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第十五話 天の岩戸

天の岩戸は本来、天岩屋戸あまのいわやどと書きます

他にも実は何通りかの字があれどれも確定というものはないそうです

そこにいたるには...また色々とながい話しになるので単純に題名としてつかった字はこれだったとうけとってくださいませ〜〜〜

夕日が落ちる

残された光が水面に輝き鋭い宝石を漂わせていた時間はおわり

新たな宝石を生み出す主、月が空高くに登ろうとする時間


三笠は自分からおり駆けだしていく2人の「人」を見送ると深い深呼吸と共に深い溜息を落とした


期待され

望まれた自分の誕生、それはイギリスに自分を迎えにきた帝国海軍の「人」達の様子からもよくわかっていた


だからこそ勉強した、進水を終えた後、艤装で入れ替わりに来る労働者達が持ってくる新聞を読みあさった、自分を迎え入れる国、大日本帝国を取り巻く事情はどの新聞を読んでも芳しいものではなかった

むしろ刻々と迫る北からの脅威をイギリスが危険視した記事が並べば、その直下にいる日本国の心情はいかほどのものだろうと動悸をはやめ自分を組み立てる者達に叱咤激励の気を送り続けた


少しでもその心に、意志に添い共に、この国を護る者達の「強き器」となろうと....


「私は...間違ってましたか...」


唇を噛む

悔しさで泣いてしまいそうな程項垂れた三笠は自分の後ろに立つ姉初瀬に力のない声で聞いた


一生懸命だった

自分が、来る戦争にむけて海軍、いや国家の頂点に立つ船となるという重責を約束された者として、戦船いくさぶね達の纏め役についた者のとして心を一つに国民を護る職務に誇りをもってココにきた


「間違ってないよ」


背中を丸めてしまいそうな三笠に初瀬は寄り添い肩を抱いた

妹は小刻みに小さく震えていた

たくさんの思いを背負うという責務に前を向き続けた三笠は、何も実らなかった自分の努力とそれでもかけられていた希望の重さにどうにも成らない気持ちを抑え込んで震えていた


太陽が平たい燐光を水面に残す時間

それは三笠が宴を催すかと決めた時間でもあったが、ココには誰も集まらなかった

誰にも三笠の意図していた事は伝わらず、一人息巻いて過ごした日々が本当に無駄になってしまだけならば...これ程心を痛める事はなかった


そういうものだと強がれば良かったのに...「人」が自分にかけていた希望を聞いてしまった


自分の姿、艦艇である写し身を見てはしゃいでいた者、中佐の階級章をつけた小男の言葉が三笠の心に深く刺さっていた


「おみさんは、ごべえさんと西郷卿の意地の形」


国を護るという意地が自分をこの海に誕生させ、この国を護るために心血を注いだ人の心がココまで来させた

だからこそ一も二もなく課された任務に忠実になった


帝国海軍を統べる旗艦としての任に


なのに先の海戦を闘った者達には受け入れられなかった

先人達を蔑ろにするつもりはなかったが知恵足らず、遮二無二の戦いで彼女達が受けた痛みを「水に流せ」と否定して全てを纏めようとした自分が愚かすぎて...

