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第十四話 戦の玄人

終戦の日

記念すべき事ではなく心にとどめ置く日として、先の戦争にて亡くなった人達のご冥福をお祈りいたします


明楽

一寸の深呼吸は羨望の艦であった三笠の後部デッキ、スタンウォーク真上でためを作った後に弾けるように叫んだ


「たまらん!!よか尻じゃ!!」


軍艦旗を降ろす時間が近づく時間

今日の最後を締めくくるという作業に規則正しく作業をする水兵達の唖然とした顔

上位階級のお偉い様の考える事は「わからん」と小難しい会話をとってよく酒のつまみに会話をしている彼らだが...


これはまた別の意味で「わからない」上官の姿だった


横目で秋山を見ながらも、てきぱきと今日最後の任務に徒事する水兵達

新しい季節にむかい変わったばかりの白い作業者達は海軍らしく、上官の前でも止まってしまう事なく作業をしながらも

酒の肴がふえたというすくなからずの笑みにあふれていた


口髭を蓄え、髪も小綺麗に纏めた小男

佐官の階級章を輝かせた軍服の彼は、最新鋭の艦に駆け上がると真っ先に艦尾に走り、大きな第一声に「尻」という言葉に


周りの笑みを知りながらも気にもしない秋山の後ろ、共に従った数人の尉官達と阿賀野らが息を切らしているのに

涼しい表情の奇人、いや汗はかいているのだがそれ以上に満面の笑みで目線を泳がし、手すりに頬ずりする程に、艦を舐めるように顔を間近に近づけて三笠の見て飛び上がらんばかりの喜び


「う〜〜んガイや(すごい)のぉ、ええ尻しとる!!」


小柄な色黒

愛嬌のよい丸い目を見開いてさらに輝かせると


「日本も!こがいに(こんなに)デカイ船をもてるようになったか!」

「秋山教官は2年前まで海外をで勤めておられましたね」


阿賀野には秋山の少し後ろに立ち、この騒がしい上官が海軍大学校の教官となる前、アメリカに留学、ついでイギリスにわたりと長く日本を離れていた事を思い出した


「そうぞ、2年間の旅をしとった」


世界の海を渡った男は、黒く焼けた顔に旅の思い出を懐かしむ笑みを浮かべて頷く


大学校の教官となった彼の私室には英語の本が無造作に山とつまれ

海図に写真、海外から土産と持ち帰った品であふれ、ひっくり返したゴミ箱のようになっているのを見たときには...初めて阿山を迎えに出た時の驚きを阿賀野はわすれられなかったが、それら宝の山に埋まった資料を使った巧みでわかりやすい講義には感心した。

学生達に非常に評判がよいのもうなずける


「かえってきたら、いきなり海軍省詰めになってな...なかなかココにはこられんかったから」


アメリカに留学した当時、米西戦争の観戦武官をした彼はその戦いのレポートを海軍省に提出

克明に記された戦の経緯と独創的な視点から見られる戦いの解析、10章にもわたる長文であったが海軍省にとっては大切な報告書となり帰国後の彼の進路を決定ずけたものになった


常備艦隊参謀秋山真之


この2年後の現在は海軍大学で教鞭をとり、次代を担う多くの帝国海軍士官の育成に励んでいた


「三笠かぁエエ船ぞな、比律賓の戦で活躍したアメリカの戦艦をよおけ見たが。オレゴンにインディアナ、それに最新の戦艦アイオワ!12インチ砲を4つに8.4.6.とこれまたようけ砲塔をもったる船やったが......」


