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なにがどうしてこうなった?  作者: 織原深雪
1/2

嵐の到来

綾乃side

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

可愛らしい服、色とりどりのパンプスやサンダル、ハイヒール。

シックからカジュアルまである様々なバックにアクセサリーなどの小物たち。


どれもこれも私のツボをつくチョイスの素敵なセレクトショップ

『 petit choice 』

ここが私の職場


私はオーナーの優子さんがヨーロッパ各国巡っては見つけて買い付けてくるこのセレクトショップ『 petit choice 』で販売員として働いている。


就職氷河期の最中なかなか就職先が見つからず途方にくれながらキャンパスを歩いていた短大2年の2月。

ちょうど母校である短大に顔を出していた優子さんと就職相談室で担当の先生と話していた時に、相談室に挨拶に来た優子さんに担当の先生がお話して、あれよという間にそのまま面接。


同じ服飾科専攻の先輩後輩として話が合うのも勿論だが、優子さんのセレクトショップの写真なんかも見せてもらって服やら小物の好きな部類が同じだった事もあり年齢差はあれど、すっかり意気投合。


サラリと採用を決めてくれて短大卒業の春から働き出して丸3年が経っていました。


そんな私、篠井綾乃23歳。

仕事が楽しくて仕方ないと仕事一辺倒、休みの日は自分で服やら小物を作って楽しむ服飾のみで彩られた自分的には大満足の日々だったのだが、この春私は望んでもいない嵐に巻き込まれた。



それは麗らかな春の陽射しにホッコリしながら開店前の店先の掃除をしている時に突然現れた。


『おはようございます。オーナーの優子さんいらっしゃいますか?』


キレイなバリトンの落ち着いた声、そして綺麗な日本語で話しかけられ店先を箒で掃いていた私は顔を上げて驚いた。



そこにいたのは金髪碧眼のイケメン外国人。

スラッと伸びた長い脚、高そうなスーツをサラリと着こなした長身の男の人だった。


とりあえず、首が痛くなるほど背が高い。


私が日本人女子の平均より小さい150cmジャストしかないのだから、この人を見て首が痛いと思ってしまうのもご容赦願いたい。


何しろ相手は180cm後半はありそうな長身なのだから。


とりあえずどんな相手か分からないけど優子さんのお客さん、あるいは取引相手って事になると瞬時に判断。

にこやかな笑顔で対応する。


『 はい、おはようございます。優子さんなら奥の事務所に居りますが、失礼ですがお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?』


