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第十七話 紅茶の盃

88円のビールがけっこう旨い…どうしようやめられないよぉ

朝靄、海の上を走る霞みたちの下で遅い顔を覗かせた太陽

水面付近、夜の尻尾が広く薄く残る時間、舞鶴鎮守府は活動を開始する


湾に身を写す山はまだ緑を多く残すが、朝吹く風に夏の気配は少なくなり、北からの冷たい空気が匂うようになった九月下旬

舞鶴鎮守府に入る湾口正面にある分岐の島として灯台のある戸島から白杉漁村を挟んだ島の反対側で錨を下ろして沖止めしている艦の上で彼女は湾口を見つめていた


戸島は明治三十年に舞鶴軍港造成地二区画に入りそれ以降海軍の島として利用さるが今のところ手つかずで狸が島の住人である


「眠いっス」


背伸ばしに欠伸するのはこの船、砲艦鎮西ちんぜいの艦魂鎮西、愛称西にし

明日来る二戦艦の為にバースを開け警備も兼ねて沖に泊まっていた

彼女は肩に掛かる栗毛も結う事なく舞鶴湾の入り口を目をこすりながら見つめている

170センチ、ひょろりとススキのように痩せた体格の彼女の肩から滑り落ちそうなセーラー、緑の目は欠伸で出た何度目かの涙を軽く手で拭いながら、明日のイベントに先駆け湾に入る船の燈火を待っていた


だぶつく水兵の服に着られるような貧相な体格の彼女だが出身はイギリス、ニューカッスルのアームストロング社で作られた砲艦で誕生という血筋は申し分ない艦

なのに水雷艦魂と同じ水兵の制服である理由は、元大清帝国の戦利艦だから

元北洋水師出身で威海衛いかいえい攻略戦で捕獲され鎮遠テイ達と共々日本に来た彼女は元の階級である佐官から尉官に落ち現在の姿になった


姉に鎮東ちんとう以下妹達に鎮南ちんなん鎮北ちんほく鎮中ちんちゅう鎮辺ちんへんとおり

姉妹全員が捕獲され、仲良く日本に引っ越してきたという艦魂。元北洋水師の艦艇としては極めて幸運な艦だった


そんな鎮西も、捕獲された当初は自分たちのこれからと身の上の心配をしたが、多くの仲間が酷く扱われる事なく帝国海軍に編入され、自分の姉妹達も各々の海域で警備艦艇として働く事になり、自分達は国家間の転職したんだと心に区切りをつけ転落で地位を落としたが蟠りを持つことなくこの仕事に徒事していた

彼女はかなり楽天家でもあった


「眠い、比叡さんまだかな」


今日はここに三等海防艦となり雑務の多くをこなす比叡が戻ってくる、定刻ならもう後少しでつくハズで汽笛が聞こえても良い頃だ

肌を撫でる冷えた風をうけながら、もうひと欠伸

警備も兼ねているため眠らず湾口の見張をしているのだが、靄が出ている事を考えれば多少の遅れはあると考えた鎮西は、十分に回りが見渡せる場所に腰を降ろすと趣味のスプーン磨きを始めた


