表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
110/155

109.筋肉野郎・簗木 篤の恋愛トレーニング③/簗木くんの献身的な彼女

 俺は朝起きたら、まずランニングに行くんだよ。

 だから朝はいつも五時起きだな。

 早い? いや、昔からそんなもんだし、あんま気にしたことねえな。


 まあ起きたら軽く体をほぐしながら着替えて、顔を洗ってから外に出る。

 そうすると家の前で、アイツが待ってるわけだよ。


「おはようございます、篤先輩! 今日もトレーニング日和ですね」

「はよっす、知麻。相変わらず早いな、お前は」

「いえいえ、篤先輩のトレーナー兼パートナーとして、私だけ惰眠を貪るなど出来るはずがありません!」


 え、なんで家の前に知麻がいるのかって?

 さあ……? 気付いたら朝のランニングを待ってるようになってたんだよな。

 俺も一人で黙々と走るより、彼女と走る方が気分いいから、割と嬉しいぞ。


「んじゃ行くか。気を付けろよ、知麻」

「はい、どこまででもお供します、篤先輩!」


 そんな感じで、一時間くらい軽く流すんだ。

 ちなみに知麻は自転車だぞ。

 知麻も見た目の割に体力だけはある方なんだが、流石に足で走って俺に付き合うのは無理だし、アイツはトレーナーだからな。

 それでも彼女の声援を浴びながら走るのは、青春って感じがして気持ちいい。


「ふぅ……今日もいい汗かいたな」

「お疲れ様です、先輩! タオルとドリンクをどうぞ」

「おう、悪いな。お前もお疲れ」

「いえいえ、篤先輩の頑張りに比べれば私など……」


 知麻は気が利くヤツで、走り終わった俺にいつもタオルと、ほどよく冷えたスポーツドリンクを渡してくれる。

 ドリンクをキンキンに冷やしていないのがミソだ。あまり急激に体を冷やすと良くないからな。


 今の時期は暑いから、ランニング後にはシャワーを浴びる。

 まずは俺から先に済ませて……え、「まずは」ってどういう意味かだと?

 いや、自転車とはいえ知麻だって汗かくし、アイツもシャワー使いたいだろ?

 俺は先に使ってもらってもいいんだが、知麻はいつも俺に先を譲るんだよな。「篤先輩の方がお疲れですから」って。

 で、シャワーが終わって制服に着替えたら、後は朝飯だ。


「はよっす」

「おはよう、篤。今日もイチャイチャしてきたかね?」

「してねえよ。普通に走ってるだけだっての」


 リビングに行くと、すぐに姉貴が絡んでくる。

 昔から面倒な絡み方をしてくる姉貴だったが、知麻と付き合い始めてからは、そっち方面の絡みが格段に増えた。


「まさか篤に、あんな健気な彼女が出来るとはねえ……。あの眼鏡くんとの熱い友情もこれまでか……いいネタだったのに」

「眼鏡って、真壁のことか? 別にアイツとは、今も普通に友達やってるぞ」

「そういうんじゃないのよ。もっとこう……男と男の、くんずほぐれつな友情物語を見たかったのよ、私は」

「真壁は文化部だから、取っ組み合いなんてしねえだろ」

「だから、そういう……ああもう、我が弟ながら察しが悪い!」


 何が言いたいのか分からん上に、すげえ腹立つ。

 真壁は会ったことあるから知ってると思うが、うちの姉貴はこういう面倒なヤツなんだ。

 ……なんだよ、鳶田妹。あー分かったよ、望でいいか?

 姉貴の趣味って……まあ俺はよく分からんが、ゲームとか好きみたいだぞ。たしかD組の建山と小野寺だったか? アイツらも同じゲームやってるらしいな。対戦か何かじゃねえの?


 前に真壁がうちに来た時は、趣味だのタイプだの聞き出そうとしてたから、もしかしたら気があるんじゃないかと思ったんだが……。

 いや小手毬、結局は違ったから、そんな顔すんなって。


「篤、ちょっとこれ運んで」

「おう分かったよ、お袋」


 姉貴と話していると、お袋がダイニングから声をかけてくる。

 朝飯が出来上がったから、テーブルに運べとのお達しだ。

 俺は五人分のおかずを順番に運んでいく。両親と姉貴と俺――そして知麻の分だ。

 ん? なんだお前ら、変な顔して……知麻は五時前に家を出てきてるんだから、朝飯を食べる暇なんてないに決まってるだろ。


「お、この漬け物は初めて見るなあ。母さん、これどこで買ったの?」


 俺の運んだおかずを見て、親父がそんなことを言う。

 言われるまで気付かなかったが、この時は初めて見る漬け物があったんだよな。


「それ知麻ちゃんが持ってきてくれたのよ。あの子が自分で漬けたんですって」

「へえ、あの子はそんなことも出来るのか。うちの篤にはもったいない子だなあ。ちょっとアレだけど」

「そうなのよ。あんな子が娘になってくれたら、私も嬉しいわ。ちょっとアレだけど」

「確かに知麻ちゃんは可愛くていい子だよね。私も妹に欲しいわ。ちょっとアレだけど」


 家族全員、揃いも揃って知麻を持ち上げている。

 アイツがうちの家族に受け入れられてるのは嬉しいんだが、全員が一言余分に付け加えてるのは何なんだ?

