第2話 待ち合わせ。
隣の領の町まで、今日面接に来る子を迎えに出る。
北街道は意外と近いが、乗合馬車の停車場があるところからうちの領地までの移動手段が徒歩しかないので、面接に来る人はこうして私自ら迎えに来る。歩くと1時間半くらいかかってしまうから。
停車場の近くに馬をつないで、降りてくるだろう<サミュエルちゃん>を待つ。
17歳か。遊びたい盛りだろうに。
うちに来たら周りに爺さんばあさんしかいなくてがっかりするかな?服も…この町まで来ないと買い物らしい買い物もできない。
一応、期待を込めて、さっき来る途中に用品店で可愛らしいフリル付きのエプロンを買っておいた。サミュエルちゃん用に部屋も綺麗に掃除して、薄いピンク色のベッドカバーもかけてみた。
家に長いこといてくれた女中のアンナは、孫の面倒を見ることになって、週に2回しか来れなくなってしまった。いままでお任せしっぱなしの家の中ははっきりいってぐちゃぐちゃだ。面接に使う応対室とサミュエルちゃんの部屋以外は。
…いや、若い娘だもの、こんな田舎いやよネ。前に面接に来た娘さんもあまりの田舎に呆れてたし。あの子も…停車場まではものすごく元気だった。荷馬車に乗せてうちの領に近づくにつれて…すっかり無口になった。女の子なら一緒にお買い物に出かけたり、恋バナ聞いたり…。そんなことを夢想してたのになあ…。
それでも期待したい!今度こそ!そう思ってサミュエルちゃんの部屋の掃除もしたんだし!!
でもなあ…半分は期待しないでおこう。後でがっかりするからな。
セリーヌは木陰にある小さなベンチに腰かけて、ぼんやりと停車場を眺める。
どんな子が降りてくるのかなあ…
*****
【北街道の停車場までお迎えに参ります。気を付けておいでください。
アレット子爵家 当主 】
指定された乗合馬車に乗れたし、指定された停車場で降りた。
住んでいた家からは乗合馬車を乗り継いで、2日。夜は馬車の中で眠った。
北に向かう馬車の中はガラガラに空いていたのが、幸いだった。王都まで孫に会いに行ってきたというおばあちゃん、娘夫婦のところに身を寄せることになった老夫婦、乗客は自分を含めて4人。ほっとした。いきなり話しかけられたらどうしようとドキドキしていたが、そんなこともなかった。二日目からはおばあちゃんに飴を貰ったり、ビスケットを貰ったりした。
みんなそれぞれ待つ人のいる停車場で降りて行って、乗合馬車は急に静かになった。
はるか遠くに見えていた万年雪のある大きな山脈はかなり近くに見えるようになり、大きな街道に寄り添うように、ぽつぽつと民家があるくらいになった。
宿場町のある大き目な街で降りると、御者が屋根から荷物を降ろしてくれた。
礼を言って、馬車を見送る。
正直、一人旅なんて初めてだ。
それどころか、祖母のお葬式以来、外に出るのも久しぶりだった。
大きな革張りの旅行カバンに腰を下ろしてお迎えの馬車を待っていると、足元に小さな青い花が咲いていた。
…春になっていたんだなあ…そんなことも気づかなかった。