第十八話 亀裂の根
やばい、時間が…
最近寒くなりまして凍える日々ですよぉ
三笠達が舞鶴で珍騒動と、これから大波の騒動を起こす日
横須賀でも少しの騒ぎが起こっていた
南鳥島領有問題
三笠が舞鶴に向かった頃、実は日本は一つの問題に直面していた
日本国の最東端に位置するこの島は明治の7年ぐらいから人が入植し
明治24年に水谷新六他46人の居住者をもって水谷村という集落を持つ島となった
26年には正式に南鳥島となり東京府小笠原支社に編入され、れっきとした日本国領土の一員となっていたのだが
この年1902年(明治35年)アメリカが自国領としての領有欲を見せ、先に領土として収奪したハワイから軍艦を出港させるという騒ぎが起こっていた
領有の問題ではイギリス政府からの指摘もあったため日本政府は敏感に反応していた
沖合に出ていた笠置を伴い、松島の派遣を素早く実施しこれを牽制
松島には海軍陸戦部隊を乗せアメリカに先立ち島に上陸
先手を打ったれた事に憤慨したアメリカもまた兵を上陸させるという一時は触発状態にまでなったが。結局イギリスの仲介を経て日本国の領土である事をを承認させた
この事件には国民の関心も高く
政府の迅速な対応とイギリスの仲介などは高く評価され
大仕事の殊勲艦として松島帰還は日本国旗の小旗を持った民衆にとって誇りの凱旋だった
「たいした事はしてないのよ」
横須賀鎮守府のメインバースは現在突貫で大型のドックを建造している
竜骨のような鉄の柱が森のように立ち並ぶ風景を横に、揃った仲間達の前で帰還の挨拶をした松島は照れくさそうに言った
実際島を挟んで対峙したアメリカの艦魂と世間話が出来るほどに
もちろん「人」の方はそういう訳にはいかなかったが松島にとっては撃ち合うなどという苦痛の対面に成らなかった事は幸いだった
とにかくこの出来事に「人」は大騒ぎだった
二等巡洋艦松島の菊花紋章は他の艦艇にある紋章のどれよりも華美で、その輝きがアメリカを怯ませ大日本帝国ひいては天皇陛下の威光を知らしめたものだと、でたらめな宣伝をする新聞記者が出るほどに美しい艦首はこの時ばかりは良く役に立ったというものだった
その紋章は乾いた空気と、どこまでも青い空の下でひときわ磨きがかかっていた
事実ココに戻る前、沖合で松島は艦体を入念に清掃してきた
磨き上げられた白の鉄壁は小さな宮殿がごとく、国民の目に麗しく映っていた
そんな騒がしい鎮守府を囲む人山を眺める松島の元に橋立の声がかけられた
「お疲れ様、姉さん遠かったから大変だったでしょ」
姉の帰参に無理して飛び出してきた橋立は白の医療衣という特異な出で立ちで挨拶を交わした
「無理しなくて良かったのに」
三景艦の姉妹の仲では一番健康的な体格だった橋立は今現在ほっそりと病的な痩せ方をしていた
骨という程ではないが痩せた指は見るのも痛々しい
顔色も青白い。元がフランス技師の手によって産まれた彼女は日本とフランスのハーフのような肌色で黄色というよりは色白だったが、今日はこんなに明るい陽の下あるのにくすんで見える程だ
「橋立、換装の方はうまくいってないの?」
顔色の悪い妹を気遣うように手を引く松島
姉の手をかり甲板の日陰に腰を降ろした橋立の手は小刻みに震えていた
「やっぱり気持ち悪いよね、お腹の中いじられるのは…」
南鳥島への派遣という緊張がたかまっていた頃
日本は既に北からの圧力的緊張に対する備えが始まっていた
海軍は海軍力の増強のために、新たな艦艇を購入すると同時に旧型艦の中でも現在でも使う艦艇の内燃機関の換装を行っていた
少ない戦力の改善は急務であり、多方面での緊張の中にありながらも手を休める事なく続けられていた
この作業に三景艦の中ではもっとも新しく日本人の手によって作られた橋立が先行換装をするという工事が始まっていた
