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第十九話 鬱の女王

ペーパークラフトで敷島艦を買いました!!

スケールは1/200ですが、これを1/100にして制作しようかと企み中です

問題は…これ、家に置けるのかどうか、そのうち誰かに引き取ってもらはなくてはならなくなったりしてwww

静かな波に音の振動が伝わり波紋を起こす

白亜の鋼鉄船が戸島周辺をくすませていた綿菓子のような白い靄の中から鋭利な刃物が顔を覗かせるように威厳に満ちた姿を現す

静寂の湾内に石をぶつけ合うような大きな機械音が響かせながら


「井上君は腕をあげたようたよだね」


桟橋の後ろ赤煉瓦を朝日の欠片に写し出された鎮守府

前港に揃った白い軍装の士官達の中

白髪も目立つ身の丈小さな男は親指大ほどの姿を見せた戦艦富士に目を細めながら誰に話すでもなく頷いた

隣では双眼鏡を下ろした参謀が先頭を行く富士の後ろを、白波の軌跡をなぞるように糸でつながったかのように入港してくる八島を見ながら


「瓜生軍令部第一局長殿の指示がよく行き届いておりますな」


まだ青髭の後の残る顎をさすりながら納得の笑みを見せるが、すこしばかり曲がった唇に隣に立っていた鎮守府司令の方眉は歪む

理由はわかっているが、それをまだ年端も年季もいかない士官が皮肉るのが引っかかるのだ


軍令部第一局長瓜生外吉が5年前に扶桑と松島の接触事故を起こしたのは士官達の記憶に新しい事件


愛媛県長浜の伊予灘にて演習停泊していた時の事、瓜生が扶桑に乗艦していた時の出来事だった

おりからの嵐により扶桑の錨鎖が千切れ艦体は流され松島のラムに激突、さらに厳島の右舷に船を叩きつけるという非常事態の後、扶桑は艦首部分を海から生える電柱のように残したまま水没した


演習における不慮の事故ではあったが、投錨の位置関係から艦隊が密集したまま嵐をやり過ごそうとした事を罪と断ぜられ瓜生艦長は更迭、翌年禁固刑を受けるという顛末があった


この時にはまだ戦艦富士が就航したばかりで日本に到着もしていなかった事から考えれば、二等艦であった松島の大破や厳島の中破はもとより貴重な戦力である扶桑の沈没は帝国にとっての一大事の出来事だった


事件は当の艦魂達にもショッキングな出来事であり

不可抗力とはいえ目の前で扶桑を沈めてしまった松島は半狂乱の状態でそれからの日々をすごした事があった故に、同じく予期せぬ事故で漁船を沈めてしまった明石を思う気持ちが理解できるというもの


現場から離され修理に向かう松島号泣の後ろ髪の中、沈没しても艦首を空に残した扶桑は同じ事故で怪我を負ったにもかかわらず現場に留まり艦体の牽引をした厳島プリンセスに励まされ艦首にしがみつき頑張り続けた後、浮揚を得引き上げられ呉にて改修されると2年前に現場に復帰した


戸にも角にも人にも魂にも厳しい大事件を経て瓜生艦長は復帰した

大事件から3ヶ月間の禁固刑に服してもなお、彼が艦長職に復帰出来たのは海軍切ってのアメリカ通であり、勤勉なる徒であった事を海軍上層部が良く理解していたからでもある


復帰第一線の艦として因縁の船にもなる松島の艦長に就任、さらに八島の艦長となり

現在は帝国海軍少将という将官にして軍令部長を兼任する程の大物となったが、彼はあの事件を厳しく自分の教訓とし「重箱に隅は無し」と言われるほど佐世保に預かる艦隊に徹底させていた


