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87.内倉 響と新たな扉③

 鳶田後輩の説明を一通り聞いて、部室は何とも言えない空気に包まれた。


「あの人、休憩中によく外に出ていると思ったら、女性に会うためだったんですね。懲りないというか、なんと言うか……」

「うーん……今のところは、その先輩に会いたくて休憩時間を使ってるくらいだし、そこまで大袈裟に呆れなくてもいいんじゃないかなあ。前の事があるから、どうしても身構えちゃうけど」


 鳶田の動向を聞いた各人の反応は、それぞれ大きく違う。

 影戌後輩は最近の鳶田が部活に精を出している姿を知っていたので、女性目当てに頑張っていた事が判明して呆れている。小手毬さんの方は呆れていないわけではないけど、現状そこまで目くじらを立てるほどでもないと判断したようだ。


「なんか、すみません。うちの不肖のお兄ちゃんが、ご迷惑をおかけして……」

「いや、鳶田後輩が謝る話でもないから……。というか小手毬さんも言った通り、恋愛相談部(僕ら)としては別に問題があるわけじゃないしな」


 そして僕はと言えば、兄の件で申し訳なさそうにしている鳶田後輩を宥める役目を請け負っていた。普段は人一倍明るい彼女がネガティブな反応を示すのは、いつだって兄に関する事ばかりだ。兄離れを標榜した今でも、それは変わっていない。

 別段、彼女を慰めるために気休めで言っているわけではなく、恋愛相談部が鳶田の被害を受けたのは小手毬さんが言い寄られたくらいで、それはそれで万死に値はするけど結局は未遂だったので直接的な被害はない。まあ、またやったら許さないけど。

 厳密には影戌後輩も言い寄られていた件については、簗木(ゴリラ)の裁きを受けたので恋愛相談部(うち)としてはノーカンでいいだろう。

 そうなると、鳶田兄の所業に腹を立てるべき人物は、当然この場にただ一人しかいないわけだけど……。


「…………」


 内倉さんは鳶田後輩の話を着ている途中から、ずっと俯いた状態だった。

 怒っているのか泣いているのか、傍目では全く分からない。

 ただ話の内容からして、何も思っていないという事だけはありえないだろう。

 恋愛相談部の一同、特に下手人の妹である鳶田後輩からの不安そうな視線に晒される中、内倉さんはゆっくりと息を吐いて……。


「はぁー、良かったー。花蓮ちゃんが、アレと寄りを戻したわけじゃなくて」


 心から安心したような表情で、そう言った。

 鳶田後輩だけでなく僕らも、内倉さんの反応が思ったよりも穏便だった事に、安堵の息を漏らす。


「えっと……内倉先輩、私がこんなこと聞くのもアレなんですけど、怒ってないんですか? お兄ちゃんが、また他の人に色目つかってるって」

「なんで? 別にアレのことなんて、もうどうでもいいし」

「お、おお……?」


 不安そうに尋ねた鳶田後輩だったけど、内倉さんの返しがあまりにあっけらかんとした態度だったので、すっかり困惑しているようだ。

 というか内倉さん、結局アレ呼ばわりは止めないんだな……。身内の前で呼んでしまったのは悪いと思っているけど、知られた以上は取り繕っても仕方がないという事だろうか。単純に鳶田後輩の前という事情を差し引いても、鳶田を固有名詞で呼びたくないだけなのかもしれない。


「つまり鳶田くんは、二ノ宮さんに謝ったって事なのかな」

「多分……そうだと思います。許してもらえるかどうかは別として、筋だけはちゃんと通しておくように、私がお兄ちゃんに言ったので。そうじゃなかったら許しません」


 小手毬さんの疑問に、鳶田後輩がそう答えた。

 彼女としても、兄が不義理を働くのを止めたい気持ちがあるのだろう。兄離れをしたと言っても、家族思いであることには変わりないようだ。

 しかし、そうなると鳶田は内倉さんにも、謝罪のために接触してくる可能性が高い。そもそも二ノ宮さんと仲が良いのは知っているんだから、二人きりなんて紛らわしい状況にしなくてもいいと思うんだけど、そこは鳶田なりに一対一で対応したかったのだろうか。案外、内倉さんが怖いだけなのかもしれないけど。

