第十三話 失念の心
暑くて死ぬります....
宴の当日である日、浪速は吉野の元に飛んでいた
朝から容赦のない熱を振らせる太陽の下、海からの風は少しも涼しくない7月も最初の週に入った横須賀鎮守府には来る8月の熱波を先取りし、競うように短い生命の賛歌を始めた蝉たちに囲まれていた
青が眩しい水面と、緑の丘の間
「それで...浪速は参加するの?」
巡洋艦吉野の後部デッキ、蒸し暑い風にはためく海軍旗の近く日除けキャンバスのシートが掛けられている下に
納得がいかないという顔を顰めた秋津州と高千穂、その前に小さく座っている吉野の前で浪速は三笠が開催を決定した宴に参加する旨を告げていた
「浪速は酷いと思わないの?三笠は...」
小さな妹を護るように前に問う秋津州は吉野によりそったまま
「酷いっていうなら私も酷い事をした側だからなぁ」
日陰に入る者達に恨めしそうな熱波をおくる太陽に目を向けながら、俯いたまま抱えた膝の上に頭をすりつけた状態の吉野におどけた声で返事する。堅くなっている場を和ますための浪速特有の少しの努力の前で
吉野の心は晴れず
三笠から言われた「もうわすれてもいいこと」という言葉に引っかかっていた
それはあの争いの海全ての事だけというわけではなかった
ただ一つの出来事に心は引きずられ続けていた
「忘れ...られない」
甲板の木目を見つめ続ける目線
いまにも泣いてしまいそうな吉野の顔に
「しかたないよな」浪速は笑うでも悲しむでもない声をかけた
「仕方ないですむの浪速は?」
苦笑いのまま相変わらず青天の空とは対照的なほど重い空気の下にいる魂達
浪速にきつい口調で詰めたのは姉である高千穂だった
「比叡は手足を失う酷いめに合わされたのよ、貴女の親友がよ、それでも仕方のない事で、忘れてしまえる事なの?」
同型の姉妹であることをよく示す緑の瞳は妹を睨んだまま
「貴女だって、テイは許せない事たくさんあったハズでしょ」
「たしかに、たくさんあった」
詰め寄る姉の前、反らさぬ目の浪速は衣替えで変わったばかりの白の軍服の襟カラを外すと、自分を緊縛していた思いを解放するかのように、自分より少しばかり背の低い姉の前に進むと
「あったから...佐世保でテイを殺そうとした」
きつく結んだ苦しみを唇からもらした
怒りだけが自分を支配し、比叡の仇うちをしてやると魂どおしの殺し合いをしようとした日の事を
テイを蹴倒し髪を千切り...鬼人に成ってでもと振りかぶった手を厳島に止められた
「殺すハズだった」
その時の気持ちを忘れたことはない事を念を押し、目を見開き声をぶつけるように大きくして突き返した
「やめて!!」
波風が緩く熱い風を日陰に通す間で、凍るような殺伐としてた会話に吉野の涙声
「やめてよ...そんな怖い事言わないでよ」
背を丸め顔を隠しながら、その肩を秋津州が支え声を挙げた目の前の姉妹に「制止」と首を振って見せた
秋津州の手が優しく肩をさする中で吉野は言った
「わかってるよぉ...ホントはいつまでもこんな事してちゃダメだって事、わかってる...だけど私はテイの仲間を目の前で殺しちゃったんだよ...ダメなんだよ」
震える肩の下で泣く言葉
忘れられない事
あの日、自分の艦砲が業火の炎を飛ばし浴びせた先で、焼けただれた棒きれのような姿をさらしながら死んでいった経遠の魂は最後まで呪いの言葉をあげ続けていた
いや
最後まで自分を呪って死んでくれたのならこんな思いにはならなかったハズだった
経遠は最後に....「助けて」と
救いを求めた言葉で吉野の張りつめていた戦いの意気は砕かれてしまっていた
あの海で誰も死にたくなかったんだと