それが結果として今日見られる戦艦富士、戦艦八島の見事な操艦に現れていた


「良い経験になればそれで良い」


口元をほどけさせたままの士官に釘を刺すように白髪の鎮守府司令は言うと、まだ誰もしていない敬礼をした

「良く来なすったな、これで六の軍艦による演習を始められる」

「さっそく新たな機械の取り付けも開始致します」


瓜生の失敗を、おかしくも只の失敗談のように語ってしまった士官は慌てて予定の実行を口に出すと

司令に見せられぬ顔を下げるように自分の背中側に立つ男に声をかけた


「阿賀野大尉、東京から三四式改、新型の無線機を持ってきてあろうな!」


白い軍装の末席に立つ彼は一歩前に出ると直角に体をまげ、鎮守府司令に向けて敬礼をし報告した

「富士艦、八島艦両戦艦設置分、整っております!」

鎮守府の煉瓦の間に良く響く高い声にて返事した


三笠艦にて無線の実験を繰り返していた阿賀野は佐世保に寄港したおり、一度東京に戻り実験の取りまとめを行い横須賀で新たに作った無線機を舞鶴に運び込んでいた

昼夜を問わぬ督促に、技官木村との寝る間の無い日々で疲れた顔ではあったが、それを見せることなく返事した


並ぶ士官達の中でひときわ背の高い男阿賀野は自分の身の丈からすると、こじんまりとし過ぎて見える司令官中将の姿に緊張の度合いを増していた

優しげな目元に、潮に焼けた黒い顔

「この方が先の戦いでイギリス商船を撃沈した…」緊張高まった前の戦いの緒戦にてイギリス船籍の高陞号を「国際法に基づき」と断じて沈めた男


小さな姿に大きな肝


黄海海戦第一遊撃隊にてもっとも接近した間合いの中、吉野、高千穂、秋津州と続く最後尾の浪速を操り、さらに後ろを走る本体松島よりも相手を引き付けて発砲した

3000メートルの間合いに飛び交う砲弾の狂気の中で決して冷静さを失わなわず、血気に逸る樺山軍令部長や混乱の後続艦艇に惑わされることなく、吉野艦長坪井の作戦に従い実行をしきった


東郷平八郎


初めてみる顔の優しさとは別の脅威に背筋が冷たくなる

「どのぐらい届くようになったかね」

荒海とは遠い印象の静かな口調が尋ねる

自分に顔を向ける事なく入港の戦艦を見つめる東郷の質問に阿賀野は直立不動のまま答えた


「横須賀にての実験で17海里(31キロ程度)を記録しております」

「海演でどのくらい出せるか、楽しみだね」


帝国中枢担ってゆく戦艦達によって無線機の性能を実験する

迫る危機から、矢継ぎ早に出される指示に従いつい、先日厳島で実験した機械を持ち込んだ阿賀野だったが冷静すぎる司令官の姿に自分が焦りすぎているのではと顔が下がりそうになる中で、はいと返礼する

そんな彼の心中を読み取ったかのように東郷は応えた


「ゆっくりと行こう」と


読み取れぬ目の奥が笑う

近づく白い軍艦に鎮守府前港に揃った者達が敬礼をする中、阿賀野は自分がエライところに配属されてしまったと胃の下をさすりながら自分たちとは違う戦艦敷島が付けられている桟橋を見つめた