彼女は自分の手の中でニブイ輝きを取り戻していく食器が好きだった

自分の手で輝くものを作りだしその光りが希望になるのではという一種のおまじない的意識から始めたものだったが、いつしか評判のお守りになっていた

彼女の艦生などと合わせて幸運のスプーンなどと言われ水雷挺の子達がよく譲って欲しいと来るほどになっていた



「カレキカレキ」


無事カエルの祈り言葉を鼻歌まじりに磨き込む

廃品で捨てられるような食器が、新品の鋭利な輝きとは違う優しい輝きに変わる

寝ぼけた顔に鼻歌まじり、内舷マッチで丁寧に重ねて磨く


前の故郷だった清の小唄を静かな波の音に乗せて朝靄の中に響かせると、汽笛が合わさなった

スプーンを持ったまま鎮西は立ち上がると艦首の砲から向こうに微かな影になってみえる船を確認した

自分と同じように少し寝ぼけた表情の比叡をみつけると大きな声で叫ぶ

「おかえりース!」


波を揺らす大きな声の出迎えに向かって比叡は両手をふって応えた




「おかえり〜〜比叡さん〜〜」


自分の隣に錨を下ろした比叡に鎮西は敬礼無しの挨拶を交わしていた

比叡は眠そうな顔で瞼を半分落とした顔のまま

「つかれた〜〜」と自分に駆け寄った鎮西の肩に頭をつけた


階級的には比叡の方が遙かに上なのだが、彼女はそういう上下の関係に厳格なところがない魂で自分に懐く鎮西にも敬礼などを強要しない

かつては敵同士だった二人だが、比叡の大らかな性格と鎮西の楽天的な性格がマッチしたようですこぶる仲良しの艦魂だった


「今回はどこまで行ってきたっス?」


清との戦いの時既に老朽艦に片足を突っ込んでいた比叡だが、今現在でも仕事は多い

四ヶ月前にはイギリスから日本へ横須賀鎮守府に初入港した三笠をお迎えの随伴をしていたりと働き者だ


「大湊だよぉ」


鎮西の肩に抱きつくように頭を押し付け「疲れた」を連呼する比叡は、顔を起こすと指で日本の東北地方をぐるりと回ってきたと示した

「ありゃま大変だったスね」


まったくだよと、比叡は少し掠れた声でこたえながらまた大きな欠伸をした

老朽艦、前の戦争の時でも吉野や浪速に着いていくことができなかった彼女、そのせいで手足を失うという死んでもおかしくないぐらいの傷を負い内地に戻った

そんな大けがを負った船だったが、大破でも浮いているというの限り簡単に廃棄などしなかった帝国海軍


もちろん貧乏帝国の懐の事情もあったのだが、とにかく改修修理され現在も海を走り帝国の仕事に徒事している

三等海防艦比叡は長い栗色の髪を引っ詰めた姿、鎮西とは身長も近い


「大湊は基地ができたとかで?」

「そうよ、室蘭に鎮守府つくる見たいな話しが流れて、ぐだぐだしてたんだけどぉあれでしょ露助ロシアが上にいるのに何の備えもしないわけにいかないからねぇ」

そう言いながら詰めていた髪を解くと頭を左右にふって疲れを振り払い

「でも基地って程でもなかったよ。できたばかりで何もなかったもん」と戯けた顔をした


北からの脅威に対しての備えとして

大湊が海軍によって開墾を受けたのは1900年になってからだった

北を護る基地の選定自体は海軍条例に基づいて10年も前からあったのだが、攻撃に対して防御面が脆弱であると第一選考の室蘭が外され、そこから5年後に大湊が選ばれ

着工されたのが2年前で、この年1902年8月に開庁した


ただ、比叡の言ったように今は何も充実してなく水雷挺が四隻しかおらず、固有の艦艇もおらず工廠もない寂しい場所だった


「まあ、水雷の子達が歓迎してくれたからそこそこ楽しめたけどね」


比叡はそう言うが横須賀から来た都会の士官に、転属によって横須賀隷下の基地とはいえ田舎娘になった艦魂がはしゃぎたかった。そんな所だろうと鎮西は笑った

二人は艦が完全に泊地に固定される時間をあれこれと話した

最近特に荒れている北の海で演習に出ていた防護巡洋艦須磨の妹が漁船を跳ねてしまった事や、鎮西の妹の一人が室蘭に勤めたはいいが寒くて愚痴りっぱなしだとか




「ところで、なんで沖止めなの?」


錨を止まった自分の写身から水兵達が威勢良くカッターを下ろしている姿を見ながら比叡は不思議と考えていた

大湊から長い航路で帰ってきて「人」も早く陸に上がりたいだろうに鎮守府の前港に付けることが出来ないのは、いささか不憫な気がしていたのだ


「あれ、連絡行ってなかったスか?明日、グレートブリテンの女王陛下が来るんスよ」

「うそ…」


