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第二十二話 駄馬の船

水宮は今年最後の話しになるかな〜〜〜

今年一年ありがとうございました!!感謝です!!

東郷平八郎は慣れた佐世保鎮守府を誰の迎えも必要なしと手をふり歩く

午後を周り崩れ始めた青空の下、吹きさらしで待ち続けていた鎮守府役職達を木石でもかわすかのように早足で


舞鶴鎮守府司令の到着に艦外で待ち呆けていた彼らに、形的な挨拶を軽く交わすと庁舎に向い話をする事なくどちらかと言えば駆け足をしているぐらいの早さで歩いて行く東郷は年の割に機敏である

前年に病気をし名誉職である舞鶴鎮守府の司令になったとは思えない足取りを士官達は追う


その後ろを歩みも慣れたものと元軍港部長の瓜生が続き

さらに後ろを各艦の艦長達も走るようについて行く、一人だけわざと遅れを取るようにあれこれと物見をしながら歩く島村は、休暇を楽しむ態度が肩に現れるほど歩き方もフワフワとして見える


昼を回った時間から急に重くのしかかるように空を塗り替え始めた灰色の雲

この季節佐世保鎮守府のある長崎、福岡、山口の空模様はさいころを転がすように幾重の目を見せて移り変わる

秋から冬に向かう不安定な季節の重い灰色の下に


足早に移動して行く東郷達の最後尾見送りに追いつくように慌てて下艦したのは広瀬と阿賀野だった。資料用に用意しながらも開くことの無かったノートの束を抱えたままの下艦

鎮守府の顔役達と上級士官達、既に背中も小さく見える程度の東郷に敬礼をし終えてやっと力の張っていた肩を楽に下ろした


「緊張しました…」


目の前、豆粒の形になって官舎に見える艦長達

波が砂浜にて文字をかき消すがように、水兵達の教練で走る姿の波に消えた後

直立不動の敬礼をしていた阿賀野は情けない声を出したものだと顰めた顔のまま広瀬を見たがそこには


「まいった」と同じようにハの字に眉を下げた顔があった

口上にピンと張った髭、太い眉山の彼は顎を突き出すように歯を噛み合わせて本当に参ったという目で阿賀野と顔をつきあわせた


「まさか、艦長の耳に入るとはおもわなんだのですよ」


広瀬は目を合わせたばかりの阿賀野に突然言い訳を始めた

肩をすくめ、水兵達がカッターの収納をしている桟橋を遠巻きに歩くよう

のろけの顛末を語りだした


「いやぁ、ついね、とても品の良いお嬢様が私ごときに手紙をくれたと思えば、舞い上がってしまうというもので」


男盛りの顔が小声で周りを見渡しながら照れて見せる

厳めしい目つきを持ち、ロシアに駐在し海軍に必要な情報を頭脳に写し取ってきた優秀な士官でもある広瀬だったが、溶けるように愛嬌良く丸めた目は少年のようにも見える


「良いではないですか、男にとって国は違えども熱をあげて下さる女性がいるのは国際人的魅力ともいうものでありましょう」


自分以上に緊張の時間だったという顔をさらした広瀬に阿賀野は姿勢を正し敬礼し遅まきの挨拶を交わした


「初めまして広瀬少佐!お噂はかねがね聞いておりましたがお会いできて光栄です」

同じ話題でつるし上げを食らったとはいえ相手は佐官である少佐

阿賀野の規律正しい敬礼に広瀬も自分が間抜けに成りすぎていた事に気がつき礼を返した


「朝日艦水雷長広瀬武夫です。今日はどうも…」

「三笠艦にて通信機の運用試験をしております阿賀野大尉であります」


無骨な武人広瀬と対峙する優男な雰囲気の阿賀野

凸凹な組み合わせの二人は挨拶の敬礼で改めて面と向かった顔を見合わせ吹き出した

