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12.楠 舞奈との近すぎる距離③

 軽薄チャラ男の金名が去った後の部室で、僕と小手毬さんは顔を突き合わせていた。金名の相談について議論をしているのだが、奴の軽薄オーラのせいで精神的な消耗が激しく、油断すると目の前の小手毬さんを抱き締めたくなる。


「しかし、また男子の依頼か……。あんまりテンション上がらないんだよなあ」

「そうなの? 建山くんの時も、真壁くん頑張ってたのに」


 僕の言葉を聞いた小手毬さんが、不思議そうな顔をする。何だかんだで建山の相談もしっかり解決したので、僕が乗り気だったと思ったのだろう。

 しかし、あれはあくまで恋愛相談部の部長としての、使命感によるものである。


「僕だって、どうせ相談に乗るなら女子の方がいいかな」

「……何で?」

「だって自分が付き合うわけでもない女子を口説く方法を考えるのって、ちょっと微妙じゃない?」

「ふーん……」


 僕は素直に答えたつもりなんだけど、小手毬さんは何故か不満げだった。ちょっと、そのジト目は止めてくれない? ドキドキするから。


「真壁くんって、普通に女子と付き合いたいとか思ってるんだ?」


 む、これは何だか嫉妬されている気がする。

 今までの相談者や、その恋愛対象になった女子に、僕がそういう感情を向けていたのかと気にしているようだ。

 そんなことを気にしなくても、僕は小手毬さん一筋……と言いたいけど、鳶田相手に失恋した件を彼女がどう思っているのか、いまいち分からないんだよな。

 僕に懐いてくれているし、好意的ではあると思うんだけど、恋愛という意味ではどうなんだろうか。嫌われてる可能性? あったら僕は命を絶つね。


「まあ、恋愛相談ばかりで自分のことは後回しになってるけど、そういう欲求も人並みにあるにはあるよ」


 結局、僕からは当たり障りのないことしか、彼女に言えない。

 小手毬さんが色々と吹っ切って、告白してくれるのを待つ方が無難かな。


「ふーん、そうなんだ……」


 小手毬さんが何か言いたげな様子で、チラチラと僕の方を見てくる。

 こ、これはどっちだ? 恋愛的な意味でOKなのか?

 ……ダメだ、分からない。やっぱり今は待ちの姿勢で行こう。


「えーっと、とりあえず金名の件で、ちょっと気になることがあるんだけど」

「あ、うん。楠さんのことだよね?」


 僕が話を変えると、小手毬さんもあっさりと、それに付き合ってくれた。

 金名はああ言ってたけど、B組の人間にとっての認識は彼とは違う。


「楠さん、絶対に金名くんのこと好きだよね……」

「そうだね。僕もそう思う」


 金名はともかく、楠さんは確実に「単なる幼馴染」の枠に収まらない感情を持っている。というのは、金名と二人でいる時の彼女を見ているB組一同の、共通見解である。だって楠さん、金名が自分のクラスに戻ると、めちゃくちゃ寂しそうな顔になるんだぞ。本人は気付いてないかもしれないけど。


「でも金名くん、楠さんのこと幼馴染としか思ってないみたいだし……」

「あろうことか金名は、鴨川先輩とお近づきになろうとしてるしな」


 しかも、どう見ても金名は本気じゃないし。

 僕と小手毬さんは、揃って息を吐いた。


「どうしよう、真壁くん。楠さんが可哀想だよ……」

「うん、僕もそこは気になってるんだけど、正直お節介かなって思わなくもないんだよね。相談もされてないのに、楠さんをどうこうするっていうのはなあ……」


 我が部は、あくまで恋愛相談部だ。

 いくら楠さんのことを気の毒に思ったからって、相談も受けてないのに他人の恋に干渉するのは、マナー違反なのではないだろうか。

 そうやって悩んでいる僕を、小手毬さんは真剣な目で見つめてきた。


「真壁くん。ここで金名くんが鴨川先輩と付き合ったら、楠さんは絶対に『納得』できないと思う。それは恋愛相談部として、ダメなんじゃないの?」

「小手毬さん……」


 彼女の真摯な表情に、僕は気圧された。

 正直に言えば、彼女の弁には大きな穴がある。そもそも楠さんは、うちに来た相談者ではないのだ。相談者でもない相手のフォローなんてしていたら、いくら何でもキリがない。それは確かなんだけど……。