『 シャルル・クラークと申します。優子さんにはパリからシャルが来たと言ってください。』


『 分かりました、とりあえずお店の方へどうぞ。』

母国語なはずのない日本語なのにとっても綺麗な発音に驚きつつ、きっと母国語じゃ私が理解出来ないと思っての日本語かなぁ。

そんな優しさに自然と笑顔で扉を開けてご案内。



シャルルさんと一緒に店内に入る。


『 今、優子さん呼びますので少々お待ち下さい。』


『 Merci』

柔らかな微笑で返されたのはフランス語。

パリから来たと言っていたし彼はフランス人のようだ。


お店の内線を使って事務所に居る優子さんに連絡する。

3コールしないうちに優子さんが出る。



『 はい、綾乃ちゃんこんな時間にこっちに掛けてくるなんて何かあったかしら?』


『 優子さん、おはようございます。今お店にパリから来たシャルル・クラークさんという方が訪ねていらしてるんですけど。』



『 あら?シャルが来ているの?それならそのまま事務所に案内してちょうだい。綾乃ちゃんお茶の準備よろしくね!』



『 はい、分かりました。お連れしますね。』


受話器を置いて、顔を上げるとゆっくりとこちらに柔らかな笑みのまま歩いてくるシャルルさんと目が合った。


『 お待たせしました。確認取れましたので事務所にご案内します。』


店舗の奥のドアまで歩き、ドアを開けて階段を登った2階が事務所になっている。

事務所兼休憩室なのでミニキッチンもあり冷蔵庫もあり優子さんの趣味で彩られた室内なので私も落ち着く。


『 シャルルさん、お待たせしました。こちらへどうぞ。』

事務所内にある応接コーナーのソファーに案内すると、その少し奥のロッカースペースから優子さんがひょっこり現れた。


今日も抜群のプロポーションに見合うタイトスカートにシフォンのフリルブラウス、今日は大きめのコットンパールのネックレスがまたアクセントになっていて素敵だ。

本当に大人の自立した女性って感じで毎回羨ましくて溜息が出る。

私の身長とプロポーションではこの着こなしは出来ない。


『 Bonjour、優子。』

『 Bonjour、シャル!』


2人は笑顔でハグとキスでご挨拶。

どうやら仲の良い関係なんだなと納得して私はお茶を入れるためにミニキッチンへ。



『 優子さん、紅茶で良いんですよね?』


キッチンでお湯を沸かす準備をしながら聞いてみる


『 そうよ!今日はダージリンが良いわ!』

『 ダージリンですね。分かりました。』



ケトルから音がして沸騰を知らされ火を止めてティーポットをまず温める。

更にカップも温めてお湯を捨て、ティーポットに茶葉とお湯を入れポットに保温カバーをかけて蒸らす。


砂時計で蒸らしを測り終えたらすぐカップに注ぐ。


紅茶のいい香りがした。


カップとソーサー、砂糖など一式をお盆に載せ応接コーナーに戻り2人にお茶を出す。



『 どうぞ。』


『 綾乃ちゃん、ありがとう。』


『 ありがとうございます。』


『 いいえ、では私はお店の開店準備に戻りますね。失礼します。』


深々お辞儀をしてミニキッチンに戻りお盆を片付けてお店に降りる階段を降りて開店準備に勤しむことにした。



まさか、私が開店前の作業に追われている頭上で自分に関する話題で2人が盛り上がっているとは思いもしなかった。

予測できるはずもないのだ、何しろそういった方面にはとんと御縁のないままこの歳まできていて経験値は底辺の私なのだから。



そう、この春私に訪れた嵐とは恋の嵐にほかならなかったのである。

それに気付くのまでもが遅くて鈍い事はこの際もう言わないでおこう。


圧倒的経験値不足と元々そちらに疎く鈍い事が手伝っていたので、私はなかなかに相手に苦戦を強いたらしいのだ。


その苦戦っぷり今振り返ればホントに申し訳ないくらいなのだけども。


えぇ、予測なんて出来ませんよ。


私は小柄であること、それに伴いやや童顔である事、美人でも可愛い系でもない顔立ち。

唯一の自慢は一度も染めてないサラサラでストレートな黒髪くらいなもんで。


そんな地味で小柄な日本人女子に金髪碧眼の大人なイケメンが迫ってくるなんて思わないじゃないか!と言うわけで、端からイケメンの眼中に入るわけがないと思っていた私にはガッツリストレートな言葉でアプローチがあるまで彼からの好意にちっとも気付かなかったのである。


シャルルside

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


シャルル・クラーク35歳、フランスはパリでそこそこ有名なバックや小物等を製造販売する会社の社長である。

自身のブランドショップを立ち上げ10年。

最近日本での取り扱いも増えてきて、百貨店等で取り扱いしてもらえるようなブランドなってきた。


今回もそんな関係で日本に来たのだが、ブランド立ち上げ時から買い付けに来ていたセレクトショップのオーナーにして10年の付き合いになる友人優子さんのお店にも顔を出す事にした。


仕事としても勿論だが優子さんとは歳が離れていて親まではいかないものの、歳上の頼れる友人として親しくしていたし彼女からはこんなイケメンな息子欲しかったのよ!と言うようにホントに子どもに接するが如くプライベートではお酒を飲みながら色々な話をする仲だ。


そんな彼女が前回パリに買い付けに来た時に話してくれたのが従業員で娘の様に可愛がっている篠井綾乃について。


『 ホントに今どき居ないってくらい、真面目で素直な良い子なのよ!仕事熱心だしホントにファッションが好きな子なの。でもね、それが行き過ぎてて、自分の幸せ特に恋愛方面はサッパリしすぎと言うか、ちっとも興味が無さそうでね。若いのに心配なのよ。』


そう優子さんが漏らしていた綾乃。


『 もうすぐ23歳になるのに、今まで彼が出来たことすらないっていうのよ!!私は綾乃ちゃんの花嫁姿が見たいのよぉ!!小柄で可愛らしくて、笑顔がホントに可愛い良い子なのよ!シャル!ちょっと綾乃ちゃんに良さそうな若い子あなたの会社にいないかしら?』


