第7話 初めてのお給金。
朝からお出かけしていた当主が、夕方やっと帰ってきた。
今日はお家で潰したからと言って、アンナさんが鶏肉を届けてくれたので、チキンピカタに瓶詰のトマトソース。それと簡単野菜スープ。
アンナさんが簡単調理レシピをノートに書いておいてくれるので、とても助かる。
何時ものように向かい合わせで晩御飯を食べる。
2人でご飯を食べるときは、今日の出来事、を当主が独り言なんだけどね、と前置きして話す。
返事はしなくてもいいらしい。
「それでね、アンナの家に4番目の孫が産まれたのよ!今度の日曜に、隣町までお祝いを買いに行って、赤ちゃんを見にいくんだけど、サミュエルちゃんも行ってみない?」
「……」
ああ、それで…アンナさんの家では鶏をつぶしてお祝いだったのかな?
「私は一人娘だったからさ、兄弟が多い人って羨ましかったなあ!賑やかでいいわよネ?」
「……そう でしょうか?」
「え?…ああ、まあ、そうよね、それぞれよネ。」
あ…。
せっかく当主が誘ってくださったのに…しかもお世話になっているアンナさんのおめでたいことなのに…僕は…もう少しいい受け答えはできないものだろうか?
こういう時の正しい受け答えは何なんだろう?
僕はフォークとナイフを持ったまま…しばらく考えてしまった。
*****
またやってしまった…。
サミュエルちゃんの前で、家族ネタはNG、と思っていたのに。気を付けようと思っていたのに。
さっきからうちのニャー子は動かなくなってしまった。
ここ3か月でびっくりして毛を逆立てることは少なくなった気がしたが、そのかわり、耳をぺたんとする、というか…。いろいろ事情がありそうな子なので、のんびり行きましょう、と、アンナと話していたのに…。
この子の仕事は決して早いわけではないけれど、丁寧だ。覚えるのも早い。素直だし。私の部屋は執務室を兼ねているけど、掃除が終わると書類まで綺麗に整っているし…。
お出かけが嫌だったのかしら?
アンナ、ってことはなさそうだし、
やっぱり、家族ネタよネ。
初めて給金を手にしても、何も使うそぶりもないし。だいたい、うちと、うちの庭以外は出ないし。もう3か月よ?
ああ!
うちの領地でも村中に雑貨屋があって、調味料、缶詰、瓶詰、お菓子少しぐらいなら買える。郵便の取次もやってくれるので、
「ご家族にお手紙を出すときは…」
なんて余計なことを言っちゃって、固まられたばっかりなのに。
…まあ、いいか。一人で行って来よう。
それにしても今日のピカタは美味しいわ。
次の朝、ダイニングの入り口に作った、連絡ボードを見ると、
【今度の日曜日、ご一緒します。よろしくお願いします。】
とメモが張ってあった。