互いに眠そうな顔を見合わせていた二人だっが、鎮西の陽気な声に比叡の目が丸くひらく

「まじで…」


嘘と言ってという目の前、水面の空気も冷たく走る

固まった比叡の前で笑顔で頷く鎮西

湾内に漂っていた靄のように、ぼんやりと話しを言い聞きしていた比叡の眉が肩共々元気なく下がる


「連絡入ってなかったスか?」

「いや、めんどくさくて見てなかった」


比叡は水兵達が走り回る舞鶴鎮守府の府庁舎を見る方角にしばし顔を向け、鎮西の顔に目線を戻して

「デンジャラスクイーンが来るの?という事はウェールズ大公も一緒よね?」

「そうっスね、お二人揃って御出になりますよ」

冷たい秋の香りが一風する


「なんでそんな時に呼び出されるのよ…」


風に押されて背中が前のめりになる、疲れた肩の上にさらに錘を落とされたように

あんまりの事としなだれる比叡だが、軍事のための連絡をしっかりと読んでないのも悪い

目の光りない姿を水面に映した友達にとりあえずでも日程をと鎮西が小さくなった背中に説明をした


明日、戦艦富士,八島が入港する理由

現在舞鶴鎮守府には帝国海軍の代表艦艇である敷島、朝日、初瀬、そして三笠が揃っている、海軍の念願の六六艦隊の筆頭六戦艦が揃うこの港の司令官東郷平八郎の言により、艦隊運動などの大演習を行おう

そのために演習予定海域から漁船を閉め出す仕事に折良く警備巡回していた比叡が呼びつけられたという事


「女王様はおいといて、比叡さんの仕事はこれですね北の海とかと一緒、どこも漁船が魚の取り合いだから」


未だ遠洋に出られず沿岸での漁場も取り合いする日本国の食卓をまかなう船達

北からの脅威や、統治機構が定まらぬ大韓帝国、そのためにあぶれ出た者達が海賊まがいの略奪をおこなったりという事件が多かった

だから漁船達は同じ漁場にあつまってしまう、それは鎮守府周辺だって例外じゃない

大政官布告以来の漁場紛争は外界からの見えぬ圧力も相まって、取り締まる側までを巻き込んだ事故となり後の立たない状態が続いていた


「辛いよね、須磨の妹だって好きではねちゃったわけじゃないのにめっちゃ落ち込んでたよ」


立っているのも疲れたのか比叡は甲板に座って、鎮西が用意したアメに手をつけ登り始めた太陽の頭に目を細めて話しを一通り聞いた


「それにしてもまあ、その用件ならクイーンが来ても私達が被害にあう事はなさそだね」

横座りの比叡の横に、いつの間にか並んで座った鎮西は

「女王陛下は、わちきらには興味ないスから大丈夫ですよ」と笑うと立ち上がり

いよいよ瞼が重くなってきた比叡の手を引いた


「とりあえず帰参の挨拶、敷島少将に言ってから寝ちゃいましょう!」


立ち上がっても足取りもおぼつかない比叡の肩に手を回し

「挨拶終わったら寝ちゃっていいスよ、わちきが部屋に投げ込んであげます」

さらに口を横に広げて笑った

疲れ切ったところに、ありがたくない情報を知った比叡だったが、友の心使いに頷くと

「そうしてぇ〜〜」と甘えた声で笑い返す

海草のように揺れる体の比叡を支えながら鎮西は光の輪を現し、比叡と共に姿を消していった


しかし待望期待の休暇で自由な睡眠への道に彼女達が入ることはなかった





水面にいよいよ自分の威光を広げ始めた太陽の下

朝日は結い上げた亜麻髪からほつれる後れ毛の首に手を置いて、自室に差し込む光に目を細めてみた


「朝になった…わね」


薄地のカーテン越しに見える太陽

長官公室を模した部屋には格子のデザインが几帳面に織り込まれた赤のカーペット、部屋の真ん中に鎮座するテーブルとそれを覆うクロスは濃紺に染められた別珍

イスも暖かみの中に機能性を取り入れた木製のもので、ちょっとした高級住宅の一室のような朝日の部屋


艦魂は艦の内部に、ある力を得て部屋を持つ

部屋の出来や作りについては艦長室などを真似した形のものが多いが、妹の初瀬はかたづけられない自分を良く知っているのか窮屈なボックスタイプの部屋に住み

三笠は体育会系を具現したかのようにベッドしかない

「不必要な物は置きません」という三笠の弁に朝日はカッターシャツを羽織ながら含み笑いをした


三笠がまだ自分の時間を作る為の部屋という空間を大切と思っていない事が子供っぽく思えたのだ


静かな足取りで窓にひかれる赤のカーテンを開ける

朝の澄んだ空気の上を真っ直ぐに走る太陽の光に目を細め、唇に指を添え声を出さない笑いのまま夜から続けていた作業が一段落ついた事に満足した朝日はティーポットの準備をする


