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僕と彼女と結晶世界(長編)  作者: 小松菜大佐
サバイバル開始
9/55

9話

二話更新と言いましたが、ストックが切れ次第、終了となります

それも多分、かなり早い段階で切れるかと

「……ねえ」

「……はい」

「とりあえず……」

「そうですね……」


ぎゅっ


「「痛っ!」」

二人は揃って頬をつねった。

「……やっぱり、夢だって思っちゃいますよね」

「うん……」

「でも痛いから……」

「夢じゃないんですよね……」

「うん……ここは現実なんだ。モンスターとか、正直意味が分からない。はっきり言って眉唾物の話。でも……」

「現実なんですよね……」

そして、ふたりして頭を抱える。

しばらくの間そのままかと思われたが、意外と早く立ち直った隆太。今やるべきことを思考し始める。

「とっ、とりあえず、できることから始めるよう!バッグの中身でも確認してみようか!」

「は、はい!」

とりあえずこれからやることが決定し、隆太は自分の端末をポケットにしまった。そしてかすみも立ち上がり、揃ってバッグの方へと歩いていく。そして、ガサゴソとリュックサックをあさり始めた。

「……ふむ。食料に水、携帯電子コンロ。寝袋に布団、カンテラ……これから山にキャンプに行くのか、って感じだね」

「……はい、私も似たような感じです。他にいる、と思われる人たち皆同じなんでしょうね」

「分からないけど、多分ね……よし。じゃあ、今度はこっちか」

互いにバッグの中身を確認した後は、その近くに転がされているアタッシュケースを開こうとする。

そして、気付く。

「あれ?なんか、僕の多くない?」

「確かに……」

隆太の目の前のアタッシュケースの数と、かすみのリュックの近くにあるアタッシュケースの数に明らかな差があった。かすみにはケースが一つ。しかし隆太のリュックの近くには3つも転がされていた。二人はまた、首を傾げる。だが、今度は早く気を取り直した。少しずつ、驚きばかりの環境に慣れてきた様子である。

「ま、まあ取り敢えず開けましょう!」

「そ、そうだね!」

アタッシュケースを留める金具は二つ、鍵は無し。パチン、パチンと小気味よい音が無音の空間に響いた。隆太が開いたケースの中には、特徴的な形をした黒い塊が一つ。

隆太はその形に見覚えがあった。むしろ、今日の朝見た気がする。

「……って、これ拳銃じゃん!?そっか、確かにそんなこと書いてたような気がするなぁ……」

「私はなんて答えればいいかわからなくて無回答にしたので、ナイフが入っているみたいです。と言っても、使える訳ではないですけどね……」

「…………うん。他のケースも見たけど、やっぱり銃が入ってる。あの男の人が言ってた事、ほんとだったみたいだね。僕が言った物、全部入ってる」

そのテストを受けた時、隆太は『銃。拳銃やライフルなど自分に使えるレベルの物を使って戦う』と回答していた。そして、アタッシュケースの中には回答した通り、本当にそのものが入っていた。自分の持っていた拳銃『スプリングフィールド』、ライフル『SCAR』。もう一つのアタッシュケースには自分が持っていない物だったが、特徴的な見た目からサブマシンガンの『MP5K』と思われるものが。それぞれが一つずつ、いくつかのマガジンと共に、ケースに綺麗に収めてあった。

「へぇ~、じゃあ隆太君は銃をお願いしたんですか?」

「うん。まさか、こんなにいっぱい来るとは思わなかったけど……」

「でも心強いです!ばばばばーん、ってモンスターをやっつけちゃうんですね?」

「多分、あまり頼りにはならないと思うけど……」

ある程度シミュレーションで練習してはいるものの、何度も言うように隆太はドの付く素人である。モンスターとやらの戦闘力が分からない今、弾丸がどれだけ通用するかさえ分からない。むしろ本当に通用するかどうかさえ分かったものではない。しかし、ここで本音を言ってやる気を削ぐ理由もないので、追及される前に隆太は話題を変える事を選択した。

「……まあ、それは置いておこう。じゃあ最後に、一ノ瀬さんも気になってる……」

「魔法ですか?」

「うん。なんか、メールを送った、とかって言ってたしね。少し確認してみよう」

「はい!」

混乱しそうな状況では、ひとつずつ物事を行っていくことが重要だ、ということを遠い昔に聞いた気がしたので、隆太はそれに従っていた。そのおかげか、かすみの表情はある程度こわばってはいるものの、まだ明るい表情を保っている。

