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第二十話 結束の形

後書きに人物評書きました〜〜〜フワフワ

初瀬は海から自分の身を洗うように吹く風に髪を揺らしていた

四人の姉妹の仲では一番身の丈小さく、イギリス出身にしては体の線も細い。一見しただけでは男の子のような容姿

髪の手入れもいまいち良くしていないのか、跳ねっ返りの毛が少し見える金髪と茶色を混ぜ合わせたような黄昏時の黄金色、肩口で揃えた髪を海風が揺らす


自艦の後部甲板から足を放り出した形で、鎮守府真正面の桟橋に付けられている三笠を見ながら溜息をつく


昼間は大騒ぎだった桟橋には今はだれもおらず波も小刻みな琴の音を響かせて、絵はがきになりそうな程に美しい景色を見せている

静かな水面と深い紫の夜、青い目に映る白亜の月、酒の肴として上等すぎる景色の前で初瀬は


「いたい〜〜〜」

富士に張り倒された頬をさすりながら泣いていた


左頬は虫歯でも煩ったかのように赤く、つきたて餅のようにぷっくりとふくらんでいる

昼間、目の前を風切るスピードで振り下ろされた富士の平手は初瀬の左頬を被弾させ、右耳の後を抜け頭部を刺し通す鋭さで突き抜けた

平手とはいえ手のひらに込められたコルダイトが力のこもったインパクトと共に爆発。初瀬の体はクルリと半周し、八島の鉄拳によりダウンした敷島という驚愕の事態の前で怯え荒海に漂う海草の群れと化した艦魂達に向かってコンニチワしていた


「本気で怒ってたねぇ…あれ」


誇りとする事に対する無礼を許さぬという暴の魂

目の焦点を揺らした富士の姿を思い出し、今ひとたびの身震いと頬をさする初瀬には彼女の乱心の起源を知っていた


「ヴィクトリア女王陛下、か」


舞鶴鎮守府、月光の水面に映る艦艇達の影

昼間の輝きの下で順序正しく並んでいたのならば「人」の目から見てもちょっとした観艦式にも見えたかもしれない

今日の昼間、桟橋に並んだ魂達、それは魂達だけでの観艦式を現した形だった

それが意味するもの、それが富士の希望である事から考えるに


頬を風に晒して冷却する思考の中で、初瀬は偉大な女王陛下の観艦式に参ずる事が出来たことを誇りにした富士の夢が目に浮かんでいた


ヴィクトリア女王陛下即位60年を記念した観艦式に出たことを高く己の生きる誇りにしている富士

それは彼女が海に誕生した時の出くわした、誕生の賛歌がごとくのステキな出来事だった

自分の産まれた海を祝福する鐘の音が、女王陛下の威光と重なり

ロンドン、テームズにて建艦された彼女は女王陛下の御前に立つため竣工に先立って軍艦旗を掲げ多くの艦艇のいる華々しい世界に手を挙げた

誕生間もなかった彼女だったが定位置までの航行を素晴らしい手際ですませ満場の拍手で迎え入れられた日


手を振るヴィクトリア女王の姿に心の波は高くなったに違いなく


一大海洋国家大英帝国。ヴィクトリア女王陛下の元、第二次産業革命を得、世界を統べる「太陽の沈まぬ大帝国」の名を欲しいままにした至高の海にて自分の誕生を祝うように観艦式で身を浮かべることのできた彼女の歓喜は想像に難くない

彼女はその時こう言った


「大英帝国の栄光は全て女王陛下のために、統べる全ての国に女王のご威光を」と


文明国家として世界の頂点に燦然と輝く帝国の主であるヴィクトリア女王

その御前にて旗を掲げたことは富士の譲れぬプライドそのものだったと初瀬は考えていた

だからこそ、大日本帝国という本来の主の国に参じた今になっても心の真ん中にあるのは大英帝国であり女王陛下であるという、狂信的な程のこだわり


そしてそれが戦船として生を得た自分の支えとなっていた事

ぶらりと下げた足を揺らし頭を掻きながら自分の考えた富士の姿を整理していた


誇りがなければ戦船いくさぶねという職務は出来ない

この世界に色々な船の魂達が様々な形で生きている中でも、国家の防人を支える器として軍隊に席を置き相手を討ち滅ぼすという職務につくものは何かしら自分を支えるためのプライドが必要になる

