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104.氷の女王……改め絶氷の魔妃・天ちー先輩

 今日の生徒会会議は、割と早く終えることが出来た。

 いつもこうだと嬉しいんだけど、なかなかそうはいかないのが悲しいところだ。

 なあなあで役員の皆の提案を通してしまうと、後で大変なことになるかもしれないし、自分のためにもきっちり問題点を潰しておく必要がある。


 ていうか結局、不信任案とか出ないまま任期が終わりそうだなあ……。

 生徒会長当選後――どころか会長選挙の時から冷たい態度で他の生徒や役員に接してきたのに、誰も文句を言ってこないのは一体どういうことだろうか。

 実は皆して生徒会長をやるのが嫌で、「氷の女王」なんて持ち上げて私に体よく押し付けているのではないかと、疑ってしまいそうになる。


 とはいえ、そんなつらい……いや、言うほどつらくはなかったかな? まあ、それなりに大変だった生徒会長の任期も、もうすぐ終わりを迎える。

 あとは夏休み後の選挙で後期の会長が決まって引継ぎを済ませれば、私は晴れてお役御免。一般生徒に返り咲いて、氷の女王なんて崇められることもなくなるのだ。

 そうすれば彼氏の徹くんと一緒に、ようやく落ち着いた学校生活を過ごすことが出来る……と思ったけど、よく考えたら私は三年生なんだから、あまり遊んでいる暇はないんだよね。まあ生徒会長を一応真面目に勤めたお陰で、推薦はほぼ確実みたいだけど。

 学力自体も普通に受験しても問題ないくらいのレベルはキープしているし、むしろ気にするべきは徹くんが後期の生徒会に入るつもりかどうかではないだろうか。

 思えば、そういう話は彼としていなかった。今日は時間もあることだし、それならデートがてら外でお話しでもしようと思ったんだけど……。


「すみません、天乃さん。今日は俺、ちょっと予定があって……」


 声をかけてみたところ、申し訳なさそうな顔をした徹くんに謝られてしまった。


「あ……いいの。私が急に言い出したんだから」


 本心からそう言っても、徹くんは気落ちした様子のままだ。

 男の子にしては小柄な彼がそういう態度をしていると、まるで捨てられた子犬のように見えて、ついつい甘やかしたくなってしまう。

 私は徹くんの頭に手を置いて、彼の前でしか見せない小さな笑顔を浮かべた。


「本当に気にしなくていいのよ。用事があるなら仕方ないんだから……ね?」

「はい……ありがとうございます、天乃さん!」


 私が頭を撫でてあげると、徹くんは元気な返事を返してくれた。

 どうやら無事に元気を取り戻してくれたようだ。

 やっぱり可愛いわんこ系の徹くんには、明るい笑顔がよく似合う。


「そういえば用事って、真壁くんのところ? 徹くん、彼と仲いいわよね?」

「あ、いえ……今日は別件です」


 私が恋愛相談部に行って以来、徹くんは真壁くんと仲良くしている。

 勉強でも教えてもらっているのか、前に「真壁先輩のお話は、とても参考になります!」なんて言っていた。本当なら彼女であり、お姉さんである私が手取り足取り教えてあげたいのに……人の彼氏を誑かすなんて、真壁くんときたら相変わらずの鬼畜眼鏡だ。

