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第9話 携帯ショップ

「ふぁ〜あ。休みの日は寝すぎちまうな」


 布団から起き上がってスマホを手に取る。まーたお祈りメールでも来てんだろなあ。もう分かってるけど、見なきゃ結果は分かんねえからな。


 電源を入れようとするが、画面は真っ黒なまま。あれ? なんか動かねえな? おいおい、このタイミングで壊れるとかやめてくれよ。就活中だぞ? 


「ダメだなこりゃ。修理行くか」


 ちょうど休みで良かった。携帯ショップ行ってパパっと直してもらおう。


 俺は適当な服に着替え、壊れたスマホを持って外に出た。


「うし、着いた着いた」


 行きつけの携帯ショップ、ハードバンクに着いた俺は、まず店内にどれだけ人がいるか確認する。人が多すぎると順番待ちで時間食うからな。もし混んでたら後で来ようかと思ったけど……大丈夫そうだな。


 ほっとした俺はそのまま携帯ショップに入店した。すると元気な女の声が俺を出迎える。


「いらっしゃいませ〜! あ、お客様、焼肉屋ならあっちですよ」


「行こうとしてねえわ! ここで合ってんだよ! ……って心音!? またお前か!」


 そこには携帯ショップの制服を着た心音が、にやにやしながら立っていた。なんでこいつは俺の行く先々でバイトしてんだ。怖いわもう。


「やっほやっほ健人先輩! 今日はどうしたの? スマホの画面タップしたら指貫通しちゃった?」

 

「そこまで馬鹿力ではねえよ! もうなんも触れねえじゃねえか!」


「ダメだよ〜スマホでシートノックしたら」


「してねえって! スマホに何の恨みがあってそんなことすんだよ!」


 ずっと何を言ってんだこいつは。真面目に接客するってことを知らねえのか? よく毎回雇ってもらえるもんだ。


「それで、今日はどうしたの? さっきも言ったけど焼肉屋ならあっちだよ?」


「だから行かねえって! スマホが壊れたっぽいから修理しに来たんだよ!」


「やっぱり指を貫通させて……」


「させてねえから! 朝起きたらスマホの電源が入らなくなったんだよ」


「あーじゃあスマホが先輩に蛙化したのかもね」


「令和っ子か! そんな理由でモバイル端末が使えなくなってたまるか!」


「試しにデートでも連れてってあげたら? スマホの気持ちを取り戻さないと!」


「うんそれ1人で出かけてるだけだわ! ちょ、いいからスマホ直せる人呼んでもらえる!?」


「えー仕方ないなあ。呼んでくるからそこでぬぼーっと立っててよ」


「そこまで間抜けではねえわ!」


 心音は踵を返し、社員らしき人に話しかけている。あれ、でもなんか断られてるっぽいな。社員さん(仮)がめちゃくちゃ慌ててるぞ?


 すると心音は満面の笑みを浮かべて戻って来た。


「今社員さんに頼んでみたんだけどね、あんな怖い人無理って断られちゃった!」


「そこは対応してくれよ! 多少怖くても客だろ!」


「先輩のこと紹介したら無理だって。せっかくこの辺で有名なカツアゲ常習犯だって説明してあげたのに」


「じゃあお前のせいじゃねえか! 何してくれてんだおい!」


「あと電車でずっと大声で一人言言うタイプの人ですって言っといたよ!」


「怖いベクトルが違え! なんで俺色んな怖さ併せ持ってんの!?」


「まるで怖いのオーロラソースだね!」


「やかましいわ!」


 心音はにやにやしながら俺のスマホを見て、カウンターへと促した。


「ほらこっちだよ健人先輩!」


「いやいや、だって直せる人いねえんだろ?」


「だーかーらー、私が見てあげるって!」


「は? お前直せんの? バイトだろ?」


「大丈夫大丈夫! 家のテレビ叩いて鉄筋にリサイクルしたことあるから!」


「壊してんじゃねえか! 嫌だわそんなやつにスマホ預けんの!」


「どうせもう壊れてるんでしょ? いいじゃん見せてみなよ」


 そう言って心音は強引に俺のスマホをむしり取る。おい大丈夫かよほんとに。何かあったら困んのは俺なんだからな。


「あーこれはダメだね。ちょっと叩いてみていい?」


「良くねえよ! お前壊すじゃねえか!」


「ええー? でもこのスマホ、もう普通にダメだよ。どっかで落としたりした?」


 言われてみればこの間面接行った時に落としたな。え、それが原因? その時は普通に動いてたけど?


「後になって動かなるパターンはあるあるだよ! 健人先輩だってエナジードリンク飲んで一時的に頑張ってレポート書いて、次の日ずっと起きられないこととかあるでしょ?」


「その例えあってんのか!? あるけど!」


「健人先輩ってエナジードリンクに入ってそうな顔してるよね」


「どんな顔だそれ!? 誰が高麗人参だよ!」


 心音は難しい顔で俺のスマホを睨んでいたが、諦めたように顔を上げ、店内を見渡した。


「やっぱこりゃダメだね。もう機種変したら?」


「機種変か……。なんかいい機種あんのか?」


「これとか最新だよ! AIが内蔵されてて、話しかけるとその時にピッタリの言葉で共感してくれるの!」


「解決策教えてくれるとかじゃねえの!? 何その聞き上手なAI!」


「でもでも、誰かにとりあえず話だけ聞いて欲しい時ってあるじゃん? 健人先輩だったら下駄箱に告白して振られた時とか」


「俺の恋愛対象下駄箱なの!? なんで俺下駄箱如きに振られなきゃいけねえんだよ!」


「じゃ、データ移行するね〜」


「あ、こら勝手に決めんな!」


 心音からスマホを奪い返そうとしていると、スマホが地面に落ちてしまった。うわ、また落としちまったぞ。これデータ消えたりしてねえだろうな?


 そう思った瞬間、スマホの画面が明るくなる。あれ、なんか直った?


「健人先輩、スマホ動いてるじゃん! カサカサカサって」


「ゴキブリの効果音じゃねえか! そんな気持ち悪くねえわ俺のスマホ!」


「でも良かったね! これでとりあえずは大丈夫なんじゃない?」


 結果オーライではあるけど……。なんか納得いかねえな。まあ機種変するにしても金も無かったから、直ったならそれでいいか。


「ま、いいや。直ったから帰るわ」


「おっけー! 今パトカー呼んどくね!」


「何を理由に通報すんだよ! もう帰るから、しっかり働けよ!」


「はーい!」


 満面の笑みに戻った心音に見送られ、俺は帰路に着いた。ちらっと後ろを振り返ると、さっきの社員さんが心音に話しかけている。

 少しすると社員さんの顔が真っ赤になり、心音は膝を着いて泣き崩れてしまった。ああこりゃダメだな。またクビだあいつ。真面目に接客しねえからそうなんだよ。


 こっそり泣き崩れる心音の写真を取って保存。いつかこれで脅してやろう。そんなことを思っていたら、勝手にスマホが今撮った写真を心音に送信してしまった。

 おい直ってねえじゃねえかこれ!

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