第3話 第一印象。
「あの…間違っていたらごめんなさい、ひょっとして、サミュエルさん?」
アレット子爵家からの迎えの馬車を待っていたら、道の向こうからチラチラこちらを伺っていた麦わら帽子をかぶった怪しげなお姉さんが、道を渡ってきた。何をするつもりなのか…ドキドキする。目が合わないように下を向いていたら、いきなり話しかけられた。
「え、あ…はい。」
「あら!会えてよかったわ!長旅だったんでしょう!疲れたわよネ?うちの領はここから馬車であと30分はかかるんだけど、着いたら少し休もうか?」
「え?あ…はい。」
「あら、私ったら…私はアレット子爵家の当主、セリーヌよ。よろしくね。」
…当主?僕が見た貴族名鑑には、当主はダニエル・アレット、と記載されていたけど…代替わりがあったのかな?元々、おばあさまの持っていたものだから、もう何十年も前のものかもしれない。
よっこいしょ、と、僕が座っていた旅行カバンを持って、
「向こう側に荷馬車を停めておいたから、」
彼女はそう言うと道を渡って戻り始めた。あわてて後に続く。
*****
乗合馬車が停車場に着いて…降りたのは一人。
大きな革張りの旅行カバンと、シャツにスラックスに軽そうなスプリングコート。
少し離れて見ていても、キラキラと輝く長い銀髪。
サミュエルちゃん?
いや、どうかな?
そう思って、もう一度見てみる。あんまりじろじろ見るのもどうかとは思ったが。
女の子…だよね?
若かりし頃、王都の侯爵邸で働いているときも、背の高いメイドさんがいた。
…だよね?旅行用にスラックスを履く女の子もいるし、私だって普段はスラックスだし。今日は第一印象が大事だと思って一張羅のスカートを履いてきたけど。
道路の向こう側で、旅行カバンに座り込んだその子はずっとうつむいている。
えい!聞いてみよう!
そう思ってベンチから立ち上がると、その子に向かって歩き出した。