「来た」


人達が敬礼を現していた時、敷島達もまた同じように敬礼と手を挙げていた

富士が付けられる桟橋は帝国海軍鶴鎮守府の「人」に当たれているため、敷島艦の着いている桟橋側に鎮守府に詰める艦魂達が整然と並んでいた


桟橋中央には毛氈の赤い道が作られ、まっすぐにそこに足を下ろすであろう女王の到着に備えた儀杖隊である尉官艦魂達が表情を固めたまま並んでいる


秋を近づける風は昨日に比べると冷たい、なのに全ての魂達が緊張の汗を軍服の下に湿らせ続けていた

隣では艦体を近づける富士と八島の姿に、美しい操船術を褒める声があがり少しばかりの喧噪が起こっているのにココは静かすぎるぐらいに音がない


緊張の面持ちを並べる魂達の最前列に立つ敷島は、自分の後ろに続く姉妹達の中末席に立つ三笠に背中のまま声をかけた


「三笠、忘れるなよ。昨日言ったように富士姉様、八島姉様への質問は歓迎会の全てが終わってからだからな」


お互いが決めた話し合いの確認をする声に三笠はすでに亀裂を入れた額のまま聞き返す

「わかっておりますが、なんですかこれは?」

今日ここにくる者達を迎えるために用意された「式典」の作りにある違和感

それに三笠の額には苛立ちの電線が走り声に伝わっている


言えば

たかが姉妹のお出迎えのために、こんな皇族の御幸みゆきのような大げさなそろい踏みに、うんざりする思いと苛立ちに敷島に劣らぬぐらい目は尖っていた


「これが普通だ、お出迎えは本来こうしたもの。と、姉様達が決めておられるのだからそれに従え」


三笠のほうに向かない敷島の大きな背中は感情のない声で教えると、手だけで口を慎めと合図する

「こんなのおかしいです」


姉の覚めた対応に三笠は納得はしなかった

こんな大仰な出迎えは無駄にしか思えないし、これこそがおかしな壁の一端であると三笠は敷島の前に回り込み文句を続けようとしたが、その手を朝日が止める


「三笠、約束を守って敷島姉さんの言うとおりにして」


昨日、夕方から夜にかけての話し合い

朝日を真ん中におく形で、帝国海軍にある線引きと壁を打ち壊すための強力をする事を姉妹間で話し合った


敷島は彼女個人として松島達に対して線引きや壁を作ろうという気持ちはない事を認めはしたが、上の姉達に協力を仰ぐことには難色を示していた

理由は共に戦隊を組むことのない者達との正式な和解を特別必要としていないという事に限ったかたちとしていたが

三笠の努力に口添えをした朝日の説得を受け入れる形で今朝に至り


「いつまでもそういう感情のままでいられない事も確か、話し合いの場を設けよう」


上の姉妹達に突然の説得ではなく、最初の話し合いをする事を承諾した


「敷島姉さんはきちんと三笠の話を聞いたでしょ、三笠も約束を守って」


儀礼用に銀の惣を身につけた三笠は止められた手を震わせながらも

ここまでもってくる事の一苦労を共に背負ってくれた朝日を立てた

力押しの自分の方法だけではこぎ着ける事の出来なかった場を作ってくれた事を思えば、今いきり立ってば場を壊してしまえない、朝日の努力まで無にしないためにも行動を控えた