だから戦勝の艦となったのに、敗北の艦、元北洋の艦魂達がどんなに下手の態度で自分たちに当たり障りのない距離をもっていても、勝ち誇った顔をする事はできなかった
そこにきて「誇り」を護り竜の旗を掲げ、先に死んだ者達への報復を躊躇なく実行しようとしたテイ(鎮遠)の意地と...仲間への想いを見てしまった
「テイが怖いよ...今でも私、あの子の夢を見るの、同じようにテイもきっと...」
吉野は初めて自分がテイを恐れている事を告げた
今までは「線引き」という枠にある事を理由にして、当たらず触らず野距離をとっているふりをしてきたが、それはふりであって本心を初めてココにもらした
テイを今でも自分が恐れているという事実を
「吉野....」
秋津州は肩を強く抱きながら思いだしていた
「あの子を殺した」と甲板の隅で涙にくれていた吉野は今も変わらずにココで震えていた事に自然と涙が出た
「ごめんな吉野、それでも私は宴に行くよ。テイだってその事は忘れてないと思うけど、それでもこの先を共に戦う者になったアイツらを、いつまでも頑なに恨んでいたくもないから」
小さくしゃくりを上げて泣き続ける吉野を護る秋津州と高千穂に浪速は苦しそうな伏せた目のまま
「私はテイに謝ったんだよ。髪を切ったことや...色々な事、私達はさ、何時死ぬかわからないだろ...だから生きてるうちにきちんとしておきたかったから」
そういうと浪速は背中を向けて光の輪を表した
「吉野の事も好きだしテイの事も...今は仲間として好きなんだよ」
寂しげな背中は、自分ではまだ吉野の心を慰める事ができない事をよく理解しているように静かに消えていった
「無神経過ぎる!」
無駄なスペースの多いフランス艦艇、そう言われたのは前の戦いの時ぐらいだった。今は竣工当時に比べると小型の速射砲も数を増やし所狭しと区分けされ中身は大きく変貌し、攻撃のための装備を充実させた狭い通路の果て、艦内のさらに奥まったガンルームで、普段は誰よりも大人しい橋立は黒髪を揺らして怒りを露わにしていた
三景艦の姉妹の仲ではもっとも静かで争い事を嫌っている彼女だが三笠の発言には怒り心頭なのか目の前に黙して座る姉、松島に自分の意見をぶつけていた
「松島姉さんは...あんな酷い想いをしたのにそれを忘れろなんて、あれがイギリス人の考え方なのかしら」
橋立の怒りの根拠は別の所にも多分にあった中での事件に
横須賀の桟橋に艦を横付けした状態の松島、その長官公室で姉妹は向きあって橋立は何度も同じ事を怒っていた
小綺麗に作られた木製のテーブルを対面に座ると
「敷島がここからいなくなってやっと落ち着いたと思っていたのに...三笠はもっとたちが悪い...」
衝突は前にもあった
思い出すのも腹立たしいのか、橋立は何度もテーブルを叩く
「橋立、静かにね」
分厚い書物に目を通していた松島は橋立がこの件に関して、特にイギリス艦艇の魂達を本心から良く思っていない事を知っていた
三笠の来る前から小さいながら衝突の火種はあり、くすぶり続けていた帝国海軍艦魂達
「イギリスから来た魂達は物事を合理的に考えてるなんて言うけれど、現実の戦争はそんなふうにはいかなくって...私達がどんなつらいおもいしたかなんてまるで無視して」
「橋立、仕方のない事なのよそれは」
大人しい性格
姉の厳島のように強烈な個性がない分、心に押しとどめている不満は多い
自分を窘めるためにメガネを外した松島の前、唇を噛んだ橋立は自分たちの事がこの帝国海軍の中でどう言われているかを良く知っていた
「だって...悔しいじゃない、私達は「人」に「欠陥軍艦」なんて言われながらもがんばって戦ったのに...それを...」
欠陥軍艦....