それを横目に見た隆太は安堵しつつ、自分も魔法への好奇心が抑えられず、震える手で端末を操作する。メッセージボックスには、確かに新規で一通届いていた。

「うわ、ほんとに届いてる……」

「私もです……。これで、私も魔法が使えるようになるんですね!なんか、感動です……!」

隆太も、かすみも、感慨深そうに呟く。

「じゃぁ……」

「はい……」

二人は浮ついた小さな声を上げて、無言で端末を操作していく。

手が震えるせいで一度関係ないところをタップしてしまったり苦戦を強いられながらもようやく、そのメッセージを開く。件名は単純にして明快、『魔法について』、であった。

(なになに……?今のあなたの魔法は『自分の空間を操る魔法』……?)

読み進めていくと、そこには自分には理解できぬような言葉が羅列されていた。次元が云々、引力と重力の関係が云々。全く意味がわからなかった。人間に分かる訳が、出来る訳がない、そうとさえ思えるような言葉ばかり。

しかし。

「……なに、これ……?」

隆太は、戦慄していた。体の内側から震え上がるような怖気に、自分が自分じゃないような感覚に、その恐怖に。

理解できないはずなのだ。聞いたこともないはずなのだ。

「なんで……分かるんだろ……?」

しかし、何故か、理解できてしまった。……いや、理解じゃない。

思い出した。

そう、思い出したが正しい。

ただ脳に記憶されていたものじゃない。そのもっと奥、心に、魂に直接刻まれていたような。それを誰かになぞられていくような。そんな感覚であった。

そしてその不可解な感覚が収まった頃には、隆太は全てを思い出していた。むしろ、何故今まで思い出せなかったのか、自分で使うことができなかったのか、疑問に思うほどである。

かすみを見ると、かすみも同じように、おびただしく震えていた。その顔は蒼白、驚愕と恐怖に支配された表情を浮かべていた。

「……」

「……」

全てが終わった後も、二人は固まっていた。自分に起きたこと、それを再確認するように。かすみはまだ体を震わせながら、隆太は錯乱して言葉が発せなくなりながら。

「……ねぇ、かすみさん?」

「……」

「かすみさんってば!」

「ひゃっ、ひゃい!?にゃんでせう!?」

「おっ、落ち着いて!深呼吸、深呼吸」

「ひゃ、ひゃい……すーっ、はーっ……」

かすみは言われた通り、何度か息を吸っては吐いてを繰り返す。かすみが落ち着いたのを見て、隆太は再び話しかけた。

「……どう、大丈夫?」

「……正直、だいじょぶじゃないです。怖いです。まるで、自分じゃない誰かが、乗り移っているような気が、します」

そう言うかすみは、震えていた。まるで自分の中にいる誰かと戦っているような。隆太にはそんな風に見えた。隆太はなんとかして慰めたいと思ったが、生憎隆太はポギャブラリーが少なく、この状況下で、相手を傷つけることなく奮い立たせるような言葉を持ち合わせてはいなかった。思いついたのは嫌味のような事だけ、しかしそれを言うしかなかった。

「うーん……混乱したいのは分かるけど、でもそんな事やってる暇はないよ。乗り移ってきたんだったら、それを自分でこき使ってやればいいんだ。自分も怖いけど……でも、それよりこれからどうすればいいかを考えよう?頬までつねって確かめたんだ、だからこれは現実なんだ。目を逸らす前に、まずサバイバルについて考えなきゃ」

「……慰めて、るんですか?」

「……一応、だけど」

そう言って、かすみはくすくすと笑った。

「な、なにさ」

「下手です」

ナイフのような鋭さをもった言葉が、比較的柔らかい隆太の心をさっくりと切り裂いた。

「ぐっ」

「慰めるの、下手っぴです」


サクッ


「ぐぐっ」

「世界規模で、下から数えた方が早いくらいの下手っぴさんです」


ザシュッ


「ぐぐぐっ……なんだよもう。下手で悪かったですねーあー!何も言わなきゃよかった……」

「……でも、ありがとうございます。今でもここが夢のような気がしますが、夢なら夢で、やりきってから覚めた方がきっと気持ちいいです。だから頑張ります。ほんとに、ありがとうございます」