吐き出しそうな意見を唇の奥にふさぎ込み

「わかりました」と口惜しそうに顔を伏せる三笠に


「もしもの時は紅茶があるし〜〜」


三人のやり取りを見る初瀬はいつもどおり、呆けた眼のまま敬礼の姿勢で揺れる水面に目を向け続けた


近づく艦影の前で、蟠りに飛び出しそうな心を律する三笠達の後ろでは、儀仗隊以外で整列する魂達が声もなく静かに主賓の出現を待っている


まぶしさを増す太陽に照らされる光の破片が水面を介して届けられても、瞬きも出来ぬ程の緊張の中で

全ての魂達の真ん前に敷島

次列の朝日、初瀬、三笠少し下がったところに比叡

後ろに尉官の者達とさらに後ろに水兵である曳舟達、小粒の水兵達が並んだ最後尾には尉官を持ちながらも水兵の姿の鎮西


鎮西は小声で近づく脅威である艦について比叡に電信していた


「相変わらず怖そっスね」

「私もこんな前に立つのイヤよ」


三笠達の直ぐ後ろに立ち白の軍装姿の比叡は居心地悪そうに肩を上下させて鎮西に、固まっている先頭の集団の気持ちを表した

「代わってよ西(鎮西愛称)あんただって元佐官でしょ、私の隣にきなさいよ」

いつもならおちゃらけたところのある比叡だが言葉運びにもぎこちなさが出る程に、今の立ち位置からさらに下がろうとジリジリと動いている姿を鎮西は口を閉じたまま笑う


「そんな事したら大公様に殺されるっスよ、わちきはココで観戦スよ」


水兵である曳舟達は小柄な集団である、140センチ台の彼女達の後ろに立つ鎮西は170センチ台と背が高いが故に目立ってしまう


「ココでも危ないかもしれないんスから」と、たためない自分の体を曳舟達の間に隠したいと比叡に返事した

自身に対する命の危機を一度は実感している鎮西は、晴れた空模様の下で氷点下の凍結をみせる儀礼場に、比叡の気持ちを思いながらも自分が一番に逃げたいと本気で考えていた





波を大きく揺らし桟橋に着き、係留の準備に入った富士、八島

いつもは陽気に声を挙げる曳舟達が、飛び出そうなかけ声を抑えて頬をふくらませながら仕事をしてゆく中



光の固まりは中空を滑らかに割って大きな滝をつくると、宝石の粒を赤い絨毯に落として行く


つま先から真っ白な靴、、白の軍装の肩に輝くベタ金に浮かぶ二つの桜

敷島と同じように下もスラックスの姿

その上に、真っ白で細い首、さらに白い牡丹がごとく淡い肌色の顔に鮮やかな赤い唇と肩口で切りそろえた金の髪が揺れる

翡翠の瞳は伏せたように静かにして威厳に満ちた金眉の波線の前、敷島は姿勢を改めるように背を正し


「八島中将殿、舞鶴鎮守府への寄港歓迎致します」


敷島と代わらぬ身の丈

長身の魂は上から下までを真新しい軍服で立つ

1900年に採用されたばかりの二種の金ボタンの輝きは豊かな胸元とともに飾られる銀色のモールと惣を踊らせたまま敷島に返礼する事なく


自分の後ろから現れるであろう魂に手を伸ばす

「どうぞ」

女という形にしては彼女の声は低いが、角のない優しい口調で光の輪から現れた魂の手を引く


先に出た八島と代わらぬ出で立ちに、三笠達と同じようにタイトロングのスカート

軍装の上着の上に真っ白で豪奢な刺繍の入ったハーフ丈のローブ羽織り、肩から流星の輝きがこぼれ落ちるような長い金色の髪

軍装とは違う帽子はひさしの上に薔薇のデザインをあしらった淡いピンクの装飾の下

透明度高い淡水の泉のような翡翠の瞳が輝く


華麗なる登場の前に敷島の緊張が高まり

踵を強く付き合わせると最敬礼をして


「富士中将殿、舞鶴鎮守府への寄港歓迎致します」

「ごくろう」


不動の敬礼をする敷島に八島は平に手っをふり、敬礼解除を促しながら抑揚のない声で応えた


「ひさしぶりね敷島、元気そうでなによりです」

敬礼を解き真っ直ぐ自分の前に立つ妹に労いの声をかけた富士は、風に髪を揺らしながら並ぶ全ての艦魂達に挨拶をした


「みんな元気でなによりです」と手を振って見せた


明日、明後日までしばらくは富士艦と八島艦は三四式改無線機の取り付けがあるためすぐに演習でない事はよくわかっている

敷島もやっと一息を付き


「今日はゆっくりとお過ごしくださいませ、歓迎会の支度も調えております」


赤い絨毯を歩く富士の後ろを従うように歩く敷島の姿に八島が目を合わせる

無言のまま、お互いの何かを確認するように


その前を先頭に立って歩く富士

姿形、顔などは寸分の狂いもなく似ている富士と八島だが、富士は長く伸ばした美しい御櫛かみを持ち、八島は肩で切りそろえている事と