自分の浅はかな行動で艦の魂達を一つに纏めねば成らぬ大事な時期にまったく間逆の断絶という結果を招いてしまった事に


震える肩

食いしばった歯と瞼の裏に溜まった涙


「間違って...」

「間違ってないよ」


初瀬の手が三笠の目を覆う

堪えている涙を誰にも見せないように


「間違ってないからね、三笠」


初瀬の手と自分の手を重ねて顔を隠すと初めて泣いた

まがりなりにも軍属、声は挙げなかったが溜めていた思いは滝のようにこぼれ落ちて

甲板に雫を弾けさせていく


「三笠は頑張ってた。私、ちゃんと見てたもん」


産まれて初めての涙

それを支えてくれる姉がいる事だけが救いだった

押し殺した声の下であふれる涙を止めることなく流し続けた





「落ち着いた?」


泣いた事で自分が色々なものを背負い込みすぎて混乱した事が恥ずかしいのか三笠は目の下を赤くしたまま静かに頷いた


姉に手を引かれ後部砲塔に2人でよりかかってて座る

終始穏やかに態度で接する初瀬に三笠はやっとで質問をした


「どうして敷島姉さんが松島司令とぶつかってしまった事を教えてくれなかったんですか」


先に聞いた時、初瀬は先入観を持って会って欲しくなかったと答えていたが

それだけなら

その後どうしてこんな事態になるまで姉が教えてくれなかったのかは不満の残るところだった

自分の流した涙のわけを少しでも的確に知りたかった

まだ湿った視線を自分に向ける妹に


「三笠はなんかやってくれそうな気がしたから」


初瀬は首を傾げながら嬉しそうにこたえた

「何か?」

「そう」


答えをそのまま受け取ったら愉快犯のようにもとれる

三笠は涙で赤くしてしまった顔に怪訝な目をして初瀬の顔をちらりと見るとやはり気恥ずかしくなって背中で理由を教えてと聞いた


「初めて横須賀に来たときの歓迎会を断らなかったでしょ、浪速ちゃんや比叡ちゃんが押してくれたのもあるけど、みんなと一緒に楽しめた。だから余計に言わなかったの」

「それは普通はそうじゃないんですか、初めてあう者同士だし」

「でも歓迎会は...普通な感じだったかな?」


出来るだけ顔を除かれないように俯いたままで答える三笠に初瀬は覗き込むように言うと


「変だっでしょ?」


姉から懸命に顔をさけながらも三笠は自分が初めてココにきた事を思い出した

横須賀入港最初の歓迎会、薄暗かった松島の艦内どこか遠巻きに座りながら少ない話題の中から話しをしようと必死だった浪速

ぎこちなさは確かにあった、それでも酒もでたし、つまみも揃っていた...だけど


「確かに変でした...みんな楽しくない感じで」


けして明るくはなくむしろ暗いあの部屋の中で少しの時を...

少ない話題でただ過ごした

あれは宴でもなんでもない、三笠以上の戸惑いを持っていた帝国海軍艦魂達が初めて日本にきた自分を睨め付けしていたのだと


三笠は自分が覚えていて、まさしくそれこそが歓迎会だったもの、宴だったものを思い出した。プリンセスが自分を船魂達に紹介した宴、この国の民の糧を得るために荒海に漁師と共に命をかける魂達、貧しい身なりに純朴な笑みを持つ彼女達に声も高く自分を紹介した


「新たに帝国に嫁し、国を護る任についた三笠だ!!みんなよろこべ!!」


紹介の後の喜びの声が大きく響いた時、自分の使命を果たそうという思いをより強く思った

お酒の力も手伝って、だからこそ帝国海軍の艦魂達が線引きをしていた事をすぐにでも止めさせなければと...走ってしまった

それほどに楽しく、それほどに歓迎された宴であり歓迎会のあるべき姿だったのだと


涙を払い初瀬の顔を見た

気がついた三笠の顔に苦笑いの姉は


「暗かったでしょ歓迎会なのにそういう雰囲気をね、敷島姉さんは敏感に感じ取っちゃったんだな...本音では歓迎していいのか?どうしようか迷ってる、松島司令達の態度を」


ゆったりとした笑み、けして曇らないように相手を不安にさせない優しい目が続ける

「それだけじゃなかったけどね、敷島姉さんはこの国で最初についた港が呉だったの、そこで八島姉さんや富士姉さんが松島司令を良く思っていない事を聞いちゃったんだ。先入観も手伝って結果...溝ができて」