妹の悲しい発言に自分たちに与えられてきた苦い記憶を思い出した松島は目を細めた
「そうね...それでもがんばってきたのにね...」
三景艦は定遠、鎮遠の存在を間近で味わった海軍上層部のショック状態の中から、それでも知恵を絞って作り上げられた船だった
あの時の日本には定遠のような「軍艦」「戦艦」を大きな代名詞を持つ船を造るだけの資力はなかった
貧しき日本
だから小型艦艇の数で勝負という部分と、その数に定遠を上回る大砲を1つ付け4艦連動の艦隊行動を取り戦うという戦法に基づいて作られた
だけどそれは机上の空論であった事はすぐに実証されてしまう
最初に日本に来た厳島の姿に心躍らせた海軍だったが、威信を賭けて組み込んだ32センチ砲は小さすぎる艦体に負担になるだけである事を試弾の段階で味わってしまう
砲塔が右に回れば回った側に艦は大きく傾き発射仰角を合わせる事は至難の業となり、どれほどに訓練を積んでも的に当てることはできなかったし
撃てば撃ったで艦の姿勢を維持する事が出来ないほどの振動を起こす
海の上、進路を変えるほどの激震に水兵はおろか将兵までもが転げ回ってしまった
設計者ベルタンは32センチの大砲を積むことには難色を示していた、それがどんな結果を招くのかをよく理解していたからだ
だが、目の前に現れた鋼鉄の船を打ち破るために物質的な...いや恐怖を拭わんがための乾坤一擲の砲塔を積むことを海軍は譲る事が出来なかった
バランスを崩してしまった艦は、当然のように当初予定されていた速力を得る事ができなかったどころか
艦隊運動の安定速度である14ノットを維持できないという惨めな結果を晒す事になる
四艦合体による攻撃作戦
山本権兵衛の論は見事に打ち崩された
なのに一度に発注してしまった4隻のフランス艦艇、当時海軍省に与えられていた500万を上回る4隻540万の駄作(後に最後の1隻はフランス式の艦艇を諦めるため3隻)予算を使い切りつくられていた事により「失敗」しましたとも言えない惨めさが、初代旗艦とい大役についた松島の華美な菊花紋章に要約されていた
失敗したとは言えないお国の事情を隠すために
白い艦体に金色に大きく輝く紋章をかざり威厳を示して見たというだけ
けして誇り高き軍艦という意味ではなくなってしまっていた
「フランスの船は古くさくて...すぐ壊れて...」
悔しさばかりが募る自分たちの出生
「自分たちで私達を生みだしておいて...秋津州だってホントは私の妹になる予定だったのに、イギリス式の造船に切り替えたでしょ、だから余計に....惨めな思いたくさんして...それでも」
「それでも戦ったわね、私達は」
腹は立てても強くはなれない橋立は座ったままうつ伏せて泣き出していた
「戦ったよ、怖くて怖くて...なのに敷島は私達と仲良くしようとはしなかっし、三笠は私達の嫌な思い出に触れようとする...」
松島は目の前で顔を押さえ涙を流す妹の髪に優しく触れた
「無理して宴に行くことなんてないわ」
「でも了解してしまったのでしょ」
参加の確認を自ら取りに行った松島から出なくて良いという言葉が出るとは思わなかった橋立は顔を上げて理由を求めたが松島は平然として
「そんな状態でテイにも三笠にも会いたくないでしょ、誰だって具合の悪い時はあるのだから、嫌な思いに自分を付き合わせるより体を休めた方がいいわ」
髪の色、目の色には違いがあれども、似た雰囲気の顔立ちの松島と橋立
厳島より松島の方を慕っている橋立は首を振った
「でも姉さんは出るのでしょ...厳島姉さんだって...私だけ行かないなんて」
「誰も行かないわ」
縋る妹に松島の声は冷たく
悪意のある笑みを浮かべて続けた
「高千穂も秋津州も吉野も、同じイギリスの生まれだけれど三笠を好きな者なんていないもの」
橋立もそれは感じていた
三笠がココ横須賀にきて以来最初の挨拶を皮切りに始めた事は誰にも受け入れられてはいなかった。
