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1 始まり始まり

 僕の寿命は残り一週間だ。

 

 いや、勘違いしないで欲しい。寿命が一週間であれど、残された時間が一週間であるとはいえ僕は何か病に犯されているわけでも、ましてや瀕死の重態にあるわけでもない。

 ではなぜか。ともすれば病より厄介な僕の体質──それこそが、僕の抱える能力こそがその原因なんだ。


 僕の──というより僕の一族が丁度十歳から抱えることになる、忌むべき体質を人は《時間泥棒》と呼ぶ。

 この場合の時間とは概念としてそこに横たわる時間(それ)でなく、人間の寿命という意味での時間(それ)を指している。

 つまり僕はそれを──他者の寿命を泥棒することで生きながらえているのだ。


 しかしそんな権能もそこまで便利なものではない。確固として制約というものもまたある。それが冒頭の発言の理由ともなるもので、曰く『寿命は一週間しか貯めておけない』というもの。

 故に僕は一週間《時間泥棒》をしなければ自分の体質に絶命足らしめられるというなんとも不可思議な星の元を生きている。

 ただ、普通の人間とは違って寿命の補充が出来るというのはそのまま永遠の命の可能性を示唆しているわけで、事故にでも遭わない限り理論上永遠に生きられることになるわけだ──が残念ながら同じ体質を持つ僕の一族が今でも生きているかといえばそうでもない。

 

 人間の理から少しばかり逸脱してみたところで、人間が人間という枠組みから完全に脱するのは不可能なのだろう。むしろ僕の一族は平均寿命の半分ほどしか生きられない。

 その理由もやはり《時間泥棒》に起因している。

 他者の寿命を奪う際、その一週間分の膨大な情報量が雪崩れ込み、それはそのまま脳内のメモリに焼き付けられるわけで、つまり本来自分が占める分の脳内メモリを他人に半分占拠されるのだから必然的に脳の寿命が半分になるというなんとも燃費の悪い話だ。メリットなんてあったものではない。


 では、それで例えば機密を盗んで悪用すれば──なんていう悪人的発想も浮かぶ訳だが、それも現実的ではない。出来ない、というより、やりたくない。

 《時間泥棒》の能力で他者の頭の中の情報を盗み取ることは理論的には可能だ。しかし、それは狙った情報を引き出せるということにあらずで、抜き出せる情報はランダムなのだ。

 例えるならば、くじ引きにおいてイカサマなしで狙ったくじを百パーセント引き当てるのが不可能なように。

 じゃあ──それを繰り返し行えばどうだろうか。

 その答えこそが先ほどの僕の言葉である。そう、「やりたくない」のだ。

 《時間泥棒》の使用によって、はたまた仕様によれば、一週間分の記憶は無理やり脳内メモリに焼き付けられるわけだが、その記憶はいわば複製であり、仮死状態にある。その仮死状態にある記憶をまたしても無理やりに、暴力的に起こしてみるとどうなるだろう。

 ──暴れる。さながら暴風雨の如く。

 それは物凄い勢いで身体中を駆け巡り、その際に感じる痛みはこの世のものではないらしい。

 え、何故「らしい」だなんて曖昧模糊とした言い方をするのかって? そんなの経験したことないからに決まっているじゃないか。いや、正確には経験する前にやめた──かな。

 一度、確か十二歳の頃だったかに試そうとしたことがあるんだ。タイムマシンがあるのなら、昔の僕に「好奇心は猫をも殺す」なんていう秀逸な諺を教えてやりたいよ。

 ともあれ、無駄な好奇心に従って行動した──結果。

 本当に一瞬、本当に少しばかりの断片を覗いただけで僕は嘔吐したのだった。

 つまりはそういう、そういうこと。

 

 

 さて、ここまで僕の抱える「異常」たる《時間泥棒》について語ってきた訳だけれど、話はここでは終わらない。

 むしろこの程度の不幸は、大したことはない、ただの前置きのようなもので、注釈でしかなく、前提でしかないのだから。


 劇的で、苛烈で、壮絶で──それでいて救われない。

 僕こと刻喰時空(ときはみじくう)が夏に経験した一人の少女との出会い、それは僕の人生のいわば契機だった。


 それでは始めようか────時間の、泥棒を。

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