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インサイダー幕引き 〜ダメ怪盗の少女と、名探偵の街〜  作者: 日高 純
第二章 ダメ怪盗アリスの歪んだ恋慕
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第32話 演技とイカサマの監獄

「ダイスの成功値は5以上。5が2つ、6が1つだね。スケルトンの弓が3本、君の兵へと命中する」

「相変わらず容赦な、ミス・プリズンガード」


 急遽はじまった北園寺のプリズンガードこと、NEON RIOTのメンバー・キョウカとのボードゲーム対決は相変わらず劣勢が続いていた。

 今も師匠の姿を思い出しながら余裕ぶってみてはいるが、戦況は悪くなる一方だ。


「さ、君の番だ」


 キョウカが慣れた手つきでダイスを回収しながら、目線で俺を促した。


「焦らせないでくれ、俺は初心者だぜ? なんならこれをきっかけにこのゲームのミニチュアを買うかもしれない」

「店員の三国として接してほしければそうするよ。探偵くんの欲しいものは、ミニチュアじゃないと思うけどね」

「ゲームで敵わないのは分かっていたが、なかなか舌戦もできるレディだな。嫌いじゃないぜ」


 平静を装い、俺は周囲の観察を続けていく。


 今自分で言った通り、このバトルクロニクルなるミニチュアを使ったウォーゲームをやるのは初めてだ。そして相手は二つ名つきの有名プレイヤー。

 真っ当にやって、勝てるわけがない。


 それにもかかわらず、キョウカは挑戦的な笑みを崩さずにいる。まるでまだ勝負はついていないかのように、何か期待している。


「俺の番、といってもな。とりあえずこのエルフの騎士達を移動させて、ゾンビ軍団に攻撃__おっと」


 集中しきれていないせいで手元が狂い、ダイスが2、3個手から転がり落ちる。


 俺はすぐに拾い上げようとしゃがみ込み、そして視界に入ってきたものが、一つ。


「ミス・プリズンガード。いや、この場合は三国さんかな。あれは何ですか?」


 床に散らばったダイスを摘み、立ち上がりながら指さす。

 宝石のように透き通った色とりどりの欠片が、袋詰めされてレジカウンターに並んでいる。


「……バトルクロニクルの公式ダイスです。といっても、1から6の目が書かれた普通のサイコロですが」

「なるほど。せっかく綺麗で世界観にもあっているのだから、あちらを使いましょうよ。今買いますよ、おいくらです?」


 そう、今使っているのは何の変哲もない白地の六面ダイスだ。

 加えていえば、気のせいかと思う程度だったが、少し違和感のあるダイスがあった。


「お貸ししたダイスにご不満がおありですか?」

「いいえ? でもミス・プリズンガードのダイスには興味があるな。ひとつ、光り方が違うダイスがあった。見せてもらっていいか?」


 キョウカは無言で、今使っていたダイスを俺の前に差し出した。

 まだ盤面は動いているが、進行を止めるつもりらしい。


「好きに見てくれたまえ」

「じゃあ遠慮なく」


 トレイの中には、白無地の六面ダイスがいくつか並んでいる。

 どれも同じ形、同じ色。だが一つだけ、近くで見れば明らかに光り方が違う。


 俺はそれをつまみ上げ、テーブルの上に転がした。


 5。


 もう一度。


 5。


 盤面は見ない。

 周囲も見ない。


 5。


 5。


 5。


 俺はダイスを止め、顔を上げた。


「これ、5しか出ない」


 それだけ言う。


 キョウカは、すぐには反応しなかった。

 否定もしない。言い訳もしない。


「……続けるかい?」

「いや」


 俺はダイスをトレイに戻す。


「勝負はここまでだ」


 盤上では、俺の軍勢はまだ劣勢だ。

 次のラウンドをやれば、普通に負ける。


 だが__それはどうでもいい。


「このゲーム、勝敗を見るためのものじゃないんだろ」

「そうだね、ご名答だ」


 キョウカは、はっきりと頷いた。


「探偵として、どこまで気づくか。それだけさ」

「なら、俺の負けだな。もっと早く触るべきだった」

「いや……」


 キョウカは、初めて笑った。


「ちゃんと君は必要なところで気づいた」


 彼女はダイスを回収し、ケースにしまう。


「まあ一応、合格かな。楽しかったよ」

「そりゃ光栄だ」


 盤面はそのまま残される。

 未決着のまま。


「ところで探偵君……いや、如月君。このダイス、どうして5しか出ないかわかるかい?」

