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執筆バトラーA  作者: アザとー
一人目の刺客『恵美』
3/19

 じゃきっと金属のこすれる音がして、俺は三方からマシンガンをつきつけられた。

「ああ、もう終わりか。じゃあな、山田さん」

「だめだ、逃げろ、触手……しょくしゅうううううううううう!」

 だが、いつまで待ってもマシンガンの音は響かなかった。恵美の執筆の手も止まっている。イレギュラーだ。

 俺をかばうように両手を広げた幼女が一人、銃口のちょうど交点に立ちはだかっていた。年はやっと小学校に上がる頃だろうか。きかんきの強そうなふくれっつらが黒服の男たちを睨みつける。

「ダメ!」

 たじ、と、男たちが揺らいだ。それは執筆者の心の揺らぎだ。

「旦那様! こんな子供にまで手を出すなんて!」

「違う! 誤解だ!」

 幼女の姿を使いそうなネットの知り合いを探すが、なんだか、誰のイメージとも重ならない。目の前にいるのは仕草といい、表情といい、まごうこと無き幼女だ。中の人が大人だとはとても思えない。

「『迷子ロストチャイルド』だ」

 山田が解説する。まったく役に立つ男だ。

「ここのシステムが開設されたときに紛れ込んだバグだとも言われている。もしくは持ち主に見捨てられたアバターだとも。ともかく、本当のガキじゃないぞ」

 それでも、ああ、それでもどうして、かように稚き存在を傷つけることができようか! 俺はその幼女を抱き上げた。いまだ呆然としている恵美に向かってにやりと笑う。

「これで、十八番は使えない……だろ?」

 色彩感覚にも勝る恵美の武器、それはエロ描写。彼女はムーンを活動場所としているのだ。しかし、子供の前ではR-18は禁じ手!

「あー、もー! 旦那様を拘束して、あんなことやこんなことをしようと思ったのに~!」

「させてたまるかっ! おい、山田! 戦い方を教えろ」

 俺はちびっ子を抱いたまま、大きく触手をうね動かす。山田がこめかみをおさえてうずくまっている。

「おい、ぼけっとするな! さっさと……」

「検索してやってるんだからちょっと待てや! お前の執筆モード移行のためのキーワードは、『ライト・オン!』だ」

「なんか、そんな名前のジーンズ屋……」

「違うから! ダブリュー! ゥライト。執筆っ!」

「ああ、うっせえ。ともかく、それを言いやあいいんだな?」

 うにょりと触手を振れば、恵美が嫣然の表情をこちらに向けた。

「あら、私に勝つつもり? 旦那様?」

「強がるなよ。エロを封じられたのは痛いんじゃないか?」

「ふふふふふふ、エロだけじゃ無いこと、見せてあげるのにゃ」

 恵美が再び物語をつづり始める。

 

【すでに組の実権は恵美の手中にある。障子を突き破り、荒くれどもが部屋に流れ込んだ。】


 もちろん、そのストーリーの通り、障子紙は破られ、細木を組んだ桟はふみ折られ、短ドスを抱えた組員の面々が一気に踏み込んでくる。

 そんな中、俺は叫んだ。


【ライト・オン!】


 空間は0と1の羅列。そこに文字と言う汚れを叩きつけ、血肉の通った世界を構築する、それがこの世界での執筆作業。


【絶体絶命の大ピンチ! そこへ救いの鬼神は突如と舞い降りたり。

 その者、一目で目立つ黄色に茶色のラインを引いたスウェットスーツを着込み、一振りの日本刀を手に立つ。

その姿、燦然と。

他の形容を許さぬ自信に満ち溢れた表情で、彼女は刀を抜き放ちたり。その鬼神の名前……山田なり。】


「ええええええ! 俺ええええええ?」

 傍らに突っ立っていた男が、描写した通りの黄色いスウェット姿に変わった。

「文句言うな。これもおまけしてやるからよ」


【鳴り響くテーマ音楽。それは敵に対する威嚇の音色。彼女の、身の内に眠る戦いを求める本能の発露。そして、ここまでの強さを手にいれるために切り捨ててきた者たちへの鎮魂……


てーん♪てーてん!


いま、法螺の代わりに高らかに鳴らされたる血宴の序章。】


「いらん! 本当に、それ、余計だから。そのぐらいなら俺の戦闘力の高さを描写するとか……ああああああああ!」

 山田は、見えない糸に操られるかの様に敵の真っ只中へと斬りこんで行く。俺は幼女を触手に守り抱えて、恵美を見上げた。

「今更、信じてくれとは言わない。だけど俺は、お前のこともちゃんと愛していた!」

「『も』?」

「ううう、だって、女の子、大好きだもん」

「はあ……まあ、いいのにゃ」

 恵美が両手を下げ、執筆モードを解いた。とたんに俺たちは、元の真っ白な空間に投げ出される。

「旦那様がそう言うタイプなのは良く知ってるのにゃ。ただ、一度で良いから独占してみたかっただけ~」

「えっと……俺を殺そうとか……」

「するわけないの! せっかく美味しそうな触手になったのに……」

「美味しそう、言うな~!」

 これが俺と恵美の『ちょうど良い関係』だ。つかず、離れず、おちょくりあって……「それでいいの」と、恵美が小さくつぶやいた気がした。

 ふと、彼女の手が俺の触手の一本を優しく握る。

「でも、気をつけてね、旦那様。女の嫉妬は怖いのよ?」

「うん。知ってる」

「で、これからどうするの?」

「とりあえず、この子を……」

 俺は触手にしがみついた幼子を見る。その子は、触手がぬけそうなほど強く俺を握り締めていた。

「この子がどんな素性の子かは知らないが、ここに存在している事は確かなんだ。だったら、この世界で俺に与えられた創造の力を、この子のために使っても、バチは当たらないだろう?」

「にゃるほど、ロリコン王国を築こうと?」

「ひと聞き悪いなあ。ま、この子が暮らしやすい空間を、ここに構築してやろうってだけさ」

「んふ~。さすが、旦那様」

 微笑んだ恵美はとても可愛かった。だから俺は触手で彼女を引き寄せた。正直、どれが口だか自分でも良く解っちゃいないが、関係無い。気持ちってヤツだ。俺は触手の一本で彼女の唇をふさぐ。

「お前は、本当に可愛い女だ。それだけは間違い無い、からな」

「うん」

 突然の口付けにも寛容に応えた彼女は、顔を赤らめながら俺に頬を摺り寄せた。

「あなたは優しくて、いい男よ。それだけは間違いないのにゃ……」

 こうして俺は一人目の刺客、恵美と別れた。


登場人物に興味を持った方へ


山田さん→山田太郎さん(http://mypage.syosetu.com/332817/)

恵美さん→迫恵美さん(ムーンライトの作家さんなので……)

                           です。

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