主缶である片面焚き円缶12基を造船大監となった宮原次郎がくみ上げた国産型片面焚き宮原缶8基に換装する作業は甲板の一部を取り外し、中身をばらして行うかなり大がかりな手術で、魂である彼女には負担となっていた
「普通の船なら、こんな事しないのにね」
橋立は姉の手を握ったまま恨めしそうに目をつむった
軍属であるからこそ
北の脅威があるからこそ、存分に護り戦うために改装される自分たち
普通の船なら中身をいじったりなどそうそうするものじゃない事を思えば
自分たちが一層不憫な身の上である事も募る
「ゆっくり休んで、顔を見られただけで安心だから」
松島はそういうと彼女の写身である艦影を眺めた
乾ドックに入った橋立の艦腹に至るまでをキレイに清掃してゆく作業員達
秋風がドックの中に渦巻いても、作業に真っ直ぐ徒事し続ける彼らには汗が吹き出している姿が似合いすぎる
この改装に合わせ多く装備が改修を受ける姿の中
松島はぼんやりとした顔で聞いた
「無線機…っていうの、あれも付くのかしら?」
出航前自分にも取り付けが予定されていた機械の事を思い出して
「まだ陸地と実験船の間でやってる機械だよね」
日陰に腰掛けた松島のとなり、吉野が水を持って並ぶように座ると
「今日もプリンセスが実験で出てるよ」と沖合を見渡す突堤に立つ通信塔と小さな小屋を指差した
「あれは試験の結果がよければ全ての艦に着くらしいよ」
吉野の指差す方角を見ながら集まった仲間のために茶菓子をお盆に乗せて高千穂は松島の前に座り
「三笠司令と敷島型には試験的ですがもう付いてるらしいですけどね」と口をすぼめた
「三笠に付いてるのは知ってるけど…私には付くのかしら…」
差し出された茶菓子に手を伸ばすことなく、どこか切なげな表情で松島は改修のため橋立のマスト部分にかけられている足場を見つめている
「あれが、着いたら佐世保とか…舞鶴に声が届くのかしら?」
「それはないでしょ、まだ15海里(27キロ程度)ぐらいしか飛ばないっていってたし」
揃って日陰に座った松島達の前、珍しい顔ぶれの魂は真っ白な歯を見せて笑う
防護巡洋艦の和泉、艦魂和泉は甲板に置かれた茶菓子を先につまんでから敬礼した
「ご苦労様でした」
ココに集う艦魂の中ではめずらしく水兵でもないのに良く焼けた褐色の肌にちょっと悩ましげな垂れ目のブルネットはキレイな姿勢で真っ直ぐな敬礼を一瞬したが、すぐに崩れて松島の隣に座ると
「東京とかぁ、鎮守府に通信とるのは海底ケーブルになるハズらしいですよぉ」
松島が静かな色香を持つ女ならば、和泉は活動的な色香を持つ女というイメージ、ただしゃべり方は少し子供っぽい
彼女もまた海軍力増強のための改修を去年から受けていた
主砲の換装などで横須賀の工廠に入っており、本当は橋立と交代でドックを出る予定だったが例の南鳥島の一件で工事がおくれ現在やっと最終段階という状態
おかげで休暇が伸び松島の帰りを待っていた一人だった
「児玉の源さんが、こないだ台湾と福建の回線買ってたよね、あれにつながるの?」
意外と海軍の情報を盗み聞きしている高千穂は、勢いよくたくさんのつまみを持ち去ろうとする和泉の前からお盆を引きながら聞き返した
「そっだよ、そういうのが全部つながって、海の情報をいち早く私達がキャッチ、近場の基地でキャッチ、それをケーブルやら電線使って東京とそれぞれの鎮守府がキャッチするってしくみだから最後は私達の声もどこにいても届くことになるのかもよ」
「どこでも届く…」
胸に小さく拳を抱いた松島に
「便利だよね、そうなると何処にいてもいつでも姉さんと話しができるなんてステキだわ」
肩に寄りかかった橋立は力無い体で応えた
のどかで松島の帰還を祝う大衆の歓声の影で一隻の艦が、静かに入港してゆく姿を見つけて