先ほどまで顔を真っ赤に、噴火寸前の山のように湯気まで出しそうだった二人が改まって挨拶をするのはくすぐったい感じで、二人ともそれを実感していた


「先ほどは自分も参りました」


海軍大尉という職にありながらもあまり日に焼けていない顔

どこか尋常小学校の先生のような雰囲気の阿賀野に、良く焼けた色黒の広瀬も白い歯を見せて笑ったが、すぐに顎に手を置いて


「はて?噂とは誰ぞに紹介していただいておりましたか?」


初めて会うはずの阿賀野が「噂はかねがね」とまで言われるのを不思議と

首を傾げてみせた


「失礼しました。私の上官である秋山中佐からお話を聞かせて頂いておりました」


海軍大学で教鞭をとる変わり者の名前に広瀬の顔は体に劣らぬ大きなリアクションを返した

坊主頭より少し伸ばした髪故によく見えるもの

額に皺をたくさん寄せ挙げるほどに目を大きく開き、口を尖らせると


「秋山?秋山!!」


今まで小さな声では話しをしていた事を忘れたかのように叫んだ

「秋山と言うと、あの秋山真之かな?」

広瀬の驚き方に一歩引いてしまった阿賀野だったが、そうであると告げて

「広瀬少佐の事は海軍兵学校の棒倒しの話しを始め、色々と伺っております」

「棒倒し?」


よもや自分の海軍生活黎明期までを知らされている者を知り広瀬は大笑いしてしまった

「あの阿呆、何故にそんなん事を」

笑いながらそれでも同時期に留学生としてアメリカに旅立った男の事を思い出し

思い出をたたき出すように頭を何度か叩くと


「そうですか、秋山中佐の部下でしたか」


あくまで紳士な口調で笑い続けた

「なつかしい私はロシアに秋山中佐はアメリカに、2年前まだロシアにいた頃にフランスに出向いて、後イギリスで二度ほど会ったあれ以来だな」


二人は桟橋を離れ少しの会話と共に歩き始めた

休暇となったこの日の最初に度肝を抜く冷やかしにあった二人だったが、お互いを知る人物がいた事により話しをするのは難しくなくなっていた

阿賀野は広瀬の話に耳を傾けながら佐世保の海風の中を歩いた




広瀬武夫は

軍令部第三局、海外の国際情勢、軍事情勢を分析諜報するという部局からロシアに向けて留学をした

約二ヶ月の航海でサンクトペテルブルグに着き、ロシア公使館付武官である八代少佐の元に下宿を始めた

元々八代少佐が海軍兵学校の教官であり、広瀬も一度は指導を受けている事もあり下宿自体には何の問題もなかったとのことだったが


「向こうの食べ物には馴染めなくて、ベルリンにいた友達に頼み込んで味噌や醤油を送ってもらいましてね」


日本の味に望郷を覚えたと笑った

大きな図体

広瀬武夫は海軍兵学校時代から170センチの巨漢を生かした武道の達人でもあった

だが、そうした武による強さを強調する事のない節度ある人柄は丁寧な話し方によく現れていた

顎も角張った男らしい無骨な作りの顔の彼だが生活の細かな事を良く覚えているのか、いつの間にかロシア時代の話しを懐かしむように阿賀野に聞かせていた


「一年近くロシア語の基礎を八代少佐の所で学びましたが、なかなかうまくなりませんで、そのうちスキーやらスケートが楽しくなりまして。いやねもともと体を動かさずに何かを学ぶというのが出来ない性分なので」

「わかります。読み書きばかりでは息がつまりますから」


阿賀野も体つきは鍛えられた広瀬に劣るが背丈は同じぐらい

背の高い二人は佐世保湾を見渡せる突堤まで歩いてきていた


駐在員になるまでの一年と半年近くを留学生という扱いでロシアに来ていた広瀬は海軍士官らしく、ロシア海軍巡洋艦ペレスヴェートの進水式を見学した事や、町場の工場を視察したときにウオッカに踊った作業員から斧を叩きつけられ怪我をした足を見せたりした


