第9話 初めての買い食い。
「あらまあ、美味しそうなにおいがすると思ったら、お魚のフライサンドね!サミュエルちゃん、お昼はこれでいい?」
雑貨屋での買い物を終えて、ぶらぶら歩いていた当主が、急に振り返ったので、少し驚く。僕が頷くと、それを二つ買い、お茶も二つ買っていた。お店もないのにどうするんだろう?そう思っていたら、当主が近くの公園のベンチにドカッと座った。少し開けてお隣に座る。
「はい。お魚のフライが挟んであってね、美味しいのよ。この町の名物料理なの。どうぞ!」
そう言って、パンが包んである油紙ごと僕に手渡した。
「あ、こうやって、紙を半分だけはがして、がぶりと食べるのよ。」
そう言うと当主がいきなりパンにかぶりついた…。
「ああ。美味しい!サミュエルちゃんも食べな!」
おそるおそる、油紙の上の部分をはがすと、パンに挟まったお魚のフライと野菜と…酸っぱいソースの匂いがした。
がぶり?
ナイフもフォークもなくて?お皿さえないのに?テーブルすらないよ?
当主をもう一度見てみると、美味しそうに食べ進んでいる。
ポケットからハンカチを出して、膝に載せて、
えい。
思い切って食べてみた。
あ…美味しい。温かくて美味しい。
「ね?美味しいでしょう?」
当主が嬉しそうに笑った。
*****
サミュエルちゃんはお菓子屋さんでいろいろな焼き菓子をどういうことか抱えきれないほど買った。まあ、いいけど。
お昼は食べたし、買い物は終わったし、買ったものを荷馬車に積んで、サミュエルちゃんも乗せて、帰宅の途につく。アンナの家は屋敷からだとすぐなので、そのまま向かった。
荷馬車が着くと、わらわらとちびっ子たちが家から出てきた。
「お、当主だ。赤ちゃん見に来たの?」
「今寝てるよ~」
「早く早く。かわいいよ~」
私がチビたちに連れて行かれたので、サミュエルがあとから荷物を持ってきてくれた。
アンナが笑っている。
「あら、サミュエルちゃんも来てくれたの?うれしいわあ。」
娘さん夫婦にお祝いを言って、プレゼントを渡す。
「当主、こっち!お兄ちゃんもおいで!赤ちゃんみせてあげる!」
サミュエルも三男坊に手を引かれてこわごわ赤ん坊を覗き込む。
ちっちゃな赤ん坊が、気持ちよさそうに寝ている。
「こんなに騒がしいのにね。4番目ともなると肝が据わってるのかしらね?」
アンナが呆れるように言う。
「生まれた時から周りがうるさいんだものね。あはは!」
サミュエルちゃんは…どうしたらいいかわからず、戸惑ってる感じかな?
赤ん坊を始めて見る時って、何とも言えない気持ちになるよネ。え?こんなに小さくて大丈夫、だったり、こんなに大きい子供がお腹から出てくるんだ!っていう驚きだったり…。ね?
そういうのを全部ひっくるめて、あらまあ、かわいい!で良いんだよ?丈夫に育つんだよ!って。
アンナを見ると、目が合った。軽くウィンクを投げられた。うふふっ。同じようなことを考えていたのかしら?
帰りしなにサミュエルちゃんが焼き菓子の詰め合わせ・とてもたくさん、を三兄弟に渡していた。
「え、と…これは 君たちに。」
「え?いいのか兄ちゃん?」
「えーこんなに?」
「うん。お兄ちゃんたちも…大変でしょう?」
「おまえ、いいやつだな。」
これは長男坊エリクのつぶやき。そうね。上の子たちへの配慮が足りなかったわ。すごいのねサミュエルちゃん。見直したわ!