 まあ、小手毬さんからこんなに真剣に見つめらたら、僕が正論なんてどうでもよくなるのは、言うまでもないだろう。


「仕方ない。やろうか、楠さん本人には無断で恋愛相談。正直、金名のことで気になる点もあるしね」

「真壁くん……っ!」


 僕が了承すると、小手毬さんがキラキラした目で見てくる。

 彼女からこんな風に見られただけで、これから取り組む面倒そうな一件も、大したことじゃないように思えてくるから不思議だ。これがアニマルセラピーか……。


「あ、でもどうするの? いきなり楠さんに言っても、聞いてもらえるかな?」


 意気込んでは見たものの、よく考えたら具体案がないことに気付いただろう。小手毬さんが不安そうな表情に変えて、僕を見てきた。

 そんな彼女を安心させるように、僕は出来るだけ柔らかい笑顔で頷く。


「大丈夫。もう方法は考えてあるから」


 僕がそう言うと、小手毬さんの瞳の輝きが増した。


「凄い凄い! 真壁くん、凄い! もう大好き!」

「え? ちょ、今なんて?」


 今、物凄いこと言わなかった? え、僕も好きなんだけど?

 もう一回……もう一回言ってくれない?


「え? あっ……あああああ……!?」


 自分が何を言ったか気付いたらしい小手毬さんが、顔真っ赤にして叫んだ。

 顔をブンブンと横に振りながら、もはや涙目になりながら弁明する。


「ち、ちがっ……違わないけど、違うの! 今のは真壁くんが凄すぎて、わけが分かんなくなったっていうか……。そういうこと言うつもりじゃなかったの!」

「あ、ああ……。うん、そうなんだ」


 僕が少し残念な気分で答えると、今度は縦方向に首を振る小手毬さん。

 何かもう色々とあからさまになった気がするけど、とりあえず小手毬さんが限界っぽいので、今日のところはこれくらいで止めておこう。

 いつか、ちゃんと聞かせてくれたらいいな。


「えーっと、それで一応、楠さんのことで考えがあるんだけど」

「う、うん……。どんなことするの? 真壁くん」


 どうやら小手毬さんの中でも、今の一件は流すことに決まったらしい。

 まだ顔の赤みは治まってないけど、僕は指摘せずに話を続ける。

 まあ、焦らなくても、こういう機会はいずれまたあるだろう。


「とりあえず、僕が楠さんにちょっかいをかける」

「……は?」


 え、ちょ、何? 今の「は?」って、小手毬さんが言ったの? そういうセリフって、小手毬さんの口から出ていいものなのか?


「えー、あの、小手毬さん?」

「真壁くん……」


 謎の恐怖に身を竦めていると、小手毬さんは少し涙目で僕を見てきた。

 あれ? さっきの「は?」っていうのは、やっぱり僕の聞き間違いか?

 いや、そんなことより、いつまでも小手毬さんにこんな顔をさせておくわけにはいかないか。


「その、小手毬さん。当たり前だけど、僕が楠さんと付き合いたいとか、そういう話じゃないよ?」


 むしろ小手毬さんが付き合ってくれよ。さっきのこともあるから、しばらく言わないでおくけどさ。


「……本当?」

「うん、ほんとほんと」


 まだちょっと涙が残る小手毬さんに、僕は優しく笑いかけた。

 この小動物的な愛らしさ。これぞ小手毬さんって感じだ。


「色々と考えがあるんだよ。ちゃんと説明するから、聞いてね」

「うん、分かった……」


 大丈夫かな。本当にちゃんと分かってくれるかな。

 あくまで楠さんと金名のためで、僕に他意はないんだけど……。



 結論を言えば――全く大丈夫ではなかった。

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