第六話 龍の咆哮
黄海海戦を一話にまとめたかったのですが
無理でした
それはその、一行で「戦」を語って欲しくないという三笠様の要望に応えたという事と解釈ください(藁)
「鎮遠」
もちろん三笠は名前は知っていた
それは有名すぎる前だった
三笠は浪速の顔とテイの顔を見ながら聞いた
「鎮遠、テイ、オマエの話しを聞かせてくれないか」
前の戦争を知るための第一歩
開国まもない日本に脅威として立ちはだかった国「大清帝国」の旗艦
三笠の頼みにテイは浪速の顔を見た
話しをするには「何らかの許可」が必要であるという目線に
浪速は片手でイサキを食べながらもあまりいい顔はしなかったが
「テイさえよければ、話してあげるといい」
浪速の乗り気ではない返事、だが三笠は本気の目でテイに頼んだ
「テイ、話してくれるか?生い立ちを、それとココまで来るまでの話しを」
「私の事でよければお話しします」
テイは立ち上がっていた姿勢から三笠の前に座ると遠い目のまま自分の生い立ちを話し始めた
大清帝国北洋水師、清国最後の旗艦鎮遠
その存在は脅威の一言と大日本帝国では最初に認識された
ドイツ、フルカン・シュテッティン造船所が作り上げた夢の軍艦
鉄の鎧を纏った艦艇は海洋国家である大日本帝国を脅かした
長崎に来航した時には「定遠・鎮遠の鉄下駄騒動」と言われる刃傷沙汰の事件がピックアップされ艦艇自身が持つ脅威は、帝都を脅かす程のものではなかったが
横須賀に来航した時の彼女達の姿を目の当たりにした帝国海軍の艦魂と海軍の歴々の落胆は凄かった
当時の帝国には
装甲船として、それまでアジアの独立国家が持つ艦としては最大を誇った扶桑がいたが排水量にして3718トン全長220フィート(67.06メートル)
軽く倍近い排水量を持つ鎮遠は7430トンの全長308フィート(91.0メートル)という巨鯨
帝国海軍艦艇に定遠・鎮遠の大きさ、いや全てにおいて比較に出来る者がいなかった
当時すでに就航していた浪速と高千穂が3000トン級で,それ以外はみな2000トン以下級という編成だった帝国海軍
あの日、横須賀で初めて見た鎮遠の姿に浪速は怯えた事を思い出した
高く登った日差しの下
轟音とともに横須賀の海に現れた巨漢の上に姉の定遠共々艦首にそびえる15インチ副砲塔の上に立っていた鎮遠
皇帝陛下直属の部隊を意味する「金の龍」を誇らしげに飾った艦首の上、二人は「黄馬掛」を羽織った后女の艶やかな衣装に身を包んでいた
絢爛たる容姿の二つの魂におびえた記憶
黒金の艦体に目を見張った人達
「小さな艦ばかりね」
横須賀の景色の中、自分達におびえ姿を見せない艦艇を青い目が見渡す
「これで大清帝国に逆らう気も失せるというものでしょう」
威圧的外交の成功に妹鎮遠の紫の目も笑う
定遠・鎮遠
二人は双子で容姿はそっくり、長く伸ばした銀の髪のストレートヘア、高い鼻に姉はスカイブルーの瞳、妹は紫の濃い海を思わせる目
目の色だけが彼女たちの見分けのつくところで、後はどれをとっても見分けが付かないほどの姉妹
日本の艦魂達は入港する二人の姿を遠目で見ていた
とても正面に立って姿を見ようという気になれなかった
身長も180センチ近い長身の姉妹の威風堂々とした姿に帝国海軍の艦魂は怯え、海軍の偉さんも帝国国民も巨大な鉄の塊にそびえる砲塔に只驚くばかりの威容であった
「こんな大きな艦となんて戦えないよ」
日清親善と銘打ったこの日
親善などとはほど遠い恐怖を帝国海軍艦魂達は植え付けられた
だが
これほどの艦艇を揃えた清の国内情勢は斜陽にさしかかっていた