心優しき船の魂

その心を保たせる想いを、プライドをどこに定めるかは個人の問題である


「ヴィクトリア女王か…」


腫れた頬とは反対の頬をふくらまし長い溜息をはきだす


実は初瀬の誕生にもヴィクトリア女王は関係があった。だから初瀬は富士が観艦式で手を挙げて発言した事を他のイギリス艦艇から聞き及んでいた


「君のお姉さんはどの艦魂よりも女王陛下に忠誠を誓っていたよ」と


ロイヤル・ソブリンに代表される艦艇にマジェスティク級の血の姉妹

言えば、富士から始まった日本の六隻の軍艦はみなイギリスの艦艇と横繋がりの姉妹みたいなものだ


だが同じ姉妹だった者達は優しく話しかけはしてくれるが、目は冷たかった

まるで三下の国家に売り下げられた寵姫を見るような態度で、当たらず触らずの会話で富士の事を聞かされ、嘲笑されたというのが本当のところだった


それほどに富士が心酔したヴィクトリア女王だが初瀬との関係はもの悲しい一致でしかなかった

偉大な女王の死により行われた葬儀儀礼に立ち会う

それが初瀬の誕生の海の記憶だったからだ


艦首の菊花紋章を隠すほど大きなくす玉を割って初めての海に滑り込み、鳩が舞う世界に誕生した時はバラ色に見えていた世界だったが、女王の容態悪化と死へのカウントダウンでお祭りムードの全てが失われ