「明石…」
「ヤーイ、ヤーイ」と手袋を何枚も重ねた大きな手を振って、今日は朝からフル回転のタグガール達、陽気に働く彼女達の前
横須賀鎮守府にニブイ金属音を水面に響かせながら防護巡洋艦明石が入って行く
「普通に入ってくね」
巡洋艦浪速の艦尾に集まった中の一人、日除けのキャンバスの下で吉野は迎えの敬礼もない中で進む明石の姿に残念そうな溜息を零した
横須賀駅近くのドックヤードに集まる人の視線を避けるように仮桟橋の側に入って行く明石の艦首付近、白い艦体に残る赤いひっかき傷と少しの衝突跡
怪我をしているのに修理ドックにはすぐに入れないという姿
室蘭から、発足したばかりの大湊水雷団の元に向かっていた明石と漁船がぶつかるという事故が発生したのは一ヶ月前の事だった
大湊水雷団停泊港の竣工祝いに寄る予定だった明石は「縁起が悪い」と入港を断られ、その上で一度太平洋側に難を逃れていた
漁業権の制定は一度目、二度目と明治政府の失策により混乱を極めていた
この上で海軍の船が漁船を跳ねたなんて事が大々的に報じられる事になるのは、よろしくないという判断と、漁場争いは民間が法規に従わず違法を侵して行っている事を楯に逃げ切ろうという考えがあったからだ
なんともお粗末な事態の中、明石は祝いの日の影に隠れこっそりと横須賀に入港させられたという状態だった
実際、夏から秋に進む太平洋沿岸部での漁業合戦は本州と北海道を結ぶ旅客ラインでもお構いなしに行われていた
それがいつか大きな船とぶつかるのではと心配されていた矢先の事故だった
何事も無いように、修理ではないように桟橋に付けられる明石の姿を見つめる艦魂達
そこに煌めきの輪が現れ、光の粒を甲板に零すと浪速が姿を現した
「どうだった?」
現れ自分の体にかかる光の粒を払う浪速に吉野が駆け寄ったが、渋い顔は
「駄目、どうしても出てこない」と首を振った
入港する明石に先立って事故の事を気遣った浪速は彼女の元に飛んでいたのだが、部屋前にて具合を聞く声にも何の反応もなかった
「跳ねたって…五艘も、それだけを言い続けてた」
気苦労の上塗りをしてしまった浪速は大きな溜息を落として、今まで戸口の前にたって話しをした明石の言葉をみんな告げた
「明石が悪い訳じゃないのに…」
小さな吉野はその場に座り込んだ、悩み事や悲しい事があると肩をすぼめて小さく座り込むのは彼女の癖だ金色の髪に表情まで埋めて小さくなる吉野
その肩を高千穂が抱く
浪速は事故当日の事を大湊に寄港した比叡から、比叡の話しを持って帰ってきた高雄に事件の内容を聞いていた
北清事変から帰った彼女は津軽海峡などの警備をしていた事で北の海には詳しかったが、事件の話しの中でも、今回は運が悪かったと話していた
「松島お帰り、疲れて帰った日にこんな話しで申し訳ない」
松島の帰参に浪速が挨拶する事が出来なかったのは、松島を先に入れる事でこの話題を避けるという海軍のもくろみの元、明石が外で一時停泊させられていたからだ。只でさえ事故で心を痛めているだろう明石の事を思えば居ても発っても居られなくなった浪速はいち早く飛び彼女を慰めようとしていたのだ
「どういう事か教えて」
松島は相手の心を思い、知らぬままではいられない事故の内容を司令艦らしく聞くことにした
事件のあった日
当日は北海道でも移流霧が発生しており、濃い海霧の壁を見れば漁船はおろか艦艇でさえ航行を遠慮したいと思う程だったそうだ
だが軍属である明石には海軍によって決められた軍事規定があるし、大湊に新設された水雷団の祝いに駆けつけるのは義務でもあったため、ゆっくりと室蘭を航行していた
その日が霧であろうと雨であろうと大時化でもない限り漁船達にとっては漁に出る状況は変わらなかった
