第17話 春に現れた変質者?その1。
「大変だ!当主!サミュエルちゃんが変な男につれて行かれちゃう!」
春先、ようやく畑が乾いた頃、皆で畑に出て作付けの打ち合わせをしていたら、ジャンが泣きそうな顔で走ってきた。
「え?」
「お兄ちゃんが当主を呼んで来いって。なんかね、凄い馬車が来て…変な男がね、サミュエルちゃんが嫌がってるのに…あーん。」
泣き出したジャンをなだめながら、教会に向かって走る。
私とジャンの後ろから、打ち合わせに来ていた20人ほどの領民が手に手に鍬や鋤を持ったまま走ってくる。
教会の前の広場についてみると、もう、かなりの人が集まって、その馬車ごと、身なりの良い男を取り囲んでいるところだった。サミュエルはアンナの後ろで蹲っているのが見える。
「当主!」
「当主が来た!」
最前列にいる子供たちが叫び声に似た声を上げる。
相手が貴族かもしれないので、手が出せなかったんだろう。賢明な判断だ。アンナがいてくれて良かった。下手に傷つけたりしたら、大変なことになるところだった。
息を整えながら、その男に対峙する。
「アレット子爵家の者です。何用でしょうか?」
「え?ああ、レオノル子爵家のアランだ。サミュエルを迎えに来ただけだ。」
身なりの良い金髪のその男は、むっとした顔でそう言った。…迎え?
「嘘だ!サミュエルは嫌だって言っているのに、この男が力ずくで引っ張ったんだ!」
「そうだ!僕も見た!サミュエルを連れて行くつもりなんだ!」
ワイワイとみんなで騒いでいる。ガタイの良い男たちが鍬を構えているのも異様な光景ではある。
「うちの領内で勝手なことをされては困ります。お話を伺いますので、そこの教会にお入りください。みんなも話を聞いてくるから、少し待っていて。エリク、お茶をお願い。」
男を教会に押し込んで、
鍬や鋤を下ろさせ、興奮しているみんなをなだめすかす。
サミュエルのもとに向かって、跪く。アンナが寄り添ってくれている。
「アンナ?」
「ええ。緊張のためか、少し吐かれました。ちょうどみんなで教会の掃除に来ていたところに、いきなり乗り込んでこられて…。ここまで引きずられまして…。」
「…サミュエルを頼んでもいい?」
「もちろんです、セリーヌ様。とりあえず、隣の雑貨屋で休ませますから。」
「よろしく頼むわね。」
サミュエルの頬を両手で撫でる。
「ね、サミュエル、私が付いているから大丈夫よ?」
「……」
アンナに抱えられながら、うなずくサミュエルの顔は真っ青だ。