艤装の全てが終わった年の初め、竣工となった初瀬にお祝いの色はなかった

末期の光として色を失って行く大英帝国の景色、自分の建艦に徒事してきた技術者から労働者に至るまでもが悲しげな顔を並べていた日々の末に


ヴィクトリア女王逝去


富士が女王に出会った4年後の事だった

偉大な女王は君臨64年を最後に、大英帝国という地上の王国から天の王国への階段を上った


初瀬は日本へ向かう最後の日々に母なる女王を失い悲嘆の涙と、哀悼を捧げるイギリスの姿を見つめ続けた

2月の切れる寒さの海の上で大日本帝国天皇陛下の名代としての女王に別れを告げるという役目が初瀬の誕生と共に与えられた職務だった


沈まぬ太陽の帝国とも言われた国を支え続けた女王の死に、全てが色が沈む夜の海に浮かんだ初瀬

只でさえ霧の都と言われるロンドンは、深い悲しみの淵に白く霞み、今までの繁栄が嘘のような景色にさえ見えた


「God save our guardians Queen(おお神よ我らが慈悲深き女王陛下を守り給え)…」


大英帝国国歌の一節を、艦生の最初から色あせていた過去になったイギリスを思い出し口ずさむ

死は足早く訪れ、生きた全ての日々を灰色にして行く

栄光は彼の地に朝露のように消えて、荒涼の地に残され人は泣く


生と死の狭間を姉と妹で分けたヴィクトリア女王との出会いに初瀬は目を細め


「栄光の色も死ねば灰色、だよね…」


ただ一人悲しい出港だった事を思い出しながら、反対側の桟橋に付けている富士を見つめた





「ちゃス」


物思いをしながらも眠りを促す瞼を緩く上下していた初瀬の背中に、目覚まし的な陽気な声をかけたのは鎮西だった

横にはトン税より少し背の低い栗色髪を揺らす比叡も一緒に、飛び込んだ光の粒を散らしながら


「初瀬大佐、今日はご苦労様でしたっス」

「助かったよ、初瀬ちゃん」


一応上官に当たる初瀬に愛嬌の良い笑みを浮かべながらも敬礼する鎮西と、相変わらずちゃんと可愛く呼び捨てる比叡

二人は全ての艦魂達が自艦に戻る夕暮れ時を見計らってここに参上した


今日は初瀬の機転で富士の癇癪から逃げる事のできた二人


「いいてぇ、それよりごめんね〜鎮西、みんなの前であんな事」


考えすぎで眠ってしまいそうだった初瀬は、しょぼくれて二の棒のようになった目で左頬を押さえて笑って見せた


「いやぁ自分はあのぐらいの事なれてるスから」

富士が鎮西達、元北洋の魂達に突き放したように冷たさをぶつけるのはいつもの事だった

どこの鎮守府に呼ばれても

「アレは敗北者」と公然と口にしては、目の前から消えろと叫び

今日のように他の者達の目を憚る事なく標的艦になれば良いとわめく


心優しき船の魂達としては聞くも恐ろしい言葉を投げるように言うのを初瀬は常々苦く思っていた

そもそも鎮西は敗戦により捕虜的あつかいで日本に来たとはいえ艦隊役職からいえば元佐官にして現在も尉官である

なのに水兵の軍装

これこそが富士が敗北者など水兵で十分と檄を飛ばして回った悪癖の証拠で、見せしめをしていたという事実でもある


それでも鎮西は元来の楽天家さ加減で気にせずに勤めていた

初瀬の申し訳ないという伏せた目に、明るく応える


「気にしないでくださいス」

敬礼を解いた鎮西は初瀬の前で座ると、水筒を差し出した

「つるしといたんで少しは冷やせるっス、つかってください!」

金物で出来た水筒、表に水滴を乗せたままのこれを鎮西は事件があった直後から戸島の石清水につけていた


ああいう事がおこれば誰かが富士に殴られるというのは慣例化していた

この手の被害が唯一起こらないのは皮肉な事に、かつて敵対し撃ち合った者達である司令旗艦松島達がいる場所だけだった

それが帝国海軍の中身をさらに複雑に破壊している事にもつながっていた


初瀬は手渡された水筒に感謝と半面腫れた頬のままで笑ってみせると、お餅のようにふくらんだ頬に擦りつけた

廃品の中から鎮西が拾い集めた品である水筒もキレイに磨かれ月のニブイ光が清涼感を優しく伝えている


「冷たいぃ〜〜」


真っ赤だった頬に気持ちの良い冷たさが伝わる

初瀬は目をトロンとさせながら

「たすかるぅ〜〜気持ちいい〜〜」と首を左右にふって戯けて見せた


「いやでも…真面目にいたそうっスね…」


笑ってはいるが左頬の側に巧く口が上がらない顔に鎮西は心配そうに聞く

比叡は目を丸くしながら水筒の下に収まった頬を見て

「良いの入っちゃってたもんね…」と細い人差し指で頬を柔らかくなぞった


「体回ってたしね」


鎮西は初瀬が殴られたことは比叡から聞いていたが、状況は知らなかった

「コマみたいに回転してた」と聞いた時には身震いした

一度は殴られて経験もあるからだ


「八島中将じゃなくてよかったスね」


思い出した古傷に両の手で自分の頬を守るような仕草を見せる

比叡は注意するように中腰に構えて周りを見渡しながら小さな声で耳打ちした


「バカ、大公(八島)になんか殴られたら鼻が無くなっちゃうわよ」

比叡の大げさな言いように初瀬は苦笑いで

「私の鼻の残ってる?」とふざけた目で聞く、そんな一つの仕草で初瀬を人身御供にしたのではと心配していた二人を和まされる


「とにかく初瀬ちゃんが逃がしてくれなかったらみんな殴られてたね。激昂だったもん今日は凄かったよ」


心配を払拭できた比叡は、お互い富士艦から見えない砲塔の後ろに席を移して今日の出来事を鎮西も交えて話し始めた

