第26話 そしてそれから。(最終話)
南部にいる父母に会って、サミュエルを紹介して、結婚を報告した。
父の顔色も良く、少しほっとした。
母は泣いて喜んでくれた。結婚適齢期をはるかに超えた娘だったけど…母がヴェールを用意してくれていた。いつか渡せたらと、こつこつレースを編んだのよって。ありがとう。
帰り道、オーバン伯爵領内にあるサミュエルを育ててくれたおばあさまのお墓にも寄って、結婚の報告をした。
降り出した小雨が上がって、虹がかかっていた。
*****
秋は忙しい。バタバタしているうちにすぐ雪が降ってきてしまうし。
10月のサミュエルの誕生日には、びっくりするプレゼントがあった。旅行から帰ってきてから調子が悪いなあ、と思っていたら、子供ができていたことがわかった。
「なんて素敵なプレゼントなんだろう!」
サミュエルがすごく喜んでくれた。
すごくうれしい。早いな~とみんなにからかわれて、少し恥ずかしいけど。
春には私たちは3人家族になる。
サミュエルがびっくりするほど過保護になった。
もう一つ。驚いたことに、オーバン伯爵家、サミュエルの実家から多額の持参金が振り込まれていた。その金額に腰を抜かしそうになっていたのに、その後に、おばあさまの遺産だと、その何倍もの金額が振り込まれて…
私とサミュエルあてに、お義父様から手紙が来て、
【これからの新しい人生に、使ってほしい。】
と、書き添えてあった。
「サミュエルは、何かやりたいことがある?この領地で…産業でも興す?」
やってやれない額ではない。
「ううん。僕は、このままがいい。何もないのも魅力だって、僕は知っているし。優しい 土地だから。」
次の春に、サミュエルの提案で、「何もないところですが、」と前置きして、移住者を募る新聞広告を出した。
都会は何でもあるけど、疲れている人もいるだろうから。って。あの子らしいわ。
サミュエルが中心になって、誰も住んでいない家を補修して、なんとか住めるようにした。山間部が多かったが、11軒ほど直したらしい。無料で貸し出す予定らしい。
移住者なんてなあ、と思っていたが、子供の体が弱いので、と田舎暮らし希望の若いご夫婦が何組か。
引退した軍人が、スキーができるなら、と。
人混みが苦手だ、という物書き。
こだわりの家具職人…。
…なんだかんだと11軒の家は埋まってしまった。今は新しい移住家族が家を建てている。
思いもしない誤算もあって…退役軍人の始めた<クロスカントリースキー教室>が国内初ということもあり、何もない大雪原に人がたくさん集まった。何もないから、滑りたい放題だし。
家具職人がスキー道具を作っている。冬の間は村の男衆が手伝いに上がってくる。
村には村営で宿泊所を作って、近所の女の人たちが冬の間働いている。
歩くスキーが軍で奨励されたこともあり、国内のいろいろな人が習いに来ている。辺境伯家からも軍人が習いに来ている。
…エリクの弟のジャンが大陸のスキー大会で優勝するのは、この少し後。
若いご夫婦が食堂を始めたり、
隣町に修行に出ていたエタンが、美味しいパン屋を始めた。
ニドが村の雑貨屋を譲り受けて、いろいろな品目を扱うようになったし、
物書きが、何もないうちの村を舞台に小説を書いた…聖地巡礼?って若い女の子が訪ねてくるようになったり。
そうそう、エリクが、スキーに来る人相手に彫刻のワークショップを始めたりね。
エリクと結婚したアメリーちゃんは、皮の手袋に羊毛を薄く詰めた新しいスキー用の手袋を作って、大当たりしていた。今は従業員も雇って本格的に売り出している。なかなかすごい娘だわ。
うちの領地はそんなこんなで、領民も子供も増えた。
結婚して6年。私とサミュエルの子供は今、3人。日曜日はお昼ご飯を持ってお父さんと教会の学校に通っている。
【お義父様、お義母様、お元気でしょうか?
サミュエルは子供たちと、村の学校に出かけました。下のジゼルは2歳になりました。サミュエルにそっくりです。お父さんにおんぶされて一緒に学校に行きました。
今、あの人が教えている子供は40人もいます。大人もたくさん来るようになりました。教材を作ったり、なかなか忙しいようです。村のみんなが手伝ってくれています。
家のことも、子供のことも、領の仕事もこなしてくれています。
春には4番目が産まれます。サミュエルが過保護なので、外にも出られません。
もう、きっと、大丈夫だと思います。
雪が解ける頃、春になったら、うちの子供たちに会いにいらっしゃいませんか?
真冬の何もないアレット子爵領から
セリーヌ。】
ずっと書き進んでいたら、この二人、80歳になってもこのまんまかも?と…。
途中でニドさんに劇薬を投下してもらいました。(笑)
夜になると涼しくなって、虫も鳴いています。
皆様にも、良い秋の訪れでありますように。
いつも、感想、誤字脱字修正、ありがとうございます。