装甲船をドイツから買いそろえ威圧行動をとるという列強的外交術などは世界の趨勢に合わせた行動など十分に出来ていたが
国を統べる皇帝にすでに己が身を守る鎧はないに等しかった
清は、国家の体制をシフトチェンジする事が出来なかったのだ。結局皇帝陛下という頂点に立つ信心の元に万民制であるという古めかしい階級社会からの脱出ができず
大見得の帝国主義により統制はみだれるまま、年を追うごとに官僚的贈賄の武力は威力を発揮する事なく、帝国の心身を蝕み、手つかずの行政の間を縫った列強からの圧力に国土は切り裂かれ続けていた
それでも古式の力を頼りに息も絶え絶えの清という巨獣は威光を振りかざし「朝鮮国」西洋列強よろしく属国とし
目の前、西洋の力を脅威ととらえ蓄えを続け目障りになってきた大日本帝国と向かい合ってしまう事になる
大日本帝国とぶつかる事になった頃、清国はまだ己の身の内を統率出来ていると過信していた
実際各々に強い将はいたし、現実的な問題を把握していた者達も多かったのだが
それが戦争前に機能する事がなかった事で事態は急転する
「あの頃、すでに清は「まともな」戦いが出来る状態ではありませんでした」
近寄っていた雨雲はどこかに消え
靄を晴らした漆黒の空に浮かぶ月を見ながらテイは邂逅していた
帝国海軍は先の親善以来なけなしの金を叩いて新たな海防力を手に入れようとやっきになった
隣国の脅威に海防の司達は燃え上がった。それだけの事件もあった
甲申政変の時は漢城に居住した日本人を護る事もままならなかった事も海軍力の増強に働く
海軍の予算は「金食い虫」と罵倒されながらも「必要な力」である事の説得に、天皇陛下御自らの倹約、国民からの還付などに支えられ遅い歩みながらも
目の舞うの清国、さらに向こう構える列強に対抗する力を手に入れ始めていた
帝国が慌ただしく軍備を整え国力を上げる中、当座の敵とされた清国は時代錯誤な事に金を費やしていた
清国大皇后、当時の大清帝国実質の最高実力者「西太后」の指示の元い頤和園の再建造営費を「海軍予算」の流用で行い(現在の説では,正規の手続きを取って海軍費を造営費に回したとされているが、正規の手続き取って国防を疎かにしてどうする?)
大々的な改修を行った、だがそれは官民ともに国庫と財政を圧迫させる非常の事態であり
国の護りとして行われるべき事ではなかった
「私は西太后様にはお会いした事がありませんが、どちらにしても戦争に全力を尽くす事はできなかったと思います。事実李鴻章閣下は「北洋水師」は存在している事が大切であると言い、戦う事は考えてはおられませんでしたし、でも戦いになってしまいましたが」
清国は戦争がおこれば内地にある城を拠点に長期的な戦いを想定し、海を渡って戦にくる日本の輜重線を延ばし、じらして撤退させるという作戦を全面に立てていたが
大国であるが故の悲劇か、もはや喜劇か
戦って威光を示すのだ、という皇帝及び中央の意志に誰も逆らう事ができず
末尾の火の中に今も立つ大清帝国を憂いた言葉に目を閉じるテイの姿を確認した三笠は、浪速とテイの間に自ら進んで
大事な本論に突っ込んだ
「前の海戦の事を知りたい、教えてくれ」
騒がしい厳島を中心とした宴を横目で見ながら酒を煽った三笠は勢いよく浪速と
目の前に静かな瞳のまま見つめる艦魂テイを交互に見つめると
今日、もっとも知りたかった本論を隠すことなくずばりと聞いた
テイは自分の生い立ちと清の攻防のさわりは話したがココに来るまでの経緯は話す気配がなかった事も
三笠が思い切って「戦争」の事を聞くきっかけにもなった
浪速は困った顔で首をふると
「酒がまずくなるよ、戦いの話しはまた今度にしよう…」