青い目は「教えなかった理由」言うと顔を伏せた

「松島司令達の事はね、さっきの中佐が言ったとおり「人」はあんな風に簡単に言うけど...言われたら辛いよね」


欠陥商品


それでも戦った、帝国を脅かす大清帝国と東洋で初めての鋼鉄の戦船として


「辛いです...」


三笠は自分も同じ事を、同じぐらい無責任な事を言ってしまっていた事にまたも頭が下がった

司令艦、なのに欠陥持ち、だけど誰もが恐れる戦いの前に立たなければ成らなかった松島

「私は私の出来ることで今日までやってきた」

あの背にかかった重さを三笠はまだ知らなかった


「だけど三笠は違った!歓迎会以降もコミニケーションとろうと頑張った!!そこは敷島姉さんと違って偉かったよ」

初瀬はそういうと三笠にすりよって敷島と松島の事の顛末を教えた


結局最初にそういう先入観をもって横須賀に入ってしまった敷島は歓迎会を拒否してしまった

その上で演習以外での付き合いを一切断りフランス艦艇艦魂松島や橋立、厳島プリンセスが帝国海軍を分断している元凶と決め無視しするという行動にでた


だけどそれはさらなる分解に拍車をかけてしまう

共に戦った者の長である松島に向かって敷島がとった態度を、同じ争いの海を戦ったイギリス艦艇である吉野、高千穂、千代田、秋津州、その他の者達は受け入れず

何とか硬直した場を取りなそうとした浪速や比叡がいたが余計に腹を立ててしまった敷島が


「早く引退すれば楽になるでしょ」とまで言い切ってしまった事で瓦解した


以降は他のイギリス艦艇にも風当たりは悪くなり

新しく日本に来た艦艇組と黎明期の帝国海軍組には大きな溝が残ってしまった


敷島は何かにつけて雑言まがな叱責をつづけ(もちろん本人は叩いて鍛えるのつもりだったようだが)

結局「前に戦ったことを教訓にせず腑抜けの集団を作ったのは松島」と断じてしまった


「敷島姉さんはね、多分三笠と同じように色々な事を勉強してきたんだけど...偏った知識で見ちゃったのね」


フランス艦艇はイギリスの戦艦に比べる事がおこがましいほど奇っ怪なスタイルのものが多かった

大英帝国軍艦マジェスティック級と血を共にする一級品として産まれた敷島のプライドは相当に高かった事も災いし、この後に横須賀にストレートにやってきた朝日と初瀬は帝国海軍艦魂の冷たい対応にずいぶんと苦労をし、また相手も苦心していた


本来心優しい魂達は当たらず触らずの距離を持つ事でなんとか断絶の溝に触れないように今までやってきたのだった


「それじゃあ私がやったことも敷島姉さんと変わらないって事ですよね」

姉が爆発させ広げた亀裂に塩を塗り込むような行為をした

三笠はまたも頭を下げて終いそうになったが、初瀬が両手で押さえて顔をつきあわせた


「違うよ!!三笠は「みんなでやる事が大切」って当たり前の事をきちんと言って回ったじゃない」


敷島は怒鳴るばかりで指示や士気に関わる事は何もしなかった

というか

はっきりとバカにしていたのだ。先に実戦を経験している者達だからと説明をすっ飛ばし「こんな事もできないのか?」とまくし立てるだけだったと初瀬は説明して


「三笠は違ったでしょ、みんなのところに話し合いにも行ったじゃん。酒瓶もって、あれが良かったと私は思ってるんだ」

「あれですか?」


どん詰まりで演習、激しく士気を落としての帰港後反省会もしない帝国海軍艦魂達の元に三笠は自分から挨拶と親睦を兼ねて尋ね回った

とにかく話し合う窓口をつくる事が大切と思っていたから「制服」の話しなどを織り交ぜ堅く閉じられたドアを少しでも開けようと努力した


その姿を初瀬は好ましく見ていたのだ

波風が急に嵐になってしまう事がないように、少しずつ揺れて心地よい波がみんなに届くためには横槍をいれる事は今はまだダメと

そう思って控えてきたと笑い


「制服の話しとか!!アレ、下着の事の相談が特に良かった〜〜」

べったりと妹にくっついた初瀬は

「でも褌はやだけどね」と、さらりと笑って見せた


笑顔を絶やさぬ初瀬の姿は三笠の乱れた感情を安らがせ

沈みかかった自信を少しだけ取り戻した

そんな妹の姿にやっと一段落つけたと確信した初瀬は手を打って


「さあ、三笠の壮行会やろ!!私、紅茶用意したんだよ!!」


太陽と入れ替わるように昇った月は柔らかい光で2人を照らしていた

尖った感情を包み込むような青い光の下

熱波の風もやみ、涼しい海風に髪を揺らす


隣に座った初瀬はいそいそとティーカップを乗せたトレイを取り出したが


「姉上…埃が…」


取っ手の部分に金の装飾を施した長方形のトレイ...四隅に拭き損なった埃が見える

そうなるとカップも気になるというもので...