「朝日艦に乗るのも何か運命を感じるのですよ」


見晴らしのよい突堤について足を止めると

鎮守府の正面、桟橋にかけられた三笠艦のとなり朝日艦を指差して


「サウザンプトンで朝日艦の軍艦旗奉揚式に出席しましてね。キールで八雲も見ましたが、エライ立派な船を造ったなあと思い感心したもので。心に残ってましたから朝日艦に乗れた奇縁を感じますよ」


黒塗りの軍艦、清との戦いの時には手に入れられなかった戦艦

朝日を見る広瀬の目の中に、阿賀野は彼の思い出を馳せる

覚悟の海戦だった黄海の戦い。日本は初めて世界に向かって近代の戦いを挑んだ

何もかもが足らず、不足を路程しながらも辛くも迫る列強の圧力をはね除け勝利を得た


学ぶことは多かった

戦いが終わった後、足りなかった事について学ぶ事を国を持ってして進む日本

そのために広瀬や秋山のように海外の国に渡っていった者達

その思い出の景色を耳に聞くだけでも羨ましいもの


士官でありながらも近場の海にしか出たことのない阿賀野は自分の心を吐露した


「自分は戦争が終わった後の朝鮮に少し、そのぐらいしかありません…」

申し訳なささげに頭を下げる技術士官である阿賀野の姿に広瀬は素早く返した


「技官殿は国内の研究があっての事でしょう」

「いいえ、まあ」


広瀬の気遣いに苦笑いの返答

阿賀野は技術系の仕事も多かったが、伊勢神宮傍系の出にして靖国に建立に徒事した家の者

そのため大日本帝国軍関係で行われる神事などの多くを仕事として受け持っていた

靖国自体は戦争により死した御霊を祭る場所として置かれていて軍管理の特殊な杜であり多くの官吏がいる事で運営はなりたっているが

傍系の出である阿賀野家は兄弟揃っての海軍勤めという事も相まって杜の仕事とは別に軍部で行われる施設の建設に行われる祭事にあったていた


文明開化とに古い時代の神事など忘れられがちに思われているが、実際は多くの事業に対し重大な役目を担っていた

それらの仕事は国内の軍需産業の多くと密接に関係があるため、神官の資格者でありながら軍人でもある阿賀野は新たに造営される庁舎があれば祝詞を届け神事に徒事するという責務があった