 彼は基本的に真面目なんだけど、たまに悪どい笑みを浮かべることがあるから、純粋な徹くんが染められてしまわないか少し心配ではある。


「今日は同じ一年の奴と会うんですよ」

「そうなんだ……お友達?」


 どうやら今日の徹くんのお相手は真壁くんではなく、同学年のお友達のようだ。

 私だって鴨ちゃんや幼馴染のちーちゃんを優先する時もあるんだから、徹くんが同性のお友達と遊びに行くのを止める理由なんてない。

 ここは快く送り出してあげるのが、出来たお姉さんの振る舞いというものだろう。

 そう思っていたら、徹くんは何故かやる気に満ちた表情を見せる。


「いえ……俺とアイツはライバルです!」

「ラ、ライバル……?」


 日常会話では意外と聞かない言葉に、目を白黒させた。

 そんな私を尻目に、徹くんは悔しそうに語り続ける。


「アイツ、俺を差し置いて真壁先輩の弟子を名乗るなんて……! 今日こそどっちが一番弟子なのか、ハッキリさせてやります!」

「そ、そう……よく分からないけど、頑張って」

「はい! 頑張ります!」


 本当によく分からなかったんだけど、とりあえず徹くんの応援をしておいた。

 というか徹くんって、真壁くんの弟子だったの?

 真壁くんの一番弟子って言われると、何となくちーちゃんが思い浮かぶんだけど……徹くんがちーちゃんを「アイツ」なんて呼ぶとは思えないから、他にも弟子がいるってこと?

 自分の彼氏のことなのに、全く理解が出来なかった。

 いっそのこと恋愛相談に……と思ったけど、よく考えたらその恋愛相談する相手が真壁くんになるのか。


 結局、私はわけが分からないまま、やる気になっている徹くんを送り出すのだった。




 徹くんに放課後デートの誘いを断られてしまった私は、柔道場の近くにやって来た。

 最近の傾向からすると、今の時間帯ならこのあたりに友達がいるはずだ。


「あら、天乃じゃない。こんなところでどうしたの?」

「あ、鴨ちゃん」


 案の定、そこには私の友人である鴨ちゃん――鴨川 星(かもがわ せい)ちゃんがいた。

 美人だけどいつも飄々としていて、一年の頃から私とは違った方向で「考えが読めない」と言われていた子のはずだけど、最近の鴨ちゃんは割と表情豊かで、今も何だか楽しそうな雰囲気を漂わせている。

 近頃すっかり見なくなった彼女に告白しようとする男の子たちも、こういう表情を見たらまた再燃するかもしれない。


 それにしても鴨ちゃんはよく柔道場の近くにいるけど、一体何をしているんだろうか?

 前に会ったときは、運動部の男の子と何か話してたみたいだけど。


「私は生徒会が早く終わったから、こっちに来たら鴨ちゃんに会えるかなって思って」

「へえー、釘原くんには振られちゃったのかしら?」

「うぐ……な、何で分かるの……? ていうか、振られたって言い方は止めてほしいんだけど……」

「あら、ごめんなさいね」


 そう言って鴨ちゃんは、くすくすと楽しそうに笑った。

 相変わらず同じ女の私でも見惚れる美人具合だけど、こういう愛嬌のある表情をあまり人に見せたがらないので、モテるけど隙がなくて告白されないという、よく分からない状況になっているのが鴨ちゃんという女の子だ。