身の丈が八島の方が富士より少しだけ高い事で、女王とそれをエスコートする大公の姿に見える


「今日は私の妹達も揃って降りますのでご挨拶を」

八島と目で挨拶をす交わしながら四姉妹の前を歩いて行く富士に手で自己紹介を始めようとしたが


「朝日、初瀬、久しぶりね。会えて嬉しいわ」

敷島の手指図を無視して富士は走り手を広げて二人を抱きしめた

「横浜以来だから、そんなに日は経ってないわね。でも会えて嬉しいわ、私の可愛い妹達」

そういうと二人の髪を撫でる

甘茶の色合いの向こう透けて見える髪に

「髪はキレイにしなさいね」と指が慈しみを伝える


二人を可愛がる富士の背に敷島は一息大きく息を呑むと意を決したように間に割って手を向けて見せた


「で、こちらが新たに日本に来ました末妹まつまいの三笠であります」


富士の優しげな目が抱き寄せた二人の間から三笠の薄いブルーの目とかち合うが、体が前に動くことはなく

何かおかしな物を見るように三笠を見て首をひねる


「初にお目に掛かります!三笠であります!」


声を高く挨拶の敬礼をする三笠は、富士が首をひねるのとおなじぐらい自分も首を傾げていた

初めて見る富士、大姉にあたる彼女

噂が先行していたばかりなので、よほどに姉敷島を強化したような土方な気質を持ち

容姿もそれに準ずるほどに強面と思っていた三笠には拍子抜けな程の美女である富士


長い金色の睫毛の下にある目は自分たちの姉妹の特徴である菱形の尖り目ではなく、半月の嬉し目にひときわ大きく輝く翡翠の瞳に繊細な金の髪

どこをとっても敷島とは似ておらず正真正銘のお嬢様だ

その彼女は、三笠を妹と紹介されたまま不可解な表情をしたまま見つめている


不機嫌な目をなんとか隠した姿の三笠は元気よく名乗り敬礼をしたが

間の開いた富士の反応はどこかおかしい


富士は三笠の姿に困惑にした様子で目動かし敷島と、朝日、初瀬を今一度見回すと


「三笠?貴女が?」

聞き間違えたのか?というような確認をした


「はい、自分が三笠であります」


豪奢な身なりで派手な歓迎を要求する姉富士に問いつめたい事が一杯ではち切れんばかりの思いの中にいた三笠も間の抜けた反応に、声のトーンがぶれた返事を返した

返された答えに富士はもう一度自分の手の中の二人と敷島を見る

顔を起こし自分の隣に立つ八島と目を合わすと、軽めの溜息をはいて


「そう、残念な子なのね」


一瞬で覚めた目がつまらなそうに目線を振り切ると

「黒髪だなんて気持ち悪い」と三笠には聞こえないような声で小さくこぼし

何事もなかったかのように朝日と初瀬を連れたまま前を通り過ぎた


「はい?」


意気込みに肩透かしを喰らった形になった三笠は目を丸く開けたまま立つが、何事もないと談じた富士は周りを見回し水兵達の後ろ緊張の面持ちで立っている鎮西に目をとめると


「敷島、アレを私の前に並べないで」


三笠そっちのけの富士の目線が刺したのは鎮西だった

子供のように小さな身の丈の水兵達の後ろススキのようにひょろりと立っている鎮西は、自分に向けられる富士の視線に慣れた顔で会釈をして見せたが

富士の顔は不機嫌の度合いだけが増すしか効果はない


逆に並んだ魂達には恒例となっている罵倒の時に、目線を富士に合わそうとしない暗く重い気が流れる

敏感に空気を読む敷島は

「一応鎮守府に揃うすべての者達という」と決まりを声にだすが


「アレは、敗北者であり我らの栄誉を汚す者。何度言えばわかるの」


冷徹で冷たい声は、八島の抑揚のない声に近づき

嬉し目が歪むように敷島を睨む、先ほどまであった明るいお嬢な雰囲気が朝の霧のように胡散した素顔の富士は、顎を挙げた姿勢でもう一度敷島の顔を睨む


「鎮西少尉、すまないが席を外してくれ」


冷たい風に同期する冷たい感情の琴線

富士を挟む形で少し後ろを歩く敷島に八島の厳しい視線もかさなり、敷島は声を濁らせながら鎮西に退出の命令を出した

返礼の返事と共に素早く光りの中に姿を消す鎮西に富士は不手際を叱る説教を始めた


「敷島、アレは私達帝国にとって不必要なお荷物。アレを私の前に立たせるなど今後再びあることがないように気を付けなさいと何度言ったらわかるのですか」


白のローブを揺らし振り返った富士は美しい顔に険しい棘を現して、敷島の顔を指差すと


「アレが大英帝国の名に産まれ、帝国に嫁した者として共に居るなど虫酸が走るというものです。敷島、アレがココにいた事で貴女の私への敬意がいかに低いものかというのがわかりましたわ」

