第20話 はじめての告白。
結局、3日もゴロゴロしてしまった。
久しぶりに厚いカーテンを開けると、柔らかな春の陽が差し込んでくる。窓を開けて空気を入れ替える。
お茶を飲むカップもなくなり、差し入れも作り置きも底をついたので、二人で台所に入ると、食器が山積みだった。
「僕の 来た時みたい。」
サミュエルがくくくっ、と笑った。
いや、ほら、あの頃は忙しかったから。
2人で並んで食器を洗って、サミュエルが朝ご飯兼お昼ご飯を作ってくれる間、私は洗濯をする。干して帰って来ると、ダイニングは綺麗に整えられて、暖炉の前に敷きっぱなしだった敷物も毛布も、きちんとたたまれていた。
2人でテーブルを窓際に運んで、並んで座ってブランチにする。
パンケーキと瓶に少し残っていたりんごのジャム。
開けた窓から優しい風が入る。
「こんなにゆっくりするのは…6年ぶりかなあ。」
食後にサミュエルが入れてくれたお茶を飲みながら、いつものように独り言を言う。
「私、若い頃ね、王都にある侯爵邸で事務の仕事をやってて、仕事も楽しかったし同じ年頃の女の子もたくさん働いていたから、休日はお買い物に出たりカフェでお茶をしたり…うちの領は田舎でしょう?なんにもないし。みんな私が産まれた時から知ってる人たちしかいないし、なんか、窮屈でね。都会に出たら、楽しかった。若かったしね。」
「……」
「急に父親が倒れたって知らせが来てね、急いで帰ってきた。一人娘だからいつかは帰るんだろうとは思ってたんだけど、まあ、急だったのよ。後を継ぐ覚悟もないうちに爵位を継いで、体調の悪い父と一緒に母も南部のおばさまのところに療養に出して…それからは手探りで領地経営を始めたってわけ。情けないでしょう?」
「……」
「アンナの家族やみんなに手伝ってもらって、結局、一人でできたことなんて何にもないわ。昔はあんなに窮屈だと思っていたこの狭い世界だけど…みんなで私のこともサミュエルも守ってくれたしね。」
「……」
「それに、あの長い長い閉ざされた冬が、いつまでも続くんじゃないかといつも一人で思っていたけど、今年はサミュエルもいたしね、こんなに明るい春が来るって…なかなか田舎暮らしも良いものよねって、そう思うよ。」
「……」
窓からは柔らかそうな緑の木々が見える。
何時ものように私の独り言を何も言わずに聞いてくれているサミュエル。頬杖をついたままお隣をみると、割と近いところに彼の笑顔があった。
「…セリーヌも 頑張ったんだね。」
あ、あら…?
ぽたぽたと落ちるのが自分の涙だと気が付くのに、少し時間がかかった。悲しいわけじゃないのに。
そっと涙を拭いてくれたサミュエルが、抱きしめて背中をトントンしてくれるのが心地いい。