どんな時もまずこれがないと落ち着かない

新しい朝を紅茶で向かえて、一日を始めるという習慣


軽やかな指が軍令部付けで作られた机の前棚を開ける。中は半分を書類、半分を茶葉の区分けをしてキレイに使われている


鼻歌も軽やかに

お気に入りのカップを出す

今日はロイヤルウースターのペインテッドフルーツ

カップの内面を金色に塗り上げ、外側をイエローペジュさらに抽象画的果物を配したデザインで特別な休暇になるであろう今日の日の自分を演出してゆく

リチャードジノリのベッキオホワイトも清楚で好きだが、今日の朝には少し物足りない

秋に似合う紅茶はダージリン、小さなガラス瓶に分けた茶葉を指でつまみ上げ、地の香りを胸一杯に楽しみながら

こまごまと自分のための紅茶を用意してゆく


「あの二人はどうなったかしらね…」


落ち着いた口調が昨日からの継続されている事件を思い浮かべながらティーに口を付ける

徹夜をして向かえた朝、気持ちを切り替えようと息をついた瞬間


朝日の私室に入る木製のドアをたたき割らんばかりの勢いで飛び込んできたのは、今し方湾に入った比叡とその帰りを手を振って向かえた鎮西だった


「朝日大佐!!大変です!!」


用意された朝食に弾丸がごとく飛ぶ唾の前で、不機嫌に並んだ朝日の目を見てもなお騒ぐ二人

鎮西を飛び越すように一歩前に出た比叡でさえ敬礼まで忘れている

「朝日大佐ちゃん大変なの!!敷島少将と三笠ちゃんが!!」公私混同な発言の比叡

「なんかヤバイんです!!」具体的に何かも言えないほど慌てている鎮西


身振り手振りで埃を巻き上げる二人に朝日は平手を立てて制止のポーズを取ると、キンと鋭利さが見える声で怒鳴った


「Shut up!!」


尖った目で、軍人でありながらも乱れきった態度の二人を睨む

敷島型の姉妹の中、一番温厚で通っている朝日の怒りが色に見える姿に足がすくみ二人は揃って一歩下がる

今更ながら自分たちが泡を吐き出すほどに慌てて、礼儀も作法もすっとぱしていた事に、鎮西と比叡は背筋を正し敬礼をした


「ほっ報告します!!敷島少将と三笠大佐が!」


落ち着くために息をつく比叡のとなり、慌て者の鎮西が敬礼のまま叫ぼうとするも

朝日は立てたままの手で重ねて「止め」と刺すように合図して


「わかってるから、そんな事」とほどよい香味を浮かばせているティーポットを見つめて溜息をついた


「昨日の夜からやってるのよ、今更さわがないで」

騒ぎの根元を知っている者として落ち着いた返事をした

「知ってるの」

「昨日の夜からやってるんスか…あれ」


比叡と鎮西は雁首揃えてお互いの顔を見合わす、その顔に背中を向けたままだった朝日は答えた


「まだやってたのね二人とも…ホントに武士道一本槍な人達なのね」

そういうとお気に入りの籐編みバスケットを持ち支度をし始めた


昨日の夜に起こった事件

鎮西が昼間戸島付近に移動していたので知らないのも無理はないが

舞鶴鎮守府のメインバースに付けていた艦魂達は事の成り行きを見守って一睡もしていなかったからこそ

二人は騒ぎに気がついたというもの


冷静な対応に、戸口に立たされたままの二人

目の前手際よく大型の籐籠を引きずってきた朝日は振り返ると


「比叡大佐、鎮西少尉、少し手伝ってくれないかしら」


喧噪響く港の様子に耳を立てながら自分の後ろに立っている二人に険しさのとれた優しい笑みで振り返った






「いい加減あきらめろ」


天地を逆さに見る形で体を直立不動にした敷島は、自分の隣で同じように逆さまの海から昇る朝日を見つめる三笠に、荒げた息の下で怒鳴った


「敷島少将こそ、諦めたらいかがですか」


逆立ちの敷島の隣、同じように逆立ちをしている右頬を腫らした三笠が下に落ちる唾で喉を半分つまらせたような声で答えた

昇った太陽の輝きを浴びる二人は、褌にサラシという朝から見るには絶句の姿で敷島艦の甲板の上、後部30.5インチ砲の前で逆立ちをしていた

鉄心でも入ったかのように止まった体、まっすぐに伸びた足の先にお互いが着用する制帽がかけられている


「がんばるねぇ〜〜」


敷島艦のとなりに付けられた自艦初瀬の甲板の上で寝ぼけ眼のまま座っている初瀬と他の防護巡洋艦の魂達に水雷艦魂達が少し下がった位置で固唾を呑んでこのおかしな光景を見つめているところに、比叡と鎮西を伴った朝日が姿を現わした