口をつぐみ思いをため込むと


「負けとらんのぉ、日本もこがいに大きい戦艦言い切れる船が持てるようになった、たまらんわ」


うれしさに眉をしかめ、指を折る

「これの前に、八島に富士、敷島、朝日、このとなりのが初瀬か!それに八雲、ああホントにようここまできた」

まるで父親が長旅から返った自分の元に子供を迎え入れるように、大きく手を広げて

港に浮かぶそれら戦艦と達と巡洋艦、駆逐艦を慈しむように見る


「三笠、おみさん(おまえさん)は、ごんべえさんと西郷卿の意地の形、ようけはたらいてもらわんにゃならん」


秋山の山本権兵衛海相を「ごんべえ」という言葉に一瞬顔を青くした尉官達だっが続く西郷従道の名に頭が下がった


六六艦隊計画

大清帝国との戦の後に迫った敵の姿は、想像以上のものだった

ロシアという大帝国による圧力「三国干渉」に日本は涙をのんだ


それ以降、以前以上に敵の姿は鮮明になり、国民の全てが敵と認識し始める出来事で世界は急転してゆく


不凍港を得て浦塩ウラジオストークに艦隊をあつめ、旅順に要塞を築いたロシアとの海を挟んだ対立と共に


陸軍川上操六が危惧していた事態は目の前で起こり続けていた


シベリア鉄道、中央ロシアからの兵員輸送をする道はこの1年前(1901年)ついにバイカル湖を越え

産物乏し山間を縫いついに富への終着駅に手をかけた

ロシアは清を身の内から喰らい我が物にしようという己の正しき征服欲を剥き出し行動していた


対する防波堤となるハズの清はすでに体の大半の機能を失い

列強のなすがままの状態であり、自分の身を喰わんとする者に鉄道の敷設権を与え満州を横断、東清へ、さらに浦塩までをつなぎ分岐した道にて大連、旅順にロシアの血を通わせてしまった


東方を制圧せよ(ウラジオストーク)という血脈は開かれ

巨大なるロシアの陸軍勢力が海を挟んで日本に迫る事も...最悪の事態も考えられる時に、時代はさしかかっていた


海を隔て国を護る最初の盾である海軍の増強は、そうした迫る圧力の下で行われたが

思うようには事は進まなかった

山本権兵衛による海軍上層部に断行された2度のリストラや経費軽減策が、艦艇の増強に働くほど功を奏する事はなかったのだ


それでも敵であるロシアは目の前に迫っている


「ごんべえさんが西郷卿に相談して...」


西郷従道最後の博打だったのかもしれない

艦隊を増設するために尽きた策、苦しむ山本権兵衛の要請を聞いた彼は「戦艦を買いましょう」とあっさりそう言った


そこには深淵なる決心があり、それを国民が理解するのは難しかったのかもしれない

秋山も小耳に挟む程度の異例にて違法の採決であったため下士官達の手前経緯までは口にしなかったが

三笠の手すりに手を置いてつぶやいた


「おみさん(おまえさん)にはな、西郷卿の思いがつまっとるぞな」


国防のために心血を注いだ西郷従道は三笠の到着を待ち、一目見る事を望んでいたが今は病床の所にあった

那須高原にて闘病の日々を過ごしていたが回復は見込めずのまま東京に戻ったところ、横須賀に到着した三笠の写真が届けられそれを見つめた従道はただ微笑み


「あいがと、ようごわす」と告げた


江戸末期から明治への時代を駆け続けた男はついに三笠を見る事なくこの月、7月18日に世を去る。最後まで国防に己の血を注ぎ続けた想いは、六六艦隊の完成という形として引き継がれた





「おみさんは、ええ船に乗れるようになったの」


他の尉官を下がらせた秋山は、阿賀野と飽きることなく三笠の甲板を歩き回っていた

奇行で知られた秋山にとって多くの人をつれてあるくのは自分の楽しみを邪魔される事にすぎなかった。


「阿賀野くんと2人でまわるわ」


そう言って下がらせ、誰もいないす事をよしと存分に楽しんでいた

時に真新しい甲板の木の匂いを嗅ぐためにかはいつくばり、速射砲を手でなで回し


感心したように続けながら、ふいと顔を港の端にむけた


「わしが士官になって最初に乗った船はのぉ、あそこにおる高千穂じゃった」


拡張を続ける横須賀鎮守府、メインバースから離れた場所に秋山が少尉として初めて乗り込んだ艦は静かに浮いていた

「足の速いええ船じゃったが、今見ると船体がちと弱みそに(弱々しく)もみえるのぉ」


茶目っ気いっぱいの会話

思い出せば10年以上も前に乗艦した船

今、新たな力となった三笠や八雲と比べるのは酷なものだが

大清帝国との黄海海戦では第一遊撃隊として戦った高千穂は「天孫降臨」を象徴するマストに舞い降りた鳩によって勝利を約束された艦ともいわれ、縁起の良い船として多くの兵士を奮わせた艦であり