やはりどこか手入れのされていないカップの姿に


「姉上…まだ掃除してないんですか?お部屋?」


前に制服の件で初瀬を伺った時の部屋の乱れっぷりを思い出す

敷島型の姉妹の中では外来艦魂らしい背丈もなく肩幅も広くもない、こじんまりとした可愛らしさが目につく初瀬だが、実は部屋をかたづけられない女という、私生活無頓着にしておおざっぱな姉でもある


陽気に笑い、カップを吹いてトレイに用意してゆくが

自分の門出を祝うティーカップまでもが、どこか手垢まみれの埃被りなのは顔が引きつるものだし、素直にいただけないというもの

そのあたりを理解してほしくて、少し引いている三笠の顔をみながらも


「う〜〜ん、大丈夫だよ!中はキレイに洗ったから」


めげる事のない発言

ナプキンも用意されてない煤けたトレイに唖然としている三笠の事など気にもせず

「飲んでしえばいっしょ!いっしょ!」


普段の策士ぶりからは想像できないルーズな感覚

そのままカップにお湯を注ごうとする、引きつった顔の三笠の前で


「初瀬!!」


自分を支えてくれた姉に文句も言えず、埃の被ったカップーにお茶を注がれそうになって固まる三笠と、しらぬ存ぜぬで満点笑顔の初瀬を止めたのは朝日だった

「まったく!あぶなかったわね」

栗色の髪、青い目を尖らせたままポットを取り上げると


「飲めればいいなんて言い方はよろしくないでしょ」

そういうと

光の中から持ってきた琥珀色に纏めた大人らしい装飾のトレイとティーポットを含めた紅茶のセットを取り出し


「紅茶を入れるのもただカップに注ぐのではなく、茶葉の全てを楽しむためのプロセスというものがあるでしょうに」


杜撰が板に付いた妹初瀬に人差し指を立てて叱ると初瀬が準備したティーセットを光の輪の中に無造作に投げ込んでしまった

放り出され光の輪の中に消えて行く自分のティーセットに呆然とする初瀬と、突然訪れた2人目の姉の姿に


「朝日姉さん…」


あやうくはいかぶりを味あわされるところだった三笠にウインクした朝日は

三笠を挟んで隣に座りバスケットを取り出しながら


「スコーンを焼いてたら遅くなっちゃって」

同じ狐目でも教養に満ちた理性的な微笑みと落ち着いた声

「ベーキングパウダーが少なくてちょっと堅くなっちゃったけど」と話しをしながらもしなやかな指先を動かし支度すると


「茶葉をカップに入れるまでのプロセスと、これから来る戦いに備える私達は似ていると思わない」


三笠を見つめて、小さく咳払いして


「ティーの味わい深く楽しもうと思ったら、途中を省いて結果だけ良い物を得る事などできない」


それはティーの嗜みには敷島艦の姉妹の誰よりもこだわりを持っている朝日らしい励ましの言葉だった

結果だけを求めての行動が良い結末に届くことはない

だけど色々な支度とこだわりを持って、例えばティーカップをキレイに支度しトレイにデコレートするという手間をかければそれはよりいっそうに楽しみを増やすというものだからと

姉敷島のようにいきなりに結果を得ようとぶつかり不満に口を閉ざしてしまったのはよくない事で、三笠のように手間をかけみんなを尋ねてあるいた事は無駄ではないと


「1つの茶葉を楽しむためにだって、たくさんの手間を掛けた方がいい、何もしないでいきなりお湯を注いだらご破算よ」


初瀬にも注意をしながら

香りを楽しむように、指先は滑らか踊るよう紅茶を用意すると、三笠と初瀬にカップを渡した


「突然全ては解決出来ない、そこに至った道があるから。でも三笠は確かに努力してた。至ってしまった険しい道をちゃんと上ろうとした。努力した事を渡しも初瀬も見ていたからね」