「終わらなかったわね」


敷島が頑張っているという手前、休日なのにしっかりと軍服に着替えた朝日は、なんとも形容のしようがない光景になった甲板を見ながら口に手をあてて少しだけ笑った


自分の姉妹、長姉ちょうしの敷島と末妹まつまいの三笠

何故こうなったのかは昨日の事


「松島司令と何故に仲違いをしているのか?何故手を取り合おうとしないのか?」

その原因を三笠が聞きに行ったところから始まっている


夜もまだ浅い時間に自分の所を尋ねた三笠の襟首を掴み挙げて敷島は怒った

休暇を前にしていたとはいえ未だかっちりと軍服を着て、書類に目を通すためのメガネをかけていた敷島は、鉄扉のように構えた大きなテーブルの上の書類に目を通していた所だったがすぐに菱形の目を怒らせ立ち上がると


「何を言っている?」と凄んだ


その事に触れないようにと「無になれ!」だの「余計な事は考えるな!」などと怒鳴り体を鍛える事に全てを傾けてきたのに、よりによって大元の二姉妹が到着する直前に傷口を抉られた形になったから当然とも言える


「なんでそんな余計な事を考えている」

問答無用の手の早さで締め上げる姉の手の前、決意も高い三笠は折れる事なく質問を続けた


「同時に!どうして富士姉様や八島姉様は松島司令と仲良くできなかったのですかと聞いております!」


三笠は先に松島達が戦争に対して消極的な態度をとっていた事に触れて話しをした

戦争を恐れるように、戦争に徒事するためにココに来た自分たちを冷遇する彼女達の態度は確かに良いものではないが、目前にロシアという大帝国との「よもや」の戦いがせまっているかもしれぬ事を考えるに一致団結すべきであり