演習が終わり戻ってきたところで部屋に押しかけ、あれこれと軍議まがいな事を話す堅苦しい艦魂、新たな司令艦という大役につく者という手前、挨拶ぐらいは交わしてはいたが本音では敷島の妹である事で警戒という睨め付けしていた結果がやはり自分たち対する反目の徒であるとわかった今、少なくとも前の戦いを戦った魂達には受け入れられない存在に成り下がっていた三笠
あえて問題に触らず、当たらずの日々を振る舞ってきた朝日も初瀬も、三笠のせいで立場を悪くし、あれ以来部屋に閉じこもる日々が続いていた事も
宴が無惨な結果に終わることをよく示していた
「でも...それで良いのかな?」
宴は無駄におわる...そう言わんばかりの姉の冷たい笑みに不安を感じた橋立は、手を組み最近の世界の事情と帝国の周辺の出来事を思うに募る不安にふれた
「私達は、もう第一線では働かないけど、高千穂や秋津州はまだ前にでる戦いのための艦でしょ、今度の戦争が近いならどこかで私達もどこかで...無理矢理にでも理解しあわなきゃ」
「橋立...そんな必要はないのよ。私達は十分に働いたのだからね」
困惑の目を射抜く冷たい松島の目
「もういいのよ、私達は何もしなくても」
念を押すように言う言葉
橋立は姉の心が「滅びによる解放」を求めているという事を直感的に理解したが逆らわなかった
今度の戦争は大きい...帝国始まって以来の未曾有の戦いになる....そして勝てない
ロシアには勝てない
そういう失念の心が、帝国海軍に有る艦の魂達の大半の心にあり、市井の「人」のように楽観的な事は言えなかった
「私達は....負けるのかな」
小さくつぶやく妹に松島は
「そうね、それで全てが終わるわ」と感情のない冷たい顔を見せるだけだった
昼下がり三笠はいつものように艦首に立って港を見回していた
「宴、みんなが集まらなくても大いにさわごうね!」
暑い日差しを避けたキャンバスの下
真新しい夏服に着替えた初瀬は港に並ぶ艦艇を睨んでいる三笠に笑って言った
初瀬の声はどこか緩く勘に障るところがあるのか三笠は振り向くと煙たそうな顔をした
「全員が集まって宴を楽しまなかったら意味がありません!自分たちだけが騒いでどおするんですか」
「集まらないよ〜きっと」
今日がココで交友の時間を持つのを最後と決めている三笠の思いを、軽い声が軽く踏む
自分の後ろで白の夏服の袖を軽くまくし上げている初瀬は、振り返り睨む三笠に
「だって三笠の顔が怖いもん」
「顔は関係ありません!!」
「うん、でもさ〜目が怖いよ」
初瀬はそう言うと自分の目に指を当て、姉妹特有の狐目のマネをして見せた
敷島艦の姉妹達は揃って吊り上がった目をしているようだが、初瀬だけは比較的柔らかいラインで小生意気と陽気を併せ持った愛嬌もいい顔で1人だけお嬢な雰囲気を醸していた、朝日などは三笠の色違いみたいで、髪と目の色が三笠がブルネットの髪に翡翠の目で朝日は栗毛に碧眼という違い以外はよく似た顔立ちをしていた
そんな尖った目をさらに怒らせるようにしている三笠の顔に初瀬は軽く息を流すと上目遣いで
「それにね、敷島姉さんとの一件があるから松島司令の側の子達は絶対にこないよ」
「敷島姉さん?」
まだ合っていない同型の長女に当たる姉
最初に帝国にやって来た人の名と、初めて聞く事件の響きに三笠は一瞬警戒して回りをみまわし
「敷島姉さんと松島司令って?」
声を小さくして聞いた
「うん、けんかっぽい事をしたの」
初耳、今までそんな事は誰も教えてくれなかった事に三笠は初瀬の座る長官公室の天窓に駆け寄ると
「初めて聞いたんですけど?」
「うん、初めて言ったし」
あっさりとした返事、手元にくすねてきた水筒を置いて何事もなかったかのような笑顔
「どうしてココについた時に教えてくれなかったんですか!!敷島姉さんはいった何をしたんですか!!」
緩い会話の中で今まで自分が思いも考えもしなかった事件が以前から脈々と流れていた事に三笠は苛立ち、顔を擦りつけるほど初瀬に近づけると
