轟音の中
自身も半身から血を流し続けた姉,厳島は最後に左舷に着弾を受け,松島,比叡に続く死者を出しながらも唯一この後の作戦にも参加するために帰港していた
「がんばれ!!!むこうだって辛いんだ!!」
その声に自分を奮い立たせた直後
松島の被弾大炎上を目にしてしまっていた
旗艦松島は戦闘を続行する事が出来なくなり。。。。橋立が旗艦を継ぐ事になった
あの完膚無きまでに破砕の血の海に沈んでいった姉の姿から
次は自分が狙われるという恐怖を抱えたまま,この日まで誰にも姿を見せなかった厳島の元に降りた
「姉さん。。。。」
厳島は上甲板,32センチ砲塔の前で大の字に寝転がっていた
「人」には見えなくとも彼女の流した血がまだ生々しくも硝煙で焼けたこげ茶の色を残している
甲板の上では連合艦隊の兵員達もお互いの生死を確かめる者達がいる中
厳島は隠した顔のままで聞いた
「松島は。。。。」
あの戦いから向こう誰も来なかった自分の所に来た妹に
「呉に戻ったよ」
妹の声は湿ったまま松島が呉に帰るまでの間の話しをした
姉の横に座って
ボロボロになった松島の事を説明した
上の姉妹とは違いブルネットの髪を持った彼女もまた32センチ砲を撃った痛みに体を甲板の上に転がし
血反吐を吐いていた
痛みばかりの戦いの果てに見た者は傷ついた仲間と
死ぬことも出来ずに苦しんだ姉,松島の姿だけだった
「松島姉さん。。。ホントに辛そうだった」
繊細な指を胸の前で重ね祈るように話しながら鼻の頭わ赤くした橋立に
「バカぁぁぁぁぁぁ!!!」
寝ころんだまま厳島は怒鳴った
でも声は痛みの湿りを十分に持っていた
悲しみを宿した声は泣きながら
「しっかり立って。。。。戦えって。。言ったのに。。。心が負けたらダメなんだ」
艦の魂
船の魂と言われる自分たちは「人」には曰く「船の心」とも言われていた
心が体に及ぼす効力はわからないけど必要なものであるという概念から,そう言われていた
「心が折れたら。。。負けちゃうんだよ」
でも「心」は「体」とは違う
「私達が何かできる訳じゃないじゃん。。。」
橋立はいっそう泣き出した
事実,願っても弾は当たり
祈っても撃てるわけでもない
橋立は甲板に涙の雫を落とし続けた
松島の後,本来なら姉である厳島が旗艦になるハズなのに被弾箇所の多さ,死んだ兵員の多さから自分がなる事になった
次は。。。自分が狙われる旗艦になってしまった事に恐怖し泣き続けた目は訴えた
「どおして私達が戦わなきゃならないの?私達戦いたくないのに!!」
それは
どの艦魂もが思っていた事だった
妹は姉に初めてこの苦しみをぶつけた
自分よりも身の丈も小さな変わり者の姉に
厳島は自分の顔を覆った手を下ろすと涙と血でべっとり汚れた顔のまま立ち上がった
手に軍艦旗を現し
大きく息を吸うと,泣き続けた妹を睨んで答えた
「妾達は貴族なのよ「国民の上に立つ船」であるならば,国民を守って戦うのは当然の事よ!!!」
立ち上がった厳島の体に残る無数の怪我
橋立以上に撃たれ両腕の部分は軍服が引き裂かれていた
旗を持つのも苦痛な顔を歪め
痛みが引かない体に涙しながら
「妾達が戦わなかったら,この国の民はどうなるのよ!!」
まだ
橋立にはそれが何を意味しているかがわからなかった
ただ蹲って
姉の迫力に押されたように俯いて
「コワイよ。。。戦いたくないよ」と泣き続けた
この日
大日本帝国海軍の全ての艦魂が泣き苦しんだ
「私達は。。。誰に勝つことも負ける事も望んでない。。。なのに戦う船さ」
すっかり顔をおとし涙に暮れた浪速
それでも無理矢理酒を煽った,涙を振り払って三笠の目を見た
「あの戦いで色んなものに負けちゃったんだ」
知らなかった戦い
イギリスの新聞が載せているような内容ではとても「黄海の戦い」を知る事はできずにいたハズ
「人」が見もしない現実をおもしろおかしく書いた宣伝書などでは得られない血肉の戦い
「戦う意味」を見いだせないまま「争いの海」放り込まれた帝国海軍の艦魂達の心はボロボロに傷ついていた
辛い戦いの記憶を語りながらも浪速は,三笠に酒を勧め
なんとかしんみりしてしまわないように気を遣った
「そして私もまた負けました」
小皿に載ったイサキを運んだ,テイは遠い目のままつぶやいた
「テイ。。。。もしよければその話しも聞かせてくれないか。。。」
三笠はおそらく辛い記憶であるだろうテイの目から見た「黄海」の話しも聞きたかった