さらに実際の戦争を経験した魂達に習うべき事もあるハズと進言したが


敷島の返事はいきなりの鉄拳だった

鉄球が頬に抉り込む図がごとく、激しい激突で壁まで飛ばされる


「小生意気に頭を使うな!まだ何もわからぬ小僧は体だけを鍛えていれば良い!!」

右頬に走る火の出るような痛みの前、三笠は真っ赤なカーペットにはいつくばりながらも目の中の炎を燃やして言い逆らった


「体ばっかが丈夫で何が理解できますか!」

「体を鍛えるのは心を律するためだ!」

右頬から左首根っこに突き抜けるような痛みの敷島の拳を恐れることなく立ち上がると自分の胸を叩いた

一度は自分の無思慮で、先人達の戦いさえも見落としたまま今を戦うために来た自分の意見に従えと言ってしまった三笠はたかが拳ぐらいの痛みで心を折る事はなかった


「敷島少将が教えてくださらぬのならば、富士中将、八島中将に直接聞きましょう」


いきり立った拳を納めて敬礼し、さらに怒濤の力で自分をねじ伏せようとする敷島を挑発した

「心が強ければ体は折れることなどありません!試してみますか?」


直接事を聞くと主張しつつも、まずは姉の口から本当の事が聞きたいと願った三笠は、おそらくこの姉になら通じる策で、自分の心をも試す戦いを挑んだのだ



ダンスキャップ


元々は劣等生がその証として小馬鹿にされるために被らされた円錐形の紙で作った帽子の事だが、これが大人に成ってからの罰直として存在してくるとやることが変わってくる

逆立ちし、足に自分の制帽をかける


逆立ちなどそう何時間も出来るものじゃあない

「人」であるのなら特別鍛えでもしていなければ一時間と持たず頭に血が上って倒れる

その前に足に乗った帽子は揺れ動く、それをダンスキャップという

逆立ちが途中で中断されれば負けだし、揺れて動いて帽子を踊らせた末に落としてしまっても負けである


「それで昨日の2000からこうなんスか…」


朝日の後に従い初瀬のところに現れた鎮西は、自分ならとっくに倒れているだろう根性勝負の舞台に寒気を感じたのか肩をすくめて小さく震えて見せた


「そろそろ勝負がつかないと…明日にひびちゃうよね」

とりあえず夜通しこの奇行の勝負を見ていた初瀬は欠伸をする、鎮西と比叡も釣られて口を開いてしまう


「明日に響かないような勝負に切り替えたんでしょ、姉さんも三笠も」


腕組みをして立っていた朝日は、二人がお迎えがある明日のために殴り合いに変わる選択としてこの勝負に入ったと読んでいた




「あきらめろ…」

目に掛かる汗、敷島の呼吸は明らかに三笠よりピッチをあげて荒れていた

「あきらめません…」

お互い相手を見るという動きさえとれない程、痺れきった腕は小刻みに振動を開始ししている

小波にゆれる艦艇の上で直立不動の逆立ちを何時間も続けられる事自体が奇跡の中で、意地の心だけが睨み合う


「三笠…お前の事を思って言ってるんだ、聞き分けろ」

「私を思うのなら問題の解決に力を貸してください」


食いしばった歯の間から煙りが出てもおかしくないほどに真っ赤な顔の二人

「松島司令達の事など、さして問題にはならん」


帝国に着く前から、イギリスにいた頃から心身を鍛える事に余念のなかった敷島だっが、さすがに限界が近づいているのか言葉が縺れ始めていた

まさか妹がココまで頑張るなど考えもしなかった、というか自分が一番姉妹の仲では力のある魂だと信じてきたのに、三笠は今それを越えようとしているという事実に驚きで目眩まで発生させ始めていた


「三笠!!次の戦いを前で戦うのは私達だ!お前の根性は認めよう。だが松島司令達の事は何も言うな!!」


普段はトーンをひくく抑えている敷島から、女らしい高く尖った悲鳴のようにも聞こえる叫び

汗が逆流し蒸気を発する程熱くなっている三笠は首を振って


「いやです!!!私は帝国海軍連合艦隊旗艦となる者です!!帝国に仕える全ての艦を知る必要が有ります!!そこに問題があれば全力で解決する事に力を尽くします!!」

「お前には出来ん!!」

「出来ます!!やります!!」


最早睨み合うために首を動かすのも苦痛の二人だが、どこからそんな声が出せるのか大声で意見交換を続ける


「信じられない…」


鎮西の肩、後ろに隠れた比叡はあんまりバカげた勝負に吹き出しそうになっていた

基本がスマートと心がけているイギリス出身の魂が二人揃って、泥臭い根性勝負

それもあられもない褌にサラシ姿でこの上にだみ声談義、これを笑わずにいられるかと爆発を堪えた口を噴火直前なほどに赤くなった頬の中で歯が踊っていた

小刻みにゆれる比叡の肩を見た朝日もまた笑いを堪えて回りを見回した


ココに揃う全ての艦魂が今日まで二分化された世界にいた

清との戦いを戦った松島司令の側の者達と、新たな脅威であるロシアのために前の戦いの後で来た者達

いやもっと細かく言えばバラバラの気持ちのまま港に揃っていたのに、今はこのバカげたイベントで一体となって笑いを堪えている


登り始めた太陽の下、朝日はついに口を開いた

「敷島姉さん、もうそのぐらいにしませんか?」

静かに敷島の甲板に飛ぶと、逆さの二人に微笑みながら言った

「敷島姉さんは私達が松島司令達と対立したままで良い結果を生み出せると言い切れますか?」


逆さの二人の前、正反対の頭ではあってもピシャリとしめた姿勢と直立の姿勢で朝日は語り続けた


「このままバラバラのまま、私達ばかりが頑張って行くことが帝国海軍にとって良い事に成るとは思えません。共に国を護る責務につく者としての先人達に学ぶ必要や、港を共にする仲間達も同じように鍛え上げて行かなければ、私達をだけを鍛える意味などないのでは?」


それは朝日が初めて見せた反抗だった


今まで姉敷島の言うことに逆らう事はなかった、先にこの国に着き迫る北からの脅威のために自分たちを鍛える事に徒事した姉を尊敬はしてきたが、だけど、その実本当の戦いを経験した松島達を避け蔑ろにするような発言には疑問があった