渋る態度で顔を背ける浪速
三笠はもう一人の「あの海戦参加艦魂」に顔を向けた、テイは真正面自分の顔を見つめ本気で前の海戦を知りたいと願う三笠の目に
「私は構いませんが、私が話をする事は差し出がましい事になります」
そういうと
唇を噛み話題から遠ざかろうとしてた浪速を見た
捕まってココに来たテイには語れない部分がある事を素早く察した三笠は、逃げようとしている浪速の肩を掴んで頼んだ
「浪速!教えて欲しい。知らないまま次の戦いには出られない!」
浪速は驚いた顔で聞き返した
「…三笠ちゃんは、戦争になると信じてるの?」
怯えた目は「否定」という答えをまっていたが
「なる、絶対に。避けては通れない」
三笠の真剣な目の後ろ、テイもまた
「私もそうなると思います」と静かに答えた
浪速は自前のギヤマンのグラスを甲板に降ろすし肩を落とすと
「思い出したくないんだ。あの海戦は」
今まで酒で蒸気していた顔色が目に見えて悪くなっている
甲板を指でさすりながら顔をあげて
「戦争になるのは、イヤだ」
栗色の髪は顔に掛かって瞳には苦悶が浮かんでいた
眉間に走る苦痛に三笠は頼んだ
「知らないままでは、困るんだ」
三笠は来月には舞鶴鎮守府に籍を移し、いよいよ新たな艦体編成を経て第一艦隊旗艦に就任する
前に三人の姉という同型艦がいるからこそスムーズな運用で演習の時間も短いながらも,帝国を代表する軍艦として連合艦隊の全面に立つ者となるが
実戦をしらいない事は事実だった
艦砲のテストでは本物の打撃戦というものを知る事はできない
前の戦闘で得られた経験を持つ者に「戦争」とは何かを問い、知る必要を今日ほど強く思った事はなかった
松島の発言
船魂達の願い
テイの生い立ち
それらの根元にある海戦を通してもっと知りたかった
「私がお話しましょうか?」
三笠の願いは十分に理解しているだろう浪速だったが
肩を揺らす腕の中で顔をそらしたまま態度を硬くしていたところにテイが口を開いた
テイは浪速の顔を見つめる、真剣な眼差しは差し出がましくとも語らねばならぬと告げている
「私が話して、よろしいでしょうか?」
返答に浪速は首を振った
それを負うのは負けた清国のテイではなく、勝ってここに生きる自分の責務と
「テイは負けた国の艦だ、テイだけの言葉を聞かせたら三笠ちゃんが迷っちゃうでしょ。話すのなら一緒に話そう」
苦しそうな意見の中で浪速は観念したように二人の側に顔を向けて座った
「話すよ、あの戦いを」
東洋初の鋼鉄の戦船達の戦い
鉄の鎧を纏った北洋水師(清国海軍)と,いまだ鉄鋼船を数隻しか持たない帝国海軍の激突した戦い
「黄海海戦」そこに至る話し
宣戦布告の先端を切ったのは1894年(明治二十七年)七月二十五日の事だった
帝国は陸海ともじれていた
「できれば二十五日以降(八月一日に宣戦布告)で戦争を開始したし」
それに伴い陸軍旅団の輸送が始まる中
佐世保に集まった帝国海軍艦魂達は震えていた
ギリギリの琴線の引き合いの中
緒戦である豊島沖海戦が始まってしまう
「私はさ、この時に死ぬほどコワイ思いをした」
浪速は観念した後は酒の力も手伝ったのかかなり饒舌にその時の事を話してくれた
「東郷艦長の判断の事でしょ」
東郷平八郎、イギリス商船高陞号撃沈事件
清国の要請に従い牙山に兵員輸送のためにチャーターされ商船を撃沈するという大事件に立ち会った浪速
四時間近い交渉の果てに選ばれた手段が自分の手による艦砲であると知ったとき、浪速は失神しそうになったと言った
「でも彼の判断は正しいものとイギリスは認めている」