その代わりに日本の外に出る時間など無きに等しかったのだ


だがそれを広瀬に言う事ではなかったため、技官としての海外駐在組に負けぬような邁進を国内でしていたと告げるだけにとどめた


のんびりとした話しを続けながら広瀬は、増築された佐世保鎮守府に来るのは久しぶりであるという阿賀野に簡単な案内までしてくれ小一時間程度の会話を終えた


厳つい顔つきからは想像出来ないほどの温和で物腰の柔らかい広瀬少佐に、阿賀野は海軍士官はスマートであれという実態を良く知った気持ちになった




庁舎に走って行く広瀬の背中を見送った阿賀野は一人冷えた風を受けながら周りを見渡していた

所狭しと忙しく駆け回っている水兵達に教練の声を挙げる士官達

さらに今日揃って上陸をした戦艦常務の水兵や士官達の姿


活気に満ちた帝国の軍港佐世保は賑やかな声がそこかしこと響いているが、阿賀野に必要なのは静かな時間だった


手に持ったまま降りた資料のノート

この中に今日艦長達が目を通さなかった演習での試験結果が書き留められているが、あの場で公開しなかった事は幸運だっと考えていた

試験結果に苛立ちながら走り書きしたような報告書ではなく、客観的で理論的な結果報告が必要であるという思いに至ったからだ


うまくいかない現状を憂いる事を話しても埒のあかぬもの

それよりもその失敗がどんな状況下で起こっているかを纏め、前進の足がかりとする事が大切だと理解した

舞鶴鎮守府の名誉職的司令である東郷さえも近づく戦争の気配に「努力」をという今

その思いは十分に心の中に残った


「まだまだ修行が足らないな」


眉を下げた涼しい目が、曇り空とはいえ波の返す破片の光を手で遮りながら見渡し

一つの建物、というか小屋のようなものを見つけ歩を進めた


練兵の待合いのように立てられている小さな小屋は今日は使われていない

外の音も程度遮断できる場所は都合良く鍵も掛かっていなかった

鎮守府内で部屋を借りれば早い話なのだが、そうすると敷島艦の艦長富岡のように試作段階の通信機の活用に過大な期待を寄せている者達外野の意見が耳に入る事になり、懇談会に成りかねず取りまとめが難しい


だから集められた資料と睨み合うのは一人のほうが良い


そして一人になると色々な事をゆっくりと思い出す事が出来る

なにせ、驚くような演習だった

次から次へと矢継ぎ早な艦隊運動に連動するように通信機をつかうという訓練

艦艇同士の距離などは艦橋の側でも計っているのだが、それを通信機を使って逐一確認させたりで目の回る作業が続いた


つながらない時が長引けば周りの兵員達の顔色も悪くなるし、阿賀野と同じように通信機の業務についた尉官達も泡立つ

押し上げられる波の高さに試験実行の現場責任者である自分さえもが溺れそうになっていた事に口を歪めた笑みを浮かべた


木製の戸は何度か海からの荒れた雨風に飛ばされた事があるのか立て付けが悪く、力を入れたら壊してしまいそうな音の中で部屋に入ると

普段は海図などが置かれるであろうテーブルに手早く今回の演習で各艦からの通信機業務につく尉官達から纏められた報告書を広げた

一枚の板ではなく、軒の木を継ぎ合わせて作られた不陸の激しいテーブルの上

それぞれの艦艇の順に報告書を並べるとわかることが一つあった


まとめられる文章の量


やはり無線機を扱う側の教練にも一定の基準を早々に作る必要を感じられる事

有耶無耶にまばらに書き込まれた報告や、わからない事は徹底的に書き込んである者もいれば、通信可能の時間だけをひたすら書き込んでいる者もいる


「操作と同じく、失敗にしろ何にしろ一定の基準値表が必要だな」


胸に挿していた万年筆で気になる点を自分の手帳に書き留めていく

こまかな仕事はやはり現場から事態を収拾して、そこから本部での調整をしてゆく

だが一番疲れるのはこういう未開の機械の調整や統一の指示を何処を基準にするかを見つけ出すかという事


それが阿賀野に課された一番の仕事でもあった


昼下がり空模様はより灰色を強めていた

ガラスまでに当たる光が少なくなっているのを見ながら、各艦の報告書を用例別に仕分けしたところで阿賀野は手を休め、背伸びをすると手持ちをしていたノートの間に挟んであった白い封筒を出した


几帳面な性格を現す白の封筒は、後ろの糊代の部分までをきっちりと合わせたようにたたまれている

裏書きの端に小さく花の絵が描かれた封書

送ってくれた相手の事を考え、阿賀野は端をキレイに切り取って書面を取り出した

忙しさに今まで読めなかった手紙を開く




「拝啓お元気ですか、私は元気です。変わることなく勤めております。横須賀も秋の色を深め遠いお山に紅差す木立が少しずつ見えるようになってまいりました。今年は私も衣替えをする事になりまして、年末までの間しばらくは静かな生活を送れそうです。そちらはどうですか、舞鶴は緑の多い港だと聞いております。私はまだ一度もいった事がありませんから、ご一緒できる時がありましたら色々教えてくださいませ。心配していた妹の体の具合も治りまして、普通の生活に戻れるよう少しずつ練習をしております。佐世保にも行くような話しを聞きました。佐世保は秋はまだ良いのですが、冬から春先にかけて風が強く波の高い日が多いところですから十分にご注意の上でお仕事に励んでください。横須賀にはいつお戻りになりましょうか、私がそちらに行ければよいのですが、早く貴方様にお会いしたいです。お話をしたいです。忙しいと思いつつも手紙を書く私を許してください。早いお帰りをお待ちしております。敬白」