「そういう事ではありません、富士中将」


敷島は朝日や三笠と話しを決めた時から富士がこのような反応を示すであろう事はわかっていたが、一度決めた事には鉄の意志をもって迎えるところがあった

区別なく、線引き無く、全ての魂をここに並べると

だから鎮西を外して歓迎をしようとは考えなかったが見事に裏目の結果を招いていた


富士は自分に対する不敬であると静かにしかし確実に立ち上がる業火のごとくの怒りが吐き捨てる


「あんな者、早く標的艦にでもなれば良いのだわ!実に汚らわしい!」

美しい口元を歪めると並ぶ艦魂達を睨む


「オマエ達下世話な魂達は我ら大英帝国の栄誉である艦に従えられてこそ、やっとこの島国帝国の戦船を勤めている事を忘れてはならない!常に頭を垂れて敬意を示せ!」


雷のように尖った声

自分の後ろに控えさせた朝日にも初瀬にも、敷島にさえ何も言わさぬ威厳の怒りが号令を続ける


「ヴィクトリア女王陛下拝謁艦である私と大英帝国の栄誉の元、二度と不遜な態度を示すこと許さぬぞ。静やかにして我にひれ伏して従え」





「ここは大日本帝国です」


誰もが沈痛な思いに顔を伏せてしまった凍りの空間に、軽い鼻息と覚めた目線が威厳を誇示し肩をいからせた富士の背中に軽蔑の目線を投げると、静まった場に語り続けた


「ここはイギリスじゃありません」


さらに軽口ともいえる反論を明確に告げる


「三笠…」

斜に構え、鼻筋に亀裂を走らせた三笠の顔に朝日は発言の制止を求めようとしたが

「勘違いも甚だしい事です帝国に仕える以上、主は天皇陛下であります。ヴィクトリア女王など、日本に嫁した今何の関係もありません」


慌てる朝日のとなり頭こそ下げていたが頬に笑いのえくぼを作った初瀬は小さく拳をグッドと固める

同じく自分の前で、三笠の言葉に固まる富士を見ていた比叡も「来た」と心で拳を固めた

答えない二姉妹の背中に三笠は線引きに分厚い塀を建てた二人を許さぬと宣言した


「そんなくだらない威厳に囚われて、帝国海軍を割るようなマネ、今すぐ止めて頂きたい!」


自分の背中に投げかけられた言葉に目線を虚ろに漂わせた富士

朝日につづいて振り返った敷島は

「三笠、何んて事を」

「本当の事を言っております、過度のイギリスかぶれで帝国に嫁する者達への罵倒、聞くに堪えられません。それがよりによって帝国の先駆者的戦艦である大姉様である富士姉様から発せられるとはがっかりです」