この事件で一時は「大日本帝国対大英帝国」という図式まで浮かび上がったがイギリスの知識者階級の見解と
イギリス政府の利益の為に事件に「日本に非無し」という結論がでて命拾いをするが
この流れはそのまま清国の「海軍」への不信と繋がる
李鴻章の本心は黄海寄りのもっとも近い北京への守りとして北洋水師を動かしたくはないという狙いがあったが、日本海軍が定遠・鎮遠を恐れているという事を前提に、見えぬ敵として存在する事で輜重線を延ばし、戦いを続けられなく出来れば良い程度に考えていたのだが。
これは大当を得た戦い方だった、だが
大国のおごりか皇帝一派は海戦を望む声を高らかに挙げ
艦隊を動かさざる得なくなっていた
一方で帝国もまた陸軍からの突き上げをくらいっていた(制海権の確保の問題で海軍大臣「山本権兵衛」と陸軍「川上操六」が揉めた一件から)樺山軍司令は遅々として進まぬ海洋制圧に痺れをキラし伊東連合艦隊司令長官座艦である松島を訪問、文字通り蹴飛ばす形で「戦い」を待っていた
これより敵の大地を戦場にする陸軍にとって海上からの糧秣、物資、兵士の輸送は急務であり
帝国の戦争の大きな鍵ともなっていた
戦いは艦魂達の望まぬ形で
互いの国家の先制作戦を賭けたものと変わっていた
どうしてもぶつからねばならぬ運命へと
生暖かい風の中
第一遊撃隊の先頭を走っていた吉野はチビの恥ずかしがり屋という艦魂だが,がんばり屋でも知られていた
ショートの金髪を揺らしながら一心に見る方角には凪いだ海が鏡の面のように続いていた
「いるかな?」
帝国海軍は開戦から二ヶ月、海上制圧のために北洋水師を捜し黄海の中を行ったり来たりしていた
意味なく動いているわけでなく
「敵」をこちらから探しだし戦うために動き回っている日々
眠れない日々
第一遊撃隊の先頭である吉野は常に艦の切っ先にたって波を見続けていた
海洋島を巡回した連合艦隊は目標を見つける事はできず、そのまま次のポイントである「子鹿島」に反転を開始ししたところだった
蹴る白波が昼前の海に銀の水面を作る中
吉野の後ろに立ったのは、いつもならお調子者の浪速、それに高千穂、秋津州達、皆海を睨んではいるが本音がこぼれる
「いないで欲しいなぁ」と
特に浪速はこの戦い最初の砲撃をした艦だ、豊島の沖でイギリス商船を撃った記憶はまだ新しかった
それが何度も頭をよぎり彼女を責め立てていた
商船の船魂は事が静かに収まる事を願い終始手を重ねて祈っていたが願いは叶えられなかった
自分の手に残るイヤな感触
自分が砲撃を制御できるわけではない、だが魂の居場所として居着く艦が同じく船に住まう魂を撃沈した事に泣いたばかりだった
それ以上に
今度は商船が相手じゃない
あの横須賀で見た巨大艦定遠と鎮遠だ
「撃ちたくないね」
浪速は何度も顔を動かし、海を見ないようにしながら言った
その言葉の意味は撃たれたくないの裏返しを、鉄の塊の定遠の30.5インチ砲が当たったら
あの日、自分の砲撃で沈んだ商船と同じ運命をたどる事になる
泣きながら苦しみの中で沈んでいった彼女の声が今も耳に残っていた
「会いたくないね」
浪速の気持ちを理解しつつも海を見張る吉野
小さな声で返事した
暖かな海、東方の風、緩い揺れの中
たおやかなまま海でいてくれる事が艦魂達の願いだった
「東北に煤煙!!一条!!」
マストに登った水兵からの怒号と伝達
時は昼にさしかかる今
会わずにいられたらと願い続けた相手は姿を現した
横一線に並んだ北洋水師,中央に鉄鋼艦定遠・鎮遠を並べた軍団は凪いだ海に鉄の足音を響かせて走ってきてしまった
「敵艦見ゆ!!」
吉野の甲板から、浪速達は飛んだ