霧が多く出ていれば多数の船を連ねての霧が晴れるまでは艫綱でつながっていれば漂流の恐れもない事を良いことに船団を組んで漁に出ていた
綱によって各々結び、船ひき網で鰯漁をしていたところに明石は突っ込んだ
視界は600メートルを切る濃霧の中での出会い頭だった
漁船側には何かしらの音は聞こえていたハズだった
何しろ相手は石炭を食い19ノットで海を走る鉄の固まりなのだから、だけど客船が通っても貨物が通っても漁は止めない彼ら
今までぶつかった事もない、そういう甘い考えでいた「人」の判断が大惨事につながった
一方の明石の側は警戒警備の状態で海を進んでいた
自分に乗る水兵達が目を凝らし四方を注視するように、艦魂明石も白く染まっている壁の海を注意深く見回していたが、600メートルを切って目の前に現れた漁船団を回避する術は人にも魂にもなかった
「避けて!!!」
自分の両手を前に突き出し、逃げろと叫んだ瞬間には艫綱でつながっていた船団の真ん中にいた漁船を押しつぶしていた
木で作られた漁船が鉄の塊である明石に敵うはずもなく
「いやあああ」
目の前、粗末な着物姿の船魂はあっという間に体の真ん中をへし折られて千切れ沈んでいった
頭に日本手ぬぐいを巻き、潮に焼けた肌の素朴な瞳が最後に写した光景はあんまりまものだったに違いない
同時にそれを見ていた回りの船魂達はつながれた綱に引きずられる形で明石の艦首に連鎖的にぶつかり、そのまま二艘が沈んずみ
止まることの出来ない明石はさらに二艘を跳ねた。一艘は船首を切断され魂は首を皮一枚でつないだ斬首のまま立ち続け血霧をまき散らして沈み、もう一艘は船腹を突き押される形で腹をブチ割られ転覆、あっという間に沈んでしまった
事故から生還した船魂に高雄が聞いた話は壮絶なものだった
残された彼女達は共にいった仲間を目の前で失い、その仲間の主も失った
自分たちを繰る主達が困窮の生活の中でどんな海にでも漁に出なくてはならなかったのに、どうして殺されなくてはならないのと泣き叫びいたたまれなかったと
水雷団の港に寄港を断られたため、洋上での補給を受けざる得なかった明石と顔を合わせた時の事を高雄は言葉がなかったと浪速に告げ、次の警備に出港する前に一言
「やりきれない」と零していった
「しんどいな」
事故の全容を理解した上で、少しでも励まそうと明石の元に飛んできた浪速だったが、いつ何時自分たちが同じ事をしてしまうかワカラナイという結論に、今はただやっとで桟橋についた明石と、事故以来の上陸をする水兵達の姿を見つめるしかなかった
「通信機…あったらよかったのにね」
言葉を無く
ただ静かに停泊した仲間を見つめる中で松島は零した
それは木造の船に最新鋭の器機を?というトンデモな発言にも思えたが、ココに揃った全ての艦魂はそれが良い解決策だと心から思った
「漁船にもつけれるぐらいになったら…こんな事…」
浪速も深く頭をおろし壁にもたれかけるのみだった
「通信機…私も早く欲しいわ」
松島は色々な思いの混ざったまま、悲しみ色の海に佇む明石を見つめ続けた
「言っておくが、私はお前達の意見を正しいと認めたわけじゃないからな」
松島の帰還と明石の事故の件で浮き沈みをしていた横須賀艦魂達とは逆に燃え上がっている艦魂達は舞鶴鎮守府に停泊している戦艦敷島の長官公室に集まっていた
その中、別珍でキレイにメイキングされたテーブルに両の手肘をついた姿勢で妹睨みながら敷島は、太く戻した声で告げた
「何故ですか」
すっかり夕暮れ時になった舷窓から紫の海を眺めていた三笠が振り返ると姉に顔を近づけて
「どうして仲良くはできないのですか」と迫ったが、敷島は手でそれを軽くひねるように押し返しながら