転げ落ちるように負の力で悪化した帝国海軍の中身

最初の戦いで深い傷を負った者達を顧みる事の出来なかった。最新鋭にして戦いを知らない船達の無理解

それをすぐに光の当たる場所に持って行くのは不可能だけど

暗闇にでも投げた石の波紋はできる


朝日も自分ではどうしていいか解らなかった事態に一石を投じた三笠を見ていた

努力は見えていたと頷き

優しい青い目で微笑んだ


「頑張ろうね。…ちょっと地味だけど、今日は三笠の門出を祝って」


スコーンと紅茶での壮行会

「舞鶴や佐世保はすぐに帝国海軍の活動の本拠地となるわ、北からくる者達に睨みを効かせる大事な役目、頑張ってね」

「私達も、すぐに行くことになるからね」


落ち込んだ気持ちを支えてくれる姉に三笠は座ったままで敬礼した

「はい!」


1つの失敗にいつまでも気持ちを落ち込ませているわけにはいかない、姉2人が自分を励ましてくれたことで心には区切りをつくる事ができた


このささやかな壮行会を決してわすれないと大きな声で「頑張ります」と宣言しようとした時


「おむかえでごんす」

「おむかえでごんす」


拳をにぎり決意も新たにあげようとした声をふさぐさらなる珍入者達が立っていた

水兵の服に、自分の手より3倍は大きな手袋をしている二人組の艦魂

もちろん三笠達には彼女達が何者かはわかっていた

横須賀鎮守府に入る軍艦達を押し引きする仕事を一手に担っている「曳舟タグボート


「あら、お市ちゃん、おこまちゃん、どうしたのこんな時間に?」


横並びでちょっと揺れてる2人に朝日が驚いた顔で

三笠は赤くなった目を隠すように


市と、本当は正式な名前がなく「01」「05」なのだが自分たちで当て字を入れて名乗っている


「プリンセスからのおむかえでごんす」


朝日の問いに

2人とも声を合わせ元気よく答える

身の丈小さく140センチぐらいしかない彼女達は港にいる間は「メッセンジャー」としての仕事もしてくれる

労働大好き、なのでいつも体が横に柳のように揺れている。動いていないとうずうずしてしまう癖からきているようで、とにかく働き者の可愛い船魂達は万歳のスタイルで揺れて返事を待っている


「プリンセスが?」


三笠は宴の事でケンカして以来彼女には会っていなかった

宴好きの彼女だからこそ相談したのに突っぱねられたというのが一番引っかかり今日まで会わなかったのだ

険しい顔をする三笠のまえ満面の笑みの2人は揺れながら、大きな手袋を二人してパタパタと動かして


「宴です〜〜〜」

「宴でごんすぅ〜〜」


「行ってみようよ」


楽しみを顔全面にだした引き船の二人の前、どうしていいのか迷う三笠の手を引いたのはスコーンをくわえ、バスケットを持った初瀬だった

「行かないと彼女達が食いっぱぐれちゃうかもよ」

わだかまりがある顔を見せた三笠に初瀬はメッセンジャーの彼女達が、メッセージを伝えることで宴の参加ができるという条件付けされている事に気がついていた


「行きましょ」


察しが良いのは朝日も同じだった何度か蜂蜜のお菓子を与える代わりに仕事を頼んだことがあるからで、三笠は彼女達に本来の仕事である曳舟業以外で関わった事がなかったのでわからなかったが、今日ばかりは自分を励ましてくれた姉達の言うことに逆らいたくなかったので立ち上がっると


両手を挙げて大きな手をユラユラと波のように揺らして三笠が着いてくることを待つ彼女達に従った





「おそい!!!駆けつけ六杯開けてちょうだい!!」


三笠達が光の輪を使って飛び移った厳島の甲板には、こないだ集まっていた船魂達と浪速、テイを中心とする北洋の艦魂達が、お酒が十分に回り半分出来上がった会場を騒がせていた

