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第四話 梅雨の靄

褌です…フフフ

厳島との仲直りの後に三笠が起こした行動は、横須賀に停泊する他の艦魂達の艦を尋ねるという地味ながらも直接会い、顔をつきあわせるという仕事だった

仲間意識を高めるための第一歩はまず帝国海軍に所属する各々の艦艇、その魂立ちを知っていく事にあると三笠は思い作業に取りかかった


ココについて以来自分に課された責務のために、帝国海軍艦隊の旗艦という任に合わせた修練で自身も演習が終われば沈み込むように部屋に籠もってしまう程の疲労を覚える

考える以上に行動を起こすことが容易なことではないとわかっていたが

まずそれが大切な事であることを身をもって知った今、こうどうせずに舞鶴には行けないという思いと


実際に焦げ付き始めているロシアとの関係を思えば、体を動かす事は苦ではなくなっていた


大日本帝国はそれら外からの圧力と、迫る時間との戦いの中にもいるのだからと三笠は自分にさらなる労苦を強いることに乗り出す決心をし

誰も出てきてミーティングを行わないのならば、自らが尋ねて隠している心内を聞いてやろうと決意した


星空も高くなる夏を近づける紫の空の下

たらいにつかり湯船の中で顔を赤くした三笠は拳をあげて誓った




翌日、艦隊はしばしの休息を得たためは横須賀鎮守府は割合に静かな時間を過ごしていた

演習の時にはこれでもかと雨を降らせ続けた空は、休息にご褒美と言わんばかりの晴れ間をのぞかせ

士官達は顔色を悪くし、兵卒達は明るく町に繰り出したりしていた


そんな湿っぽい日々の間を縫うように三笠の艦艇巡りは開始された。昼を過ぎたあたりで各々が自由に時間を楽しむであろう静けさの中、どんと構えて一升瓶を抱えた三笠はまず姉の初瀬の甲板に舞い降りた


自分の写身とよく似た艦

微妙に細部の異なるところが見受けられる。

艦体のカラーがまず違う。三笠艦は竣工した時のまま、艦体色黒を纏っていたが、初瀬艦は白に近い灰色で艦首の菊花門などの装飾が三笠艦に比べると若干の飾りを持った姿

三笠艦はポツンとワンポイントのように輝く菊花紋章だが、自分より前の艦艇はどれも飾り付けが大なり小なりある

いずれ自分の艦首も飾りたてられるのか?その程度に思ったものも時間があればしっかりと見回す事もできる


似ているようで微妙な差があるもの自分達同型の姉妹の長姉に当たる敷島艦と初瀬艦だけは煙突が三つ立つ

今日は薄く流れる湯気のような煙を流している


今まで気にもとめなかった事に三笠は目を逐一とめ気に掛けた

取りこぼしのないように、忘れる事のないようにと


そうしながらキレイに洗われた甲板を後部に向かって歩いてゆく

長官公室付近が自分達同型の姉妹が部屋を持つあたり

よく似ているから迷うことなく初瀬の部屋の扉をノックした


「初瀬姉様、三笠であります」と


軽く叩いたノックの音に中から返る声

「えっ?三笠?」

どこか緩い寝ぼけた声と何かが崩れる物音

それも何か大量に重ねられた何かがなだれをうつような激しい音に、三笠の足下まで少し揺れを感じる


「姉様?どうしました?」

「何?どうしたの?」


扉越しにかけられる三笠の声に慌てる初瀬の反応は、あきらかに寝ていた声でしかも慌てて何かを落としたのか飛び上がっている

しばらくドアの隙間から埃を流す程の音が続く


三笠は顔をしかめ思った

なんでこんな時間に寝ているのか?そして何がそんなにあるのか?