今もまたその逸話により愛し親しまれる艦だった


「清との戦いの時まで高千穂か吉野に乗っとればなぁ...わしはあの時の海戦はみられなんだ、筑紫に乗っとってのぉ」


少尉として初めて乗った船ではあったが開戦時には移動し筑紫の航海士として働いた秋山は黄海海戦に参加できなかった事を心底悔しい思いをしたと考えていた

海戦以上に大切とされた陸軍への輜重を主な仕事として働いた巡洋艦筑紫はあの激戦に参加する事はなかった

その後の「威海衛攻略戦」には参加したが、実際に戦艦同志が向きあって戦う瞬間に立ち会えなかった事は今も彼にとっての一番の残念であった


「見れなんだ戦を悔やんでも仕方なしじゃ、清のロシアが現れてしまった今は来る戦いの事を考えんにゃな...だからの色々と勉強した。体ばっかで戦いに向かってはいかんからの」


そう言うと自分の頭を何度か軽く叩いた

「勉強して勉強して...」

参加しなかった海戦を調べ、参加した佐官達の話しを聞き

たくさんの記録を残した

先に述べた米国の戦いを観戦武官とし参加し帝国海軍の発展のために記録をとった


だが

日本が世界の中に入っていき、苦しい懐の中からも独立を護るために命を預けた船達をわすれた事はなかった

まるで自分に思いこませるように何度か頷き


「あのころ...ようぞこんまい(こまかい)船であの鎮遠と戦ったもんじゃ」

離れのバースにいまや夕日を浴びシルエットとなった鉄の巨大艦鎮遠を見た


「鎮遠を初めて見たのもココだと聞いていましたが」


港と並ぶ船達に昔を懐かしむ秋山に阿賀野も鎮遠を見ながら聞いた

「ああ、初めて見た時は肝が震えた。あがいに(あんなに)デカイ船とはよう戦えんわとの」


当時の帝国を震え上がらせた鉄の船は、捕獲戦艦だったとはいえ帝国海軍初の一等戦艦として編入され今は日本の海軍力の一端を担っている


「そこから考えるとホントにガイな船をそろえたもんぞ」

「たしかに、世界と引けを取らぬ戦艦を揃えることができました」


簡単の声をあげつづける秋山のとなりを歩いていた阿賀野は少し曇った返事を返した


「なんぞ、不安でもあるのか?」


秋山という男は相手の声一つで思案を読もうとする特技があった

ココにくる前、東郷中将とあった時にもそうだったように、阿賀野の声に覇気がなくなった事をすぐに感じ取っていた


「新造の戦艦の所得には国民に多大な負担をかけています。心にも体にも...」

「そうよな、国を護る良か船の代金は高い、仕方のない事ぞ、戦争になってからじゃ備えられんからの」


顔は見なかった

相手の対応が変わった事には気がついたが歩く速度を落とすこともしない秋山のうしろで


「秋山教官はどうお考えですか?軍備という備えを大々的持てば我が国周辺各国に列する国々までも戦うための備えをそろえ戦争への道を助長する事になるのではないでしょうか。実際、重い税を強いられる国民からは軍は戦う事ばかりを考えているという非難も少なからずあります」

「阿賀野くん」

歯に衣着せぬ批判を真面目に口に登らせた阿賀野に向かい秋山き足を止めて振り返ると


「ロシアとの戦争は避けられると思うか?」


小男は目だけで回りを伺った。軽く話してよい事ではない話題に水兵の影を捜し、警戒の目船のままぐるりと回った先、最初に三笠に乗つた長官公室の天窓の前に立ち止まると聞いた