「そういう...なんらかの障害があるのならば先ずそれ正す作業しなければならなかったのに!!」
「だってそれは敷島姉さんの起こしたことで三笠には関係ないし」
悪気のない声
「そうは言っても、それに松島司令がひっかかっているのならしっかりと話し合わなきゃならない時だって」
「話すのイヤだから宴をするって方向にしたんじゃなかったの?」
図星
緩いながらも冷静に物事を見ている初瀬の意見に三笠は口ごもってしまった
実際松島と2人で話を詰めるのは、以前のように追い出しをくらう結果しか思い浮かばなかった。だから
宴で酒が入ればという安直な思いを見透かされた事に気まずさから目が泳ぐ
「それにしても、姉さんが何か問題を起こしていたのならば私が色々と松島司令に頼んでも聞いて頂けなくなる、そうなる事が見えていたでしょうに、何で教えてくれなかったんですか?」
自分が起こした波以前に問題を起こしていた者がいた事によって、現在場合によっては事態が悪化してしまっている事に気がついた三笠は頭を掻きむしった
女らしくない悩みの姿を前に初瀬は水筒をカラカラとふりながら
「だって、そんな先入観を持って松島司令に合わせたいとか思わなかったもの...そうでしょ、私達からそういう事を聞いて松島司令を見たら三笠は敷島姉さんよりずっと激しい行動を起こしてたと思うわ」
「敷島姉さんは何をしたんですか!!」
神経に障る緩い声に三笠は初瀬の襟首に掴みかからんとする勢い
そんな妹の苛立ちを気にもとめない返事
「何も、ただ仲良くできなかっただけよ」
そういうと
「八島姉さんも富士姉さんも、仲良くできなかったの」
八島と富士は三笠達の縦の姉で同じイギリス艦艇
まだ見ぬ姉達ではあるが今や帝国の中核をなす軍艦、それらが全て松島と仲良くできないでいるという事実に三笠は驚いた
「どうして....」
理由がわからない事を納得は出来ない、三笠は唖然とした顔の中でも強く目で押すように理由を求めた
「松島司令は戦争という仕事に徒事する自分を嫌ってるでしょ、それを公言してるし、プリンセス(厳島)はまぁ実害はないけど、何かというと自分を貴族に見立てた破天荒な主張をするでしょ。橋立さんは大人しいけど...いつも私達イギリス産の艦艇に対して強い劣等感をもっているって事を態度で示してる。国防の備えとして帝国に嫁した私達が戦い護るための仕事に熱心である事が気に入らないのよ」
初瀬の客観的な意見に三笠にも思い当たる部分がたくさんあった
「でも私達は帝国に嫁して、この国を護る仕事をするための船なんだもん。そういう意志を強くもってイギリスからココまで来たのに、最初から否定的な顔をされたら腹も立つってものでしょ」
たしかに帝国海軍の士気は三笠が横須賀に着いた時に即座に気がつく程、低くく
大清帝国との戦いを勝った側の船なのに、だれも勝った事に誇りを持っていなかった
演習にて艦の魂として士気を維持するという仕事に前向きだったのはプリンセスぐらいしか見たことがなかったし
それ故に三笠も腹を立てていたという事実があった
「苦しんだ戦いだから....もう苦しい戦いはしたくないから?」
三笠は吉野の言葉を思い出していた
「私達は苦しんで...戦って」
蘇るようにテイと浪速の話、勝っても負けても魂達は心を痛め今を生きる
「だけど...誰の目からみてもロシアとの戦いは...規模はともかく避けられないところに近づいてます。いつまでもそこにこだわっている時間はありません」
「そうね...でも勝てないと思ってるのよ。みんな」
自分にキツイ目を向けていた三笠から顔を背けた初瀬
「一度海で戦った者達は、争いの海をよく知っている。私達は最新鋭の艦だけど戦いを知らない、傷つく事も死を見ることも、なのに意気だけ強がっても納得してくれないって事か....それとも」
「それとも....」
棘のない口調を続けてきた初瀬の息が濁る
戦う船の魂である意味に....