前部の32センチ砲前の甲板にはたくさんの貢ぎ物が並べられ

慎ましい月の下にあって彩り鮮やかな宴に多くの魂が集っていた


その中いつもどおり真ん中に鎮座した厳島は三笠を見るや立ち上がり、船魂達に酒を持っていけと自分の持つ杯を高く挙げて嗾けた


「プリンセス...これは」


あか抜けぬ船魂達は三笠の登場に喜び我先にと酒を運び囲みをつくる中、困惑の顔を向け聞く三笠に

すでに幾分も頬を赤らめた厳島は、不満げに頬をふくらませると


「だいたい三笠はお酒も用意しないでどうやって宴をしようと考えてたのかしら!まさかホントに紅茶で乾杯しようと考えてたの?」

「それは...」


言葉につまる、たしかにそんな事は少しも考えていなかった事に今まで腹を立てていた思いが吹き飛んでしまう


ちらりと目線を動かし姉妹達が抱えているティーセット見る厳島

朝日はさすがに宴には不似合いな紅茶を瞬時に消し

初瀬は手に持ったバスケットのスコーンを前に出して

「肴ぐらいにはなるよぉ〜〜」と笑った


「まったく遅れてくるなんて無礼だわ!!」

「プリンセス...宴はしないと」

テンションの高い相手にまだとまどいを隠せない三笠は船魂達からもらう酒を次々に飲み干しながら聞いた


「しないわよ、松島達を呼ぶ宴を催すのはあんたの仕事だから」背中を向けまたも頬をふくらませると少しだけ顔を俯かせたが、すぐに向き直り


「だけどあんたの壮行会はしたげるって言ったでしょ!」

「プリンセス....」


歯に衣着せない態度

松島達との和解は三笠の仕事だと突き放しながらも、三笠を送る宴は別物として支度してくれていた厳島は

瞼が半分降りるほどに飲んで息も荒い様子で、テイ達のいる場所に三姉妹を座らせると、三笠だけ手をとって立ち上がらせ大きな声で宣言した


「北の海を護るために三笠が明日から舞鶴に向かう!!よろこべ!!オマエ達の主を護るために、ひいては帝国を護るための長となった魂に拍手!!」


夜も20時を回った船の上

人には届かぬ賛歌の拍手は大きな音と感激の言葉を交えて三笠に降り注いだ

「三笠様、よろしゅうおねがいしますぅ」

船魂達は自分たち船の魂において国防という仕事を担い頂点に立つ三笠に口々に願った


多くの魂達が三笠に願いを持っているという事を間近で空気がゆれるほどの拍手でそれを伝える


「三笠ちゃん、私も頑張るからさ」


自前のギヤマンのグラスを高く掲げ浪速が笑う

ココ横須賀に着いたときから自分を気に掛け、前の戦いを教えてくれた一人

隣に座っていたテイ、辛い記憶を教え共に戦う者としての覚悟を示した元北洋の艦魂達と妹分にあたる八雲

落ち込んでしまった自分に教訓と励ましをくれた姉の初瀬に朝日

宴に自分を迎えにきた帝国海軍の縁の下の力持ち、働き者の曳舟の可愛い魂達

演習で何度か見たことはあったが宴には初めて参加する黄海海戦以降で帝国海軍に嫁した巡洋艦の魂達、浅間は明日一緒に舞鶴にゆく仲間

初瀬と肩を並べる常磐


「初めまして」と宴の初参加と、今までは松島の手前大人しくしていたイギリス艦艇達は三笠の杯に挨拶を交わす

「これから先を頑張るのは私達ですから」

茶色の髪、琥珀色の目の浅間は決意を告げた

「司令艦に従い帝国を護る仕事に誇りをもって生きたいのです」


集まってくれた者達の顔に三笠は俯きながらも思いを改めた


無駄ではなかった艦艇めぐり

一つの決断を下したことで隠されていた傷は晒され痛みの記憶故に反発する者達は未だいるけど、それでも「人」が

自分に見学にきた中佐が言っていたように戦いに向かう時に備えている心に添うように

戦のために作られた魂として、前を向かねばならぬという気持ちに胸が熱くなった


「みんな...みんな...」


決意を高く....なのにさっき止めたハズの涙が出てしまう

自分一人が突っ走っていたと思っていた、おこがましさから

こんなにも自分を支えてくれる者がいたことへの感謝で


「意外と涙もろいのね、尖り眼なのに」


目の前いつもの顎上げのポーズ

小さな身の丈なのに人一倍の元気でかつての戦いを終始声をあげ叫び仲間を震わし、誰よりも早く北洋水師達の誇りを認め、今まで双方にあった亀裂を渡す橋の役を自然体でこなしてきた厳島は変わらない態度で三笠に酒瓶を差し出した


