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40.二ノ宮 花蓮、二度目の恋③

「アレに見つかってたらヤバいと思ったけど、真壁くんのとこなら安心かな」


 二ノ宮さんが僕のところ、というか恋愛相談部にいることを知った内倉さんは、すっかり安心した様子だ。

 それにしても相変わらず「アレ」という呼び方のインパクトが強い。一体どんなことをしたら、同級生からそんな風に呼ばれるようになってしまうのか……。答えは二股です、呼ばれて当然ですね。


 そういえば内倉さんとは、前回あまり絡んだ覚えがないな。

 二ノ宮さんの相談で調査を始めて、その中で内倉さんが浮気相手として浮上した形だったから。

 最終的には鳶田の本性を伝えに行ったけど、逆に言えばその時くらいしか僕と彼女の接点はない。

 ちなみに彼女も鳶田には入れ込んでいたので、それなりに罵られたのは記憶に新しい。

 当時は小手毬さんという癒し系小動物が傍にいなかったのに、よく立ち直れたものだと自分でも思う。


 まあ、小手毬さんの精神安定効果はともかくとして、内倉さんから予想以上の信頼を向けられているのは、気のせいではないだろう。

 二ノ宮さんとは仲良くやっているようなので、彼女から以前の件について話を聞いたとかだろうか。


「あの時は真壁くんにも迷惑かけちゃって、ごめんなさい。アレがあんなことしてるなんて、いきなりで信じられなかったから……」


 内倉さんが今まさに僕が考えていた件について、謝罪をしてきた。

 二ノ宮さんにも言ったけど、悪いのはアレだから僕は大して気にしていない……って、僕も感染ってるな。


「僕が二人を何とかしたいと思ったのは、そういう彼氏を信じようとする子が騙されてるのが嫌だったからだよ。二ノ宮さんには言ったけど、悪いのは鳶田なんだから、二人は気にしないでほしい」

「真壁くん……ありがとう。今は男の子って、あんまり信用できないけど……」

「そうね……。でも真壁には感謝してるわよ」


 流石に以前と同じようにとはいかないか……。苦笑する二人を見ながら、僕は残念に思った。

 一度、悪い男に騙されてしまったわけだし、そうなるのも仕方がないだろう。

 それに警戒心が強いのは、決して悪いことでもない。


 気を取り直して、僕は初対面だった小手毬さんと内倉さんを互いに紹介した。

 案の定、内倉さんは鳶田の被害者になりそうだった女子がいたと知り、顔を真っ赤にして憤慨していた。

 既に相当嫌われているはずだけど、ここから更に内倉さんの好感度が下がった場合、鳶田に対する呼び方はどうなってしまうのだろうか。「アレ」より下というのは、ちょっと思い付かないけど……。


「でも鳶田くんって、私たちに嫌われてるって知らないのかな? 普通は二ノ宮さんと内倉さんに、声かけたりしないと思うんだけど」


 小手毬さんがそんな疑問を口にしたが、その点は僕も気になっていた。

 ほとぼりが冷めて――冷めたつもりで彼女を作るにしても、よりによって相手が二ノ宮と内倉さんはないだろう。

 どう考えても嫌われているというのに。


 それと今の発言で、小手毬さんも鳶田を嫌っていると明らかになっていた。

 鳶田の所業を考えると嫌われて当然ではあるけど、小手毬さんに言われるのは相当だと思う。

 僕なら部室の窓を開けて、そのまま身を投げていたかもしれない。


 小手毬さんの言葉を聞いた少女二人は、苦い顔を互いに見合わせる


「あたしたちもアイツと話したくないから、ちゃんと聞いたわけじゃないんだけど、なんか調子に乗ってるっていうか鬱憤が溜まってるっていうか……」

「多分、今までモテてたから、周りから総スカンになってる状況に耐えられないんじゃないかな。一度付き合えた私たちなら、まだ可能性があるって思ってるみたい」

「あたしたち、かなり大っぴらにアイツをボコボコにしたから、他の女子にも相手にされてないみたいだし。まあ、されなくて当たり前なんだけど」

「なるほど」


 かなり難解な思考ではあるし、あくまで二人の想像に過ぎない部分もあるけど、とりあえずは把握できた。

 例の二股が発覚して以降、女子から見向きもされなくなった鳶田は過去の栄光が忘れられず、自分に好意を持った経験がある彼女たちに目を付けたってことか。

 なりふり構わずというか、かなり切羽詰まっているような感じがするな。


「……そういう意味では、小手毬さんも危ないかもしれないな」

「わ、私……?」

「あー、そうかも。アイツ間違いなく、その子もたらし込もうとしてただろうし。大人しそうだから、狙い目だと思われてそう」

「……潰しといた方が良かったかな」


 縁起でもない話ではあるけど、二ノ宮さんたちの話が事実なら小手毬さんがターゲットになる可能性も十分にあるだろう。

 二人が靡かなければ、小手毬さんに矛先が向く日も来るかもしれない。

 今だって二人同時に声をかけているみたいだし、むしろ痺れを切らして三人同時進行という愚行に出る恐れすらある。

 ちなみに内倉さんの呟きは、怖いので聞かなかったことにした。


「最終的には鳶田をどうにかしないといけないけど、とりあえず落ち着くまで恋愛相談部(うち)に来てもいいよ。他に当てがあるなら、無理にとは言わないけど」


 究極的には教師に相談するべきなんだろうけど、二人がそうしないのは理由があるのだろう。二股されたことを知られたくないとか、いくらでも考えられる。


 僕の言葉に、二人は目を輝かせた。

 一方で小手毬さんは、口には出さないものの少し不満げだ。


「本当!? ありがとう、真壁ー! アンタがいれば余裕だね!」

「ふふ。良かったね、花蓮ちゃん」

「むー……」


 喜ぶ二ノ宮さんたちを尻目に、小手毬さんは口を尖らせている。

 そんな表情も珍しくて見ている分には悪くないけど、彼女から嫌われてしまっては元も子もない。

 僕は二ノ宮さんたちから見えないように小手毬さんの手を握り、小声で話しかけた。


「ごめんね、小手毬さん。この件が終わったら、ゆっくり話をしよう。こんな状況だと、雰囲気も何もないからさ」

「う、うん……!」


 まだ少し不満げではあるけど、小手毬さんはコクコクと首を振ってくれる。

 なんとなく話の内容は想像できるものの、それこそこんな状況で他の女の子たちに見られながらする話ではないだろう。

 鳶田の件は小手毬さんにも無関係ではないし、早急に解決したいところだ。


「ね、ねえ……やっぱりあの二人って……」

「ま、まだ分からないよ、花蓮ちゃん」


 決意を新たにする僕の後ろで、二ノ宮さんたちが何かを言っている。

 だけど僕は鳶田への対策を考えていて、内容までは上手く聞き取れなかった。

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