最早躊躇は出来ない、目視できる位置に現れた敵と戦わないなどあり得ない事だ
自分の甲板から飛ぶ浪速や、姉達に吉野は大きな声で
「みんなまた!!また後で会おうね!!」
浪速は震える自分を奮起させるために精一杯を叫んだ。先頭を走る吉野に手を挙げて
「ああ!!」
第一遊撃艦隊「吉野」「高千穂」「浪速」「秋津州」の艦魂達の覚悟が決まった頃
本体の松島は顔を真っ青にしていた
陸軍が平壌を落とした今、艦隊戦が発生するかは微妙な時期だったと考えていたのに自分たちから出向いて、ついに敵と遭遇してしまった事に体の震えを止める事が出来なかった
しかし
敵船との遭遇は「人」の世界においては絶対に必要な事だった
平壌を占領した陸軍に必要な物資を届けるためにも「制海権」を確保しなければならず
松島が考えるようなそこどまりの戦争ではなかった
平壌はあくまで大韓帝国を「不当」に従属させていた清国の守備兵を下がらせるための戦いであって
未だ本国の一部も占領されていない清国は十分な兵力を鴨緑江に集結しつつあった
これに対して兵站線の確保が不十分であった帝国陸軍の糧秣,兵科の輸送を海軍が制海権をとってスムーズに運ばせる必要があり
どうしても北洋水師と戦わなくてはならない状態にあった
しかし
戦いを恐れる松島にはそれを理解する事は出来るハズもなかった
知らせを聞いた「千代田」と「橋立」「比叡」はすぐに自分の艦に戻っていったが
「嘘よ、嘘よね」
妹達が出払ったのを確認したように松島は自分の部屋にの床に座り込んだ
このままココにとどまり、敵の見える所になど立ちたくない、足をふるわしそう願うが
冷や汗をかいていようが、顔色を悪くしていようが
姉妹達の前では平静に振る舞い
「連合艦隊の名誉を掲げよ」と号令した身だったが
不良品艦と呼ばれる自分で、あの巨漢の定遠・鎮遠に立ち向かう勇気はなかった
何度も忙しく自分の髪を結び直す
それでも一人だけ前に立たない訳にはいかない
妹の厳島は誰より前に自艦の切っ先に立って軍艦旗を掲げているのだから
松島は覚悟といえるほど大きな決意はできなかったが、震えながらも艦上に姿を移した
その頃、単縦陣で真っ直ぐに自分たちに向かってくる帝国海軍を鎮遠は厳しい表情で見つめていた
「姉さん、足の早そうな船達です」
「何、大砲で仕留めれば早さなど問題にはならないわ」
同じ口調
同じ笑みはお互いの強さを確信していた
連合艦隊の艦魂達が自艦船首で「軍艦旗」を掲げているのと同じように
北洋水師も「大清帝国」の黄金の龍を掲げて前に進む
確実につまる距離の中
「人」と同じく「艦魂」達も己が命運を賭けて前に進む
吉野艦長「坪井航三」の指示から真正面に来る北洋艦隊の右翼に展開を開始する
正面横一文字の艦隊に対し速射砲を優位に使うために「腹」を向けながら斜めに進軍するという荒技に出た
展開しながらも距離はジリジリと迫る八千メートル
総員全てに緊張が走る
艦魂達は敵味方お互いの顔の見える位置に近づく
「あれが…敵…」
速力を早めた遊撃艦隊の後を追う本隊松島は定遠と鎮遠の顔を初めて見た
白銀の長髪、皇帝拝領の黄色の衣装に身を包んだ巨大艦の姉妹達もまた初めて帝国海軍の艦魂達と顔を合わせた
小粒な艦体の上に並んだ艦魂達
「お互い、異国の者ばかりね」
定遠は卑屈な笑みを浮かべた
「買われた国が悪かったと泣きなさい」
小粒な艦艇の前に立つ帝国海軍艦魂達の姿に
「主は選べませんからね」
鎮遠は笑う事なく自分の前を今や横切る勢いで腹を見せている吉野を見た
「撃つわよ」
定遠は旗を大きく持ち上げて掲げた
並ぶ北洋の艦隊の半分以上が産まれをドイツとする姉妹達だ