もはや、酔いも程々に回ってすっかり世話焼きおばさんの様な優子さんの発言に苦笑しつつ、シャルルも返事をする。


『 まぁ、若いのは居るけれど。綾乃ちゃんには落ち着いた歳上の男の方がいいんじゃないの?そんな感じで恋愛方面に疎いなら大人な感じで対応して引っ張ってくれるような感じの方が合うじゃないか?』


『 それに本人が興味があって相手に好意を持てなきゃそもそも何も始まらないんだから見守るしかないんじゃないの?』


そう言うと


『 そうなんだけどね、このまま仕事やら趣味にかまけていたら私みたいな独身の寂しい女の出来上がりなのよ!綾乃ちゃんは娘みたいなものなんだもの。私の我儘なのは100も承知で結婚して、子どもを産んで幸せな家庭を築いてほしいの。それを側で見ていられたら私も幸せだなぁって思うのよ。』


『 何も結婚出産子育てが女のすべてじゃない!って思ってこの歳まで仕事やら趣味やらに熱中して過ごしてきたわ。でもふっとこの歳になって1人になるとね、寂しいって思うのよ。血を分けた子どもも居ない、子どもが居ないから孫が出来ることもなくおばあちゃんと呼ばれることもない。あぁ、結婚しなくても子どもは1人でも産んでおくべきだった!って思っちゃってね。』


『 そうなるとシャルルや綾乃ちゃんはちょうど自分の子どもって言ってもおかしくない世代だし、見てるとついつい世話焼いちゃうし、ヤキモキした気持ちになるのよねぇ。勝手なんだけどねぇ』


そう言う優子さんはちょっと寂しげに微笑んだ。


『 シャル、あんたもそろそろ相手を見つけて落ち着きなさいな。シャルに子どもが生まれたら優子おばあちゃんって呼ばせるんだから』


そう言って今度はハツラツとした笑顔でサラッとシャルにも結婚しろと言う辺り世話焼きのお人好しな優子さんらしいとシャルもにっこり返す。


『 俺にもこの人だって人が現れたならそれこそ逃さないように頑張るよ。いい歳なのは自覚してるしね。』


『 そう、じゃあシャルが先か綾乃ちゃんが先か。どっちからいい話が先に聞けるか楽しみに待つとするわ。』


優子さんはにっこり優しい笑顔をしながら言ってくれた。

シャルは世話焼きな面を見せつつ、でも見守ってくれて余計なことは言わないし、しないそんな優子さんをやはり友人よりは親に近い感覚で頼っていた。


なにしろ自分の親は結婚に対して口も手も出してきてそれはそれは辟易としていたからなおさらであった。



そんな会話から半年も経たない頃仕事で日本に来て、優子さんへの挨拶と共に優子さんにとって子どもの様に可愛がっているもう1人、綾乃を見てみたいという好奇心で優子さんのセレクトショップを訪れた。


そしてそこでシャルルは空の陽射しを手を翳しながら見上げて柔らかな笑みを浮かべた綾乃を見て『 あぁ、この人だ 』と思ってしまったのだ。


見蕩れているうちに彼女は店先の掃除を始めていて下を向いたため顔が見えなくなる。



自分の相手はこの人だ!この人以外あり得ない!という感情に突き動かされ、ついフランス語で愛を囁こうと口を開きかけて彼女はフランス語は理解出来ないかもしれないとの不安から、まずは落ち着いて用件を日本語で話しかけてみることにした。


『 おはようございます。オーナーの優子さんいらっしゃいますか?』


自分の声掛けにゆっくり顔を上げた彼女は自分を見て目を丸くした。

可愛くてツヤツヤとした輝く黒目。

綺麗なストレートの黒髪。

色白で小柄で愛らしい大きい目と可愛らしい唇。

何もかもが小さく壊れそうなのに触れたくて仕方ない。



『 はい、おはようございます。優子さんなら奥の事務所に居りますが、失礼ですがお名前を頂戴してもよろしいでしょうか?』


ソプラノながら落ち着いた優しく可愛らしい声。

綾乃のすべてがシャルルを揺さぶり心を捉えて離さない。


『 シャルル・クラークと申します。優子さんにはパリからシャルが来たと伝えてください。』



『 分かりました、とりあえずお店の方へどうぞ。』


ほっそりした腕でお店のガラスドアを開ける彼女。

そんな事しなくても良いのに!

むしろ俺が抑えて通すのに!