今日は凄かった。普通なら何もなくて嫌味の応酬をうける程度の事だったが


三笠の暴言からまさかの敷島ダウン、キレた三笠が参戦するも八島にコテンパンに打ちのめされ、トドメを富士に刺されるという一連の流れ

語るのは愉快な冒険活劇のような口調だが、中身はばっちり修羅場の出来事


「いゃあ…見てたら卒倒スね、わちきのところに水兵の子達が逃げ込んで来て大変でしたけど、そんな状態じゃ…仕方ないスねぇ」


乱闘が始まってすぐに初瀬の助け船で飛び魚のごとく逃げた水雷艦魂や、曳舟の船魂達は怖さあまって鎮西のところに逃げ込んでいた

震えてしがみつく小さな魂達に「これは予想以上?」と考えていた鎮西の予感は当たっていた


「逃げてたねぇ、西(鎮西)のところに、ありゃ巻き込まれたら命なくなっちゃうよ。沈没しちゃう」


比叡は陽気に話しながら手元にくすねてきた酒を出して煽り始めていた

松島達の側にいる者という蟠りを持っていた比叡だったが、浪速が朝日に「協力したい、歩み寄りたい」そう言った事に乗り気だった

親友が努力をすると決めたのだから自分も、自分のこの砕けた性格のまま溝を埋めようと決めていた

少しふざけ過ぎな態度だが、それは朝日が示した淑女的な取り持ち方とは違う方法と割り切って、今日は徹底的に話し合おうと考えていた


「西は意外と水兵に人気あるなぁ!」

「なんでか、懐かれてるスねぇ」


小さな彼女達に好かれ、可愛い水兵たちの水兵長あつかいの鎮西

可愛らしい話題で少しずつ初瀬への質問に迫ろうとしていた比叡の前で、自分達の会話には入らず楽しそうに見ている初瀬の姿を見ていた鎮西が思い切った言葉をかけた


「初瀬大佐、なんでわちきらを助けてくれようと?」


比叡の考えていた事を鎮西も違和感として感じていたのだ

鎮西は「いつものこと」と言いながらも今回は何かが違うという空気を感じていた

本来なら初瀬は富士にとって可愛い妹である

何も言わなければ殴られる事は絶対になかったイギリス純血種の血統姉妹である初瀬が、みんなの前に盾となって被弾を被った事に

いやもっといえば前日の敷島と三笠のおかしな意地の張り合いから奇妙な雰囲気を味わっていたのだ


「朝日大佐もそうでしたけど、どうしたんスか?」

鎮西の問いに目を丸くしたまま口を「うぅ」と固めたとぼけ顔の初瀬は頬を抑えながらも


「なんで?私達は仲間だよ!意味なく殴られるのなんてイヤでしょ」


巧く動かない唇だけどいつもの横の開いた笑顔を返した

比叡はわかっていた。初瀬も初瀬の方法で帝国に残る溝と多方面に広がった亀裂を埋めようと努力していた事を


「浪速も言ってたけどさ、私達はみんな仲間だ。帝国海軍の一員として仲良くやってきたいって事だよね」


先を越された質問に栗色の長い髪を揺らした比叡は髪をかき上げながら、自分がすでに浪速の意見に賛同している旨を告げお猪口を乾杯を初瀬に見せた

無言でも何かを知り合っている二人の後ろ、鎮西は愉快を基本としていた口調を改めて

いつも笑っている目を一度閉じると、思い切ったように言った


「わちきらに最初にそう言ってくれたのは…御ひー様でした」

「うん、知ってるよ」

杯をもったまま初瀬は、悲しげに眉をしかめてしまった鎮西の顔を見つめて答えた

「知ってる…プリンセス(厳島)がいつも私達を仲間だってね、線引きなんか関係なく引っ張ってくれたよね」


初瀬の優しい眼差しの前で鎮西は初めて日本に来たときの事を思い出していた


大清帝国は負けた

負けて、湾に残された


人のいない船は動かない、どうして良いのかワカラナイ

捨てられた自分達を悲しむまもなく、日本兵に捕獲され最初の宗主国を失い佐世保に曳航された

その間に聞かされた、自分たちの大姉であった定遠の死を

怖くて自分の部屋から出られない中で膝を抱え、暗闇に飲み込まれる夢を何度も見て日本についた


「わちきらは…本当に怖くて、怖くて」


鎮西の手にあるお猪口は震えていた

心にある傷の思いに初瀬はいつもの鎮西を模したように言った


「それをプリンセスが迎えてくれたんだよね!」

「はい、はい…」

涙ぐむ友の細い肩を比叡が抱く、背丈は三人の中で一番大きな鎮西だったが最初に日本に来たときは当たり前に恐怖で震えた日々を送っていたのだ


佐世保で、敗北者として並べられた時

自分たちが惨めな船になってしまった事に心が折れた

その中にあって誇りの旗を掲げ折らぬ心で佐世保に来た鎮遠が起こした騒ぎ


妹定遠の仇を討とうと自分の目の色を文字通り、妹の目に変えとして怒りに身を沈め自らを滅ぼす程の炎を纏って乗り込んだ怨心の姿で自分までおも殺そうとしていた鎮遠を救った魂たがいた


「妾が全部許してやる!!」


小さな姫様は争いの全てにそう言い放つと、誰にも元北洋の艦魂達を責めさせるような事はさせなかった


鎮西は、こぼれそうな涙を堪えて息を止めるように月に顔を上げた

懸命に堪える涙で頬が震える


「うれしかったス、あの後宴まで開いてくれて。日本の漁船達にわちきらを紹介してくれて」



「よろこべ!これから妾と共に国を護る任についた者達だ!!」

月影の下で酒の杯を持った三人は同じ言葉を口にしてお互いの顔を見ると声を出して笑った



「やっぱりそう言ったんだ!」

初瀬も転げるように笑った

目に浮かぶ厳島プリンセスの仁王立ち、白銀の緩いロングのカールヘアで色白、まるでお人形さんのような小さな彼女が後ろにひっくり返るほど胸はって漁船や水兵に自分たちを紹介する姿は三人とも記憶にある姿だった


