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第18話 春に現れた変質者。その2。

「レオノル子爵家のアランだ。オーバン伯爵家の三男で、あいつの兄だ。」


エリクが嫌そうにお茶を運んでくる。礼拝堂の奥の部屋に、その不審な男と向かい合って座る。あまりサミュエルには似ていない。


「サミュエルの?お兄さんですか?」

「ああ、そうだ。家族を代表して、迎えに来たんだ。あいつはもう一年もこんなところにいるんだろう?金づるだと思われて、だまされているんだろうと思ってな。」


こんなところ?って…いい加減失礼な人だ。まあ、何にもないところだし、辺鄙なところであるところは認めるけど。金づるって、何のことだ?


「8歳も上の女に騙されて、囲われているんだろう?きっと何も知らないあいつを色仕掛けでたらし込んで、持参金を狙っているに違いない。」


色仕掛け?持参金?


「あの…何か誤解が生じているのでは?サミュエルはきちんとアレット子爵家で雇い入れて、仕事をしてもらっています。給金もきちんと支払っていますが?」


「仕事?あいつに仕事なんかできるものか!17年も引きこもっていたんだぞ!」


その男が、ドンッ、と机をたたいたので、カップが揺れる。見ていたエリクが、びくっと怯える。


「ここに来る以前のことは存じ上げませんが…あまり自分のことを話す子でもありませんし。それでも…きちんと働いてくれています。領民にも慕われて、この教会で小さい子に読み書きや計算を教えてくれています。あなたもご覧になったでしょう?サミュエルを守ろうと、領民が集まってきています。」


「…そうだよ、おじさん。みんなサミュエルが大好きなんだ。」


黙って聞いていたエリクがぽつりと話す。


「大好き、だって?あいつを?」


「当主だって、色仕掛けしたらいいだろうって心配するぐらい、色気無いしな。」


…エリク??


「それにな?ほんとにお兄さんなのか?弟の話も聞かないで力づくで引きずるなんて、あり得ねえよ!お前、サミュエルが嫌いなんだろう!!」


「エリク…言い過ぎよ。」

「……」

今にも泣きそうなエリクの頭をなでながら、まっすぐに兄と名乗る男を見据える。


「それでも、あの子はここで一生懸命生きてますし、おばあさまが亡くなってからは、自分には心配してくれるような家族はいない、と言っていました。そう言われるご家庭にあの子を返す気はございません。ここにはあの子を心配する人がたくさんいますから。」


うんうん、とエリクが何度も頷く。ね、そうねエリク。


「それに、あの子は18歳になりました。自分の生き方を自分で選択できる年齢です。親御さんでもお兄さんでも、成人した子供を力づくで自分の言いなりにさせるのはいかがなものかと思いますが?」


「……」


立ち上がって、男に、カーテンを開けて広場を見せる。

先ほどより人が増えている。男の乗ってきた立派な馬車の脇で御者が小さくなっている。

みんな心配そうにこちらを見ている。


すっかりおとなしくなったその男が立ち上がって、ようやく帽子を取って胸に当てる。

「…あなたは?」

「まあ、名乗るのが遅くなりました。アレット子爵家当主のセリーヌと申します。」


畑に行っていたから、今日もシャツにスラックスにエプロンだけど…


「…弟を、よろしくお願いします。事情が分からなかったとはいえ、失礼しました。」

「いえ。サミュエルが家名を名乗りませんでしたので、ご挨拶も出来ず失礼しました。もうあの子は、ここで生きていきますから。ご心配なく。」

「はい。よろしくお願いします。あの子には嫌われた家族かも知れませんが、父も母も上の兄たちも心配しておりますので…たまに連絡を頂けるとありがたいです。」

「そうですね…あの子は書きそうにありませんので、私からでよろしければ。」


あんなに高飛車だった男が、深々と頭を下げる。どことなくさみしそうだ。


「では、帰ります。お騒がせしてすみませんでした。あの…サミュエルにも謝っておいてください。」

「…そうですね。いつか、ご自分で謝れるといいですね。」


帽子をかぶりなおした男と一緒に、玄関から出る。ざわざわとみんなの戸惑いが聞こえる。


男は眩しそうに集まった人たちを見てから、帽子をとって胸に当てて、もう一度、今度はみんなに向けて深い深いお辞儀をした。


「みなさん、弟を、よろしくお願いいたします。」















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