「飲みなさい!妾の酒が飲めないとは言わさないわよ!!」


目の前に差し出された地酒の瓶

最初の歓迎会に浪速が話題にした魂、プリンセス事厳島...かつての戦いを戦った魂達とをつなぐ架け橋である事を確信した

そしてその力も借りて一人ではなく共に前に向かう者となる事を強く心に誓うと

涙を振り切って三笠は顔を上げ元気よく声を挙げた


「瓶ごと飲み干してやるわ!!」


歓声が響き渡る

「人」がバカ騒ぎをする時と同じように、この日を楽しむ魂達

呑ませ合いになった宴の中で、スコーンをかじりながら地酒を楽しむ初瀬は手に本を現し、厳島以外、この港に浮かぶ艦艇を見回した


宴を遠巻きに見ている魂達の姿

まだ溝を渡れない者達の視線が寂しげに輝く楽しみの宴を見ている事に気がついた初瀬はつぶやいた


「ココは天の岩戸の一歩前...早く扉をあけていらっしゃいませ」


それは静かな波が柔らかな音を奏でた日を騒がせた夜

三笠にとって横須賀を出港する門出の日だったが


宴に興じた者達が気がつかないところで一つの奇跡は起きていた

女神がこもる心の扉をノックした者


救い無き夜の世界に立ち続けた魂に出会った「人」がいた




「あなは...誰ですか?」


カセイウラバナダイアル〜〜司馬史観〜〜


日露の話しを書くようになってからたくさんの方が

「坂の上の雲」などを読んでますかというメッセがあったのですが

やはり史実の戦記は人気たかーーーいと実感www

本伝もわすれないでーーーーな感じwwwですが


前回の西郷従道と山本権兵衛のくだりのところでさらに色々とご意見がありましておこたえしますぅるwww


司馬遼太郎さんの小説「坂の上の雲」で六六艦隊を作るため、戦艦を買うために山本権兵衛と西郷従道の会話の下りがあります

戦艦を買おうにも資金の調達ができない事で山本権兵衛は困り果て海軍卿であった西郷従道に相談します。その時西郷は

「山本さん、それは是非とも(軍艦を)買わねばなりません。予算を流用するのです。勿論違憲です。議会で違憲を追及されたら二重橋で腹を切りましょう。2人が死んでも軍艦が出来れば本望じゃないですか」という話しがあったとされています

これは小説うんぬんではなく実話だったのではという事ですが...


祖父曰く

おそらく覚悟を示したという話しが大きくなったのではという事を聞いたことがあります

つまり

実際あの台詞(言葉)を西郷従道が言ったか?は謎という答えでした


実際言おうがいわまいが覚悟はきまり

予算の流用をして三笠はつくられる

裏金にしたって国防という大事な事のために腹を切ってもいいという覚悟をしめした...言葉だけは後で作られたのではという見解でした


ヒボシも色々と調べてみたのですが...

勉強不足なのかそれ程良い結果は見あたりませんでした

そういうこともあって稚作では

有名なあの台詞は書きませんでした


このことで「あれを入れて欲しかった」というメッセがあったのですが、さらに正確に言えば

書きたくなかったというのがヒボシの答えでした


ヒボシの家は歴史を調べる事が好きな祖父により

それなりに資料のそろった家でした

資料は=本なんですが

これが父の代になって

当然祖父影響を受けた父は本の虫になりますw

ですが

どちらかといえば歴史を小説で学んでしまった人になりました

それが前の「黄海海戦」の話しにもつながるのですが、特に司馬遼太郎が大好きで司馬さんから歴史を学んでしまったと言っても過言じゃありませんでした


私はこの小説の前はジャンル歴史にてトンデモな小説をかいてましたが、司馬さんの作品は一つも読んだことがありません

走り読み程度はあるのですが、極力読まないようにしてきたというのが正解で

それほどに司馬さんの作品を歴史であると勘違いしてしまっている人が多いという事に気がついた側の人間なんです


司馬遼太郎さんは作品を書くに当たり膨大な資料を集め調べ上げて書く事で有名でしたが

それ故に「嘘が誠」になってしまった部分はたくさんありました

太閤記の秀吉びいきに淀様(お茶々様)を悪女と祭り上げる、家康を悪辣に描くなど現在も本当にそうだと思っている人が多い事からもよくわかると思います


それがいわゆる司馬史観、司馬遼太郎さんの歴史観であり

真実の歴史ではないという事


祖父はその事を聞くにいつも「嘆かわしい」「何故自分で調べようとしない」とお怒りになっていた事を覚えています

だから資料の本を手にとってもヒボシは簡単には信じない

それをまた調べるという作業を繰り返す...あんまりやり過ぎると話しが進まないし真実までは遠いからそれなりに手抜きもしますがwww


とにかくそんなですから

司馬遼太郎さんの作品は良いと言われてもしっかり読み込もうという気はなく

有名な台詞を安直に使って「日露戦争です」とは書かないと思います

そして

ヒボシはきっとあの台詞もつかわないとおもいますからwww



うー

とにかくこんな変なこだわりのヒボシですがこれからもよろしくお願いします!!


それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜


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