第25話 サミュエルのご家族。
サミュエルを慌ててベッドの向こう側に下ろして、念のためベッドカバーで隠す。
ドレスの襟元や裾を直して、ドアを開ける。
「どうされましたか?」
「この前は、本当にすまなかった。」
と、三男のアランさん?
「その…弟が引きこもったのは、俺のせいなんだ…」
「……」
「俺が、大人げなくて…俺、ずっと末っ子だったのに10歳も離れて弟ができて、しかもかわいいし、なんか面白くなくて…兄たちはサミュエルをかわいがるし…すまない。今更だけど…いじめて悪かった。そのせいであいつはおばあさまのところから帰ってこなくなってしまって…。おばあさまが亡くなったから、家に帰るか仕事探すかしろって言ったら…そしたらあいつは書置きしていなくなって…後悔したんだけど、どうしていいかわからなかったんだ。」
「……」
「弟を、よろしく頼みます。」
そう言って、床につくんじゃないかと思うほど頭を下げて、帰っていった。
…
次に来たのは次男さん。
「弟が引きこもったのは…俺のせいなんだ…」
ん?
「あいつは小さいころから体が弱くて、鍛えてやろうと、むりやり走らせたり剣術でしごいたりしたんだ。かえって体調を悪くして…そのせいであいつはおばあさまのところから帰ってこなくなってしまって…」
「俺がこんなことを言うのも何なんだけど…弟を、大事にしてやってほしい。よろしくお願いします。」
…
長男さんも来た。来るような気はした。
「弟が引きこもったのは…俺のせいなんだ…」
「……」
「あいつは小さい時から人見知りがひどくて、直してやろうといろいろなところに連れ出して…嫌がっていたのに…。あいつ可愛いだろう?連れてくのも俺は楽しくて。小さい時から女の子がほっておかなくて、追いかけまわされていつも嫌がっていた。俺としては鍛えていたつもりだったんだけど…どんどん人嫌いになって…そのせいであいつはおばあさまのところから帰ってこなくなってしまって…」
「俺はろくに面倒も見れなかったけど、よろしくお願いします。幸せにしてやってください。」
あら、まあ…。
これで終わりかと、サミュエルを引っ張り上げようとしたら、もう一度ドアがノックされた。
え?サミュエルちゃんのご両親?
「お疲れのところすまない。王城に出す書類を持ってきた。」
「ありがとうございます。」
一緒に来たお義母様が、おろおろしながら…
「あ、あの…あの子は小さい時から体が弱くて、ここより空気がいいからっておばあさまのところに預けたの。私…ちょうど長男が婚約したりいろいろ忙しい時期で、お迎えに行くのが遅くなってしまって…お迎えに行ったときは、あの子はもう一緒に帰ってきてはくれなかったわ。私のせいなの…ごめんなさい」
お義母様?
「いや、俺もアランを甘やかして失敗したから、サミュエルには厳しくしてしまった。話もろくに聞いてやらなかった。俺のせいで、あいつは社会とかかわらなくなってしまったんだ。それを責めたし。父親らしいことをしなかった…すまなかった。」
「……」
「セリーヌさん、あの子をここに連れてきてくれてありがとう。もう会ってもらえないと思っていたの。出来れば、あの子のおばあさまのお墓にも会いに行ってあげてね。」
「…最後まで、あいつのことを心配しながら逝ってしまった。」
お義父様?お義母様?…
「本当に、ありがとう。幸せに暮らしてね。今までみたいに、たまにお手紙頂けると嬉しいわ。」
お二人とも泣きながら、深々と頭を下げて出て行った。
「サミュエル?」
ベッドの反対側に一緒に座る。
泣いているサミュエルを抱きしめる。
だからって…なかったことにはならないけど…忘れるわけにもいかないけど…。
小さいサミュエルに、おばあさまがいてくれたことがどんなに救いになったか…それは痛いほどわかった。
「これからは、私も村のみんなもいるから、ね?」
「…うん…。」
静かに泣いているサミュエルをベッドに引っ張り上げて抱きしめて眠った。
 