ドアの前で一升瓶を置き姉がどんな顔で自分を迎えるのかを黙して待った


よほどみせたくないものがあり、隠したいのだろうと思えば数十分は待つだろうと覚悟を決めた矢先

木製の小さなドアは開かれ

癖毛の髪もそのまま、寝ぼけ眼の初瀬が顔を出した


「何?」と



通された部屋は

イギリス艦艇らしい機能的な中に伝統を守った作りで

寄宿舎にある教導生活で区分けされたボックスタイプの部屋

ベッドを上に、下には自分の勉強用に容易された机、それをよこにのばした引き続きのテーブルと


所狭しとおかれた本、そして衣類の山



ドアを開けた初瀬はとりあえず三笠が座れるようにまとめた本の山を移動させていたのだが

元々身の丈からして姉妹の中で一番小さな初瀬、彼女サイズでどかされた小道のようなスペースを通って椅子に座るが

何もかもが窮屈に感じる三笠は肩を上下させながら


「姉上、掃除はした方がよいのでは」


最初の一言は極めて当たり前の言葉となった


自分達姉妹の中では一番小さく華奢というより線も細い少年のような姉初瀬

艦体の演習において成績もそこそこで、そつなく物をこなす人

尖り目が特徴の姉妹だが、初瀬は尖っていてもどこかフワフワしていてつかみ所のない人で三笠も横須賀についてからの所作などは朝日に聞かされ、初瀬はいつもニコニコ座っているだけで、何を教えてくれるという事もない


だがこれほどに乱れた生活を送っているのは初めて知った


海軍の生活は基本、無駄のない生活であるにも関わらず

大量に持ち込まれた本にまみれる生活は場外れにも程があった


「や〜〜〜まさか三笠が尋ねてくるなんて思ってなくてねぇ、ハハハ」


歯の浮いた緩い笑い声を上げながら

ベッドの布団の下に隠した着替えの袖が垂れ下がる


しかも初瀬は下着姿のままというだらしなさだった

どこに目をやっていいのか困った三笠は初瀬の姿から話しに入る事にした


「姉様、ドロワのまま今の制服着ていらっしゃるんですか?」


シュミーズの上とドロワの姿はイギリス海軍であるなら当然の下着姿たが

帝国海軍のタイトスカートにドロワのシルエットを合わせる事はできない

実は三笠が気になっていた事の一項目にこれをみんながどうしているか?というのがあった


三笠自身の装備は

上のシュミーズでは胸の動きを抑える事は難しいのでさらしを巻いて完成としていて、下は水兵達が火曜日の洗濯の日に褌一丁になっている姿を見て

機能的であると確信

自ら手製の褌を作って着用するようにしていたのだが


姉達はどうしているのかが気になっていた



「穿かないよ」


夏服の制服をハンガーに掛けた初瀬はキョトンとした目で切り返した

悪気やいたずら心のない目の前

返された返事に三笠の方が惚けた


「穿かない?下、穿かないんですか?」

「だって〜〜〜合わないんだもん〜〜〜」

「合わないといっても…」


呆然とする三笠の前初瀬は制服を着たときの経緯を話した

初瀬は誕生したドック、ニューカッスルで初めて帝国海軍の制服を着たそうだ

基本とせの艦魂もそうなのだが、主の国の軍服はそこに立ち会う軍人を模した形として具現化される

さらに

元々男物の制服しかない世界で自分に合わせた服を具現化させるのだが、基準である上着に合わせた形でそれらは現れる


大日本帝国海軍のそれは上は人の着るそれと変わらず、下はタイトのロングスカートである


「なんで帝国海軍の制服ってタイトなんだろ〜〜ねぇ」


この頃、タイトスカートの軍服を採用していたのは「日本」と「ドイツ」「イタリア」が有名だった。後にアメリカ合衆国も採用する(あくまで艦魂の世界で)


いきなり訪れて下着座談とは、と首を傾げた初瀬はそう言えば苦もなくタイトスカートを着こなしている妹を見回した


「三笠も穿いてないんでしょ?ドロワだとゴワゴワしちゃって気持ち悪いでしょ?」


確かに

ドロワの木綿の広がりでは

体型にぴったりのタイトスカートの中でかさばる、しかし穿いてないって?