 そんな彼女に、こうして素の顔を見せてもらえるのは、喜んでいいものやら。


「ハァ……鴨ちゃんって、意外と悪戯好きだよね」

「あら、私は気に入った子にしか、悪戯しないわよ? 良かったわね、天乃」

「全然嬉しくなーい!」


 ヤケクソ気味に声を上げると、また鴨ちゃんに笑われた。

 このまま話していても遊ばれるだけなので、逆に鴨ちゃんを弄れそうなネタに切り替えていこう。


「そういえば鴨ちゃん、最近いつもこっちに来てるけど何してるの? やっぱり前に言ってた、お気に入りの男の子? ひょっとして……逢引きだったりして」

「逢引きって……意外とセンスが古いのね、貴方。とはいえ、んー……まあ、そうと言えないこともないかもしれないわねえ……」

「え、本当に逢引きなの!?」


 半分以上は冗談のつもりだったので、まさか肯定されるとは思っていなかった。

 もし本当に逢引きなら、これはかなりの大スクープだ。

 あの鴨ちゃんが特定の男の子と仲良くしているなんて、三年目の付き合いになる私でも今まで見たことがない。

 私が興奮気味に問い詰めると、鴨ちゃんはニヤリと妖しい笑みを浮かべた。


「なんて……そんなわけないでしょ」

「えー……なーんだ、つまんなーい」


 せっかく特大スクープだと思ったのに……。

 もちろん周囲に言いふらしたりはしないけど、ダブルデートでもしたら彼氏持ちの先輩として、鴨ちゃんに偉そうな顔が出来ると期待したんだけどな。


「別に貴方を楽しませようとしてるわけじゃないもの。まあ敢えて言うなら、可愛いわんこと遊んでたみたいな感じかしらね」

「わんこ? 学校に犬でも入ってきたの? もしそうなら、先生に連絡して対応しないといけないんだけど」

「何よ急に、生徒会長みたいなこと言って」

「生徒会長だよ!」


 不本意ながらね!

 ムキになった私を見て、鴨ちゃんは面白そうに笑う。

 ああもう、またからかわれた……。


「ふふ……ごめんなさいね。あれよ、わんこと言っても貴方と同じようなものよ」

「私と同じ? ど、どういう意味?」

「あ、でも貴方の場合、どっちが躾けられてるのか分かったものじゃないわよね」

「え? だから何の話!? 全然意味分かんないよ、鴨ちゃん!」

「うふふ……」


 慌てる私を見て笑う鴨ちゃんは、明らかに説明する気がなさそうだ。

 こうなると彼女は、絶対に自分の言いたくないことを口にしないだろう。

 これまでの付き合いで理解してしまった私は、諦めの溜息を吐いた。


「ハァ……相変わらずだなあ、鴨ちゃんは」

「何よ、人を厄介者みたいに。あ、そういえば天乃、新しい異名が出来たんですってね。おめでとう」

「え? ちょっと待って。いきなり何の話!?」


 今日の鴨ちゃんは絶好調だ。

 怒涛の勢いで会話を畳みかけられて、全くついていけない。

 動揺する私に、鴨ちゃんは絶望的な新事実を突きつけてきた。


「何って、貴方の新しい異名よ。たしか『絶氷(ぜっひょう)魔妃(まき)』だったかしら。格好いいわよね、羨ましいわ」

「え、何それ!? ていうか絶対、羨ましいとか思ってないでしょ、鴨ちゃん!」

「いやねえ、そんなことないわよ?」


 だったら自分も「氷の女王」って呼ばれてみてよ!

 いや、新しいのは、ぜ……ぜっひょうのマキ? だったっけ?

 なんかもう、どんな字を書くのかも分からない。「氷の女王」の時点で恥ずかしくて仕方なかったのに、そんなわけの分からない異名が増えるなんて……。


「ね、ねえ鴨ちゃん。その……ぜっひょうのマキ?って、どういう字なの?」

「そうねえ……私がSNえ……噂で聞いたのだと――」

「待って! 今、SNSって言いかけなかった!? 私の異名って、もしかして全国ネットで晒されてるの!?」

「大丈夫よ。今はそういうの厳しいから、顔とか名前は出てないわ。精々、うちの学校の生徒会長ってことくらいよ」

「それ、知り合いには絶対バレるヤツじゃん!」


 ダメだ……もう頭が痛くなってきた……。

 鴨ちゃんが仲の良い相手には悪戯好きなのは知ってるけど、ここまでアクセル全開なのは初めてだ。

 表情自体はいつもと同じに見えても、さっき話していたわんこ(?)のせいで、相当テンションが上がっている。

 この子に気に入られるなんて、そのわんこくんも大変だなあ……。


 顔も知らない犬か何かに、同情を覚えてしまう私だった。

Nさん「拡散させる気はなかった。めんご」

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― 新着の感想 ―
[良い点] まさか、あれが拡散するとは(笑) 天ちー先輩は彼に上手く転がされてる事に気付いていない所が可愛いですからね。 真壁君の一番弟子は確かに知麻ちゃんだと思います。 部外で釘原君。よもや、真壁君…
[一言] 真壁君の知らないところで、妙な人間関係ができてる可能性が……。
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