三つ折りにたたまれた手紙の中、万年筆で書かれた流麗な字

まるで英語の筆記体を書くかのように流れる筆筋に、阿賀野は背筋を正した

おそらく手紙をくれたあの人もキチンと背筋を正してこの文を書いてくれたのだろうと思えばそうせずにはいられない


「相変わらず、キレイな字だ」


読み返した手紙を封筒に戻すと頬に手を突きテーブルの上に置いてあった万年室を指で転がしてみる


「アイツは元気かな、夏はどうしてるかな?」


今までは海軍省勤め東京を滅多に離れる事のなかった自分が、かれこれ一ヶ月以上家を空けている

海の上で多忙を極めた勤務の中にいる内は何も考えられなかったが、丘に上がり足もとが浮いている波の感覚を失った途端に、妻と子供を思い出してしまう


隙間風が締め切れなかった戸から冷たい海風と潮の香りの中に混ざる軍艦の香り

横須賀を出る前日の夜にも同じ匂いのかぎ、その日に




「ココでしたか!」


物思いに耽り呆けていた阿賀野の前

煤けた戸口を壊してしまうのではというぐらいに力強く開いたのは広瀬だった


突然のことに目の前に置いた手紙を覆い隠すように、せっかく仕分けた報告書の山を崩す阿賀野を前に、息を切らせた広瀬がその隠そうとした封筒と同じ物を差し出した


「落ちてました。名前で阿賀野大尉の物とわかって、探しましたよ」


相変わらずの丁寧な言葉

上官であるのに威張るという事を知らないのか広瀬は汗をかいた顔を緩ませながら

慌てたまま山を抑えている阿賀野の前で戸口を閉め切ると


「奥様の名前、松さんっておっしゃるんですね」と机に封筒を置いた


真っ新にワンポイントの花が描かれた封書

表には阿賀野本人へとの宛先が書かれ、裏には阿賀野松と書かれている

言葉をなくしていた阿賀野だったが、閉められた戸で風の心配はなくなったと背を正すと慌てて立ち上がりお辞儀した


「あっありがとうございます!私のものです、落としてたなんて」

「良かった。誰ぞ他の者に持ち去られては事と思い拾いまして、先ほどまで話しをしてたのでこのアタリではと探しました」


額の汗を拭う広瀬の前、阿賀野は開いていたノートに三通届けられていた風濤の一つが確かに無くなり、二通だけが手元にあった事を確認すると

おそらく走り回って自分を探し、汗にまみれた黒の軍装の襟を開いている広瀬に


「広瀬少佐、本当にありがとうございます。まったく気がついておりませんでした」


深いお辞儀をもう一度した

「いやあ、そんな事は良いですよ。しかしとてもキレイな字なので驚きました。奥様は女学校を出ておられますか?先生が書くお手本のような字ですね」


何度も礼に頭を下げる阿賀野に気を使われ過ぎるのも苦手と

封筒に注意を向けて広瀬は万年室で書かれた字の美しさに感心しきりの声を挙げながらクルリと背を向けた

「では私はこれで、報告書を纏めておられるようなので邪魔になってもいけませんから」


まるで女房の手紙を読むのにお邪魔でしょうと言わんばかりだが、心遣いも海外で鍛えられた広瀬らしい態度で戸を開けようとした


「待ってください!少佐!」


足早く去っていこうとする広瀬に阿賀野は縋るように近づくと

真っ赤にした顔を俯かせたまま


「あの、その、手紙の事はどうか内密にお願いできないものでしょうか…」

巧く言葉がでない程ではないが多度多度しい話し方で


「手紙を拾って頂いた上で厚かましいお願いとわかっておりますが、私も海軍省から責任有る職務を頂いてここに来ている身であります故、女房恋しいなどと揶揄されては部下の手前立つ瀬がありません。ですから、どうかこの事はココまでの話しにして頂きたいのであります」


