第22話 初めてのデート。
「疲れが出たのかしらね。ゆっくり休みなさい。」
当主が僕の着替えをさせたり、汗を拭いてくれたり…変にドキドキしてまた熱が上がる。でも、へっちゃらで僕の着替えをさせている当主は、僕のこと、弟ぐらいにしか思っていないのだろうな。
「森に 行くはずだったのに…」
「元気になったら、いつでも行けるわよ。ここにいるから、おやすみなさい。」
当主の手を握ったまま、目を閉じる。
僕のこれは…このよくわからない感情は…恋というものだろうか?
ここにいたいと思う、わがままな欲求だけなんだろうか?
この手を放したくないし、この人にどこにも行ってほしくない。正直、ニドさんとも話をしてほしくない。
ずっとこの人と一緒にいたい…
いつの間にか眠ってしまった。
目が覚めたら、もう日は陰っていて、当主は僕のベッドの脇で編み物をしていた。
「気分はどう?熱は下がったみたいね?」
僕のおでこに乗せた当主の手を握りしめる。
「僕、セリーヌが 好きです。」
きょとんとした顔をした当主が、にっこり笑って返してくれた。
「あら、私もサミュエルが好きよ?」
そんな…クッキーも好きだけどマドレーヌも好きよ?みたいな答えを求めてたわけじゃないことを僕は自分で自覚してしまった。かといって、昨日読んだ小説みたいに、力づくでこの人を押し倒す…のも違うと思う。
「…今はそれで、我慢します。」
「?」
これから、ずっと一緒にいるんだから、少しずつ伝えていけたらいいと思う。
*****
うちのニャー子は、すっかりなついてくれて、すりすりしてくれるようになった。暇があればくっついていたがるし…。それだけ、ここの暮らしに安心してるってことよね?よかったわ。
サミュエルの熱が下がってから、森に出かけたら、エリクが森の管理小屋でおじいさんと仕事をしていた。
「おう、当主。これから森のことは俺に任せておけ!」
と言って、おじいさんに10年早いと叱られていた。頼りにしています!
持って行ったお昼ご飯をみんなで食べてから、サミュエルと林道を並んでぶらぶら歩く。
「前に来たときは リスを 見ましたよ。」
「そう。うふふっ。」
木漏れ日がキラキラしていた。何もない、素敵な森だ。
そのまた後日…隣町に出かけて、サミュエルのエプロンとシャツを買った。サミュエルは頂いたお見舞いのお返しに、と雑貨屋によってレターセットをたくさん買っていた。この子らしいお礼だなあ。
新しくできたカフェに寄って、お茶にする。ケーキも注文した。キャラメルリンゴのパイと、シュー。
道路沿いに出されたテーブル席で食べていると、道行く女の子がチラチラ見ていく。
ああ…そうだわ!サミュエルは去年より筋肉がついて少しがっちりして、ますますいい男になったんだったわ!そりゃあ、見るわね。
それにこの子はみんなに優しいし、意外と辛抱強いし、家事も出来て、事務仕事も出来て、なにより、なにもない田舎でもここにいたいとか、嬉しいことを言ってくれる。素敵よネ~。私も、あと10歳若かったら惚れてたわ。うふふっ。
私も今日はワンピースを着てきたけど…若い女の子のキラキラさは眩しいわ。
あの子たちにはどう見えるかな?
親子、ってほどでもないから姉弟?おばさんと甥っ子?
「先生?サミュエル先生?」
チラチラ見ていた女の子の一人が、サミュエルに駆け寄ってきた。