「先ほども言ったように、最初に線引きをしたのは松島司令達でありそこに原初の蟠りがあるという事。もう一つ松島司令達はすでに第一線で戦う事はない。だから当然の事、私達と演習などしないし、意見交換も意味がないからだ」
和解の後での反発に三笠は額に亀裂を浮かび上がらせて、両手でテーブルを叩いた
「たとえそうだとしても同じ帝国に徒事する者として」荒げた声の口を敷島は手早く叩く
唇を叩かれ三笠がイスから転げ落ち黙るのをみながら
「線引きに関しては「個人レベル」で解消しろ、それを咎めたりはしない」
敷島は手早く自分の意見を告げると手元に置いたコーヒーを啜った
「そもそも来年、艦隊編成の改訂発表で松島司令達は第三艦隊となり帝国では一番鈍足な戦隊を組むことになる。そうなれば共に学ぶ事などなおない、彼女達と私達では適用される戦略のレベルが違うからな」
猛烈な痛みの唇を押さえたまま起きあがる三笠が反抗の声を挙げようと再び顔を迫らせるが、努めて落ち着いている敷島は素早くデコピンをして妹をはじき返すと事務的な口調で問題点をあげ続けた
「お前達は戦いの経験を聞きたいと言うが、松島司令達とてあの黄海の戦い以外ではまともな艦隊戦などしたこともない。さらにスピードの上がった現在の海戦術などともなれば彼女達は蚊帳の外だ」
苛立ちを現す指が手元に置いた戦時録を叩く、敷島の態度はどこか揺れている
小首を振った朝日はそれら事務的な事にかくされた部分に切り込むように姉を見つめると
「敷島姉さん、そういう事ではありません。戦術や経験も大切ですが同じ帝国に嫁して者としていがみ合う事を止めたいのです」
真実との対峙を迫る真摯な目は姉の言い訳を見抜いていた
敷島は二の句をつまらせると沈黙してし、脳裏に残る問題の主とその逸話を思い出していた
顔を照らし始めた黄銅色柔らかな光放つランプの前で、同じ輝きが鎮守府の各所に灯り始める中
朝日は外に響く声に目を向けた
桟橋から向こう初瀬艦の甲板の上では、明日のお迎えのための練習をする艦魂達の真ん中で初瀬が楽しげに指導しているのが見えるが
大仰過ぎる出迎えの準備には違和感しかない、初瀬がそれを指導するのが今までは戯けた態度の延長だと思っていたが
今ならば
愉快な策士である初瀬ができる事で、彼女達との溝を埋めるための緩衝材として働いているという事が理解できた
明日来る者達
そういうお迎えを自分たちに強要する者達、そうする事で戦いに尻込み続ける松島達と自分たちを区別する事を宣伝しているのがわかる
松島達の拒絶の線引きに乗じて帝国海軍艦艇に亀裂を作り大きな壁を構築した張本人は
前の戦争が終わった跡、帝国の主力艦として横須賀に入港した日
横須賀鎮守府の桟橋に集まった艦魂達と共に、ウエルカムと挨拶をした松島の握手をはね除けて
「フランス艦艇なんぞギロチンに散った誉れ無き下女のパーティーシップ」
艶やかな唇が嘲りを花束とし向けた言葉
凍り付いた桟橋の中に艶やかに咲いた花は
「戦いを恐れる者が私を見下した目で見ているなんて許されないわ、絶対に許さないから」
白き肌とプラチナゴールドの御櫛は、自分の誕生と受け入れに喜びではなく来る戦いという不安と戸惑いを持っている松島達を罵倒した
乾いた風が吹く1897年10月31日の事であり
今日同じように秋の風の吹く頃だった
以来広がった亀裂
敷島はそれを事務的な事と現実的な問題であるという見方で区別をしようと努めていた
蟠りを持つ帝国の艦艇達に
旧型艦である松島達との亀裂を、艦体性能によって分けたと思いこませてきたのだ
そうでもしなければ「心」が「心」を拒絶する亀裂を修繕する事はできず、改善の余白を見つける事ができなかったからだ
敷島は彼女なりの努力をして松島達の前に立ち続けていたのだ
窓を揺らす海からの風の舞
部屋の中で沈黙の時間を過ごす二人
敷島は冷えて湯気を出さなくなったコーヒーを喉に流し込むと
