第11話 初めての秋。
夏のジャガイモの収穫から始まって、小麦、かぼちゃ…これから秋口には蕎麦の刈り入れや、大豆の収穫…そして、麦撒きに戻る。
今年は春にサミュエルちゃんが来てくれたり、アンナの孫が産まれたり、良いことがたくさんあったが、毎年毎年のやることはさほど変わらない。
5年前に父が倒れて、療養のために南部の伯母さまの別荘に母と引っ越して…
急だったが仕事をしていた王都から帰って、領地を受け継いで、試行錯誤しながらここまで来た。
元々、これといった産業もなく、特産品もない。若者は町場に出て行って…高齢化が進む。息子夫婦を頼って領を出ていく老人も多い。おかげで空き家がたくさんある。
私の代になった頃には、もう耕作地は荒れ始めていたから、アンナの息子さんの提案で耕作放棄地を大きな畑に作り直し、残ったみんなで作物を作り、分配して、残った分を税にあてる、という方法を取った。もちろん、私も農作業に従事している。人手は多い方がいい。
あと、うちの領の財産となるのは、後ろの山の森。森は領主所有になっているので、領民の薪は、基本自分で木を切り出しさえすれば無料。家の補修などに切る時は1本あたりでお金をもらっている。やたら切られても困るので、昔から管理はアンナの旦那さんがやってくれている。うちの薪はここから手間賃分で購入している。
10月ともなると、もうすぐやってくる冬の心配もしなければならない。
一人暮らしの老人の家には冬が越せるくらいの薪と小麦を配り…大雪に備えて雪囲いもしなければいけない。
うちの冬ごもりも考えなくちゃね。
貯蔵できる瓶詰や缶詰。調味料。ジャガイモは大丈夫そう。あとは…
長い長い冬は、気が滅入る。雪はかいてもかいても降って来るし…。窓という窓は雪囲いをするので暗くなるしね…。でも、今年の冬はサミュエルちゃんがいるから、話し相手、とまではまだ行かないが、いてくれるだけでありがたいわよネ。
…面接のとき、冬の話をしなかったけど…あの子は嫌になったりしないかしら?
帳簿から目を離して外を眺める。
窓の外には抜けるような秋空が広がっている。濃い青だ。
*****
【さみゅえる おたんじょうび おめでとう じゃん】
僕の誕生日が10月だと知って、アンナさんのところの3兄弟がそれぞれお誕生日プレゼントと、カードをくれた。
長男のエリクからは木彫りの猫。僕の髪色が猫っぽいと言って、だから猫。
すごく上手だ。お爺さんが森の管理小屋にいるので、そこで木の端切れを貰って彫ってくれたらしい。
次男のエタンからはリンゴのお菓子パン。家の後ろにあるリンゴが実ったので、それでアンナさんと作ったらしい。半円のパイみたいな生地のパン。美味しそう。
三男のジャンからは花冠。綺麗に編み込まれている。お母さんに作り方を聞いたらしい。とてもきれいだ。
「サミュエルが字を教えてくれたから、上手に書けたでしょう?」
「うん。みんな ありがとう。」
「おれたち、お前の友達だからな!」
みんなが僕が知らないことをいろいろと教えてくれた。遊び方とか、食べられる木の実とか…森に行ってウサギもリスも見た。麦畑の落穂ひろいもした。
アンナさんに赤ちゃんの…アリスちゃんのお世話も習った。当主に赤ちゃんが産まれたら世話ができるように、って。当主も、赤ちゃんを産むのか…なんとなく、不思議な気がした。
アリスちゃんは、見に行くたびに大きくなっている。
これから冬になったら、みんながスキーを教えてくれるらしい。ウサギを捕りに行くと言っていた。ウサギを?
「なあ、サミュエル、俺に字を教えてくれないか?」
そう言いだしたのはエリクだ。本人としてはお爺さんの後を継いで、森の管理人になりたいらしい。確かに、読み書きと計算はできた方が良いのかもしれない。
「いいよ。」
子供たちも農家の労力になっているので、いつもの通り日曜日だけだが、遊びを教えてもらって、字を教えた。最初は木の枝で地面がノート代わりだったけど、みんなのお誕生日に石板とチョークをプレゼントした。
石板は…ニドさんに頼んだ。
お金はもちろん、僕のお給金から支払った。