「うれしかったス…ホントにホントに…」


たいして呑んでも以内のに、辛かった思い出から今の自分への道を作ってくれた出来事にボロ泣きの鎮西に苦笑いの比叡

裏表のない厳島の人柄が元北洋の艦魂達を救っていた


今もそうだった


新たに帝国に着いた富士が松島との仲をこじらせたことには何もいわなかったが北洋の者達に危害を加える事を厳島は決して許さなかった

八島は厳島と富士のケンカにはいつも傍観をするだけで手出しはしない

富士のプライドに関わる問題にしか首を突っ込む事は無いようで、事態を別の線引きと分けていた


それは厳島の容姿があまりに幼すぎて、手を挙げるのも大人げないと八島が思ったからなのかも知れない

同じように富士も八島が知らぬ顔をする相手に手をあげるような事はしなかった

というか自分のプライドと関係のないものと無視を決め込んだことで、鎮西達は嫌味程度で事を片付けられているという保護の下にいた


厳島は出来る方法でちゃんと元北洋の仲間達を今も護っていた


「私も嬉しかったよ」


涙を拭う鎮西に初瀬が答えた

「初瀬ちゃんも?プリンセスと何かあったの、そういえば?」

友の肩を抱きながら比叡は、そういえば初瀬と厳島の関係は知らなかったと尋ねた


「私がさ、ココに着いた時にはもう富士姉さんがやらかしちゃって、その上敷島姉さんもやらかしてて」


灰色のイギリスから自分の主となった国に向かった初瀬の目の前にあったのは、魂達の関係が悪化したどす黒い世界だった

上の姉達が作った溝が修復の効かないところに至った頃に日本についた初瀬を横須賀で快く迎えたのは朝日だけだった


「あの頃は…絶頂期だったねぇ私も無視しちゃったよね…」


涙を払った鎮西が比叡と初瀬を交互に見る

「そうだったんスか?」

心配そうにする鎮西に初瀬は腫れた頬のまま穏やかな眼差しで


「つまんない国にきちゃったなぁ〜〜、なんて思ってたらプリンセスが迎えに来た!歓迎の宴をやるぞ!って」


水筒を持った手も、開いている方の手も両方を大きく広げて初瀬は先ほど全員が顔を見合わせた言葉を


「よろこべ!妾と共に国を護る任に着いた者だ!」


思い出す言葉に三人はまたも顔を見合わせて笑った

初瀬は無理して開いた大口に顔を引きつらせながらも

「なんかさ!急に嬉しくなっちゃって宣言した。私はみんなと仲良くしたいってプリンセスに」


灰色の思い出、イギリスから引きずってきた暗い楔を打ち砕くように初瀬を誕生を本当の意味で歓迎した「人」以外、姉妹以外の魂は厳島が初めてだった

国を護る使命に立つ者として必要とされていたことを確認できた自分の誕生

それが初瀬の原点になった


嬉しいを存分に現したいのに、叩かれた左頬ではうまい顔を作れないともどかしいく頬を抑える姿に比叡と鎮西は申し訳ない顔で、それでも笑った


「だから三笠ちゃんも協力してくれてるんだ」


比叡は初瀬の言葉から、姉として初瀬が三笠に溝を埋めるために色々な事を教えていると考えていた

だが違う、初瀬は顔を横に振り


「そんな事してないよ〜〜」

緩い声は波の音に乗る


押しては返す小さな小波のような見え隠れする本心に比叡は目を丸くする

敷島にたたき上げられる日々の中でも松島達との溝を作った理由を恐れることなく聞き

更に元凶である富士に臆することなく発言

結果敷島共々八島になぐられ蹴倒され、そんな思いまでしている三笠に初瀬が自分の希望を告げていないことが不思議でしかなかった


「でも三笠ちゃん、あんなになってたし」

「何もしらないよ〜〜〜知らないままでいいんだよ〜〜」


腫れ上がった左頬とお酒にほんのり赤くなった右頬

月の下で優しい笑みを浮かべる初瀬


「三笠はまっすぐ行くよ、真っ直ぐみんなひっぱっていってくれる。絶対!」


何も教えない、本当はそうではないけど初めて三笠と会ったときの直感だった

敷島に次いでキツイイメージの妹が来たなあと思っていたけど、厳島を殴ろうとした事件の後

三笠は自分の至らなさを認める事ができた


それまでフランス艦艇だの、イギリスの最新鋭艦だの、元敵国艦艇だのと、ひび割れていた帝国海軍の海の上で「何も知らなかった三笠は素直に全てを受け入れる心を持っている」と初瀬は思った