「かまいませんよ。。私の事ならいくらでも」
三笠はまた知ることになる
戦うこと,負けること。。。そして勝つことに意味はあるのかという事を
まだわからない戦いを前に
カセイウラバナダイアル〜〜まだ沈まぬや定遠は〜〜
実際。。。。
黄海海戦を勝ち戦だと思っている日本人は多いです
現在でも(ヒボシの父も最近までそう思ってました)(ちなみに祖父は知ってました負け戦だと)
事実この海戦のあった翌日の新聞は「海軍大勝利」という見出しで発行されていたりで
戦いの中身を知らない人は溢れていました
それが脳天気で無責任な日本国民でした
戦っていたのは軍隊ばっかだったんですよ
この無責任な状態が「日露戦争」ではさらに増長し「203高地」などに代表される
一般大衆の軍隊と政治非難につながって行くことになります
道を誤るのは軍隊ばかりではないのです
軍隊に過剰な期待や非難を寄せて道を誤らせる一般大衆というものがいるのです
黄海海戦の目的は制海権の確保でした
特に北京近くの黄海を制圧する事は「通商破壊」をしようとする北洋水師(清国海軍)を壊滅する必要がありました
同時に始まってしまった陸軍をサポートする必要があり
物資,糧秣,兵站戦という島国日本からでての戦いに必要なものが多大にありました
陸軍は苦しみながら平壌を落とし,その先に進むためには鴨緑江を越え清本国を切り取る必要がありました
本国が切り取られなければ
奴隷の国としていた韓国をとられた程度では清は引き下がらず,講和の条件を出せない事を知っていたからです
つまり始める前から終わりを想定していた戦いでした
しかし負ける訳にはいかないので勝つ為の作戦が先行します
海軍が前にでて
最強と唄われた北洋水師と戦い道を開かねばなりませんでした
ちなみに負けたら日本本土で戦う準備もしていたそうです
もの凄く決死な戦いだったんですね
そして
定遠。。。。。
このまだ沈まぬや定遠は実話で
それを元にした歌です「勇敢な水兵」と題ししてこの歌は海戦後すぐに作られた歌で国民にも広く知られました
ヒボシの実家祖父の部屋にはこの時の絵の入った額縁が今でもあります
この歌は。。。。勇敢な水兵という戦時高揚に使われたのですが
内容はそれなりに見るところがあります
本章でも水兵と副長の会話の後ろに()で歌の台詞が入っていますが
注目すべきところは副長の台詞です
水兵三浦は「定遠ばまだ沈まなかか?(方言をそのまま収録してます)」と聞きます
彼は本当に切腹のように腹を切った状態で座っていたらしいです
その彼の言葉に副長向山は答えます
「定遠は戦えなくなった」と
ココ
歌では「戦い難くなし果てき」となってます
副長は嘘でも「定遠は沈んだ」とは言わなかったという事です
そして歌でもそれを示しているのです
「戦い難く」と
ココを日本人は,はき違えます
定遠を討ち取ったとつまり「沈没」させたと
定遠は戦えなくなっただけで,この時まだ火災を起こしながらも松島に向かって進んでいたのです
それでも
大砲を撃つことができなくなり速力を落としたのは事実
これこそがこの当時の日本海軍が目指した「勝ちの形」だったのです
もともと足の遅い船であった定遠の速力を落とし艦砲を封じたのならば勝ちと判断していたのです
後は停船させればよかったのですが。。。。
実際はそんな事が出来ないほど連合艦隊は被害を被り
良くてイーブンの勝負で戻ってきました
当時最強の鎧を纏った定遠,鎮遠を沈没させる事が目標ではなかったという事です
このアタリのくだりは吉野の艦長「坪井航三」の事後録などを読めばよくわかりますが
この後の時代では軍人さえもこの事を履き違えます
「沈没が勝利である」だから先人達がどこで勝負を見極めていたかという大事な部分を見落とします
戦争は始めるよりも終わる事が肝心
黄海海戦は負けました
日本は当初予定していた制海権をえるのにさらに半年を要しやっと北洋水師を壊滅に至らせます
ココまでを海軍の戦争として国民に知らさなかった政府,軍隊の動向は良くありませんでした
しかし
勝ち戦の結果ばかりを求めた国民にも問題が多大にあったという事を忘れてはならないとヒボシも学びました。。。。
いゃぁぁ
資料の本。。。高いし重い。。。床が抜けちゃうよ(爆)
でも。。。勉強がまだ出来るのは幸せかな(爆死)
それではまたウラバナダイヤルでお会いしましょ〜〜