第19話 二度目の春。
エリクの父親に荷馬車を出してもらって、屋敷までサミュエルと一緒に送ってもらう。サミュエルは私にしがみついて離れないし。
「当主、ジャガイモの植え付けは俺らがやっとくから、しばらく休みなよ。サミュエルも参っているみたいだし。な?」
そう言ってもらったので、しばらく休暇を取ることにする。
サミュエルは最初のころのように、何も話さなくなってしまった。顔はまだ真っ青だ。
4月と言っても夜になるとまだ寒い。
暖炉に薪を入れて、その前に敷物を敷いてサミュエルと2人で毛布にくるまる。
「ご飯食べる?」
と聞いたら、首を振った。
パチパチッ、と薪が爆ぜた。静かな夜だ。
サミュエルの頭をなでながら、そのまま眠ってしまった。
朝起きると、玄関先に野菜だのパンだの、鍋に入ったスープだのが沢山おいてあった。食べきれないほどの量だ。
「みんなサミュエルを心配してくれてるのね。ありがたいわね。」
こくん、と頷いたサミュエルは、ほんの少し照れ臭そうに笑った。
お手紙もたくさん挟んであった。
少しお行儀が悪いけど、床でご飯を食べながら、ソファーにもたれ掛かって二人で並んでお手紙を開く。
【サミュエル、はやく げんきに なってね】
【俺が追い返して置いた。心配するな】
【ずっと いてね】
【どこにも いかないでね だいすき】
あら、まあ。うふふっ。みんなそれぞれ包み紙を綺麗に伸ばして、その裏に書いてくれている。字を書ける、って、離れていても思いを伝えられるのね。
【はやく 結婚しろ】
これは誰?そうか、私が女領主だから、相手に甘く見られたのかな?そう見えた?
サミュエルは嬉しそうにお手紙を見ている。
私たちは差し入れが無くなるまで一日中ゴロゴロして過ごし、一人になるのが怖いサミュエルと、暖炉の前で眠った。
「当主は 僕に 何も 聞かない?」
「ん?サミュエルのこと?話したくなったら話してくれればいいし、話したくなかったら話さなくてもいいと思うわよ。ここにはずっといてくれていいし、もし出て行きたくなったら…あなたを応援するわよ?」
「……」
サミュエルがぎゅっとしがみついて、ぼそっと言った。
「おばあさまも、そう おっしゃった。」
「そう。」
頭をなでる。私より背の高い、私の弟ね。ね?サミュエル?
「でも、僕は ずっと ここにいたい。」