だからあの日、甲板で二人が仲直りをする姿を見たとき初瀬は決めた

大事なところは抑えてゆく、それが姉の勤め

だけど後は三笠を信じようと、よそ事になど目もくれず走っていける力を持ったピカピカの妹には希望だけを持たせて

自分は姑息に汚くも裏方として立ち回り、出来る方法で三笠という力にみんなを近づけて行こうと

厳島が自分を分け隔てする事なく宴に呼んだように、大きく多方面にひび割れた帝国海軍を色んな手を使って早く一つにするために自分の出来る方法を実践すると決めたのだ


厳島がやるのと同じように自慢げに反り返る初瀬の姿に鎮西は


「何にも教えないんスか…イタイ思いしちゃうスよ」

「大丈夫!!三笠は丈夫なのが取り柄だから!!」


テンション高く手をあげ自分向こう側に停泊している三笠を指差す

まだ塗り替えが終わっていない真新しい黒い艦体だが本体の魂は、今日の騒ぎでボロ雑巾のようになった三笠だ

それでも意地を張り通し自分の力で艦に戻っていた


「確かに丈夫だよね、あんだけ撃たれて沈まないんだもん」

初瀬の言わんとしている事の半分を飲み込んだ比叡も、今は波の上にて自分を休ませている三笠艦を見つめた

殴られたら鼻が無くなるを自分で言うほどの八島からあれだけの豪打を喰らっても、他人の手も借りず本体に戻るという意地の張り具合には感嘆するしかない


「敷島少将も意地で自分で帰りましたっス」


「がんばるねぇ〜〜〜」


他人事のような態度を見せる初瀬に比叡は最後の一杯を飲み干すと


「でもぉ、なんでそんな事してまでみんなを仲良くさせたいの?」


比叡は風に長い髪を揺らし海に視線を逃がして、意地悪な質問をした

本心を見せないようにもしている初瀬の言動だけでは彼女が「仲間意識」の強化をどうしてこだわっているのかがわからなかったから

波の音だけが続く沈黙に、胸ポケットからタバコを出すと石マッチ火をつけ、煙越しに初瀬に振り返った


自分を見る煙に隠した比叡の本気に初瀬は背にもたれていた自分の砲塔に軽く頭をぶつけて見せた


「私達はさ〜戦船なんだよ。もし、ロシアと戦争になったりしたら、いつ誰が死んじゃうかわからないんだ。そう言う世界に生まれてきたんだ。だからこそ仲良くしていたいんだ」


