命乞い
プレイヤー同士の「殺し合い」が行われる闘技場には多くの観客が集っていた。
闘技場の端で、少年は考えていた。
「このゲーム、殺さない事、死なない事が大前提だ…。勝つ為には最低1killは必要。」
被害を最小限に抑え、なおかつ中堅ギルドを相手に死なずに勝つこと。
「つまり、1kill。それだけ取れば勝てる。」
最善の結論に達した少年は、立ち上がり短剣に手を添える。
狙うはただ一人。「花城」のギルドマスター。
「10秒…10秒で終わらせる…!」
初戦のゴングが鳴らされる。
少年は走り出し、一瞬で敵陣に近づく。
無論、20人のメンバーがいるギルドとなれば、回復を行う「拠点」がある。
そこから、ギルドマスターのみをおびき出し1対1へ持ち込むのだ。
少年は高く跳び、敵の拠点の上空から雷と共に降り注ぐ。
ローグ系上位職「ディバスター」のスキル「ライジング」である。
その一撃で、拠点は崩壊する。
花城のメンバーが何人か襲いかかってくるが、少年はそれを軽くいなした。
何故かギルドマスターが見つからない。
少年は焦っていた。
と、そこでギルドメンバーから悲痛な声があがる。
「…マスター?!どこですかマスター!」
なるほど。マスターは逃げた…という事か。
しかしこの闘技場から出るのは不可能だし、闘技場に来ていないというのも考えにくい。
「そこら辺にいる…かな?」
少年は闘技場の真ん中に立ち、スキル「クロウダガー」を発動させる。
漆黒の短剣を精製し、周囲全方向に投げつける技だ。
「痛…っ!」
少年の真後ろで声が聞こえた。
少年はゆっくりと問う。
「…なんで逃げた?」
目の前にいるのは、ゲーム内に7人しかいない「最強」のプレイヤー。
花城のギルドマスターは震え、泣きそうになりながらも答える。
「こわ…怖かったんです…。死ぬのは…死ぬのは嫌なんです…!」
少年は…ゆっくりと振り返る。
「あっそ」
闘技場の床が、地に染まった。