そう言って、かすみは笑った。

「……っ」

間近で向けられた女の子の笑顔に、思春期真っ只中妄想爆発純真無垢な少年隆太15歳は思わず顔を真っ赤にさせた。その初心な様子にかすみは再びくすくす。赤面が加速し、最早隆太の顔は熟れたトマトのようだ。

「あーっ!もう、もう話変えるよ!」

「はっ……はい……くすくす」

「そこっ!笑わない!」

「ご、ごめんなさ……ふふっ」

「……」

それでも尚笑い続けるかすみに、ジトーっとした視線を送るも意味は成さないようだ。隆太は対策をするのを止めて、一つの溜息の後に話を切り出した。

「……ふぅ。じゃあ、ひとまず魔法の確認だね。かすみさんの魔法は「うぅっ」いきなりどうしたの一ノ瀬さん!?」

「うぅっ……私が地味って事くらいわかってます。分かってますけど、あんまりです……魔法さえも、目立たないなんて……」

「え、ちょ……はぁ、僕はどうすれば……」

突然起爆した地雷、隆太はうろたえることしかできない。

 しばらく経って。

「……ごめんなさい。また取り乱しちゃいましたね。このまま泣いててもどうしようもないですよね。泣き止みます」

「そうしていただけると助かります。はい」

「えと、私の魔法でしたっけ?私の魔法は……ううっ」

「また!?」

「いっ、いえ!私は負けません!私のまほううっ」

「魔法と合体したっ!?」

「いえ!私はうっ」

「自分が鵜であることを痛烈カミングアウトっ!?」

「違います!私の魔法は……まほ……魔法は!『影を操る魔法』……です……」

抽象的すぎる魔法の名前に、理解できないと隆太は首を捻った。

「影?」

「はい。今のレベルだと『影の濃淡を操る魔法』ですね。つまり言うと、自分の存在感を操る魔法です。自分の影を濃くするとよく目立って、薄くすると目立ちにくくなるんです。ちなみに、属性は『存在』……地味な私には、ちょうどいいですね。そう思いませんか?」

体育座りをしたまま、のの字を書いてそう言うかすみ。その姿には、どこか哀愁が漂っている。……なんとも言えない雰囲気になった

言葉を詰まらせている内に、の型の深い穴が開き始めていた。心なしか体もちょっと小さくなっているような気がする。なんとかフォローをしようと、隆太はまた、少ないポギャブラリーを漁る。

「い、いや!その魔法は凄く便利だよ!サバイバルをしている時に、誰か別な人が来たら隠れられるじゃん!それってかなり有利だよ!」

「地味なことは、否定しないんですね……」

(あぁもうめんどくさいなこの人!)

かすみの、のの字を生産するラインが加速していく様子を見て、隆太は思わず心の中で叫んでしまう。やはり、この人と話すときは話題を変えることが一番だ。そう悟る隆太であった。

「え、えっと。魔法にレベルなんてあったっけ?」

「……あれ?ご存知ないですか?魔法を使えば使うほど、慣れれば慣れるほど、その応用の仕方が分かるようになっていくんです。それをレベルアップ、って一応呼んでるらしいです」

さっきかすみの言った通り、魔法にはレベル、そして属性が存在する。

レベルについては、ほとんどかすみの言った通りだ。補足としては、使えば使うほど体力を消耗することくらい。

使うと疲れる。しかしその失われた体力が元に戻る頃には使い方がわかって省エネができるようになったり、何か物を生み出す時にはより強力な、巨大な物を生み出すことができるようになっている。例えるならば、使えば使う程強くなる筋肉のような物なのだ。

続いては属性。魔法の属性は数え切れないほど存在する。それは基礎である炎、水、風、土、光、闇からいくつにも派生し、その可能性は無限だからである。ちなみに、かすみの言った存在属性は光と闇を6:4の割合で混ぜたものだ。

「そうなんだ……ありがとう、知らなかった。じゃあ、僕の番だね。僕は『空間を操る魔法』。今のレベルだと『空間の歪みを操る魔法』になるらしいね。属性は『空間』」

「歪み……ですか? 歪み……うーん」

「そう、歪み。……、一言で言うと難しいな。説明下手だけど、取り敢えず説明してみるね」

そこから隆太はうーん、やら、えーと、やらを合間合間に挟みながら、非常に長ったらしく、わかりづらい説明をしていく。

その話を要約しよう。

空間の歪みを操る。

これはつまり、重力、引力、その他諸々の常識が通用しない空間を作ることができる魔法だ。これだけ聞くと、非常に万能に感じられる。

しかし、この魔法は自分にしか影響しない。歪みの中に相手を叩き込むことはできないのだ。つまり、これから戦うことになるモンスターに対する攻撃は銃による直接攻撃ということになる。