結束の形、ロシアとの戦争はまだわからない

だけど、いがみ合ったままで良いという分けでもない

半分の月が照らし出すさざ波の上に冷たい秋の潮風が心の琴線に走る言葉に初瀬を囲んだ二人は顔を見合わせた


「仲良くなりたいんだよぉ〜〜楽しいよ〜〜そのほうが〜〜」


二人の沈黙に照れた初瀬は手足をばつかせて甘えた声をあげた


「わちきも仲良くなりたいっス」

話し半分でもイギリス艦艇の上官である初瀬の、仲間としての発言に鎮西は感激していた

初瀬の目指す形に少しの力でもと鎮西は拳を固めるとひょろりとした体で立ち上がり

期待に応えたいと身震いしてみせる

比叡も長く吹いた煙の向こうで頷いた


「私も仲良くなりたい」と

二人の返事に笑顔を見せる初瀬に鎮西は大きく手を広げると


「でわでわ!!さっそくその親睦会の宴をやるっス!!」


そう言うと後部甲板の端、スタンウォークの金柵に鈴なりになって立っていた水兵達に手を振った

「こっちにくるっスよぉ!!」


小さな水兵達、曳舟の魂達は鎮西がいなくなってしまって探していたのだ

「おばんで」「おばんで」「おばんで」

一人一人挨拶の言葉を挙げながら顔だけで要すを伺っているが手を振る鎮西の誘いに飛び魚のようにバラバラと初瀬達の前に集まってきた


「みんな!!宴っスよ!今日は初瀬大佐も一緒っス!!たのしみましょう!!」

「そうだぞ!!!私が初瀬大佐ちゃんだぞ!!みんな今日は無礼講だ!!」

鎮西の勢いの良い開会に、初瀬の合いの手

比叡は自分の公私混同語を暴露された発言にタバコの煙を飲み込んでむせ返った


「参ったよぉ、初瀬ちゃん。それ絶対に女王様(富士)や大公(八島)には言わないでね!」


そんな三人の上官の姿に気持ちを和らげた曳舟達は手に手に酒や肴を現しだした

元々彼女達は宴大好きの勤勉な勤労少女達、無礼講とまでいわれれば心ところか体も柳のように揺れて踊り出す


「頑張ろう!私も鎮西も出来ることで頑張るから!」


髪を解いた比叡は横須賀にいる親友浪速の事を思い出しながら、新たに注がれた酒の杯で乾杯の音頭を取った


「真っ直ぐにか、悪くない」

老朽艦になり最後の勤めである三等海防艦、帝国で過ごせる末尾の日々さえの退屈する事がなくなったと比叡はほくそ笑んだ





「八島、ねえ八島」


初瀬達が富士の目に付かぬように隠れたつもりの宴を八島は富士の部屋のスタンウォークから見つめていた

その背中にナイトガウンに着替えた富士が声をかけた

振り返る八島の前に、薄いパステルピンクのローブ調のガウンに着替えた富士が眉間に皺を輪寄せたまま、自分の元に早く来ない八島を呼ぶ


「八島、近く来て!何か見えるの?」

「何も見えない、月を味わえるだけだよ」


短く纏めた金の髪を軍装の襟に揃えた髪が揺れる

翡翠の瞳が、宴に浮かれる初瀬達に背を向けると自分に歩み寄ろうとする音に敏感に反応して踵を返した

呼びつけるイスの元にこない八島に苛立った富士は腰を上げて数歩進んでいたが、振り返りドアを閉めた八島にイスの側に戻された


「八島、不愉快な思いをしたわ。とても不愉快だわ」

「夢にして忘れるのがいい」


低く抑揚のない声だが富士には聞き慣れた愛おしい声


木製、真新しいニスが少しずつ手に馴染む光を持つようになったイスに、押されても座らなかった富士は八島の胸に額を押し付けた

預けられた相手の髪を優しく撫でる、寒さはそれほどない、むしろほどよく季節の空気を味わえる中で

子供のように富士は八島の胸に縋りついて


「八島、こんな島国帝国に未練はないわ。私、貴女をイギリスに連れて行くわ」


顔をあげる目

夢を見るように輝き潤む姿に八島は優しいキスを額に与える

「眠るんだ、良い夢を見るといい」

八島はそのまま富士を抱きかかえた

「八島、ねえ八島、お願いよ今日は朝まで一緒にいて」

「ああ、一緒だよ」

首に手を回し唇をせがむ富士を寝室に運ぶために歩く


「八島、いつか貴女と私はイギリスに戻るのよ。女王様が私達の帰還を待っているわ」


指を鳴らし部屋の照明を消す八島に富士は強く抱きついた

同時に静かに開く寝室への扉

富士は落ち着きを取り戻したように静かに抱きついたまま八島と口づけを交わした


「イギリスに…凱旋するのよ」と


カセイウラバナダイアル〜〜起点〜〜


昨日は書き込み続けて0時を越し、またも妙齢な肌をボロボロにしたヒボシです


年寄りなので小説を書く時間というのも考えて事を進めなくてはなりませぬぅwww


ところで今回は初瀬の思いと

富士のプライドなどに触れました


物事には起点となる出来事が必ずありますからね

富士がただ気位が高くて、他の艦魂にひれ伏せという号令をだしているのか?

それがイギリスに対する狂信的な思いから始まっているのか?

それらを解明する少しの部分を初瀬の思い出として書きました

本当のところはどういう人なのか?富士

そして八島


そして初瀬の起点

死という儀礼を誕生直後に見た彼女は、たぶん日本に来るまでの間も世界をつまらないなぁと見ていたに違いない

その上日本についても問題を起こしていた姉妹達のせいで、歓迎されない自分の誕生に世界には色がないとまで思っていたふしがある

だけど例よって厳島プリンセスが当然のように現れあの台詞をいう事でやっと世界の色を自分のものにしていゆく


艦魂は(ヒボシ設定の話しですよw)

誕生の時、すでに十代半ばの姿を持っている

人でいうならとても多感な年に一つの完成された形として産まれる彼女達にとって誕生の最初の思い出はとても大切だ

それが艦魂個人の人格の最初を形成する

富士の誕生と女王

初瀬の誕生と女王

同じ人を介しても、別々の思いを植え付けられるほど偉大だったヴィクトリア女王の思い出


完成された体で笑まれる彼女達は、なのに不完全な魂でもある

そこから彼女達がどういう世界観をもって長くても30年の月日を生きるのか?

そして普通の船では知る事のない戦争という非常の時代の中で最初に得たもの以上に必要な思いを見つけられるか?

それ

が焦点となり、時間の枠ともなる





簡単人物評


戦艦富士 艦魂富士

1896年誕生(ヒボシの艦魂は進水式が誕生した年になるから)

本当は清との戦いのために予定されていた彼女だったが、帝国議会(政府)の建艦承認が降りなかった

当時マジで清との戦争が迫っているという危機的状況を目の当たりにしていた日本だが、なんと政府は富士の建艦計画を4回も否決する

当時の日本人が何に心を砕いていてそうなったのかはヒボシの研究がたらないので詳しくは説明出来ないが、

日清戦争での戦費は現代の金額でおよそ2億強ぐらいだったといわれ、そのうちの半分が民間から搾り取ったものらしい

そういう金銭的背景から、海軍力の増強にお金は出せぬと政府に突っぱねられていた

軍艦は高い

それも最新の軍艦にかかる費用は、小銃を買うお金などとは比べられない大物予算(これは現在でもそうです。海自の予算の大物は護衛艦ですから)

