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インサイダー幕引き 〜ダメ怪盗の少女と、名探偵の街〜  作者: 日高 純
第三章 ダメ怪盗仮面レオンの壊れた承認欲求
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第39話 スコッチの昼下がりと暗中模索

「フィクティオが近くに潜伏しているだと? 何の証拠があるっていうんだ」

「証拠と言われると弱ったなぁ。ま、いくつかきっかけはあるけど、結局のところ勘や」


 大阪祠島ほこらじまを拠点に活動する探偵・新田成秀にったなるひでは、ヘラヘラ笑ったままそう言い放った。


 新田の方が俺よりキャリアも長く、八大怪盗の逮捕という実績もある。

 ただの勘だとしても、それなりに信憑性はある。


「そのきっかけっていうのは、何なんだ」

「教えたってもいいけど、納得したら協力してくれるんか? オレら探偵同士は敵やないけど、ライバルではあるやろ。教え損は堪忍やで」


 言葉巧みな誘導に、思わず舌打ちしそうになる。


 北園寺周辺に潜伏していると新田は言ったが、実際には周辺ですらないのだろう。


 新田の探偵としての腕は本物だ。

 一方で、俺はそれほど名声高い探偵じゃない。

 この力量差で協力を欲するということは、フィクティオの潜伏先は北園寺だとほぼ確信しているのだろう。


 そして、俺がこの考えに至ることまで、おそらく新田の計算通りだ。


「あのっ! わたし協力したいです!」


 答えに窮する俺に先んじて、七海が口火をきった。


「わたしは故郷を、フィクティオに消されました。もしフィクティオが捕まえられるなら、わたし何でもします!」

「おおきにな。でも、とまりちゃんは探偵とちゃうんやろ? 危なすぎるわ。オレと如月君を信じて、任せてはくれんやろか」


 新田はムカつくほどスマートに、七海の申し出を躱した。


 七海の身体能力は役に立つのだが、新田からすれば素人の少女の協力を認めるはずもない。


「八大怪盗っちゅうのは、格が違うんや。この街で最近でた怪盗……メークイン、ステラ・エトワール、マリンランタン、アリスとは話がちゃう」

「でも……!」

「七海。俺と新田に任せてくれ。」


 よく調べてやがる。

 これ以上七海に喋らせるのは危険だ。


「おっ。それはオレに協力してくれるっちゅうことでええか?」

「……話次第だ。場所を変えようか」


 あまり天下の往来で話すことじゃない。


「七海は先帰ってろ。フィクティオについて、10年前の事件のこと何か思い出したら教えてくれ」

「辛いことかもしれへんけど、逮捕のためや。無理せん範囲でお願いな」


 いちいちフォローをいれるな。

 俺がデリカシーないみたいじゃねえか。


 言われた七海はしぶしぶといった表情で引き下がり、その場を後にした。

 

 そのあとこっそり後をつけてきたが、相手は俺と新田だ。

 1分もしないうちに撒いた。パルクールは目立って尾行には向かないしな。




「ほー、事務所に案内してくれるんかと思っとったけど、なかなか渋いとこ教えてくれるんやな」

「事務所の場所は七海も知ってるからな」


 新田との会談場所に選んだのは、さくらママの経営する店の一つ、クラブ・ヴィヴィ。

 いわゆるキャバクラだ。

 営業時間前だが、さきほどママに連絡し、無理言って開けてもらった。これも師匠の真似事だ。


「あたしは真守ちゃんたちの話を、聞かなかったことにすればいいのよね?」

「ああ、よろしく頼むよママ」


 グラスを二つ、テーブルに置き、さくらママが微笑む。


「えらいべっぴんさんとお知り合いなんやね。如月君が羨ましいわ~」

「あらあら、お上手ね。うふふ~」


 いい加減新田の優男ぶりにも嫌気が差してきた俺は、上機嫌にテーブルを離れるさくらママを無言で見送った。


「お、スコッチウイスキーのソーダ割。諸説あるけど、シャーロック・ホームズに掛けたんやね」

「まあ、そうなんだろうな」


 俺には香りでスコッチとは見分けられないが、悔しいので知ったかぶりをする。


「如月君、未成年とちゃうかったっけ。確か18とかやろ」

「まあな。別にいいだろ、探偵なんてクリーンな仕事じゃないんだし」

「言えとるわ」


 グラスに口をつけ、本題を促す。


「で、フィクティオが北園寺にいるって根拠は」

「せっかちやなぁ。モテへんで?」

「ほっとけ」


 ただでさえモルスの痕跡が発見されてるんだ。その上フィクティオもなんてたまったものじゃない。


「ま、ええわ。まず北園寺は怪盗事件が発生し続けてる数少ない街の1つや。それは知っとるやろ」

「ああ、このご時世怪盗が出る街なんて両手の指で足りるくらいのもんだ。あんたのいる祠島もその1つだけどな」


 ほとんどの怪盗専門探偵が廃業したのも、俺がなんとか続けられているのもここに理由がある。


「よう言われてることやけど、そういう街には未発見の強力なアーティファクトがあると思われとる。あの門倉はんのおった街で怪盗が出続けとったとなったら、それに見合うもんがあるっちゅうことやな」