不思議な顔をする初瀬の前、三笠にはもっと不可思議な思いが立ち上がっていた


わかってはいても穿かないってのは理解が出来ないというか

その状態で戦闘行動の時どうするのか?めったな事で尻餅もつけないのでわ?と


「私は、穿いてますよ」


変な質問をされたとお茶目に顔を隠す仕草などしていた初瀬はびっくりした様子で三笠のスカートを触った


「穿いてないじゃん」

飛び出した姿勢で座っていた三笠の太ももの位置を触る

ドロワならばココにすでにかさばりが出来ている事になるが、褌はその位置に布はない


三笠は姉の滑稽な様子に立ち上がってスカートをたくし上げて見せた

「水兵の下着をマネして作ってみました」


初瀬の尖る唇、目が点になったまま

「…破廉恥」


ねじりこそ入ってはいないが簡易T字の下着姿に初瀬は絶句したまま顔を上げて三笠を見た


「だめでしょ!女の子がこんな足の根っこ露わにした下着なんて〜〜」

真っ赤な顔でフラフラと揺れる

「見えちゃいそうだよ!!!こんなのダメだよぉ!!」

「きつく縛っておけばずれたりしませんよ、むしろ動きやすくて良いです」

立ち上がった初瀬は三笠のスカートを降ろさせると


「ダメ!!そんなのイギリス淑女として許可できません!!!」


三笠は吹き出しそうになった

淑女の部屋が乱れ放題なのに、しかも穿かない人に反対されるなんてと


「穿いてないと転んだときに見えちゃいますよ」

「見ないの!!」

たしかに艦魂が見える人はココにはいないから見るって言っても仲間内だけだ

だとしてもそんな状況が発生したら気心知れた仲間や姉妹とはいえかなり気まずいのでは?と


そしてさらに気になるのはそこまで反対する初瀬がいる事

ならば他の姉や仲間はどうなのか?と


「じゃあ、そのまさか朝日姉様も穿いてないんですか?」

「朝日姉さんは「湯文字ゆもじ」ってのをしてるよ」

「湯文字?」


聞き覚えのない下着の名前に首を傾げた三笠に

気がついたように初瀬はベッドの下から正方形に近い布を出した

「コレ!!」


絹と思われる光沢を持つその布は両端に縛り紐が付いている

「コレを巻くんですか?」

「そう」


言われたとおり制服の上から仮に巻いて見たが

「これ、ミニのスカートじゃないんですか?」

クルリと巻いた丈は

帝国海軍のロングタイトのスカートに入ったスリットに掛からない程度の長さだが

あきらかにスカートタイプで大事なところが隠せる用途はない感じだ


「コレだったら穿いて無くても一緒じゃないですか?」

「そうよ〜〜〜だから私は穿かないの」


つまり、ここ横須賀に集まる帝国海軍の艦魂は三笠を除いて制服を着ている時こそノーパン状態である事が発覚した瞬間だった


むろん

褌をパンツという風に置き換えるのはおかしな話しだが

戦艦の魂としての心構えを考えるのならコレはダメだと三笠は直感的に思った日だった




翌日、朝日に会いに行ったときにも初瀬と似たような問答が起こったうえに

「イギリスの淑女はどんな事があっても転びません」などと断ざれ


その翌日、浪速に会いに行ったときにも想像を絶するという顔で笑われた

次の日に会った吉野などは「無理」と泣いてしまった


このささやかな下着談議でさえ知らなかった事実があった事に三笠は

会ってみないと、話して見ないとワカラナイ事の多さを痛感しのだった


余談だがその後、三笠の提案で横須賀に集う帝国海軍の艦魂は「戦う者」の嗜みとして褌の着用が義務付けられる事になる

だが

それ以前に三笠が訪問して回った結果、浪速が着用の実戦をしてみせ機能性が抜群である事を実証したため思ったよりも早くに広まった


だが褌着用の前任者は敷島であった事を知るのは舞鶴に移ってからの事となる






6月

生ぬるい風は雨を伴って休むことなく海の顔を叩き続けていた

この頃

鎮守府の周辺は近づく戦争の気配を良く現し色々な人種が足繁く行き来していた

海軍のえらいさんである階級章をつけた髭達も多く来ていた


海軍はこの時期に明治二十七八年の役前にも行った「断行」を行う為に色々な調査と調整に入っていた

現在、今日の日に何がなくても黒い雲はいかにして近づきつつあることは艦魂達にもよくわかっていた



梅雨の時期を通して艦艇勤務の者達には緊張があり

停泊している時にも訓練と量産しながらも試験を重ねる無線の実験配置などがされ始めていた


毎日、演習があるというわけではないが三日に一度ぐらいの頻度で艦は湾を出て主砲と大砲の発射訓練は行われた


弾は使わない

常に4.5人の砲主達が声を合わせ右に左にと仰角などの訓練を黙々と繰り返し

水雷も疑似型を使ったものを繰り返し行っていた

幾度も繰り返し淡々と行われる訓練


「人」は真剣な眼差しで「次」の戦争という大波に備えている中で


命の器を預かる艦魂達の姿が甲板に見えるのは相変わらず三笠だけの日が多かった

まれに厳島などが参加する時には彼女は波を被る切っ先に構えて立っているのだが、他の者の姿はやはり見る事はなかった


三笠が横須賀についてからは松島達「フランス産艦艇」達は艦隊行動に必要であるスピードに問題があるという観点からのいよいよ常備艦隊第一軍の座を「イギリス産艦艇」達に譲って別行動の訓練に入っていた