お客さんの立場がこんなにキツイなんて。


でもお店を見つつ彼女の動きや優子さんとの電話の声を聞くだけで心穏やかに和む。


彼女の声をずっと聞いていたい。

傍に居たい、触れたい、抱きしめたい。


こんな風に想うのは初めてだった。


電話が終わると優子さんの居る事務所に案内してもらう。


優子さんと挨拶を交わしソファーに座った。


ミニキッチンでお茶の準備をする彼女を見つめていると向かいに座る優子さんから声がかかる。


『 シャル、あなた一体どうしたの?すっごく恋しいって目をして綾乃ちゃんを見つめちゃって。もしかして・・・』


この場についてすぐすぐ優子さんから指摘を受ける。

もはや隠す気もない俺は


『 優子さん、俺見つけた。この人だって想う人。綾乃以外あり得ない。一目惚れなんてあり得ないと思ってたけどあるんだね。

もう、綾乃以外考えられないんだ。』


『 まぁまぁ、まさかシャルのこの人だって相手が綾乃ちゃんとはねぇ。相手がシャルなら不足はないけれど、シャルでも手強いかもしれないわね。でも綾乃ちゃん以外考えられないって言うなら頑張ってみなさい。』


そんな会話をヒソヒソとフランス語で交わしているうちに紅茶が入ったようで綾乃はお茶を置くとお店の準備があるとかでサラッと事務所を去っていった。

それを2人で見届けて、その後まずは仕事の会話。

『 優子さん、今回は〇△百貨店に新規で入ることになったんだ。それで今回は日本に来たんだよ。』


『 まぁ、それは大口だし安定的な百貨店だし良いじゃない。

じゃあ、うちにはそしたらそことはまた別な何かを仕入れさせてくれると嬉しいわ。』


友人として喜びつつも、仕事では交渉に長けた優子さんは俺より何枚も上手。


『 勿論、日本でうちの商品をいち早く取り扱ってくれたのは優子さんなのだからそこら辺は他とは違う物を入れるよ。』


そうしていろいろ仕事の話が終わると


『 それで、シャルは今回何日居られるの?綾乃ちゃんにアプローチするならそれなりの時間が必要だと思うわよ。』


『 今回は仕事とバケーションを兼ねてるからね、今日から2週間滞在予定だ。この時間をフルに使って絶対綾乃を振り向かせてみせるよ!』


『 そう、頑張りなさい。何かあればきちんと言ってね!何も言わないのはナシよ!』



『 分かった。上手くいくよう見守ってて。』


そう伝えて、とりあえず事務所を後にする。


外へと出るのに店舗を通り綾乃に声を掛ける。


『 美味しい紅茶をありがとう。ところで綾乃ちゃん今晩時間があるかな?良かったらご飯を一緒に食べない?』


どうか、乗ってくれ。

祈る思いでいると


『 ご飯ですか? シャルルさんは何が食べたいですか?日本が久し振りならやっぱり日本食がいいでしょう?何が食べたいか仰って下さいね!優子さんとお店探しますからね!』


もはや接待のような反応が帰ってこようとは。


『 いや、出来たら2人で行きたいんだけど。』


『 えぇっと、2人でですか?私とだと高いお店とかはそうそうご案内できませんよ?』


そんなことを気にしなくていいのに。

綾乃と2人で居られるならホントはどこだっていい。


『 そんな心配しなくても、誘っているのは俺の方なんだからお金の心配は要らないよ!綾乃ちゃんが食べたいものを選んで欲しい。』


この問に対する彼女の答えは


『 えっと、そしたらお蕎麦が良いです。蕎麦はもちろん天ぷらも美味しいお店がありまして。』


まさかの日本食、お蕎麦。天ぷらと来た。

高級イタリアンでもフレンチでも、ホテルのバーでもどこだっていいのだが彼女の選択はなかなかの物だった。


きっと、俺の事を考えつつお金を出してくれるにしても高すぎてはとの遠慮からのものだろう。


それなりに稼いでいるのでそんな心配は無用なのだが。

初対面では知るよしもないのだから。


でも、実は俺自身も蕎麦は好物だったりする。


『 いいね。蕎麦は好きなんだ。その、お蕎麦屋さん連れていってくれる?』


『 はい!分かりました。』


にこやかな彼女の笑顔にホントに触れてキスしたくてたまらなくなる。

とりあえず、第一関門食事に誘うを無事クリアして一安心。


『 では、今夜19時にお店に迎えに来るよ!また後ほど』


弾む心のままに、優子さんのお店を後にする。


今夜が楽しみで今日の仕事は捗りそうだ。





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