「懸命に戦って、護って私達は何か得られるのかな?きっと何も得られないから...だから松島司令は私達のように強く戦争に向かう意気を吐く者を受け入れない」
「でも...負けるなんて...どうして」
「戦った者たちにはわかるのかもしれないよね、そういう空気が」
戦い護る事を使命としイギリスからやって来た三笠
戦い護る事に希望を見いだせなかった者達
戦った事のある魂達のもつ不安
戦ったことのない魂の持つ使命感
「私にはわかりません....私達だけでは戦いの全てはわからないのと同じ事ですから」
三笠にはまだ、この溝を埋めるだけの経験はなかった
初瀬との会話から三笠は座り込み呆然と海を眺めた
おそらく誰も集まらない宴の時間をこうして過ごすのだろうと覚悟して
夏の高い日差しは夕暮れ時の時間が時として近づいても簡単に顔を隠すつもりはないらしく
海の上に反射の輝きを見せ続けていた
太陽の光を浴びた横須賀鎮守府の壁に阿賀野は見入っていた
明治19年、今から16年前に条例に基づき多くの地域を海軍関係のものとし拡張と発展をつづける護りの港の建物はまだ新しい輝きをそこかしこに残している
若い士官達や水兵達の声がこだまする中をシーマンシップと自信に溢れた姿で港に向かって歩く
上官はすでに何人かの鎮守府詰め士官達につれられ、荷物を庁舎に預けた後の時間をいち早く船見たさに散策と称して進んでいた
「横鎮(横浜鎮守府)...久しぶりだなぁ」
阿賀野は元々ココに勤めていたのだが優秀さを買われ海軍省に転勤、内部部局の仕事ををしながら前の戦いの将校達にも認められた優秀な佐官だったが
それ以外に東京招魂社(靖国神社)設立に父親が尽力した事からも省内での祭事の取り仕切りを任されたりしていて
鎮守府にも国産艦艇の建造があればそれに併せて何度か祝詞を届けてもいた
「ココはいい」
今年32歳の男盛りは内局に勤めているとはいえよく焼けた顔を、小山のように連なる艦艇のマストが見える港の桟橋に向けなから潮の香りを追う
「あれが新しい船か」
横浜鎮守府のメインにバースに堂々たる姿を横付けている軍艦三笠の姿に、前年見た八島や富士の姿を思い出すのか
「にてるなぁ前に見たのと、こっちの方が少し大きいなぁ」
海軍特有の油と炭の香りを楽しむように何度も鼻を香す
巨大な砲塔と黒い艦体には十分すぎる威厳が見える
「三笠か...」
一ヶ月前入港した事は聞いていた
新たな装甲であるクルップ鋼板と連合艦隊の旗艦となる重厚な構えには溜息がでるばかり、だが今はそんな堅苦しい思いより少年のように目を輝かせて
「おおい!!阿賀野くん!!船見よう!!船!!」
明日まで見学を待つことは出来ない、とりあえずでも見ておきたいという逸る気持ちを抑え士官らしく、見苦しくない程度の早足で三笠に向かっていた阿賀野の前を、なんの外聞も聞く耳持たぬといわんばかりに上官が走ってゆく
「秋山教官、今日はもう夕食の時間に」
「もう食った!!船みようや!!」
鎮守府の玄関を駆け出す、その後ろを同伴の士官達が慌ただしく走っている
誰もが追いつけない程のスピードで走る秋山は、大きく手を振って呼ぶ
「はようこい!!阿賀野くん!!」
自分以上に少年の目になっている秋山、軍務局の上村次長も
「秋山はよくわからん男」と言っていたが自分と同じぐらい船に心を喜ばせている姿に、自分と何も変わらない海軍男子と微笑ましい気持ちになった阿賀野は声高く返事した
「了解であります!!秋山教官!!」
そらはまだ明るい
太陽は美しいビロードの影を水面に燦々と映し、新たな国防の力である三笠の姿を美しくも力強く輝かせる中
1つの奇跡は間近に迫っていた
カセイウラバナダイアル〜〜大変〜〜
ヒボシはまさか自分で日露戦争の事を書くとは考えていませんでしたwww
いきなりぶちまけてすいません
何故なら...難しいからです、勉強しても勉強しても足りない気がして少しも話しが進まなくなってしまう恐れがあったのですが...やっぱりそうなっている現状を見て真面目にしんどいと思ってます
この先バルト艦隊との戦いまで持っゆくのはなかなか大変だと感じてましたが
一方で米問屋先生の書く「バルチック艦隊の精霊たち」が掲載された事は救いでした
ヒボシ個人ではとてもあれほどに調べることは無理で
バルト艦隊の艦魂はどうしようと色々と考えていたのですが
不器用にヒボシが書くよりも良い作品が出てきたことで書かなくてよくなったからwww
マジ本音ですw
バルチック艦隊の事がしりたくなったら米問屋先生の作品をよみましょう!!
最近メッセで「○○でこんな評価をされてますよ」というのがあったのですが...評価は評価のページにくださいwww
でも外でも感想や評価して貰えるのはある意味嬉しいですけどねw
さあ次はがんばって本伝をかきますぅぅぅ
暑い日が続いておりますから皆様も体に気をつけてお過ごしくださいませ〜〜〜
それではまたウラバナダイアルでお会いしましょう〜〜〜