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愛のかたち ──裸の二人

作者: 家紋 武範

春うららかな日、妻と喧嘩した。

ドライブの真っ最中。

この鉄の部屋に二人だけなのに、互いになんの言葉もでない。

二人とも強情だ。


それも鼻につく。

いつも謝ってるのはオレの方じゃないか。

たまには自分で謝ってみろってんだ。


くそう……。

この緊張に耐えられん。


妻が前方に指を伸ばす。

その先には柵で囲まれており数頭の牛が牧草を食んでいた。


「あんたのお父さんとお母さんじゃない?」


ムカついた。

ディスってきやがった。


「……ああ、そうだよ」

「ふふ」


「義理のね」


車中はますます険悪になった。

このクソアマになんとか謝らせてやりたい。とそう思ったときだった。


突然まばゆい光が目を襲った。

オレたち二人は余りの眩しさに目をつぶった。



気がつくと車ごと別の場所にいた。

銀色に輝く部屋。まるで宇宙船のようだ。


宇宙船?


「ここは一体どこだ?」

「………………」


しかし妻は腕を組んでシカトしている。

何もこんなときに。


「オイ。なにもこんなときに強情比べやってる場合じゃないだろ」

「フン」


「ここはどこなんだ? 宇宙船かなぁ?」

「私はさっきの許したわけじゃないから!」


ムカつく。本当にムカつく。


「ああ、そうかよ」


車中の空気は最悪だが、外に空気があるのかどうかわからない。

外にでない方がいいだろう。

しかし、二人きりの車中はますます緊張。


どうすりゃいいんだ。

宇宙人でも何でも良いから出てきてくれよ〜。


すると、前の銀色の壁が開いた。

そこにはいわゆる宇宙人。

体長は人間の三分の二ほど。頭でっかちで大きな目。細い指に銀色の体。

まさしくリトルグレイ。


「ワレワレハ 宇宙人ダ」


宇宙が領土なのか?

なんとか星人じゃねーの?


「君タチハ 地球人ノ 代表ダ」


何を言い出すんだ?


「ヤバンナ 争イゴトバカリスルノデアレバ 滅ンデモラウ」


うぉい!

そりゃねーっす。宇宙人さん。

三行目で滅ぼすって言葉は早過ぎませんか?

もっと友好的に。友好的にぃ〜。


しかも、今は妻と喧嘩中だ。

この強情っ張りがこのままの状態では争いごとが好きな好戦的な奴らだ。滅んでもらうってなっちまうじゃねーかよ。

クソ! このクソアマ!


「そんなことありません。私達は相手を尊重するものたちであります」


大きく見栄を張ってみた。

そして妻に対して笑顔を送る。


「私はさっきの許したわけじゃないから」


滅びたいの?

今の一言で相手の心象は大きく滅ぶ方向に揺らいだよ?


「ドウヤラ 好戦的ナ 種族ラシイナ」


宇宙人は光線銃のようなものを取り出し、オレたちの車に向けた。

そして引金を引くと、そこに車は無くなりオレたちは床に転がっていた。


「無機物ヲ ナクス 光線銃ダ」


オレたちは銀色の部屋に宇宙人たちと対峙した。

彼らは光線銃をオレたちの方に向ける。


オレは妻の前に立ってかばった。


「あなた」

「さっきは悪かった。今はいがみあってる場合じゃない。この状況をどうにかしなければ」


「モウ遅イ キミタチハ 好戦的ナ 生キ物ダ」

「そんなことはない! オレたちには愛がある!」


「愛トハナンダ?」

「愛っていうのは……」


その時、光線銃からの光がオレたちに当てられた。

無機物がなくなる光線。オレたちは素っ裸になってしまっていた。


「キャ!」


妻はそう言いながら自分の恥ずかしい場所に手を当てた。


「愛ヲ 見セテモラオウ」


そうか……。

そうかよ。


妻は自分の胸に両手を当てている。

オレは彼女の秘所に手を伸ばした。

そして、宇宙人にその姿を見せる。


「いいか? これが愛だ」


オレたちは宇宙人の方を向いた。

妻は両手で胸を隠し、オレは片手で自分の股間を抑え、もう片手で彼女の股間を抑える。


「男には隠す部分が一つしか無いが、女は隠す場所が三つある。だが手は二つしかない。当然二か所しか隠せない。だが一人の男がいれば、自分の片手で自分のものを隠し、もう片手でパートナーの大事な部分を隠すことができる。協力には信頼関係が必要だ。それが愛なんだ!」


銀色の宇宙人達は、銃を構えたまま身を引いた。


「ソ、ソレガ愛」

「そうだ。相手を気遣って思いやる気持ち。相手の不足を補ってやる気持ち。相手の不足している部分を埋めてやる。そうやって我々は繁殖もしている。詳しくは言わないが」


「ソ、ソウナノカ。愛デ繁殖……」

「どうだ。我らの愛を思い知ったか!」


途端に、またまばゆい光。

オレたちは目をつぶり、落ち着いた頃目を開けると、宇宙人にとらわれた付近に車に乗っていた。

当然、服も着たまま。


隣りには妻がいる。彼女も同じく目を開けたらしく、目が合った。


「さ、さっきのは……?」

「さぁな。宇宙人だったんだろうな。でも、オレたちの愛で追い返した」


見ると、遥か上空に小さく光る物体が、あり得ない形で飛行しているようだったがそれもいつしか消えてしまった。


「宇宙人……」

「いるんだなぁ」


「あ」

「なんだ?」


「ありがと……」

「お、おう……」


車を走らせる。ドライブ続行だ。

くだらない言い争いでケンカになったが、いつものこと。

そんな彼女の事がまた好きなのだから。


「さっきさぁ」

「なんだ」


「謝ったよね」

「あ? ああ」


「じゃぁ、さっきの鶏が先か、タマゴが先かの論争は、タマゴが先で良いのよね」


ハァ。ため息が出た。またぶり返した。このクソアマ。


「なんで、タマゴが先なんだ! そのタマゴはどっから産まれたんだよ!」

「じゃぁニワトリは何から産まれたのよ!」


「いい加減にしろ。バーカバーカ」

「バカはそっち。ちっちゃい男」


こうしてオレたちは、またケンカを始めた。


結局論争は「ヒヨコ」で落ち着いた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 先にレビューを読んでおりましたので、ケンカする夫婦が宇宙人に会う、というところまでは存じておりましたが……。 奥さんを かばった旦那さん! えらい! でも愛を見せるって、まっぱで!? ……
[良い点] ドライブ中の喧嘩とか、ワンルーム同棲の喧嘩とか、逃げ場がないからキツイですよね。そして内容も、冷静になればなんでもないことが多いと…… そんな二人の間にやってきた宇宙人は、ある意味救世主な…
[良い点] 企画よりお邪魔します♪ 「これが愛だ」に笑ってしまいました。 最高の夫婦ですね。もうずっとこういうくだらない喧嘩をしていて欲しいです♪ [一言] ヒヨコに落ち着いてよかったです! 思わ…
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