「北園寺にそんなもんがあるとは思わないが、怪盗連中にはそう見えるんだろうな」


 いつだったか七海も似たようなことを言っていた。

 あいつがフィクティオを探しにこの街に来たのも、そういう理由だったはずだ。


「ま、知っとってもオレには教えんやろな。それは、それでええ。ほんで、そういう街の中でも北園寺にだけの特徴があるんや」


 新田はもったいつけるように、ウイスキーを一口煽り、間をとった。


「怪盗の使うアーティファクトが強力過ぎる。しかもそれを、自力でそんなん手に入れられとは思えん連中が使うとる」

「それは俺も感じてた。誰かが提供してる可能性があるってな」


 だが、俺はその提供主がモルスではないかと考えていた。

 佐藤瑠美の自宅で見つかった痕跡が、それを示していた。


「だがそれは、モルスでもウーティスでもおかしくないはずだ」

「せやな。せやからここからはオレの勘になるんやけど、怪盗達の行動が不自然やと思わんか?」


 ……不自然とは思うが、現場で見てきたからこそ、単にどいつもこいつもバカだからでも説明できてしまうのだ。


「フィクティオが使う有名なアーティファクトといえば、洗脳のアーティファクトやろ。もし不自然な行動が市民を洗脳し、怪盗化させとるんやとしたらどうや」

「何のためにそんなことを」

「わからんか? 門倉秀樹に挑んでまで探す価値のあるアーティファクト、そいつを安全に探すためや」


 そんな回りくどいことをしなくとも、この街にいる探偵はもう俺だけだ。

 認めたくはないが、八大怪盗に警戒されるほどの人間じゃない。


 だが、それを除けば引っかかる点はある。


 怪盗アリスこと湊は、本人が認識していなかったとは言え、ありさがそのアーティファクトだと分かる状態にあった。

 そして、ありさによれば湊は普通の良いファンだった。それが怪盗になったのも、フィクティオに洗脳されたからというのも筋は通る。


「否定はしきれないな」

「如月君なら分かってくれると思っとったで。それにな。そうなったら、用済みのタイミングで自分が作った怪盗を始末する役割もおるやろ」


 用済みの怪盗を始末……それが俺だとでも言う気か。


「マリンランタンや。怪盗マリンランタンは、ステラ・エトワールの逮捕にも、アリスの逮捕にも関わっとるって調べがついとる」

「……なるほどな」


 外部からはそう見えるのか。

 さすがに俺が、大怪盗育成計画のために見逃してる怪盗だという発想にはならないよな。


「どや? いい線行っとると思うんやけど」

「八大怪盗の誰かが裏で糸を引いてるってとこまでは俺も疑っている。それがフィクティオだとは、俺は決めきれないな」

「ほーん、それは信じるわ。北園寺のことは如月君がよく知っとるし。けど、そう思うんならどっちみち協力してもええんちゃう?」


 七海がマリンランタンであることと、ありさの体内に戦慄のアーティファクトがあること。

 この2つは部外者には隠し通したいんだが、新田ほどの探偵に嗅ぎ回られると危ういよな。

 ……特に七海の方。


「協力って、なにするんだ」

「そんな難しいことやあらへん。フィクティオの__やないな。八大怪盗の情報だけは共有することと、八大怪盗の捜査だけオレがキミの縄張りでやることを認めてほしい。そんだけや」


 どうしたものかね。

 フィクティオやモルスと戦うならこれ以上ない援軍だが、そこの手柄を取られて事務所が存続できるのか。


 ……断るのも変か。


 そう結論づけ、渋々申出を受けようとした時だった。

 ポケットの中でスマホが鳴る。__源さんだ。


「出てええで」

「ああ、すまん」


 あんまり嬉しい電話じゃないのは間違いないから、後にしようかと思ったんだがな。


「もしもし。どうした源さん」

『おう見習い、喜べ依頼だぞ。怪盗が出た』

「怪盗? 昨日聞いた時は予告状出てないって言ってたろ」


 チラッと新田を見ると、ニヤニヤとこちらを眺めていた。


「フィクティオか? ウーティス? それともモルスか?」


 小声でそんなことを言い放つ。

 他人ひとの街だと思って楽しみやがって。そんな奴らがホイホイでてたまるか。


『今現行犯で逃げてる突発型の怪盗だ。北園寺通りを北上中。学生の第二ボタンをむしって逃げてる』

「なんだそれ。8月にやることじゃねえだろ」


 いや3月でもむしりはしないか。

 ただそれは、怪盗じゃなくて変な窃盗犯じゃないのか。


「……一応見た目を教えてくれ。向かうだけ向かう」

『シンバル叩くお猿のおもちゃだ。お猿のおもちゃが、第二ボタンをむしって、シンバル叩きながら逃げてる』

「……怪盗だな、さすがに」


 またバカ怪盗だな。まあ、いつも通りで安心したよ。

 警察の手に負えないのも頷ける。


 電話を切り、新田に向き直る。


「悪い、ちょっと出てくる。話はまた今度」

「手伝うで? フィクティオかもしれんやろ」

「……いや、ない。逃走中の怪盗はお猿のおもちゃだ。シンバル叩くやつ。それが学生の第二ボタンをむしって逃げてるんだと」


 言ってて恥ずかしくなるな。こんなのが北園寺の怪盗かと思われたくない。


「めっちゃおもろいやん! 大阪人として悔しいわ。勝手に見学させてもらうで」

「……好きにしろ。邪魔すんなよ」


 七海と違って撒けそうにないし仕方ない。


「じゃ、さくらママ。また今度お礼するよ」


 さくらママに一声かけ、2人連れ立って店を出る。


「あとお前、大阪人じゃないだろ。都民がわかるレベルのエセ関西弁、ムカつくからやめろ。」

「さすがの洞察力やねえ。えぐいわあ」

「やめろっつってんだろ。どこ出身なんだよ」

「ん? 埼玉やで」


 ……こいつとは仲良くなれそうにない。


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