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10 夕景

 ──ジェットコースターにて。


 「きゃあああああああああ! これ! すごい怖いけど! たの! しいぃぃぃわね!」


 「う、あああああああああああああああああ!」


 

 ──コーヒーカップにて。


 「これってこの取っ手みたいなのを回転させれば速く回るのよね?」


 「うん、そうだけど──ってそんなに急に回したらッ!」


 「うわぁ! こんなに速く回るの!? でも……楽しいわ!」


 「そんな次元じゃな……ああああああああああ!」


 

 ──フリーフォールにて。


 「これってどのタイミングで落ちるのかしら?」


 「多分……そろそろじゃないかな?」


 「あ、今がこんって音しなかった?」


 「うん。ってことはあああああああああああああ!」


 「きゃああああああ! 速い! 楽しい!」


 

 ──そして、メリーゴーラウンドにて。


 「はぁ……疲れた……」


 アクティブなアリスに付き合わされる、というよりかは連れまわされて──といったような感じで主に絶叫系のアトラクションばかりを巡っていたわけだが、ようやくなんとか懇願して穏やかなアトラクションにありつけたのだった。今までの疲労が溜息という形で漏れ出てしまうのも仕方無い。

 今の心境はデートというよりはやんちゃな子供に振り回される父親という方がしっくりくるのではないだろうか……なんていう益体も無い想像をしている僕の格好は、白馬に跨っているとはいえ、およそ王子とはかけ離れたものだろう。

 なにせあまりの疲労困憊から、馬に跨るという形に一応収まってはいるものの、「馬に全体重を投げ出している」という表現が適切な状態なのだから。


 さて、では姫──アリスはどうだろう。


 「ジックもうダウン? 情けないわねぇ……。これからまだあれとあれと……あと他にも乗るんだからへばってる暇なんてないわよ!」


 「城で王子の帰りを待つ姫」というよりはさながら「戦姫」のように、茶色の馬に跨りながら目の前にあるアトラクションを指差しているあたり、アクティブさは未だ衰えを知らない。


 そんなじゃじゃ馬な姫に最早恐れにも似た感情を胸中に広げ、如何にしてアトラクション地獄から抜け出すかを思案していると──


 『ガガー……閉園時間の五時まで、残り三十分となりました。アトラクションの受付は閉園二十分までとなりますので、ご注意ください。繰り返します。閉園──』


 「だってさ。あと乗れるアトラクションは一つってところだね」


 「むー……。あと五つで絶叫アトラクション二巡目制覇だったのに……」


 さらっと出た恐ろしい発言は聞かなかったことにして。

 冷や汗を一筋頬に伝わらせながらも僕は、言うのだった。


 「絶叫系もいいんだけどさ、最後に僕のおすすめのアトラクションを紹介したいんだ」


 「おすすめのアトラクション?」


 「うん。それはね────」


−−−


 「二人、お願いします」


 「はい、お待ちくださいね」


 結局閉園前になっても一度たりともこの遊園地が人で満たされている光景にはお目にかかれず、それどころか目玉だと言われているこの大観覧車にすら客は一人もいないときた。

 すぐ乗れることを喜ぶべきか、はたまた思い出の場所が廃れ行くことに寂寞を覚えるべきか微妙なところである。


 まぁ──ともあれ。

 こうして問題無く観覧車に乗れるのだから現在に限って言えば問題は無い。


 「さぁ、乗ろうか」


 「ええ」


 僕たちはゆっくりと観覧車に乗り込む。

 僕は向かって右側の席に、アリスは左側の席、といったように向かい合う形で。


 「ごゆっくりどうぞ」


 すると係員の声と共に扉が閉められ、観覧車は完全な密室になる。

 そして「キィ……」という年季の入った音を立てて、回り出した。

 手を振る係員に二人して手を振り終えて正面を見ると、アリスも同じようにこちらを向いたところだったらしく、


 「ふふっ」


 「ははっ」


 思わず二人して目を見合わせて笑ってしまう。

 そうしてひとしきり笑いあって、硬いソファーに改めて深く座り直すと、

 

 「今日、どうだった?」


 「うん、すっっっっっごく楽しかった!」


 「そりゃぁ良かった。連れてきた甲斐があったよ」


 「また行きましょ! 今度はユウも連れて三人で!」


 「そうだな。また今度誘ってみるか」


 「うん! 三人でまた絶叫系アトラクション巡りしましょ!」


 「そ、そりゃ勘弁……」


 夕暮も絶叫系好きだったっけな……なんて、おぼろげな記憶を引っ張り出して冷や汗を流す僕を見て、アリスは愉快そうに笑う。

 そしてそのまま視線を右側に遣る──と。


 「わぁ……綺麗……」


 丁度頂上に到着したその時、燃えるように紅い夕焼けが地平線へと沈んでゆく。その際に一際力強く光を放って。


 「綺麗……綺麗……」


 噛みしめるように何度も呟いたアリスのまつ毛は密やかにしっとりと濡れていた。


 「うん……綺麗だね……」


 「こんなに綺麗な夕焼け……生れて初めて見たかも。太陽って、こんなに綺麗だったのね」


 「ここさ、昔──僕が子どものころよく来てたんだけど、この景色が大好きでさ。それでアリスにも見せたいなって……。でも、こんなに綺麗なの初めてかも。きっとアリスは神様に愛されてるんだね」


 「……そう、なのかな。ありがとう」


 そう言って彼女は、また笑った。



 その後に少し寂しげな表情を浮かべたように見えたけれど、しかしそれは日没により訪れた宵闇に塗りつぶされてしまい、結局分からずじまいだった。

 

 

 

 




 

 

 

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