戦いに向かう日本

その相手はロシアしかない


阿賀野は海軍省に詰めている尉官、日本が現在敵として想定している相手がロシアである事はわかっている

当然世界もまたロシアの動きに軽快し色々と政策を講じている事も


「ロシアは満州からの撤兵を約束しました」

「だが陸路の道の権利を譲ったわけではない」


素早い返事と厳しい目線に彼は逆らった


「元老の伊藤卿(伊藤博文)は平和的解決を求め色々と活動しておられますが、政府は囲みを作る方が大切という、刃物をちらつかせる交渉をしているようにしかおもえません」


このころ日本はロシアをどう相手とするかで議会が真っ二つに割れていた

明らかに巨大帝国で強大な軍を持つロシアは落日の清を手に入れるに一番猛威を振るえる国

列強の盟主である大英帝国は清国内に持つ自分たちの利益を脅かすものとしてロシアを危険な存在と見るや日本との同盟に動き出していた


日本ではロシアと都合のつく形でとりあえず手をとり列強の植民地争奪戦への介入を避けようとする意見と

ロシア事態を危険な存在と認め、イギリス他列強と手を結びこれを迎え撃つべきという意見が激しい対立を見せていたが、最初に掲げたスローガン「臥薪嘗胆」の勢いを止める事はできず大局はイギリスとの同盟へと動き

その動きにロシアも厳しい目を光らせ続けていた


だが盟主イギリスはボーア戦争にて極東に直接軍事介入する事は無理であろうという背景の元、弱小国日本が一国で自分に立ち向かえるわけがないと決めたロシアは目の前にある富に剥き出しの牙を立てる行為を自重する事はなかった

薄氷の交渉は....無駄に終わる....


秋山はアメリカ、イギリスを渡り歩いたことでもロシアとの交渉が良い結果を出すのは難しいと考えていた


「刃物ちらつかせる程度でロシアが譲歩なんかみせるかい、前の義和団の時から...いやそれ以前からなロシアは日本が目障りでしゃー(しかた)なかったんぞ」


太陽が水面に半身を沈め、波に煌めきの破片を写す時間

秋山は目に宿った炎をもよくみせていた


「ロシアはな日本が清や朝鮮に介入する事が自分たちの権利や利潤に良くないとばっつり判断しとるぞな。そのうえ日本を舐めきっとる!だから清に勝って意気揚々としとった日本の右頬を張たんじゃ」


阿賀野も覚えているロシアが押し付けた恫喝

三国干渉


巨大国家はいかにも清を助けるかのようなふりをして「恩を売る」形で終わった戦争に介入すると、戦勝国の日本の頬を世界に音高く張り倒した

弱小の国、勝っても列強の前にひざまずけと言わんばかりに


秋山の指が阿賀野の顔を指す、戦いに向かう日本の現状に蟠りを持つという顔に向かって


「右頬張られたらキリストさんみたいにな物わかりよう左頬だしたらええってわけやないぞな!今度ロシアが向かってきたら戦わなあかんぞな!!」


「しかし...前の戦いの時の徴兵に対して十分な恩給を保証もできなくなってきているのが日本の現状です。今や戦場にて父、兄を失った者達への慰めは陛下の思し召しである招魂社(靖国神社)だけです。心苦しい思いばかりがつのる中でさらに軍備を上げるのは」