その日以降、今まで旗艦であった松島は訓練には一切顔を出すことがなくなったと言うことを三笠は聞いていた


今まででも熱心ではなかった連合艦隊の面子

それでもしつこく戸口を叩き各艦魂の部屋に足を運び、ミーティングまがいな事をする日々の中

もっとも気になった事を聞きたいと覚悟を決めた




「こんばんわ」


3日間の訓練を終えた三笠は横須賀に戻った夕刻に松島の部屋を尋ねていた

これまでは一緒に艦隊訓練をする艦魂達を中心に尋ねて回ったがもっとも気になる事は


かつての旗艦だった松島にあると考えた

士気の維持は基本司令艦の力量に左右されるものと思われるし

自分が今、それを背負う者となった事で、かつて松島司令がどのように艦隊を導きあの戦いに向き合ったのかを知る必要があると考えたからだ


厳しく自分の姿を見せ続ける三笠本人、訓練の疲れは十分に溜まっていた

例のたらい風呂で気付けの酒を煽った瞬間に危うく湯船に沈みそうになったりもしたが、三笠には何よりも時間がなかった


後少し、六月が終わればはココを後にして舞鶴に向かう事になる

手つかずで問題を残したままココを去りたくない

その覚悟が松島の元、部屋の扉をノックしていた


「どうぞ」


最初に通された部屋は他の艦魂達も集まれるように用意されたガンルームだった

三笠が初めて横須賀に着いたとき、歓迎会をした部屋を通り過ぎ松島個人が持つ部屋はもっと奥の小さな部屋だった

舷窓の縁取りにドライフラワーの飾り

白のクロスを張った小さなテーブルと木製のベッド


「どおしたのかしら、こんな時間に」


訓練を終えてリラックスした姿

襟に蝶の刺繍が入ったラウンジドレス姿の松島は目の前、夏服の白の制服と右手に酒瓶を持った三笠の姿に眉をしかめると

最近噂になっていた「三笠の艦艇巡り」を思い出した


「みんなのところを回っているって聞いてはいたけど、本当だったのね」


艶っぽい声

他の艦魂に比べると格段に大人の女を意識させる首筋に巻いた銀の髪

白い指先が容易した椅子に座ることを促す


入り口に置いたストールを持ちあげ

そのまま三笠を手招きした

部屋には微かな花の香り


「香水ですか?」


今まで回ってきた艦魂達のま部屋に比べると、どこか非現実的な部屋

戦いを主にする魂が住まうには可憐で

豪華客船の個室に入ったような雰囲気、ロウソクの小さな火を灯したテーブルを挟み二人は座った


「NO.number」


ゆっくりとした時間の流れに合わせたように松島は香水の名前を答えた

「ベルタンが帝国を離れる時にくれたの、フランスで新しい香水を作っている女の人がいるらしくって。試作品なんだけど」


エミール.ベルタン。松島達フランス艦艇の設計者にして魂の器を作った父

椅子に座った三笠は、松島の静かな対応に合わせるように答えた


「彼は、松島司令が見えたんですか?」

「さあ、でもガンルームにコレを置いていってくれたわ」


どこか気怠そうな松島

巻いた銀の髪を無造作に下ろした姿と小さな灯火に揺れる瞳


「ところで私は何が聞きたいの?例の褌の事も含めてだけど、今は貴女が旗艦なんだから私に断ることなく決めていってくれていいのよ」

「もちろんキマリを新しく作っては色々と相談の上で発布させて頂いてます」


この日もかっちりと制服を着込んだ三笠の姿を見る目はどこか悲哀の色が隠れていた

ラウンジドレスの中で足を組んだ松島


「松島司令の協力を仰ぎたいと思ってやってまいりました。近づく戦争に対して帝国海軍の士気は下がる一方です。司令も演習の時には艦内に残らず艦の前に立っていて欲しいのです」


三笠は松島の態度に少しの不安があった

だから、遠回しな問いはせず単刀直入一直線に全体を覆っている不穏な空気を払拭したという希望を告げた


「司令はやめてもうずいぶん前から旗艦でもないのよ、貴女のお姉さん達が来て以来、そんな重い肩書きは持ってないわ。それにね、そういう事は貴女がみんなの前でハッキリと指示すれば良いことじゃないの?」


ろうそくの光から顔を隠す松島

それを逃すまいと返事する三笠


「努力しております。でも、かつて旗艦としてやってこられた松島司令には戦いに赴く心構えというものがお有りのハズ、それを示し共に力を貸して頂きたいと思っているのです」