それ以前の三景艦で大枚叩いた失敗作を作ってしまった海軍の意見はなかなか通らなかった

だけど国防

されど四方を海に囲まれた日本。目前の敵が繰る鋼鉄の軍艦定遠.鎮遠に対する船をどうしても手に入れたい海軍

紛糾し続ける議会の姿に明治様(明治天皇)は自ら倹約、宮中費から出仕せよとご命令をするという事態になり

(本当に明治様は何度も海軍の軍艦のために倹約、宮中費の捻出、国民に呼びかけての募金とお力になってくださいました)

議会も承認する

結局日清の正装には間に合わなかったが、おかげで日露の戦いえの先鋒として誕生する事になる

天皇陛下の支援により生を得、ヴィクトリア女王の祝福(在位60年観艦式に立ち会うという事)で海に身を浮かべた富士のプライドが高いのはここから来ている

だけど実は密かに隠している思いが彼女のイギリス志向に拍車を掛けているところが多分にある

それが何かを知る者のが八島だ

富士、艦魂としての姿は23歳ぐらい、透き通る美しくも長い金髪に翡翠のような緑の目、身長169センチ


戦艦八島 艦魂八島

富士と共に議会承認により発注された日本初の近代戦艦姉妹富士の妹にあたる

竣工が富士の一ヶ月後だった事もありヴィクトリア女王との面識はない

建艦の費用は実はすこしばかり富士より八島の方が高いw

富士はおおよそ1038万円だが、八島は1050万円

何が違うのかといえば缶室、機械室給気通風筒が大きい事

それと舵の位置

姉妹艦なのに細かく違う部分がある

ただ残念な事に八島はほとんどデータが…(お察しください)

とにかく小回りのきくよい舵を持っていた

それがそのまま魂の姿にもちょっぴり反映されているのか?

二人はそっくりな顔をしているが、八島の方が富士より8センチ背が高い177センチ

タイトロングのスカートが基本である帝国海軍にあって敷島と並びスラックス姿の彼女だが

自分の事を「僕」というwww

富士以外の相手に対しては極めて無口で、たまに口を開くと辛辣な事をいう

富士のプライドを尊重し彼女の心を傷つけるものに容赦がない、逆らう者は指先一つで〜〜ダウンさぁぁぁ〜〜

とにかく強い、ドカタの鬼教艦敷島さえ者ともせず、三笠様にいたってはこてんぱんである

容姿は富士と顔が瓜二つ

背丈の差と、髪を肩のラインで切りそろえている事で見分けはつく

声は富士が女らしいウエットな感じだとすれば彼女は乾いた重いトーンの声で富士より若干年下(といっても何ヶ月程度)なのだが落ち着いた物腰と無口さ加減から年上に見られるため見た目25歳ぐらいな感じ

富士の隠し持った心を護り共にいる事を大切としている彼女だが…

見た感じが宝塚の男役…まんまそれ

こまったものですwww


戦艦初瀬 艦魂初瀬

愉快な策士の通り名wでおなじみ初瀬は富士達前級のロイヤル・サブリン改から次の世代、マジェスティック改級の戦艦

血統としては同じ流れをくむ妹となる

彼女達の建艦も貧乏帝国日本にとっては難産な船出だったが宇用曲折しながらもちゃくちゃくと作られ

黎明期の帝国海軍を代表する四人姉妹艦となった

初瀬は前序の富士が己のプライドの根源としたヴィクトリア女王の葬儀に誕生と共に立ち会ったという経歴から、しょっぱい記憶でそれをプライドにする事はなかったがどこか無気力な状態で日本にやってきた

ついた日本では日清戦争組と富士八島のイギリス艦艇組の争いを目の当たりにしたりで、当初の彼女はかなり根暗な感じだったに違いないが

根っこは明るい彼女を厳島が掬い上げ、「帝国海軍みんな仲良くなろう!!」を目標に現在も暗躍中www

敷島艦の姉妹の仲では一番背が低く161センチ金髪碧眼

だけどせっかくの金髪もどこか癖毛の入った髪でかなり短く切っている

上の二人、敷島のようにドカタで鍛えられた肩幅ひろいたくましさも無ければ、朝日のようにイギリス淑女的メリハリの効いたバディでもないw

もちろん三笠のようでもなく

一見すると線の細い男の子のような体つき、そして部屋を片付けられない女w

調べ物をするのが大好きで本に埋もれる生活を送っていたりもする

訓練もそこそこ及第点の彼女は三笠に色々な事をこっそり教えていったりする

それが現代編である『こんごう』達につながるものとして登場する事もあるかもしれない


次回は鎮西や比叡を紹介してみようかな〜〜

そろそろ巡洋艦の人達もきますよぉぉぉ

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