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6話

その後しばらくは特筆すべきこともなく、ただどこにでもありそうな入学式が行われた。


校歌斉唱。

ただひたすら快眠音波との戦いを強いられる、パッとしない学園長からのパッとしないお話。

その後、いくつかの注意事項を一人の先生が話して、入学式はつつがなく終了した。

そして、皆がそれぞれの教室に戻り、ざわつくことなく、そのままクラスミーティングが始まる。

教壇に立つのは、ゆるいウェーブのかかった茶色の髪を持つ、小柄な女だ。顔を紅潮させて、緊張した面持ちで口を開く。

「はっ、ひゃじめみゃしてッッ!」

噛み噛みであった。教室にいる数人がズルっ、と椅子から滑り落ちる。

けっ、けふんこふん、とごまかせていない咳払いを一つ。深呼吸の後、顔を赤らめながらも、言葉を紡ぎだした。

「しっ、失礼いたしました。私は……」

そう話しながら女教師は端末を取り出し、机にある端子に取り付ける。すると、黒板代わりのモニターに『一年五組担任 篠川にとり』と表示された。そしてそれからは、最初の噛み方を忘れてしまいそうになるほど流暢に言葉を紡いでいった。

「私はこのクラスの担任を務めます、篠川にとりと申します。教科は古典、担当部活はありません。その代わり、特務委員会の副顧問を務めさせていただいてます」

瞬間、教室に少しざわつきが起こった。

今日何度聞いたか分からない単語、特務委員。やたらと縁があるな、と隆太は思った。

「好きな事は編み物を作ること、趣味は手芸……じゃあ同じですね。では、スポーツ観戦が結構好きです。後は……アイスが好きですね。これぐらいでしょうか?では、皆さんそれぞれ軽く自己紹介をお願いします」

そして新学年恒例の自己紹介タイムが始まる。

時々意味の分からないギャグを放ち教室にいる生徒の体感温度を下げる者がいたり、趣味について原稿用紙3枚分くらい話そうとしてにとりに制止される者がいたりした事を除けば、自己紹介はトントン拍子に、悪く言えば淡々と進んでいった。

こうなることは既に想定済みだったか、隆太は既に用意していた原稿on机を淡々と読み上げて、着席……

「あれがあの……」

「愛佳さんに探されてた……」

「一体何者なんだ……」

「ちっ……愛奈様は皆のアイドルなのに……あいつ……」

(なんだろう、この視線の嵐は……)

……したのだが、何人かから送られる視線に晒され、隆太は冷や汗を一つ。

そこへ、にとりからの無自覚な追い討ちが入った。

「ちなみに、この隆太君は方舟学園に特待生で、それも後期試験の市内トップの点数で入学してきました。皆さんも隆太君をお手本に勉学に励んだり、気軽に勉強を教えてもらったりしてくださいね」

(余計な事を……っ!)

それほど自慢すべき事でもない、と思って黙っていたのだが。

にとりの口からにこやかに放たれたその言葉、教室の視線二倍、隆太の冷や汗が三倍に。教室の異常な雰囲気に、にとりは首をかしげながらも次の生徒の自己紹介の開始を促した。

それからは特に何があるわけでもなく(ちなみにゆらもTPOを弁えていたか、普通な話を異常なテンションで語っていた)進行し、最後の一人になる。

「では、渡紗奈さん。お願いできますか?」

「はい」

そして、一人の少女が立ち上がる。

その時、教室に緊張が走った。

「アタシの名前は渡紫音。得意な事、趣味は特になし。……アタシには、話しかけないで」

その愛奈とは違った、凍えるような絶対零度のオーラによって、教室の空気が凍りつく。

肩まで伸びた茶髪に、額の位置にあるピンクのヘアピンがアクセントに。顔のパーツも整い、キツく釣り上げられた大きい瞳がチャームポイントなのだろうが、今は世の中の穢れを見て達観したかのような無表情。

隆太ですら、その仏頂面の少女の名前を知っていた。それほどの有名人であった。

「渡っていったら……」

「あの、市長の……?」

渡。

それは桜庭市の市長にして、SC社長、つまりこの都市における最高権力者渡亮太の姓。この紫音という少女はその娘だ。市内から集められたエリートたちが集う学校とは言え、この少女は別格。雲の上の存在であり、目にかかる事すら難しい存在であった。

隆太とは比べ物にならぬ量の畏敬と羨望の視線が、教室中から紗奈に向けられるが、その仏頂面は全く変わらず。むしろ目は細められ、視線の鋭さは増した。

「で、先生。もういい?」

「……え、あ、はい!ありがとうございました!」

ふん、と鼻を鳴らして、紗奈は着席。凍りついた雰囲気を先生の一言が砕き、そのまま健気に授業を進行し始める。

そうして、波乱に満ちた自己紹介は終了した。


それから、魔法を覚醒させる薬を射ったり、血液検査をする為と言って採血を行ったり、これからの授業予定やら魔法の学習方法を簡単に話したりして、一日目は終了した。

「これで、魔法が使えるようになるのかな~!?」

下校の道中、愛奈と出会ったことでテンションがハイになっているゆらがそのように騒いで、隆太を苦笑させたくらいしか、特に目立った事はなかった。

いつもの日課である筋力トレーニングを行った後、明日の支度などをして、入学式の一日は幕を閉じた。

それからはただ、平和な日常が過ぎていった。


これからどんな魔法が使えるようになるんだろう?

どうだろーね。これからのお楽しみじゃないかな?

おい、この数学の問題について教えてくれ。

私に聞かないでよ。数学が苦手なの知ってるくせに。

お前には聞いてねえよ、隆太に聞いてんだ。

ひどーい。

明日はどんな日になるかな?

さあな。ただ、何も起きないってことだけは言っとくぜ。


ただそんな、他愛もない、事件などあるわけがない、波乱とは対局と言っていい、何もない日々が過ぎていく。

隆太は満足していた。盛り上がるわけでもない、でもどん底に落ちる訳でもない。ぬるま湯のような、心地いい日常。友達も少しずつであるが増えていき、楽しみにしていた高校生活が送れるようになっていた。




異変は、その一週間後に起きた。


はい、ここまでとなります。

いい引きだ、と自負していたり。物語が動き出すのは次話から、ここまではいわば『序章』でございます


次話は、今度こそ勉強に集中するため、来年度で。

では、また~(´∀`)


※感想、指摘、お願いします。文は変えますが、この作品でどこかの新人賞に応募する予定でいます。教鞭のほど、よろしくです。


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