目の前まさかの反抗を見せた朝日の瞳に敷島の目がきつく睨みつけ

「最新の艦艇である私達が、前を進めば結果は着いてくる!!」と怒鳴った

それでも朝日は下がらず、意見を止めようとはしなかった


「真新しい艦艇というだけでは苦難の時を越えられなくなるのでわないでしょうか?私達は本当の戦いを知らないのですから」


真摯な瞳の前、敷島は初めて目を背けた。戦いを知らないというのは事実だからだ

前の戦争の話しを聞いたことがなかった朝日は、鎮守府にある記録簿で戦を知ったが、それだけでは何があったかを実感する事はできなかった


戦いを知らない最新の艦艇は不安をもっていた


そこに何の予備知識も先入観も持たずに横須賀に入った三笠が、おかしな奇跡を起こした

プリンセス(厳島)との些細なケンカから広がった奇縁で、それまで社交辞令程度の仲にしかなれなかった松島司令側かつての戦を戦った者達との間に道を開いた

地味な艦艇めぐりをし、意見交換を続け

少ない時間での解決を求め、ない知恵絞って全員参加の宴までしようと頑張った


もちろん敷島達が作ってしまった分厚い壁にぶち当たり、時間も足りず横須賀での解決を見ることはなかったが、その事件の後に浪速から


「私も頑張るからさ」とお互いの距離を縮めようという相談を受けたとき

姉である自分も何かできる方法はないかと考えていた、そう昨日まで考え続けていた

三笠のように体当たりで不器用な行動は似合わないし

初瀬の自然体で奇策を編み出すような器用さもない中で


「先に線を引いたのは松島だ」


妹の言葉に声を止めていた敷島が苦しそうに返事した

線引き…

敷島の心に濁った思いとともにある松島の姿を朝日も思い出した

国を護るという使命にて誕生した自分たちを、冷ややかな目で見、戦いを拒絶した視線

でもそこにあるのは

戦ったからこそある悲しみと苦しみ

真新しい自分たちではわからなかった戦争というものの中身


「ならば待っていないで、私達が線を越えて彼女達に近づきましょうよ」


朝日は、自分の荷物を運んでくれた鎮西を呼ぶと、いつも持ち歩いているバスケットを開きお気に入りのティーポットを取り出した


「ティータイムを、優しい時間で話し合いを」

「姉上…」


逆立ちのまま、初めて自分の背を押してくれた朝日の姿に三笠は喜びの笑みを浮かべた


松島達が引いた線、それに壁を作ってしまった姉達

だけど危機がくれば共に戦わねばならない仲間達


今まだ時が許す内に、お互いの時間を共有する事でわからなかった事を理解し、少しずつでも近づけようと、淑女は淑女らしい方法で仲間の距離をたぐり寄せた


「休暇をつかってゆっくり話し合いましょう。分かり合う事で心を強くする助けになると思うんです」


そう言うと戸惑いの目で自分を見上げる敷島に微笑みながらに

事の成り行きを見つめ、初瀬の甲板に鈴なりになって事態の結果を見守っている舞鶴鎮守府に詰める全ての艦魂達に声をかけた


「さあ、休暇を楽しみましょう。みんなで」


「そうス!!楽しみましょう!!」

鎮西は朝日にたのまれ運んできた大きな籐籠を開け、中に入っていたレーズンパンを太陽の光の下に、覗き込むみんなの前に広げた


佐世保で手に入れたレーズンを使い、夜を通して作ったイギリスパンの香ばしい匂いに、周りを囲んでいた艦魂達の顔に笑みが咲く

優しさで溢れる笑みで朝日はみんなを手招きした


「今日は休日、階級なんか気にせず一緒に朝ご飯しましょう」と


呼ばれてもまだ前に進めない艦魂達、前の戦いからいた者や捕獲されてきた者達の間を縫って走ったのは比叡だった

「浪速め!だったら私にも言えよ!」小声で自分の胸を叩きながら最初の一切れをほおばる


「うめえ!!」

階級が低い水雷艦魂達はお互い顔を見合わせたが、鎮西が手を振って呼ぶ

「なくなっちゃうスよ!!早く!早く!!」

後は待つ事なくみんな雪崩を打ったようにが敷島艦の上に集まって、賑やかな朝食会はあっという間に始まった





「別に…松島を嫌っているわけじゃない…」


のどかな朝食会になった甲板で二人だけ逆立ちを続けるのはあまりに滑稽

先に帽子を空に飛ばし逆立ちを解除した敷島は頭で帽子をキャッチすると自分の応えを待っている朝日に深く帽子を押しつけるようにかぶり目を隠して告げた


「ならば、どうして」