同じぐらいの身の丈

その阿賀野が腰を折るように頭を下げて頼む姿に、戸にかけていた手を下ろした広瀬は

彼の顔の位置に自分の顔を下ろして


「じゃあ、その私のその、のろけ話の件。あれもココまでの話しにしてもらえませんかな」


イタズラっぽく笑った顔が、困っている阿賀野に

「私も朝日艦にて水雷を預かる身の上ですから、浮いた話しを広められては困りますので、お願いできますか」

そういうと軽く目配せした


「それは、お約束します」


お互いが恋女房などとつるし上げを食らった身の上、軍勤務で浮いた話しが有るのは一種の名誉にも成ることもあるが、互いの仕事の邪魔になっては元も子もない

二人とも暗黙の約束のように目を合わせると声を出して笑ってしまった


「特に秋山の耳には入れぬようお願いしますよ」


そういうと戸を開けて秋風の中を颯爽と走っていった

残された阿賀野は自分で崩した仕分けたの山を見ながらイスに腰掛けると

長い溜息をはいてただ手紙の封筒を見つめ続けていた






「あれ?ピカピカの妹君?」


秋晴れとは縁遠い薄い雲を幾重にも重ね合わせた灰色の空の下

先頭を走る敷島の後ろ、猛烈な勢いで追い上げをするように迫る三笠を指差して待機していた巡洋艦達は苦笑いの顔を見合わせていた


数日の休暇の後、少しの間を縫って艦隊訓練は継続して行われていた

今日からはさらに主力となる艦艇、おそらくこれらを介して第一艦隊となる巡洋艦達も初顔合わせで何人かが佐世保沖の演習海域に現れていた

波に揺れる艦艇達の中真ん前に構えている黒色の艦体、三本の煙突を立てた装甲巡洋艦の上、自艦の甲板に集まった仲間達の前で三笠を指差した艦魂に

冷めた目線で同じように三笠を見ていた女が答えた


「らしいよ、噂以上の猪ぶりだわ。姉さん」


軽口を飛ばした彼女は肩で切りそろえた黒髪を揺らして後ろに並ぶ艦魂達に両手を挙げて見せた

お手上げのポーズに並んだ彼女達も口を押さえ声を殺して笑う

笑わざるえない滑稽な眺めに

目の前、敷島との艦隊運動で既に常軌を逸した速度で猛然と走っている三笠の姿は「泳ぐ猪」と、帝国海軍の中に噂される程の存在となっていた


反対側は艦隊取りのラインも美しい白鳥の隊列がごとくの八島、富士、朝日の姿を見ればその差は目を覆う前に吹き出してしまう程の間抜けな姿で、流れた噂を確信するのに十分だった


一応将官である艦魂達が訓練に徒事している手前、巡洋艦にて待機している魂達は吹きさらしの甲板に立って見ている彼女達だが、新たな司令旗艦となる三笠の評価は氷点下の様子


そんな中、仲間の後ろ一人隠れるように座ってタバコを吹かしている魂がいた


「姉さん、タバコは止めて見つかったら事だから」真ん前に立つ妹は注意を促すが

姉と呼ばれた魂は動じもしない様子で笑った


「あたし達なんざ目に入ってねーよ、猪様は脇目を振る余裕もないだろう」


口から煙りを吹く魂、少し垂れ目の青い瞳に黒の髪。妹の真っ直ぐな髪に比べると幾分緩いカールの掛かったブルネットは敷島や八島を習ったように黒の軍装の下はスラックスを着用していた