斜めの視線こそくれてはいるが逃げる事のない三笠の態度に制止の手を挙げようとしていた朝日の手が止まる


「三笠ならやってくれる、この壁をbreakthroughしてくれる」


浅はかな挑戦

富士の中身も実力もまだ何もみていないのに、三笠はそういうものを度外視して建前である富士の正義にぶつかって行こうとしている

その姿に心が熱くなるのだから、制止は出来なかった


自分のとなり走りださんばかりの勢いの敷島の手を止め、首を振る

妹の必死の手に敷島の目が、体が止まる


「何?何なの?」


未だ背中を射抜く末妹の意見に対峙できない富士は、小刻みに揺れる肩のまま体を八島に預けて


「八島、ねえ八島何が起こってるの?」


目の光りを曇らせた鬱の女王に八島は慈しみの目で優しく肩を抱きしめると無表情のまま、自分たちの背中にあらぬ暴言を飛ばした三笠に目を向けた


「敷島、これはどういう事だ?」


制止への行動に停止をかけたまま朝日、三笠を交互に見つめていた敷島に八島の低く凍った声が尋ねる

朝日の覚悟の伝わる手を離した敷島は狼狽し崩した自分の姿勢を正し

八島と真正面で顔を合わせた

怒りも何も現さない八島の端正な顔の中、翡翠の目の奥ある想いに敬礼すると


「どうかお聞きくだっ」

妹達の覚悟の深さを知る敷島の発言は丸太をへし折る音がごとく途切れる

同じぐらいの身の丈の敷島は八島の前にくの字に折れる、腹部に白の手袋で飾られた拳が直撃する音と共に


「敷島、どういう事だと聞いている」


動揺が水面を打った小石の波紋のように集まっている全ての魂達に伝播する

鎮守府一の鍛練を誇り腹筋を六つに割るほどの強健敷島が事もなく打ち倒されるという図は誰の目にも信じられない光景でしかないから

足もとに反吐をはいて倒れる敷島の前で富士は狂ったように叫びだした


「歓迎会はどうなっているの!!これはいったいどういう事なの!!」

血走る目の前に飛び出したのは初瀬だった

「歓迎会は初瀬が受け持って」

またも会話は鋭利に振り下ろされた富士の平手に切り落とされる

初瀬の頬は音高く叩かれ、唇から瞬時に赤い雫が炸裂した


「何してるのよ、私に敬意を示しなさい!!」

右から振り下ろされた左頬への殴打、そのまま一回転してみせた初瀬はフラフラしながら足を止めると目の前の出来事に身震いするお迎えの集団達に怒鳴った


「走れ!!走れ走れ走れ!!歓迎会の支度を今すぐにしろ!!」


大きく手を振って散会と叫んだ

魂達は顔見合わせ、初瀬の顔が必死に「逃げろ」と合図している事に気がつくと素早く敬礼を返して消えてゆく

それを八島は覚めた目線で見続けていたが、自分の前を猛進してくる三笠に気がつくと、羽根のようにその拳をかわした


「話し合いをしたかったから我慢してきた!なのに!!」


倒された敷島の姿に怒りを充填した三笠は八島に食いかかるが、豪腕は空を切る刃風ばかりが増して八島の体に絹一枚程も触れる事ができない

それどころか息が上がるほどの状態をものの見事に狙い打たれ、下から顎をブチ抜くアッパーに吹き飛んだ


「三笠!!」


整然としていた儀仗隊達も、揃った艦魂達も大混乱の舞台が広がる


あっという間の動乱の前、一人残され固まった朝日は両手を重ねて祈るように立ちつくしていた

目の前、表情を変えず息も乱れない八島の強さは圧倒的だった

噂に聞くばかりの姉だったが自分たち以前に帝国に嫁した出雲や吾妻、磐手。常盤も浅間も誰もが富士、八島には逆らえないと言い続けてきた意味がココに開示されていた


女王様のLoyalguardである八島は帝国随一の鬼教艦となった敷島さえ、チリを払う程度のものとしか見ていないという事実

武道における圧倒的な強さと、卓越した身体能力

自分たちの中でおそらく一番粗暴である三笠は一撃で吹き飛ばされ

入れ替わりで立ち上がったが足もおぼつかない敷島を容赦なく蹴り倒す


さらに倒れたままの三笠の腹を抉り込む蹴りを加えた八島、その衝撃に悶絶の血の泡を吹い挙げる三笠に、容赦のない富士の足が殴打を加える


「不届き者!!」


お嬢様の名残など消え失せた形相、緑の目の中に薄ら暗いマグマが燃えたぎる

何度も振りかざす足で三笠の腹に穴を開けんばかりの連打に朝日は泣きそうになって飛び出した


「富士姉さん止めて!」


悲痛の響きを耳に訴える朝日の声に、富士は返り血を顔に飾ったまま

「朝日、早く紅茶の準備をして頂戴。早くして頂戴」

視点のさだまらない目が朝日の心によせる恐怖へのボルテージを上げる、手も足もかばうはずの三笠に届かない


「すぐに支度させますぅ!!」


震え、動けない朝日の手を取ったのは初瀬だった

真っ赤に腫らした頬なのに、満面の笑みで敬礼をすると朝日と富士の二人を押した

「本日の紅茶はアールグレイになっております!支度までの時間をゆっくりとお楽しみください!!」


勢いよく二人を争いの場から押し出す初瀬に

「初瀬、私、」