相手を立てながら

三笠は松島の様子をうかがうように問うた

旗艦の任というものは内示によって知らされてはいたが、松島が司令艦で無くなるという事ではない

艦隊を

第一

第二

第三と分けそれらを束ねる連合艦隊旗艦として三笠は立つが

これらの旗下に置いて

第三の旗艦は松島であり同列の司令の任にある事は事実なのだからこそ力を振るって欲しいと願っていたし

なによりも前の戦いの経験者である彼女の意見を尊重する形を取りたかった


「天気の悪い日が続いたでしょ、だから艦の前に立たないだけよ…きっと」


三笠の真剣な目を見ないように俯いたままの松島は声を泳がせた苦しい言い訳を返した

不十分な答え

艦隊に掛かった不安の靄

意を決して聞く


「松島司令。何故みんな「人」と共に、この国を守る事に懸命にならないのです?戦争は近づいているんですよ?何に戸惑っているのですか?」





「三笠は、戦争になると思う?」


足を組みテーブルの上に目を落とした松島は小さな声で聞いた

風に揺れる灯火の下


それは聞くまでもない事でもあった

三笠は、横須賀で動く将兵達の気配は日を追う事に険しくなっている事を感じていた

知りたがりのいつもの癖で長官公室や艦長公室に置かれる新聞や軍務規定、伝達書をしっかりと見ていた


不穏な影は世界の情勢を値踏みしながらユラユラとしかし活発に動きを見せ

南下の入り口を探し満州の占領を続けるロシア

清国の衰退激しい現状を憂う文壇や知識人達の諸説

近隣国の動きに耳を尖らせている日本の動向を今は後ろから眺るしかない大英帝国

少しの隙を狙うかのようにじっくりと構えているアメリカ


確実に流れは悪い潮流の本流に混ぜ合わさっていこうとしている世界



「戦争は来ます。避けられません、きっと」


三笠は知るすべてにおいて危機が迫っているという現状から、戦いは来ると告げた

松島は答えなかった

俯いたまま、うつろになった目が何かを探すように沈黙する

しばしの時間の中で揺れる灯に顔を上げた彼女は聞いた


「貴女は、戦うの?」


不意の返事に三笠は素直に答えた


「そのためにこの国に来ました」


強い決意を宿した水色の瞳に同じ青い瞳の女は笑った

「何も知らないから、そんな強気な事を言ってられるのね」

揺れる灯火の前、松島の優しい目が少しだけ尖った

対する三笠の目にも怒りが宿る

確かに前の海戦は知らないが、海戦があった事は織り込み済みでこの国に来た


守り戦う事が使命と信じて来た三笠の前

その息を挫くような言葉を松島は吐露した


「私は、撃ちたくないし撃たれたくもないわ」

「なんて事を言うんですか!!貴女は連合艦隊の旗艦を勤めた方なんですよ!撃たなければ国を守る事はできません!!」


喉につまった怒りを押しとどめた声、松島は荒れることなく

「なんで戦わなきゃイケナイの?私達が?」

「国のために」

三笠の即答を松島は手で遮った


「私は戦いたくないの」


細い指先が香の入った壺のへりを舐めるように触る

「死にたくないもの」と口元の笑いとは間逆の悲しい目のまま三笠を見つめた

