第5話 採用条件。
「ここがうちの屋敷です。降りれる?」
うとうとしていたら、小さなお家の前についていて、セリーヌさんに声を掛けられた。
…屋敷?
おばあさまと住んでいた小さな家の…5分の一ぐらいのこじんまりとした平屋の家。
僕は…おばあさまに習っていろいろ勉強してきたつもりだったけど、子爵家ともなるとこんなに小さなお家に住むんだ…。勉強不足だったな。
セリーヌさんが僕の荷物を運び入れてくれて、後に付いて行く。
玄関先で振り返って見ると、屋敷の建っているところは少し高台になっていて、柔らかな緑の中に、ぽつりぽつりと民家が見える。遠くで鳥が鳴いている。
麦わら帽子を手に取って、小さな玄関を入っていく。
*****
サミュエルちゃんを玄関わきの応対室に座らせて、台所にお茶を入れに行く。
応対室、と言っても小さなダイニングの脇の、ソファーセットがおいてある家族でお茶をしていた場所だけど。
二人分お茶を用意して戻ると、背筋をしゃんと伸ばして、サミュエルちゃんが外を見ていた。田舎の風景が珍しいのかしら?
お茶を勧めると、お辞儀してから静かに飲み始めた。なんというか…ものすごく上品だ。おばあさま、が教えてくれたのかしらね?
「サミュエルさんはしぐさが綺麗ね?経歴書に家名はなかったけど、貴族でいらっしゃるのかしら?」
「…家には、帰れないので…。」
あ、あら、また私ったら…いけないことを聞いた?
さっきのも…ご家族はいるけど、心配してくれる人はいないってことかしら?庶子、とか?継母とか?この色の白さだもの…どこかに閉じ込められていたとか?いやいや…。今時ないでしょう???
それにしても、色の白いこと!指もすらっと長くて爪も綺麗。深窓の令嬢、ってこんな感じかしら?
気を取り直して、仕事の話をする。
「それでね…お仕事の内容なんだけど、主に家の中の家事。時々私の事務補助。今は週に二回通い出来てくれているアンナという女中がいるから、その人に聞きながら覚えてほしいの。」
「…はい。」
「勤務時間は朝8時から夕方5時まで。お休みは週に1回、日曜日。住み込みになるから部屋は用意したわ。3食付き。給金は…10万ガルド…ぐらいしか出せないんだけど?どう…かしら?」
安い?安いわよネ?王都では今やメイドの初任給が20万だって聞いたし…前に来た女の子もおじさんも、安すぎるって言ってたし。
膝の上でぎゅっとスカートを握りこむ。だって、これ以上は出せないんだもん。
「…はい。」
そうよねえ、無理よねえ…え?
「え?この条件で良いの?」
「…はい。僕は 仕事するのは 初めてなので…よろしく お願いします。」
きゃあ!嬉しい!
思わず握手をしようと両手を差し出すと…ふっと目をそらされてしまった。
空をつかむ私の両手…
でも良いのよ良いのよ、サミュエルちゃん。自分のペースって大事よネ!!
「ところで…サミュエルさんは…男の子よネ?」
「…はい。」
ひょっとして、そうかなあ、とは思ったけど。あはは。