相変わらず逆立ちの三笠の前で、太陽の光を避ける訳でない気恥ずかしさか目を隠した姉に朝日が聞いた


「あれは、いい女だ。だから…」

「えっ?」

すでに息が上がっていて、逆立ちを解除してもいいのに続けている三笠の変な対応に敷島のチョップが入る

腹部側面に亀裂を叩き込むような馬鹿力でなぎ倒すと、唇を噛んだ顔で


「松島は美しい、だから戦いから遠ざかりたいのなら…それで良いと思って、その、だったら引退して、士官候補生を乗せて世界の海をいけばいいと…そう言いたかったんだ」


真っ赤な顔の敷島、帽子で懸命に目を隠しながら話す姉に朝日は理解した

本当は心優しかった姉は、最初にココにきた時に見た松島の寂しい美しさに心打たれていた

「引退しろ」と言ったのは嫌味ではなく、優しさ

それで軍艦をやめて予備役にでも入って初代旗艦の誉れのまま士官候補生を乗せて世界の海を回ればいい

だけど迫る戦いに簡単に休むことなど夢でしかない

「人」は懸命に少ない戦力である艦に力を注いでいる。松島もまだ現役で備えなくてはならない身となる。それが悲しい線引きの延長にあった想い

お互いの想いの行き違いが、言いたい事とは違う事を言ってしまったという真実


「だから私達が前に出て戦えばいいじゃないか、松島達の事はもうほっておいてやってそれだけだ」

「痛いじゃないですか!!」


照れ隠しで下を向いていた敷島のボディを突然の拳固が襲った

先に水平チョップをくらい顔面から崩れた三笠が悶絶の闇から戻ってきたのだ

朝日の前、くの字に折れ悶絶に倒れる敷島に


「とにかく私の勝ちです!!最後までちゃんと逆立ちしてまっ」

言葉を遮るラリアット(注.ラリアットは1970年代素単.帆船(スタン.ハンセン)の業ですが、にたような事をしたとご理解ください)

「このバカ妹!!話しを聞け!!」

横槍に間髪入れぬ反撃


夜から朝まで、体力勝負の果てにまだこの気力

朝日は呆れながらも目の前で取っ組み合いをする二人の前にティーカップを差し出した


「さあ、固めの盃ならぬ紅茶の盃をどうぞ、義侠心いっぱいのお二方」

ティーを差し出す朝日の前、つかみ合ったままの姉妹は気まずそうにそれでも、やっと腹を割ったお互いの思いに納得の朝ご飯を始めた




「さあ、次は女王様と戦いだぁ〜〜」


和やかな朝食会

一人レーズンパンをほおばった初瀬は。敷島、朝日、三笠を見ながら四姉妹の絆が深まった事に満足の笑みで高く上がった太陽にウインクした


カセイウラバナダイアル〜〜プロレス〜〜



艦魂物語本伝では三笠様は粉川にプロレスはおろか総合格闘技の業までかけたりしてますが…すでにこの頃から武闘派だった事がよくわかりますねwww


他先生の書く可愛い三笠様はどこいったってぐらい、ぶっ飛んでますね


ちなみにプロレス、ヒボシはもっぱら弟にかけられる側でした

もぉねぇ

なんで男坊主は人に技をかけるかね?

いたいっちゅうの

そっちに体は曲がらないっての


そんなにかけられてるし

こっちも覚えますよねwwwそしたら倍返しするわけですよ

最初はライトな業からいきますよ

黄金のパターン

ドラゴンスクリューから足四の字固め

これで三回弟を泣かしました、姉に逆らう者容赦しませんw

で、お返しされます当然、

もうねぇ…なんで姉弟なのに遠慮がないんでしょうか

オクトパスホールドとかきますよ

家の中なのにラリアットにアックスボンバーですよ

まあ…とある漫画じゃハルク・ホーガンも部屋の中でアックスボンバー習得してましたからありっちゃありだけど


当然家の中で器物が壊れる

そうなると、父の出番になります


怒りに燃える父に…フォン・エリックが…

鉄の爪による制裁で二人そろってこめかみ撃沈で…アホ姉弟


そんなんですが

一昨年、久しぶりにあった弟に飛びつきDDTをwww

ええっ顔がジ・アンダーテイガーにwwwなってくても決まれば痛いらしい

本当はマット・クロスばりに行きたかったのですが…まあ体力的に無理なので


とにかく

それなりに格闘技が好きです

素人に毛の生えた程度でw


これからも三笠様は色々な技を使ってくれる事でしょう、楽しみです


それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜

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