属性は空間を司る……つまりこれからレベルアップすれば、相手のいる空間ごと操れるようになるかもしれない、という希望もあるが、それは遠い先の話になりそうだ。

このような内容の話を拙い言葉で必死に説明する隆太であったが、かすみはんー?と首を捻るばかり。その様子を見て、隆太は説明を諦めた。

「うーん。よし!百聞は一見に如かず、とか言うし、ちょっと見てて」

「おー!じゃあ、お願いします!」

ぺちぺちぺち、と気の抜ける拍手と声援を送るかすみを見ながら、隆太は立ち上がった。そして、目を瞑り……両手を上に。

「ほっ!」

気合一発、隆太は膝のバネを使って跳ねた。

かすみは目を見張った。

「えっ……どういうこと?」

手が、足が、体が。何もない空中で固定され、落ちてこないのだ。当の隆太は歯を食いしばり、ふるふると震えている。眉間にシワを寄せ、顔はさっき見たような真っ赤な顔。

「ど、どうしたんですか?もしかして、魔法で無理に固定しているんですか? だったら、もういいですよ?」

そう聞くと、隆太は苦しそうに、しかし首を横に振った。

「いっ、いや!ちっ、がうよ!ちょっと、怖いだけ!」

「怖い……?」

「う、ん。でも、腹は決まった!行くよ……っと!」

そして腕が曲がり、腰が折れ、体が倒れ―――

「あっ―――」

魔法の暴走か――――そう思った時、かすみはパニックに突き落とされる事となった。

「―――って、え?えぇぇぇえええ!?」

隆太が天井でもなく、何一つない虚空に、足を着いて立っているのだ。

「あ、はは……うまくいったよ……」

体を反転させた、どこかの道化師のような格好をした隆太は、空中に手をついていたときより楽そうな表情。顔に集まっていた血液も、むしろ逆に戻り始めている。

「ちょっと不安だったけど、うまくいってよかった……」

「え、えぇぇ!?ちょっと、どうなってるのかさっぱり……」

慌てふためきあわわ、と口を動かして声にならない声を漏らすかすみに、隆太は説明を開始した。

「だから魔法を使って、自分の空間に歪みを作って、自分だけここが地面になるようにしたんだ。だから、さっき万歳してるように見えてたのは……」

「空間が歪んだ今の状態だと逆立ちだった……ですか?」

「お、正解。流石にどうなるかわからないまま魔法を使うのは怖かったからね。横に作っても叩きつけられるし、じゃあ上を地面にして逆立ちしてやろうって思ってさ。で、成功した」

「は、はへー……」

「この他にも、自分だけであれば無茶な事ができるみたいだね。重力、引力エトセトラの強さだったりとか、向きだとか。だから、戦い方はこんな風にいろんなところに地面を作って、重力とかを操って、空を飛び回りながら撃ちまくる……かな?」

「すごいです!かっこいいです!ビュンビュン飛び回って、バンバン撃っちゃうんです!」

「そ、そう?かっこいい?あはは……よし!ちょっと頑張っちゃうよ!とう!」

それで調子に乗ったか、隆太は上へ下へ飛び回り始めた。

側転をしながら地面を右に、立ち上がって飛び込み前転、その瞬間地面を上に。立ち上がって左にまた側転。元の地面に着地して、はいポーズ。

「はい!」

「おおー!」

くるくると回って、隆太は地面に降り立った。そして一言。

「目が……回る……」

「でしょうね」

かすみは分かりきっていたかのように頷く。

「しかも……これ、すっごい疲れる……」

この魔法というものは、この世の物理法則、事象を捻じ曲げるような魔法になればなるほど、体力の消費は激しくなる。万有引力を完全に無視している隆太の魔法は、それだけ体力を大きく消耗するのだ。体にのしかかる大きな疲労感、そして目を回したことで隆太はコンクリート製の床に転がる事となった。

「だ、大丈夫ですか?」

「う、うん……大丈夫。よっと」

そして体を起こし、向きをかすみの方に向ける。


安定の切り方


あと、憑依する的な意味ののりうつるって乗り移るって字でいいんでしょうか

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