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第16話 初めての吹雪。

冬の間は、本当にすごい雪だった。


前に住んでいたところは雪はチラリと舞うぐらいだったから、雪かきも初めてだったし、降り積もった雪を踏んで歩くのも、エリク達に習ったスキーももちろん初めてだった。スキー道具は当主の父上のものをお借りした。


二本の板の上に乗って、二本の棒を使って、サクサクと、雪の上を歩けるのはすごい。体力は持っていかれるけど。小さなジャンが一番上手だ。


雪が付いて、花が咲いたように見える枯れた樹木や、点々と残るウサギの足跡。


目が開けていられないほどの、眩しい雪原。なんて外の世界は美しいんだろう。


さすがにウサギは捕れなかったけど、エリクのお爺さんに、ウサギ肉を頂いた。煮込みにして美味しく食べた。


日曜は教会までスキーで歩いて行った。


子供たちだけでなく、本を読んでみたい、と、ご年配の方も来てくれるようになった。大人向けの読み物も、ニドさんが寄付してくれた。ニドさんをまじまじと観察してみたら、背も高いし筋肉質だし、愛想がよくて、皆にニコニコしているし…。僕とはずいぶん違う。


当主に頼まれて、お隣の雑貨屋さんでお買い物をしたりもした。リュックに買ったものを背負って、屋敷に帰る。


吹雪、も経験した。本当に前も後ろも見えない。自分がどこにいるのかさえ見失いそうになる。エリクのお父さんに教わった通り、大きな樹の下に身を寄せて、通り過ぎるのをじっと待つ。


屋敷に帰れば、当主と暖かい暖炉が僕を待っているから。



*****


コトン、と外で音がしたので、サミュエルちゃんが帰ってきたのかと、玄関のドアを開ける。さっきから結構吹雪いてきた。もうすぐ春だという時期にしては珍しい。


「よお!吹いてきちまったな!」

「あら?ニドだったの?」


ニドがスキーを立てて、外套の雪を払っている。

「早く入りなさいな。今日はどうしたの?」

「いや、兄ちゃんのところに用事があってきたから、お前の顔見て帰ろうかと思ってさ。この時期に、こんなに吹雪くとは思わなかった!」


さっきからかなり吹雪いてきた。サミュエルちゃんはまだ教会にいるかしら?

ニドを入れて、素早くドアを閉めたが、雪が吹き込んでしまった。


「暖炉の前に座って!今、お茶を入れるから。」


外套を暖炉の脇につるして、ニドがどっかりと暖炉の前に座る。

お茶を入れて、ニドの実家の話とか、サミュエルちゃんの始めた日曜日の学校の話とかをする。


「あんな他人と目も合わせられない小僧だったのになあ…1年やそこらで、いい顔するようになったな。兄ちゃんのとこの子供たちも通ってる。俺らみたいなのはどこに奉公に出されるかわからないだろう?手紙が出せたり、もらえたりしたら、嬉しいよな?」

「…そうね。ここで仕事があったら一番いいんだけどね。」

「はははっ。そこまでは望まないさ。お前もよくやってるし。あの子に、本当に感謝しているんだ。いい子が来てくれて、お前も良かったな?」

「そうね。とてもいい子よ。」


2人で顔を見合わせて思わず大笑いする。


ガタン、と、玄関のドアが開いたのに気が付くのが遅れた。


「当主?」


「あら、サミュエルちゃん、お帰り。早かったわね。吹雪は大丈夫だった?」


立ち上がって玄関まで行って、サミュエルちゃんの雪を払って、外套を脱がす。今日もこげ茶の、私が編んだセーターを着こんでいる。


「寒かったでしょ?暖炉の前においで?」


いつもならそのまま暖炉の前で今日あったこととかを話すんだけど…玄関から動かない。


「いつも、ですか?」


「ん?何が?」

「日曜日、僕が いないから?」

「ん?ああ、ニドのこと?たまたま実家に用事があって、顔を見に来てくれただけよ?」

「……」

「サミュエルちゃん?」

「ニドさんは、ニド、で、僕は 何時まで サミュエルちゃん、なんですか?」

「ん?」


がはははっ、とニドが大笑いをして、立ち上がった。


「さて、幼馴染のお前の顔も見たし、俺も嫁と子供が待ってるから帰るわ!」

「そう?吹雪も収まってきたけど、気を付けて帰ってね。」

「ああ。」


ニドの外套を取って、サミュエルちゃんの外套を暖炉の脇にかける。

ニドがサミュエルちゃんの耳元で何かささやいて、サミュエルちゃんはうつむいてしまった。


「じゃあね!またね。」

「ああ、今度はちゃんと平日に来るよ!」

「ん?」

ニコニコしてニドが帰っていく。


どうしたのかしら?サミュエルちゃん?

うつむいたサミュエルちゃんを見ると、耳まで真っ赤だった。

「もう!寒かったんでしょう?早く暖炉の前に行こう!」


サミュエルちゃんの手を引いて、温かい暖炉の前に二人で座る。



*****


「お前さ、それってやきもちだってわかってる?俺と当主はお前の考えてるようなことは何にもねえよ。」


サミュエルの耳元で教えてやる。


「あいつもあいつで、わかってないし、お前も大変だろうけど、頑張れや。」


奴の肩をバンッ、と叩いて玄関を開ける。


外に出ると、さっきまでの吹雪が嘘みたいに晴れ渡っている。見渡す限り真っ白だ。

他人ごとなのに、くすぐったくなる。もうすぐ、春になるんだなあ。


ニドはスキー板を履くと、ふもと目指して歩き出した。













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