 鳶田の今後の行動について、小手毬さんも僕と同じ考えに至ったのか、彼女は内倉さん向き直って声をかけた。


「そうすると今度は、内倉さんのところにも来るかもしれないんだね」

「私は別に、花蓮ちゃんと私にちょっかい出さないなら、どうでもいいよ?」

「う、うーん……」

「あはは……妹としては、内倉先輩が落ち込んでなくて何よりです……」


 やはり気にも留めていないような内倉さんの返答に、小手毬さんと鳶田後輩が複雑そうな表情を見せる。僕も落ち込んでいないのは幸いだと思うけど、ここまでバッサリだと清々し過ぎて逆に凄いな……。


「あの人のことは解決でもいいんですが、そうなると二ノ宮先輩が内倉先輩を避けていた理由が分かりませんね。二ノ宮先輩への謝罪が昨日の事だとして、それ以前は別の理由があったはずです」

「あ、そっか……それがあったね」


 鳶田の件が解決したような雰囲気の中、影戌後輩だけは別のことを気にしていたようだ。確かに二ノ宮さんの付き合いが悪くなったのは昨日よりも前の話なので、鳶田が無関係なら別の理由が存在していることになる。


「他に……でも、そんな心当たりなんて……」

「鳶田先輩ではなかっただけで、他の男性と仲良くしているのでは?」

「え……男……?」


 影戌後輩の爆弾発言を受けて、内倉さんの顔が青褪める。まあ言った影戌後輩自身は、本当に何気なく思ったことを口にしただけなんだろうけど。

 そんな内倉さんの反応が理解できないらしく、影戌後輩は首を傾げた。


「……私、そんなに変なこと言いましたか? 女子高生が友達と付き合い悪くなるなんて、大抵は男絡みだと思うんですが……」

「え? ど、どうだろ? そんな事は――」


 話を振られた小手毬さんは「別にそんな事はないのでは?」という内容のことを言おうとしたようだけど、途中で言い淀んだ。おそらく僕と同じように、悔しそうな顔をしている自分の友人の姿を思い出したのだろう。()()がああいう表情をするようになったのは、間違いなく小手毬さんが恋愛相談部に入ってからだからな。


「あ、あるかも……」

「ですよね?」


 自分の行動を振り返って反省していそうな小手毬さんを余所に、影戌後輩は持論を肯定してもらえて安心したような表情を見せる。いや、まあ普通はそう思うだろうし、内倉さんの反応も過剰に見えるだろうけど、彼女の場合はなあ……。


「や、やだよ……アレじゃなくても、花蓮ちゃんに彼氏が出来るなんて……」

「内倉さん……友達に彼氏が出来て寂しいのは分かるけど……」

「い、いや、小手毬さん。そこに触れるのは、ちょっと危険と言うか……」

「え? どうしたの、真壁くん?」


 内倉さんの複雑すぎる事情を分かっていない小手毬さんを止めようと、僕は言葉を濁しつつ声をかけた。あのキスシーンを見た僕と鳶田後輩には明白だけど、小手毬さんと影戌後輩は普通に内倉さんが友達を心配しているものだと思っているからな。

 正直、いくら恋愛相談部と言っても相談されて困ることはあるので、そんな際どい話を持ってこられるのは勘弁願いたいのだ。


「う、内倉さん? まだ二ノ宮さんに彼氏が出来たって、決まったわけじゃないから」

「そ、そうですよ! なんかこう……意外と大したことない理由だったりするかもしれませんよ!?」

「ううぅ……」


 どうにか決定的な発言を回避しようと、必死に宥める僕と鳶田後輩を余所に、とうとう内倉さんは自らの思いの丈を口にしてしまう。


「花蓮ちゃんの……花蓮ちゃんの彼女は、私がなるのっ……!」

「え?……ええええぇっ!?」


 ……あ、二ノ宮さんが彼氏ポジションなのかな。

 小手毬さんたちの驚愕の声を聞きながら、僕はそんなことを考えていた。

活動日報を投稿しています。

以前もやったカスタムキャストで「真壁くん」のキャラを作るネタです。

今回はぐぬぬ・氷の女王・二ノ宮さんの彼女(自称)の三人になります。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 鳶田くん絡みで良かったことは内倉さんと友達に なれたこと、と語っていた二ノ宮さんは大層漢前でしたが。 そこから先はむしろ内倉さんがヒーローポジションという印象でしたけど 画をみると内倉さ…
[良い点] うんうん。 小手毬さんを除いて皆分かっていましたからね。 きっと、小手毬さんは真壁君しか見えていなかったのでしょう。 [気になる点] はっきりと明言しちゃったからには、二ノ宮さんの扉が開か…
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