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花や蹴散らせ鋼脚の君  作者: 六代目
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2-1「高知城(きゅん)と桜並木」

新幹線から特急に乗り換えた後も特に問題はなく、しばらくして私達は高知へと降り立った。

 駅からタクシーに乗り、高知城へと向かう。

 結構朝早く家を出たがもうお昼過ぎ、車内でお弁当は食べたとは言え、普段なら「どこかカフェにでも」、とどちらかが言い出す時間だった。

 でもどちらもそれを口にしたりしない。

 どれだけ無謀で絶望的なことであっても、今回の旅の目的はおしゃれなカフェ探しでも再度の聖地巡礼でもない。


「じゃ、探そう」

「うん」

 10年前にいなくなった親友、天竹葵。10年ぶりに写真に写った彼女にしか見えない少女。

 それを探し出すために必要な時間はどれくらいだろう。

 いるかどうかもわからない人を探すための時間なんて、いくらあっても足りるはずがない。

 だから二人とも、タクシーから降りると余計な事は言わずに別れて歩を進める。

 車内では黒美は私と一緒に来ると最後まで言い張ったが、私の動きがどんなに鈍くても一人よりは二人だ。

 それに走り回れないからこそ細かいところに目が届くというか、通り過ぎる可能性が低くなることは希望的ではあるが一応のプラス材料だと思う。

 しぶしぶお城に向かっていく黒美の背を見送ると、私も追加でプリントしてもらった写真を見ながら、脚を引きずって葵の捜索を開始した。


 探し始めて2時間くらい経っただろうか。

 スマホに黒美からの何度めかの連絡が入る。そばにいられないからというせめてもの気遣いが嬉しく、やっぱり申し訳ない。

 そんな気持ちを気取られまいと、先日買ったばかりのお気楽なスタンプを選んで返しておく。

 すぐさま彼女からも高知城きゅんらしき男の子のキャラクターがイヤそうな顔で手を振っているスタンプが返ってきた。


「ふふっ……さて、もう少しだけ……」

 もうすぐ日も落ちてくる頃合いだ。ただでさえあてのない捜索、暗い中で行うのは流石に非効率だろう。


 起伏や階段の多い城そのものや近辺は黒美に任せていたので、私はもっぱら横方向に足を伸ばしていたが、ついに城の敷地と言えそうな場所をはみ出して城の西にある公園へと辿り着いた。

 花は全て散り、お花見の喧騒も忘れ、もうすっかり緑の葉に占領された桜並木が見える。

「そういえば、写真にも写ってたっけ」

 杖をつきながら少しずつ進むと、ちょうど桜を手前に城が見える位置に来た。

「たしかこんな感じで」

 ポケットから例の、葵と思われる少女が写った写真を取り出し、視界に置いてみるとおおよそ黒美が写真を取った場所の目星がついた。


 とはいえ、写真の中の風景は一週間以上前のものだ。

 黒美の家で印刷されたごく一般的なフォト光沢紙の中からこちらを見つめてくる少女が同じようにその場所にいるはずなど、普通はありえないことだ。

 だからその異常性がイヤというほど突きつけられる。


 何故最初からここを探さなかったのか。

 答えは簡単だ。あれだけ見つけたかったのに、多分ここにだけはいてほしくなかった。

 できることならこの旅の帰りとかに、お城とは関係のない場所……例えば駅とかで、19歳になった彼女とたまたま再会をする、なんて都合のいい奇跡を想像したりしていたんだ。


 でも、9歳の天竹葵は間違いなくそこにいた。


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