「それでも目の前は明るない今、戦わなあかんと決断せなならん時が来る。この国のために先に逝った忠魂1万のためにもな」


秋山は話しを断ち切った


「いつまでもロシアに舐められっぱなしじゃったらあかんのじゃ」


上官の説教にも近い一言に阿賀野は反抗の言葉を抑えた

俯くようにやり切れぬ表情は隠せぬまま


「阿賀野くんよ、わしじゃて戦争したいわけじゃないぞな。ほじゃけど向かってこよう言う相手に下手にばっかにでとったら世界じゃ通用せんのじゃ」


秋山の実感だった

アメリカで「sorry」を先に言ったら完全な敗北だ

白人社会では下手に出る者は徹底的に舐められる。対等の戦いを言論と態度で示しながらの駆け引きや綱渡りをするのは大切な事


「伊藤さんは勿論、小村さんじゃて戦争する事を望んでロシアやイギリスと話しを詰めとるわけじゃないじゃろし、わしら軍人だって命は惜しいできりゃ戦いたくはない」


自分より少し背の高い阿賀野の肩を叩いて


「それでも戦わんにゃならんとなれば、戦の玄人であるわしらが前面に立たなあかん、その時にボロの鉄砲もっとったら護りたいものも護られん。ちがうか?」

「いえ....違いません」


阿賀野は自分が、この上官の性格に甘え我が儘な意見をした事に頭が下がった

普通の士官ならば怒鳴りつけて終わってしまうところだが秋山は辛抱強くも自分の意見を聞きつつ現状の日本の状態をよく理解した答えまで導いた事に


「すいませんでした。不用意な発言、不躾な意見を」


改めて深く頭を下げる阿賀野に


「気にせんでええ、皆が皆戦争に強行一本槍なんて考えとったら、その方が日本は危ないぞな。10人おったら10人色んな考えがを出し合っていけるようじゃなきゃいかんからの」


険しい表情をなくし愛嬌良く笑う秋山は阿賀野の肩をもう一度叩くと鎮守府の宿舎に戻ろうと三笠を降り始めた




「ところでおみさんは三笠で何の仕事に就くのかの?」


係留してある桟橋に足を降ろした秋山は、新たな三笠の乗組員としてココ来た阿賀野のが何をするのかはしらなかった

「特進で大尉になる程の仕事とは気になっての」


緩急たゆまず相手との話しを楽しむ上官に阿賀野は三笠のマストを指差しながら


「例の無線機を扱う任を与えられまして」

「おおっあれか、木村くんがあれこれやっとたヤツ、海軍省にも4つ程置いてあったな、実戦につかえるのか?」


新しい物珍しい物好きの目を輝かせて、阿賀野に詰め寄る

「三笠にはもう乗っとるんか?」矢継ぎ早な質問に、緊張が薄れて苦笑い

「ええっもう設置はされています。これから舞鶴に向かう間、初瀬や朝日、主力艦を中心とした交信訓練がありますから」


「ほぉかぁ....ええのお」


既に自分の手で触ってみたいという正直な欲望が秋山の指を揺らし、落ち尽きなく足を動かす

今にも駆け出し今一度三笠の中にある実物に面会使用とする程に


「やっと15海里の通信に成功しました。目標は80海里なので三笠艦など敷島型を中心に実装を増やし試験をする予定です」


笑いを堪えながらもしっかりと報告する阿賀野に秋山は手揉みしながら


「おみさんも新しい者好きか、電波が飛ぶゆうてもなかなか理解できん者が多かったろうにのぉ」

実際新しい兵器といっても大砲や速射砲とは違う無線機の習得や開発は海軍省でも人選に困ったものだった

やはり目に見える強力な兵器を任されるのとは違い、気が進まない者が多かった中で抜擢された阿賀野は嬉しそうに答えた


「自分は靖国の宮司の傍系にあたります。電波というのは何か神託の走りのようにも感じまして、任を受けたときもすんなりと」

「ほうか...わしも乗ってみたくなったな三笠」

輝く目は今まで見回った三笠を名残惜しそうに見つめると、体を大きく震わせた

「よか船がみれた明日はまた朝から講義に研究じゃ」

そういうとまたも駆け足で走り始めた。その後ろ姿に阿賀野は慌てて声を掛けた


「秋山教官!!自分はまだ見たい艦がありまして」


小走りに前にむかった体をとめ振り返る

「他の船?初瀬か?」


「いいえ、あちらを」阿賀野は背筋を伸ばすと隣のバースに係留されている艦を指差した


「松島か....」

最新鋭の戦艦を見に来た秋山は拍子抜けしたように阿賀野を見つめると、歩を戻し腕組みしながら語った


「松島はあかんぞ、わしゃ昔アレにも分隊士で乗っとった事があったが...」


秋山が分隊士として松島に乗り組んでいた頃

イギリスからの士官を招聘し、艦隊運動の基本を習得するという帝国海軍として何度目かの演習があった。何故そんな事になったかの理由は、かの鋼鉄の戦艦にあった


定遠、鎮遠は横須賀に来たとき見事な操船にて港に入った

大きさばかりに度肝を抜かれたり、意気消沈したわけではなかった


あれほどに大きな船を操る技術の高さにも海軍はショックを受けていたのだ


そして技術力で劣れば舐められるという事を思い知った

そのために何度もイギリスから優秀な海軍関係者をなけなしの金をさらに叩きだし迎えては艦隊訓練の基礎を叩き込むという日々があったのだが....