彼女はタバコを挟んだ指のまま、目の前を横切って行く三笠を笑うと


「あれが司令艦になるのか?」


「あり得ない」


姉の言葉に妹は冷たい断言を即答した

その声に呼応するように並ぶ艦魂達も口々に同意を示した

「バカには従えないわ」

「富士様が愛想を尽かすのも当然ね」


冷めた目線の彼女達を取りまとめるように前に立つ彼女は首を傾げて見せると


「これで決まりね、「人」の決める司令官とは別。私達の司令艦は八島様、富士様で変わることのない決定事項になったわ」


海風に揺れる髪を帽子抑えた妹に従う他の魂達

素早い決断と態度を示そうとする背中に座り込んだ艦魂は声をかけた


「慌てんなよ磐手、まだ外面そとづらを見ただけだ。中身も見てねえうちから決めると負けるぜ」

指先でタバコの火を揉みつぶし立ち上がる姉に磐手は振り向くことなく尖った声を返した


「見た結果がこれよ。何か良いところでも見えるの?」

「見えねぇ、だがあたしらはただの博徒ゴロツキじゃねぇ、中身を見てから斬った貼ったをするべきだと言う事さ」


踊る黒髪はにやけた唇を舌で濡らしながら

艦隊運動を乱す域に達した事で怒号を発する敷島の前、顔を真っ赤にして富士,八島を睨んだまま海を走る三笠見た。誰よりも抜きに出ようとする力強さが空回りの頂点を極めている艦に


「あれが駿馬なのか?ただの駄馬の船なのかはまだわからねぇ」


そう言いながら青い瞳は妹の暴走気味な姿に胸を押さえて心配する朝日の姿を見た

「愛しの朝日が期待してる妹だ、何か良いもんもってんのかも知れねぇしなぁ」

「そんなわけないでしょ、色呆けで判断するのは止めてよね。出雲」


きっぱりと愛想のない声が出雲の意見を断ち切る

「千歳ぇ、冷たいこと言うなよ。浪速によろしくって言われてたんじゃねーのか?」出雲に顔を眺められるのを嫌うように背を向ける千歳

小柄な体と小さな顔には少し大きすぎるように感じる丸い目を反らして


「私は笠置と違うわ、どちらのなれ合いにも着かない。私は実力のある者に従うだけよ」

「そうかい」


酔っぱらったような口調で自分のとなりやってきた出雲に磐手は怪訝な表情を見せて


「姉さん、朝日大佐の事が好きだから妹君を受け入れるなんて止めてよね」

「あたしをバカにするなよ」


外していた襟を正し、首を鳴らす出雲は理路整然と話しをする妹の額を親指で跳ね上げた


「バカは大嫌いなんだよ。それが朝日の妹であっても変わりはねぇ、ただな初見で物事を見極めれるなんて思い上がったバカでもねぇんだよ。あたしは」


姉の苛立ちと、事態を楽しむ笑みを見せつけられ言葉をなくす磐手

それらを後ろで見つめる千歳達と一人離れている常盤


出雲は海を走る三笠に人差し指を拳銃を持つ形に見せて言った


「見極めてやるぜ。妹君三笠殿よ」

そういって「パン」と手で打ち落とす真似をすると歪んだ笑みを見せた


カセイウラバナダイアル〜〜明日書くよwww〜〜


なんか疲れちゃってこれ以上の書き込みは出来なそうなヒボシです

まだ仕事が終わらないよぉぉ

不況だと言われながらも仕事が続くこの会社に感謝はしているけど…かれこれ18日連続出勤でそろそろ限界です


そして本伝のほうもそろそろ書かないと寂しくなっちゃうので頑張らねば〜〜〜


というわけで

時間ができたら明日ぐらいまでに後書きを再掲しますぅぅぅでわでわ

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