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7話

三ヶ月くらいの沈黙を破り投稿

「――――であるからして、この――――」

無言の教室に、にとりの声だけが響く。中学校のころには聞こえていたシャープペンシルの芯が机を擦る音も電子化されたせいで消え、ただキーボードを叩く、液晶に指を滑らせる僅かな音に変わっていた。

「――――さて。この語尾から、作者は―――――」

一旦、一区切りが付いて新たな話題を提示した時、


キーンコーンカーンコーン


いつの世も変わらぬ、気の抜けたチャイムの音が頭上から響いた。授業終了の合図である。

「おや、もうこんな時間でしたか。では、今日はここまでとします。宿題のファイルを転送しましたので、確認をお願いします。ファイルNO.3です。送信時に何か問題があった人は、後ほど私の所へ来てくださいね」

そう言って、にとりは教壇に差し込んであった自分の端末を端子から外し、教室から出て行った。

その瞬間、教室の緊張が緩む。

「ふーぅ……」

「あうー……」

「うーん……」

その中、隆太は天を仰ぎ、ゆらは机に突っ伏し、カイは頭を抱えた。

そして、ゆらが叫んだ。

「……うだー!難しいよー!!」

「確かにねぇ……」

「なんで、今更、昔の人の言葉なんて、勉強しなきゃだめなのー!?」

「そんなこと言われたって……」

とりあえず、ゆらを納得させる言葉がないかを考える。ひとまず1800年ほど遡って古典の魅力がないかどうかを思考するものの……意外にも、カイから言葉が飛んできた。それは自分に対して反論してくるものであったが。

「でも、こればっかりはゆらの言い分に賛成するぜ……どうしてこんな日常生活の役に立たない事をガリガリ勉強しなきゃいけねえんだ……」

「そ、そんな事言ってちゃ駄目だよ!」

「じゃあ、あれか?古典の魅力でも教えてくれるのか?あるなら400字詰め原稿用紙の半分以内で教えてくれ」

「魅力……うーん……」

そう言われ、目を瞑り、腕を組んで隆太は再び思考の海に潜った。そして数秒。隆太は目を開く。何か思いついたような様子だ。

「カイ、今直接関係してないって言ってたけど、実際はそうじゃなかったりするんだよ?」

「え?そーなの?なんも関係ない気がするんだけど」

「ほぅ?じゃあ、言ってみろよ。よく分からなかったら……飯の時間だしちょうどいいな。学食でうまそうなの奢れ」

カイは挑戦的な目をした。そう言われた隆太も、思わずにやりと。

「へぇ……じゃあ、逆に納得できたら僕に奢ってよ?」

隆太のあまり見せない自信満々な態度に、突っかかったカイは少したじろいだ。しかしすぐに姿勢を正して、もう一度にやりと笑った。

「む……まぁ、考えてやるぜ」

よし、と隆太は頷いた。かなり自信ありげな表情である。

「……まあ、言い分って言っても最初で最後、たった一つだけ、作業それも当然なことなんだけどね」

隆太はカイと比べて短く、むしろ幼ささえ残る人差し指を立てた。

「ここで勉強しなきゃ、テストでいい成績が取れないよね?」

「そりゃぁ、そうだね」

「つまり、そこで補習が入る。そうなればそこで、カイの言う日常生活に必要な、学ぶべき物を学習できないってこと。どう?」

隆太は問うた。その言葉に、二人はあっさりと頷いた。

「うん、納得!」

「まぁ、確かにな」

「じゃあ、ごはんおごってくれる?」

隆太はニヤニヤと笑いながら言うが、言われたカイから全く動揺の色が見えない。これは誤魔化されるな、隆太はそう思った瞬間。

「……いや、残念。俺は考えるとしか―――」

「うん、いいよ!カイがね!」

「ちょっ」

この場にいる最高権力者が発言することで、カイの退路は塞がれた。これは好機、と隆太は畳み掛ける。

「ゆらが言うなら決定だね!じゃあ食堂へ行こう!」

「うん!カイが奢ってくれるよ!」

「ちょてめ!?誤魔化そうと……っ!」

慌ててカイが自分の口を塞ぐが意味はなく、隆太がギラン、と目をきらめかせた。言質いただきましたー、とでも言わんばかりにニタニタニヤニヤ。

「あ、今誤魔化そうって言ったよね?」

「あーくそっ、しまった……」

「さぁ、じゃあさっさと食堂へ行こう!」

「ちょ、くそっ、放せ!」

「嫌、僕にご飯を奢ってくれるまで離さない―――」

嫌がるカイの肩を掴み、一行食堂へ行こうとした。

まさにその時であった。

「っ―――」

突如、視界が、意識が黒に染まっていく。

眠るように、少しずつ。

「おい、どうした!?」

「りゅーた!ねぇ、りゅーた!!?」

隆太の耳に、二人の声が届いてきていた。

しかし、遠のく意識の中、声を返す事ができなかった。

視点が低くなった事から、膝をついたこと。そして倒れ伏した事が分かった。しかし、力が入るわけでもなかった。

意識の底、その果てまで、ゆっくりと。ただ、どこまでも堕ちていく感覚のみを感じていた。

歩いていく人、その足音。それらが楽しげに話している声。全てがスローモーに。さらにエコーがかかって、頭の中に響いてきて、やたらとうるさく感じる。

声を鬱陶しく思っている間にも、一時も留まる事なく、どんどんと意識は降下していき。


隆太は意識を失った。


でも短い

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