そういう国の威信を賭けた演習にフランス艦艇である松島は出遅れ、常に遅れをとり安定しないボイラーに泣かされた


「フランスの艦は欠陥商品」イギリスの士官にも大きな声でそう言われた中を懸命に操艦、演習を繰り返した

結果、なんとか前の海戦では乱れる事ない単縦陣の実行は出来たそうだが

最初に苦労を味わった秋山にとって良い思い出はまるで無い艦だった


「大金叩いて3隻も買ったのに、14ノットだしたら船が壊れそうになるわ、安定速度にもっていこうしたら10ノットしかあかんし、さんざんやったぞ」


その経験からフランス艦艇をやめイギリスの艦艇に切り替えた帝国海軍

過渡期の苦労に顔を歪めて


「今でもようやっと動いとる船ぞ」と肩をすぼめて見せた


そんな上官の苦労話に苦笑いを浮かべた阿賀野は少し伏せた目で


「松島に兄が乗っていたんです」


あにさんが」

「ええっ前の戦いの時...黄海の戦いの時に兄は松島にて速射砲の指揮を取っていました」


阿賀野の返事に秋山の顔は曇り申し訳なさそうに聞いた

「ほじゃ...あの海で亡くなりなすったか?」


黄海開戦時、松島は鎮遠からの艦砲を左舷前部に受け、爆発大炎上を起こした

兵員も一瞬で90人もを亡くし、速射砲は一門しか稼働しない状況に陥りそこで戦線を離脱しなければならなかった

曇った上官の顔に阿賀野は首をふり


「大けがでしたが無事に帰って参りました」


そういうと夕日を浴びる松島に目を細めながら

「あんな大けがをしたのに沈むことなく日本まで走ってくれたと兄は感謝してました」


戦線を離脱した松島はそのまま修理のために呉に向かったが、被弾で開けられた穴は大きく深く艦体を抉っていた

いつ何時、沈んでしまってもおかしくない程の大けがをおった松島だったが、共に戦い生死の狭間をくぐり抜けた兵士達の願い

「無事に日本に帰れますように」という祈りに応じ、傷ついた体を懸命に動かし呉に帰り着いた


「松島が頑張ってくれたおかげで兄は大けがを負いましたが日本に帰ってこられました」


大切な思い出話に秋山は頭を掻きながら

「ほぉか、ほなゆっくり見てくるとええ」そう言って先に宿舎に戻っていった


阿賀野は闇に消えた秋山の背中から視線を松島に向けると、まるで秋山をまねるように小走りで松島に向かっていった



その後ろ姿を艦魂三笠は悲しげな顔で見つめていた


カセイウラバナダイアル〜〜勉強勉強〜〜


新しい話しをかくたびに...ものすごく困っているヒボシです

やっぱり難しい

近代の歴史、たとえ帝国海軍の話だげたとしてもあらゆる角度からの検証が必要であり

経済や人の流れ、思想などの多くがからみあったものをいかに簡単に書く事ができるかというのが鍵になるとおもうのだけど...


ダメっすwww

だって次の海戦の絵図さえうかばない

なんでこんな難しい題材を扱ってしまったかと後悔の嵐ですよ

ヒボシも資料として...ホスィ本がありますが

たぶんそういう良質な資料本を手にしても私はまともにそれを解釈はしないと思うのです

書かれている事が「どういうもの」で「どうしてそうした」か

そういう事が理解できないと私は筆が進まない

どうしてその人の考えがそこに至ったか?

その人はどう思われていたか?

どんな癖を持ってる人だったか?

そういう人達が何故にこういう戦いをしたのか?

そういうものが知りたくなってしまうのです


戦記...

メッセでは艦魂が入る事によって

戦記ではないですよね?という質問を頂いたりするのですが

史実と共に動く事においては戦記

心や魂の葛藤も、この激動の時代を戦う事も戦記とヒボシはとらえております


至らぬ事は勉強するしかありません

勉強勉強〜〜〜うーうー


ふ〜〜〜〜〜



がんばりますぅぅぅぅ



それではまたウラバナダイアルでお会いしましょ〜〜〜

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