解決を望む妹のために気持ちに区切りをつるように音高くカップを下ろし乾いた唇をしずかに、ゆっくりとした口調で亀裂の根に関わる事柄に触れた
「朝日、先月会った時、姉様は相変わらずだったか?」
重い口調が、諦めながらも自分達が努力をして帝国海軍に残る亀裂を埋めようと促す妹に聞いた
「ええっ相変わらずの、お考え方でした」
静かな会話が続くことに堪えられない三笠が間を割って入ろうとする姿に朝日は、丁寧に自分で焼き上げたスコーンを差し出した
暗に黙っていろと
「食べて」
「はい」
朝日のおっとりした中にも毅然とした押しに、早い解決を求め苛立ち続けている三笠だったが、原因を知らずに手を振り上げるのも出来ぬ事と、与えられたスコーンをかじりながら話しを聞く側に徹すると
顰めた目の二人を交互に見る
朝日は頭痛の中に浮かぶ問題の姉を思い出していた
三笠が舞鶴に回航された後の事
そこで久しぶりに朝日は彼女と顔を合わせていた
そもそも三笠が日本に来て早々横須賀から放逐されたのには理由があった
別に松島達との仲の悪さが人に知れてそうなったという事ではない
本来なら、これから来るやも知れぬ戦いに備えた最新鋭の戦艦、横須賀鎮守府の手元で艦隊訓練などを十分行ってもよかったハズの場所には
三笠に準ずる戦艦も防護巡洋艦も居なかった
居たのは三笠を舞鶴に送り出してからの用事のため表向きの対面をする朝日と初瀬だけだった
朝日と初瀬が佐世保から横須賀鎮守府に来ていたのにはそれなりの理由があったのだ
七月一日に横須賀を出港した三笠、その翌日実はロシアの戦艦セヴァストポリが横浜に寄港していた
前々日に長崎に着き、皇国の首都に足を踏み入れた者達。緊迫高まる両国間の間に、ロシア帝国ボリス・ウラジーミロヴィチ大公が世界一周旅行の途中と称して日本に寄港していたのだ
ロシアの大公がどんな目的で日本に来たのかは計りかねるところがあった
焦げ付き始めている両国の関係を改善するためにきたのか?
それとも戦艦を引き連れた威圧的外交なのか?全てを見計るのに時間はなく
とにかく日本政府の警戒心は高かった
それが三笠の存在を目に見せぬという方法に行き着いていた
軍事的視察もあるのならば手の内は半分しか見せぬのが常套
目的がわからぬ相手だからと不遜な招待をする事は出来ない政府は大公の引き連れた軍艦に対して、朝日、初瀬、富士、常盤の四隻をもって歓迎を示した
桟橋に並んだ日本艦魂達の前
白銀の髪をなびかせる艦魂セヴァストポリは極めて機嫌良く
外交特務を良く心得たドレス姿、黒とシルバーのサテンで編み上げを飾ったコルセットに胸元も美しいフランス製のワイヤーリボンのオーガンジーを身にまとい、尊顔の美しさに劣らぬ美しい英語を披露して朝日達を驚かした。魂としてはとても印象の良い女だったが
その後ろ姿を見つめていた問題の彼女はセヴァストポリ白眼視していた
「きたならしいわロシアの船は卑しい者、松島に良く似ているわ」
事なく進む親善の中で、艦魂同士の夕食会が催されたが彼女は顔を出さなかった
朝日はセヴァストポリを始め揃った各国艦艇艦魂達に体調不順とおよそ魂らしくない言い訳で難を逃れたが
あのキレイな唇から、背筋も凍るような罵倒を躊躇無く吐き、美しすぎる煌めきの瞳が蔑みの視線のまま歓迎の場所にいた事
まだ相手が過ぎ去る前からの言葉で相変わらずの危険な思想の持ち主である事を再確認した形となっていた
思い出す落胆の事実に耳よりこぼれた栗色の髪をかき上げる朝日は、変わらなかった彼女の言葉に亀裂を結ぶ糸を見つけられないと自らが確認してしまった事で関係の改善が難しいという思い知らされた
曇った顔で深い溝を好む混乱の主の今について敷島に知らせた
「「下女と食事などしてよいわけがない」と、言い切られました」