「なんで、私達ばかりが戦わなきゃならないの?」


松島の瞳の淵には煌めく涙が溢れていた


「相手も船の魂なのよ「人」の戦争に巻き込まれてるのよ私達は」


そこまで言うと立ち上がった

「ごめんなさい。三笠、今日はもう帰って、私疲れてるの」

固まってしまった三笠の肩を叩いて立ち上がらせると

後ろのドアを開いた


「帰って…」






梅雨の靄を纏った月の下三笠は自艦の甲板の上で独り酒を煽っていた

温い風と凪いだ波

静かすぎる軍港の景色の中

酔えない酒を何度も煽った。松島の悲しみと怒りが何かが見えない、曇り星を隠す空のように


「相手も同じ魂」「人の戦争」


三笠は自分が前の戦争についてココの艦魂から話しを聞いたことがない事に気がついた

というか

誰も彼もが前の「戦争」について口を閉ざしている事に気がついた

この静かな景色に寄り添うような

閉ざされた戦争の中身に帝国海軍を覆う闇の正体があると理解した


「聞くしかない」


少ない時間でたくさんの事を学ばなければ握る拳に焦りがあった

戦争は近い、絶対に避けて通る事はできない

だからこそ、本や新聞で学ぶような戦いではなく、あの戦いを経験した者達の心を知る必要を



「三笠ぁ、何してんの?」


決意も固く誓った三笠の前に表れたのは小さな厳島だった

片手に小鉢と

その後ろにもう1人

厳島の後ろに立っていた艦魂は三笠に敬礼ではなくペコリと頭を下げた


白銀の髪は短く刈り込まれ一瞬見ただけでは「男」なのかと見間違うほど

顔は明らかに海から渡ってきた艦魂で日本人的ではないが、イギリス人という感じでもなければフランス人という感じもしない


鼻筋のキレイに通った顔に輝く薄い緑の目、薄い唇


目線が自分より後ろに立つ艦魂にある事に気がついた厳島は、口を尖らせて


「紹介したげるわ、テイよ」


厳島は自分の部下的な扱いをしながら彼女を横に並ばせた

小さな厳島がより小さく見える、180はあろう長身の艦魂「テイ」


この夜、三笠は初めて前の海戦の中身を知る事になった

カセイウラバナダイアル〜〜NO.number〜〜


前に

本伝で『ひえい』さんが使っている香水を「Yves Saint Laurent」と書きましたが

今度はどこかは伏せましたが有名な香水です

でもベルタンが持っててフランスの香水numberの表示があるときたらアレしかありませんですね



実はまだ史実ではこの香水はできてないのですが

おそらく開発の実験はしていただろうという予想を元に書きました


次回は少しばかり戦闘シーンが出てきます

イヤだなぁ

お酒ばっかのんでるせいか

最近胸が痛いヒボシですが、ふ〜〜

戦闘シーンやだなぁ


それにしても若き日の(永遠の17歳ですよ)三笠様、責任感が溢れているのはいいのですが

ちょっと行き過ぎ始めてますね

まぁ

そういう失敗があって人は大きくなるってものですからココは多めに



褌ですよ……フフwww



それではまたウラバナダイヤルでお会いしましょ〜〜〜

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