第13話 初めての冬。
次の日曜日に、当主に使用許可を頂いた古い教会にエリクたちと入ってみる。
昔は神父さんがいたけど、隣町の大きな教会に統合されたらしい。
薄っすらとホコリが積もっている。あと、蜘蛛の巣。
小さな礼拝堂とその奥に神父さんの居住用の部屋。小さな台所と暖炉もある。
「エリク?使えそう かな?」
「うん。窓も壊れてないし。掃除すれば使えるかな?」
あちこち探してみたら、掃除道具が出てきたのでみんなで掃除を始める。
毎週少しづつ、綺麗にしていく。
窓を拭いたり、
床を磨いたり。
当主が、隣町にお出かけした帰りに、新しいカーテンと、差し入れにクリームの入ったパンを頂いた。
お隣の雑貨屋の店主が、ぞうきんを絞る水を汲ませてくれる。
畑の仕事帰りのおばさんが、脚立を運んできて、高い窓を拭いてくれた。
小さなステンドグラスが日に照らされて輝く。
主を抱く聖母像も綺麗に掃除した。
ジャンが、お母さんとアリスみたいだ、と嬉しそうだった。
エリクたちの父が、何人かお友達を連れてきてくれて、ペンキを塗ってくれた。
暖炉の掃除はエリクのお爺さんがやってくれた。薪の束もいくつかもらってしまった。
ニドさんに石板とチョークをたくさんいただいてしまった。お金を払おうとしたら、俺もこの村の出だからさ、と恥ずかしそうに笑って、受け取ってもらえなかった。
小さな教会が綺麗になった頃、アレット子爵領に雪が降り始めた。
*****
日曜日になると、サミュエルちゃんはお昼ご飯を持って、村の教会まで歩いていく。雪はまだ彼の編み上げブーツぐらいの高さだ。
この辺の子供たちは、農家の労力とみなされているので、冬以外は忙しい。まあ、冬は冬で女の子なら編み物をしたり、男の子は雪かきを手伝ってそれなりに忙しいが。
サミュエルちゃんの足跡が、雪に消されていく。
今日は降りそうだったので、父のフード付きのコートを羽織らせた。少し大きい。
コートを着せても、前みたいにびくびくすることはなくなった気がする。
クリスマスまでに、セーターとマフラーを編んであげよう。誕生日をうっかりしちゃったしね。
誰かのために編み棒を握るなんてな…くふふっ、と一人で笑ってしまう。
暖炉の前に椅子を運んで、ゆっくり編み始める。
最初の3か月、一度も外の人とかかわろうとしなかったサミュエルちゃんが、自分でかかわろうとしている。子供たちだけど。それでも、なかなかいい傾向よネ。
今回だって、小さい子のいる親は何かと手伝いに行っていたみたいだし。
確かに、文字の読み書きができる、と言えば、奉公に出ても重宝がられるだろう。
どこにいっても手紙も書ける。
本来なら領主の私が気が付くべきことなのに…目の前のことでいっぱいいっぱいだったと反省した。お詫びにニドに頼んで、子供用の絵本や読み物や図鑑、辞書、なんかを取り寄せしてもらって、寄贈した。
領地の収支は相変わらずカツカツだが、サミュエルちゃんが来てからというもの、なんていうの?なんだか毎日が楽しい。
弟?いや…子供を育てる親って、こんな感じかしらね?