「もしもの時は紅茶でしょ〜〜〜頼むね〜〜〜」とウインクすると転移の光で二人を飛ばした





昼を回った鎮守府には穏やかな風が水面を優しく撫でていたが、その地べたには異常な光景が転がっていた

敷島艦の付ける桟橋の真ん中に、三笠と敷島が埃と血にまみれた姿で天を仰ぐという景色

それを除けば本当に平和そのものの空の下で二人はうめいていた


片目が開かない程拳を叩き込まれ、腫れ上がった瞼の下で三笠は空に向かって血反吐をはくと富士の言葉を思い出した


「実力なきものが大きな口を叩くな!小物らしく控えておれ!」と

立ち上がれない自分の顔に唾を吐くという暴挙の前で三笠は吠えた

「ちくしょう…絶対に負けない」

力無い拳で桟橋の道を叩いた


「お前じゃまだ無理だ」


同じように放置され、横に大の字に寝ころぶ敷島もまた、両口の端を切り顎までを赤く染めた姿で


「お前はまだ未熟過ぎる。魂としても艦としても富士姉さん八島姉さんに敵なうところがない今のお前に、説得など絶対に不可能だ」


血に濡れた二人の頬を潮風が洗い、合うたれた各所の熱を再確認させる

「負けません!!!」

切れた唇から血の唾を飛ばして、最早声に宿らない気力で三笠は反論するが

「無理だ」

疲れ切った敷島は空を行く鳥を目で追いながら諦めたように応える

「やります!!出来ます!!」

掠れた怒声、完全な敗北に涙よりも怒りの三笠の前


白い靴が立ち止まり金ボタンを並べた士官服の男が二人を見つめていた


「人…?」


自分たちを上から見下ろす顔に三笠は顔をしかめて聞いた

艦魂を見られる者が「人」には希にいるという事に、もう一度男に問おうとしたが

阿賀野は目が合った三笠から海に顔を向けると


「敷島も…大きな船だな」と、どこかうわずった声で呆けて見せた


血なまぐさい午後の一時、三笠が思う以上に深い溝というものを体で思い知った日の出来事だった

カセイウラバナダイアル〜〜艦魂の設定〜〜


良く、艦魂って船のなんなんですか?という質問があります

ただ船に居着いているのならば、憑依霊という事だともいえますし

住んでいるだけで役に立たないのに戦記に入れるのはおかしいという意見もある


では

質問です

人間の心はどこにありますか?


そういうものだと、一番単純に考えていただけばよろしいかと思います

心は、どこにあるかと明確に言える人はいないと思います

哲学として、「自分の心はここにある」と胸を叩く人もいますが実際にそこにあるのかは不明ですよね


つまり

艦魂にとって

艦は体であり、女の姿で現れるものが心です


なんで女なんですか?という質問には答えようがありませんが

個人設定もありますので物語りを読み進んでくださいというしかありません

ただ間違っても惚れっぽい女の子が萌え萌えするためにいるわけじゃありません

これは個人的な設定でそうしているので全ての艦魂作家、諸先生方に当てはまる話しではありません事を注意した上でかきますが


ヒボシ視点でいけば常時の海の上にいるのであれば

艦魂は別に人間が好きだとかはないと思いますよ

むしろ偶発的に出会ったとしても「こんにちわ」程度のものでしょう



物語を盛り上げるためのファクターとして巧みに恋愛を使う事に反対はしません

深みのます愛情などはとても心を躍らせるからです

でも

偶発的な出会いから急転直下の恋愛だなんて、安すぎる


特にヒボシは女ですからね

女の感情から言えばそんな簡単に男になつく女なんて実に安いと思うんですよ

ましてや艦魂を描く作品の多くは、戦争という非常の事態の中にあるわけですからね

極限にある人と魂のふれあいを三文劇のような恋愛に書くのは、遺憾の意でございますよ

だから諸先生も創意工夫をもって色々書いていらっしゃると思います


良く人形遊びだと断ずる人もいらっしゃいますが

多分そういう方には世界地図も平たいものなのでしょう


物の魂のあり方は、見方捉え方もありますから千差万別です

戦いに使えないのに居るのは不自然といいますが

人間だって元々戦いを根ざしている存在じゃありません

兵士になる人、兵士という制度でなる人と色々いるわけですから


一元的に自分達だけが世界の主とかんがえるのならば

別にこんなに感情豊かな自然界なんか入らないのではとヒボシは思います

多層に別れる世界

各々の世界が同じ時間の中で流れていたとしても

物には別の意味合いがある

人とは違う意味の生


そういうものをヒボシは書きたいなぁと思ってます

なかなかできませんがwww

もっと達筆で柔らかい思考で物語りをつくりたいなぁと日々精進している次第ですから


アンチ艦魂などと虐めないでくださいませ

楽しく楽しくスイングぅぅですよ




それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜

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