「いや。正直それは分からない。実際持ってみても、特におかしなところはなかった」

「アーティファクトだ。特に仕掛けはない」

「……は?」


 何を堂々と。

 特に危険性のないアーティファクトは警察もスルーしているとはいえ、個人所有は明確に違法行為だぞ。


「アーティファクトというのは、存外身近にあるものだね。どれもこういうのだと良いんだが」

「魔道具管理法を知らないわけじゃ、ないんだよな?」


 何食わぬ顔で話を続けるキョウカに若干引きながら、一応の確認を行う。


「もちろん。怪盗専門の探偵をしているんだ、如月君もこんなオモチャとは違うアーティファクトを持っているだろう? お互い様というやつだ」

「……食えない女だな」


 七海の菜箸を見逃した時もそうだったが、俺はただアーティファクトを持っているだけの人を問い詰めるつもりはない。

 キョウカの指摘通り、こっちだって潔白じゃないんだ。


「それで、君の質問は、うちのアリサの変化と、ネコミミについてだったね」

「ああ」


 うちの、ってことは自分がNEON RIOTのキーボード担当、キョウカだってことは認めるんだな。


「アリサは確かに最近不思議な言動が増えたよ。ピックを変えてみたり、スマホの待ち受けを変えてみたり。それもアリサのこだわりからはかけ離れたものにね。翌日には元に戻っているけれど」


 翌日には元に……か。

 俺が気が付いた変化も、確かに長続きはしていなかった。


「ネコミミを渡していたファンも覚えているよ。名前は知らないけれど。如月君も見たんじゃないかな。チェックシャツとバンダナの男性だ」

「……あの、古典オタク前回のやつか。さすがに覚えている」


 分かりやすいヤツで助かるよ。

 しかも俺が最近ライブに行った2回とも見かけている。ライブを張っていれば、接触するのは容易なはずだ。


「彼は不審な点が服装とプレゼント以外にもあって、私もよく覚えているよ。アリサとの交流の際、なぜか手鏡を取り出すんだ」

「手鏡……っ!」


 まさか、鏡のアーティファクトか……?

 京総八幡宮けいそうはちまんぐうから怪盗ステラが持ち出し、その後行方不明になっていたアーティファクト。その辺に落ちていたものとは次元の違う力があっても不思議じゃない。


「それから、もう一人不審なファンが最近いてね」

「もう一人?」


 メンバーを女王様だのママだの呼ぶファンベース全体が不審なのに、その中でも際立つヤツがまだいるのか。


「こっちは女性だ。歳は私たちとそう変わらないと思う。何度かライブに来ているが、伊達メガネをしてみたり、ネコミミを自ら付けてみたり、アリサと同じように毎回不思議な変化をしている」

「すまん、そっちは大丈夫だ。知り合いのバカだ。バカなだけで害はない」

「そうか。君も大変だな」


 本当にな。


「とにかく、聞きたいことは聞けた。ありがとう。お礼はまあ、またライブに行くよ」


 まだ確定じゃないか、チェックシャツのオタクが鏡のアーティファクトで、ありさにちょっかいを出している。その効果でありさの言動が狂っているが、効果はおおよそ一日で切れるのだろう。

 十分すぎる収穫だ。


「ああそうだ、如月君。これはアリサとは関係ないんだが、聞いてくれるかい?」

「ん? ああ、もちろん構わない」

「瞬間移動を体験したこと、如月君はあるかな?」


 そっちの情報も持ってるのか……!

 大当たりだ。


「ああ、あるぞ。だいぶ飛ばされたよ」

「私も一度あってね。エドガワカメラでの買い物中、気が付いたらトップキャッスルの前にいたよ。練習しろという神のお告げかと思っていたけれど、如月君の反応を見る限りあれもアーティファクトの仕業だったのかな」


 トップキャッスル。北園寺大通り沿いにある楽器の演奏スタジオだ。

 エドガワカメラからは、北にだいたい100メートル。怪盗ステラ、佐藤瑠美さとうるみの投稿と同じ方向、同じ距離だ。


「ああ、ほぼ間違いなくアーティファクトだ。しかも怪盗が持っている。すぐに捕まえるさ」

「そうしてくれると助かるよ。ああいうのは一生に一度でいいからね」


 俺が飛ばされた距離だけが長いのか? 怪盗アリスの恨みを買っているから。

 疑問はつきないが、少しずつ整理するしかないな。


 キョウカと店長さんに礼を言い、礼儀としてバトルクロニクルの公式ダイスを購入してから、俺は店を後にした。



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