距離五千八百メートル
最初の怒号はついに放たれた
鼓膜を圧迫する凡音の響きの中
定遠の大砲は静かな海を割り、鉄の足音の上に乗り低く大きく響くと真っ直ぐに吉野に向かって飛んだ
「きたぁ!!」
吉野は目を閉じた
放たれた弾に対して自分がまさるものは足しかない、走れと魂は祈り
爆音に続く低い雷とともに弾は海に落ちた
唸る砲弾は重さと関係なく風を軽く切り裂き,水の柱を高く挙げる
飛び込んだ海の顔をハンマーで叩く激震が艦体に伝わる
当たれば船体を砕く音は水の中に重く余波を残して沈む
それを合図に北洋艦隊は横一線の艦艇全てから発砲が開始された
燻煙の中、発射の光が一瞬睨みを効かせた龍の目のように走ると,後に続く暴威の根元の弾は次々に吉野をはじめ並ぶ第一遊撃艦隊を襲う
「まだ遠い!!!」
吉野艦長坪井の命令は「撃つな」
この間、連合艦隊は石にへばりつく胆力で恐怖と戦っていた
小さな砲塔を並べる日本艦艇で確実なダメージを与えるには素早く敵艦に近づき一斉掃射という命がけの作戦しかなかった
各艦とも一撃必殺の敵の弾をかいくぐりながら進む
吉野は泣いていた
撃たずに撃沈される事だってあろう状況で、手を重ね走る事だけが彼女に出来る祈りの中で涙で顔をくとゃくしゃにしながら
「頑張ります!頑張ります!」と
距離四千メートルで第一遊撃艦隊、高千穂、秋津州が反撃を開始した
相手との迫る距離に肝を冷やし続けた僚艦の艦長達は手を挙げる
並べられた細かな砲塔が軽音と共に礫を放つ
未だ吉野は発砲せず。艦魂吉野は目をつむり自分に走れと祈り続ける中
艦砲の許可の出た姉達は声を挙げた
「撃て!!!撃て!!」
自分たちが撃つわけではない
それでも声を挙げなければ恐怖に押しつぶされてしまう
「人」も同じく撃てと怒号の連呼が続く
火薬の匂いと発射の火花で甲板の全てが熱を上げて行く
汗とススにまみれた「人」の前、旗を掲げて恐怖と戦う艦の心達
燻煙の合間から除く鉄の巨像に散弾の雨が降る
鋼鉄の体に火花を散らす弾に余裕の笑みの定遠は旗を大きく振り上げると
「潰れてしまいなさい!!」
帝国海軍の弾を跳ね返す巨漢の主は笑った
自分に当たる弾の非力な力に
距離三千五百メートル
笑う相手の前,松島は軍艦旗を掲げて立つ
同時に艦体から一斉掃射が開始された
「来ないでよ!!来ないで!!!」
悲鳴に近い思いを胸に抱いたまま松島は歯を食いしばって心を保つ
静かだった海に火花と硝煙の香りが充満する
睨み合う二人
青い海と空の間に黒く濁った戦いの気炎の中
姉の横を走っていた鎮遠もまた火花を纏っていた
細かな散弾は彼女達を飾る宝石の光のようにしか見えなかった
「無駄ね、きかないわ」
双子の姉妹はお互いの顔を確かめると
三千メートル先恐怖に顔を歪めながら旗艦旗を掲げている松島を見つめた
「最初に貴女が死ねばいいわ、コワイのからサヨナラさせてあげます」
鎮遠は皇帝旗を大きく掲げた
息を上げる艦の魂に呼応するかのように15センチ砲が火を吐き
龍の咆哮は三千の距離を駆け真っ直ぐに松島の船体に押し潰れる金物の音を高くあげ、三十二センチ砲の台座下をえぐり取った
連合艦隊の艦魂達全てが一瞬にして凍った
激しい火花
続く爆発
耳を疑う鉄が砕ける鈍く重い音
同時に目を点にしたまま腰の肉をはじき飛ばされた松島の半身を血で彩った姿
立てない、立ってなどいたくない
松島の目には涙はなかった
痛みを通り越し恐怖が自分の体と心を貫き、なけなしの勇気は弾かれ裂かれた肉体から血となってこぼれ落ちた
「どおして、私こんなところにいるの?」
足をつたって落ちる血
数日前に客船を見た