妹の失念に顔を下ろした、敷島は長い溜息の後に
「相変わらずの絶対帝国主義か」と朝日と同じように肩を落とした
落胆まで続いた二人の会話に今ひとつ内容がピントが合わない三笠は、渋い顔で両人に尋ねた
「あの、それはどういう意味なんですか?帝国主義ならば、共に戦う帝国海軍の艦達にとっても良い規範となるのではないのですか?」
ロシアを嫌っているのは日本の艦艇には多いと三笠は考えていた
いずれにしろ日本に仇成そうとしている大帝国の艦艇達が、日本艦艇取るに足らずと見下した顔を見せる前に、舐められぬための釘の一刺しのような発言にもとれたのだ
「帝国を主義の真ん中に持っているの悪い事ではないと思いますが?」
「どこの帝国主義かだ、それが問題だな」
呆けた三笠の質問に敷島はランプに照らされた尖り目を輝かせた
それはまだ三笠の知ることのない強烈な壁の存在に打つ手を持たぬ姉達の苦悩でもあった
高く上がった太陽
舞鶴の緑深い海の上を鎮守府に向かって走る白亜の軍艦が見える
水を割り進む姿に朝霧の中を浮かぶ漁船達も目を奪われる
ススによごれたまま船首から見上げる素朴で丸めの前を白亜の鉄の城は進む、艦首に本物のフィギュアヘッドを頂いて
黄金の髪を水面に写しローブを纏った魂は自分を羨望の眼差しでみる船魂達に目もくれず
「敬意を示しなさい」と顎を挙げた
風を切る音と、鳥たちの賛歌を受ける顔は磨き上げられた艦体の自分をうっとりと見つめると
自分の後ろに姿を現した魂に手を伸ばした
白の美しい指先を飾るピンクの透明感高いネイルを絡ませる
「八島、ねえ八島どんな妹かしらね」
柔らかな声で、手を引く八島の肩に顔を寄せ若草の色を浮かべた瞳を合わせる
鏡を写した姿の二人、目も鼻もどこもかしこもが一つであった自分を分けたかのような姿
整えられたネイルの指が八島の顔を撫でる
無言の八島は富士より少しばかり短い髪を揺らし優しく微笑むと、肩に寄せられた彼女の髪を撫で
「富士の思うとおり大英帝国の血を引く良き妹だよ、きっと」
相手を引き寄せ抱きしめた
突き抜けるほどに高い青い空と静かな海、恋人達が世界を楽しむような穏やかな時
それを人は嵐の前の静けさともいう
舞鶴鎮守府に嵐の一日が始まる
カセイウラバナダイアル〜〜訂正〜〜
前話で大湊警備府は開墾された当時の名前ではないというご指摘をうけて治しました〜〜〜
色々間違って居るところがあるとおもいますから、教えてくださる方大歓迎です!!
今話での防護巡洋艦明石の衝突事故はフィクションですが
当時実は少なくない事故の一つだっという事だけは事実です
さらに今回セヴァストポリというロシアの艦魂が名前で登場
この事件の記事関係は米問屋先生のバルチック艦隊の精霊絶ちから引用させていただきました
アジセンに記事がある事もおしえていただき
ちょっど年数もあうし…出させていただきました
セヴァストポリの容姿に関しては、ヒボシ設定でプラチナブロンドと、さらに武力外交を美化するを意識したドレス姿で登場
けっこうに意地悪な形での出演をして頂きました
個人的には身長もかなりある感じでいます
177センチぐらいでウエスト超細い系、北の大地の若い女には絶対いる天然のアイシャドウ入ってる感じwww
モデルはB○ACKLA○OONのバ○○イカ的なやれば高圧的なイメージもありみたいに
それにしてもこの頃の日本にめまぐるしい社会情勢の中にいたんですね
今がいかに緩慢に流れているようにみえているかと考えさせられます
次回は…
すでにやばい兆しムンムンのお二方
どうなる三笠!!乞うご期待www
なんか宣伝しちゃったぞwww
それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