第二和「疑心。(自称)神様ノ小噺(こばなし)」
___私、"此処の神様"だからね。
俺の問いに、予想もしていないことをさらりと云う神様と自称名乗る彼の顔は、とても爽やかで良い笑顔を向けていた。
「は? 神様だって? ......冗談云ってんじゃねえ。良いから、さっさと退」
神様と云う前に、彼は自分の名を知っている。確かに自分の名を云ったことに気付いてもしかすると両親の親戚かもしれない。と頭を過ってさっさと退け。と言い切る前に気付いて言葉を飲み込むように口を閉じてからまた徐に開けば、
「神様なんてのは、信じねえけど....俺の両親の知り合いか?」
正直、こんな奴とは関わりたくはない。ないのだが、自分の名を知っているとなると両親の知り合いか、ストーカーかのどちらかだ。或いは不審者。嗚呼、不審者だな。とどちらかと云えば、真ん中で半身乗っていない状況で寝ていたのだ不審者と云っても間違いないだろう。と今更ながら自称神様の返事を待っている間、腑に落ちたと云うように納得する。しかし、知り合いで不審者にしろ、ストーカーにしろ名を知っている訳を自称神様に聞かないといけない。知り合いだったからさっき殴った事を謝るとか知り合いで目上だから敬語を使うのは今更だからしない。
というより、やはり真ん中に居るのは人として不味いだろ。と和久は手で端に行け。と云うような仕草をしつつ自称神様を見る。
「私が、神様だから。....と云っても和久君は信じてくれなさそうだね」
「あったりめーだ、神様が神様と名乗る訳がねえ。大体神様が居んなら」
神様が居んなら、居たなら....俺は。と昔までは、幼い頃ならすんなり続きが出ていただろう。しかし、今更だ。今更神様が居たとしてももう遅い。と居もしないと最初っから分かっていたらあんなに願わなかっただろう。所詮ただの想像の産物でしかない。所詮人に居もしないものを作らなければ何かに縋らないとやっていけない。やっていけないから神様や仏が出来る。と何故居ないのに神様と云う言葉があるのかは、それがあるからだ。
「神様は、人に干渉はしても良いけれど大分前に、日本ではない国が神様と干渉した人が魔女狩りに合ってしまっただろう?だから、もう干渉はしないと多くの神様が誓ってね。だから、神様だからって何でも叶う。叶える訳じゃないのだよ」
口篭る和久に、自称神様は先程のおどけたような、茶目っ気ある親しみの感じる空気とはうって代わり、ふわりと空気が変わった。ほんの少しだけ目には見えないもの、そう神様が放つとされる神気を纏ってゆっくりと話し出す。干渉はしても良い。
干渉しても良いのは、良い。だけど、神様が関わったせいで、干渉したせいで命を落としてしまう。しまった人がいる。だから、神様は干渉を止めたのだと。否、多くの神様が干渉をしないと誓ってしまった。
今は居ないと云っても、強ち間違えはないだろう。と暗に自称神様は云う、一旦口を閉ざしてから一息したのち、開くと。
「私は、最近神様として目覚めた今の今まで存在してなかった神様だけど、名前はある。私は、安倍 陽光」
自称神様。否、陽光は真っ直ぐ和久を見て、名を告げる。多くの神様が干渉をしたがらない。否、干渉しないと誓っている中。陽光はにっこりと笑みを浮かべて和久に向けて手を差し出した。