衣装も美しい婦人の船魂の姿に、自分がどおして戦う船の魂なのかと泣きそうになった
でも
その時は迫る戦いの全面に立つ者である使命が自分を支えたが、今は心までへし折れてしまいそうだ
かろうじて軍艦旗の柄で体を立たせている松島は初めて涙を零した
「イヤぁぁ…もうダメ」
ココで止まって後の事は前を行く者達に全てを投げだして逃げたい
体はくの字に折れて、頭は闇に向かって落ちてしまいそうだった
「松島!!!松島!!!」
混迷で意識は深く沈みそうになる中を金切り声が自分の名前を呼び続ける
「松島!!!」
ふらつく足
軋む体を起こす
自分の名を呼び続ける者
それは自艦切っ先で自分の体より大きな旗を掲げ続ける妹厳島
「松島!!!がんばれ!!!」
何に頑張るの?叫び続ける妹の声さえもが心を暗黒へ導く誘いにしか聞こえなかった。
松島にさらなる悲劇が襲ったのは、この3分後
「撃ちたくないし、撃たれたくもない」
言葉の意味と
初めての戦い、帝国海軍の艦魂の心すべてに刻まれた「戦争」は今まさに始まったばかりだった
カセイウラバナダイアル〜〜大砲の音編〜〜
youtubeとかで護衛艦の発砲シーンを探して実際の弾はどんな音なのかをたくさん聞き比べてみたヒボシですwww
何やってんでしょう
てっとりばやく二等先生やHon先生に聞くという手もあったのですが
聞いて知りたいのもありましたが、実際の音を聞きたいというのもあって色々と探してみましたが
護衛艦の艦砲の音はスマートな感じでした
ポーン、バーンみたい感じで「ドゴーン」って感じじゃありませんでした
やけに排薬もスマートにカラカラカラーンみたいで
もちろん本物はこの音の何十倍って事になるわけですからテレビ程度で見た評するものではありませんが
だけど
この音だと多分、いや絶対に黄海海戦の時の大砲の音ではないという事だけはわかりました
友達に聞いてみたら
陸自のFH70 155ミリ榴弾砲が近いのでは?という答えで、まあ
実物はしらないんですけど例のりっくんランド(朝霞駐屯地広報センター)にいた走る砲台みたいなのか?と
戦艦大和の46センチ砲は外にいると酒瓶が音波衝撃で割れたと言われる
そこまで行かない音を探す
そこで、ヒボシはちょっとその軍事マニア(音マニアックス)とスタジオに入ってみましたw
大砲の音のデシベルは、だいたいわかってましたからサンプリングした大砲の音をスタジオのモニターに介してだしてみたんですよ
単発音源としての音の大きさを96デシベルとしてまず聞いてみました
びっくりしました!!
友達曰くこれが陸自の砲台の音の大きさだというのですが、これはデカイ
しかし
黄海海戦で使われたアームストロング社製速射砲は12インチ
一分間に2発ないし3発ぐらい撃ったとして同音が重なっていくわけですから
だいたい120デシベル。ぎゃぁぁぁぁああああああ
後10デシベルいったら難聴の確率を天文学的にふやす数値!!!
俗に、パイルハンマーが100デシベル(よく工事現場にいる基礎支柱を打ち込む機械)
職業病の認定がされますよ
おそろしい…
しかし
ココまで来てしまった以上、速射砲の音というのも経験しない訳にはいきません(結構命がけの実験になりました)
サンプリングした音を同音で重ねて
死にますた…
耳がキーンというよりポワンという感じになります
高音の破裂音と違い
低い爆破音は直接鼓膜の8割りに作用するためか
頭がクラクラしました
もう二度とこんな実験はしないと誓いました
つい、調べたくなってしまうこの癖は
どうしたものか…
それではまたウラバナダイヤルでお会いしましょ〜〜〜