 ……おい真壁? 小手毬たちまで、なんで目を逸らすんだよ?


「皆さん、お待たせしました。すみません、いつも図々しくシャワーをお借りする上に、私の分まで朝食を用意していただいて……」


 話をしているうちに、知麻がシャワーを終えて出てくる。

 相変わらず身長は小学生レベルだが、顔はとにかく美人な上に俺の好みドンピシャだから、シャワー上がりでしっとりした状態だと目を奪われそうだ。

 ……うるせえ。俺だって、そういうのは気になる年頃なんだから、仕方ねえっつーか正常な反応だろうが。


「そんなの気にしなくていいのよ、知麻ちゃん。あなたのご家族とも、ちゃんと話して決めてるんだから」

「そうそう、気にしなーい。ほら知麻ちゃん、篤の隣に座んなって」

「しかし、このテーブルは五人で使うには、やっぱり少し狭いかな。そのうち新しいのに買い替えるか。その時は運ぶの手伝ってくれよ、篤」

「み、皆さん……」


 うちの家族の言葉を聞いて、知麻は感動の面持ちだ。


「というか佐紀、アンタは浮いた話の一つでもないの? 最近よく出かけてるみたいだけど、画面の中以外に彼氏でも出来た?」

「いや、画面の中の男も、私と付き合ってるわけじゃないし……。最近出かけてるのは、大学の友達に愚痴聞かされてんのよ。なんか好きだった年下の子に、彼女が出来たらしくて」

「なんだ、つまらないの」

「本当だよね。出来たのが彼氏だったら最高だったのに」


 また姉貴がわけの分からないことを……。

 どうした小手毬? いきなり首傾げたりして、気になることでもあったか?

 多分、気のせい……? そうか、まあいいや。


 とりあえず、うちの朝は最近いつもこんな感じだな。




 で、朝飯が終わると、二人で登校するわけだ。

 この時は俺が知麻の自転車を引いて、二人で話しながら歩くんだがな……。


「それで真壁先輩ときたら、どうしたと思いますか? 篤先輩」

「どうって……怒られたりしたのか?」

「それどころではありません! いきなり私の頬を摘まんで引っ張った上に、『さてはバカだな、お前』とまで言ったんです!」

「そりゃあ……」


 この際だから白状するが、正直言って羨ましい。

 引っ張るかどうかはともかく、俺も知麻の柔らかそうな頬を摘まんでみたい。

 真壁は実際にやったってのに……なあ真壁、一発だけ殴ったらダメか?

 いや、マジで殴ったりしないから、そんな庇わなくてもいいぞ、小手毬。


「まったく……場を和ませようという後輩の粋な計らいを解さないばかりか、女子に手を上げるなんて、鬼畜眼鏡としか言いようがありません」

「まあ、そうだな」

「その点、篤先輩は猛々しい紳士ですから、軽々しく暴力なんて振るいませんよね。まあ私も真壁先輩ならともかく、敬愛する篤先輩に対して失礼なことを言うなんて、万に一つもあり得ませんが」


 知麻はそう言って俺を持ち上げてくれるが、ぶっちゃけ俺も少しくらいは失礼なことを言われてみたいんだよ。

 バカにされたいわけじゃなくて、そういう気安い態度で接してほしいんだよな……真壁といる時みたいに。

 知麻は俺の筋肉を持て囃してくれるし、好意的な感情も十分に伝わってくるんだが、冗談とかはあんまり言ってくれない。

 だから真壁や恋愛相談部の話を聞いてると――楽しそうに話す知麻を見ると、お前らが関係ないところでも、こういう顔をしてほしいと思うんだよな……。




「――と、まあこんな感じだな。知麻が柔道部に来てる時は、一緒に帰りながら似たような話をしてるぞ。やっぱ恋愛相談部(お前ら)の話題が多いけどな」


 そう言って話を締めると、恋愛相談部の面々は揃って複雑そうな顔をしていた。

 小手毬は苦笑しているし望は無表情、真壁は呆れた顔だ……割といつも通りじゃねえか?

 そんなことを考えている俺に向けて、真壁が口を開く。


「簗木」

「おう、なんだ真壁」


 早くも解決策が浮かんだのか? 流石は真壁だな、アホだけど頼りになるぜ。

 と思いきや、真壁の口から出た言葉は……。


「お前、やっぱアホだろ」


 何故か突然の「アホ」呼ばわりだった。

 なんでだよ、意味分かんねえぞ。

シレっとクレイジーな影戌ちゃん。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ストーカーっ娘だったの忘れてました。 部活の様子だけ見てるとツンデレかクーデレだからなぁ... [一言] パイセン... そういえば先輩の失恋のこと知ってるのは小手毬さんだけでしたね。先輩…
[良い点] ただののろけで笑いましたww
[良い点] うんうん。 知麻ちゃんはそういう子でしたよね。 簗木家の面々が正しい評価をしてます。 愛が深い・・・ 簗木君、贅沢ですな。 [気になる点] 1番気になったのが、先輩は自分の気持ちを自覚して…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